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「で、でも、たしかイズナというのは……」


「亀を使ったものだったな。」


 どもるツグミの横で、ユエの耳を塞ぎながらクロカゲが言葉を紡ぐ。


 ユエは突然耳が聞こえなくなり驚いて、クロカゲの腕の下で暴れている。


「それがなぜ5歳の子供と関係がある?」


 淡々と続けるクロカゲからは、羽根の中にすっぽり収まる小さい主の耳に危ないことは入れたくないという強い思いが伝わってくる。


「それは、人間の業ゆえだとしか言えません。」


 クロカゲの心意気を察することができたのか、クロカゲを敵に回したくないと思ったのか。


 管狐は声を少しばかり小さくして先程の言葉の続きを伝える。


「亀よりも強いものを。長く持つものを。

 そうして媒体を人にすることを思いついたのでしょう。


 それもとても若い。


 ──やり方はほとんど従来のものと大差ありません。


 酒を飲ませ、老廃物を除き、さらに酒で身を清め、これまた若い狐と並べ、真言を唱える。


 すると狐と、媒体、ヒトの魂が混じり合い、より従順な管狐が出来上がる。」



「……まるで、ずっと見てきたかのような言い分だな。」


「見てまいりました。

 わたくしがこうなってからずうっと。


 ……それに、自分に起きたことでもあります。何を知らないことがありましょうか。」


 遠くを見つめる目が悲しげに揺れた。

 クロカゲの手がユエの耳元から離れ、羽根が背に戻る。


「……はぁ、で?僕は何をすればいいの?」


 自分だけ仲間外れにされたようで気に食わない、といったふうに頭を振りながら、ユエが言葉を述べる。


 管狐は自分より小さい子を見るような優しい目でそれを見つめる。


「ありがとうございます。小さな術師様。


 実はこちらの方にも正義感の強い男がおりまして、それに少しばかり用事を頼みました。


 もう少ししたらこちらに来ると思いますが…」


 そう言うか言わないかのうちにシュワワと何かが現れる音が聞こえ、バタバタと足音を立てながら部屋に中年の男が入ってきた。


 小脇にぐったりとした管狐と、大きな機械のようなものを2つも抱えていた。


「鐘の子!例の英雄殿、見つかったって!?」


 開くや否や大声で『鐘鳴子かねならしのむすこ』に声をかける。


 そしてユエに気がつくとぱあっと表情を明るくさせて駆け寄る。


「俺にはなんにもしてやれなかった!頼む、頼んだぞ!」


 ぎゅっと大きなごつごつとした手でユエの小さな手を包むと、抱えていた管狐をそおっと乗せる。


 あまりの急展開に驚いて声も出せないユエに、「鐘鳴子」がそっと近づく。


「この子の首に、何が見えますか?」


 ユエは、例の3色の変な紐に目を向ける。


「首?……太い紐が着いてるけど。」


「その紐を解いてくださいますか?」


 そう言われて結ゑは、首に巻かれた大きな縄をほぐしながらほどいていく。


(これ、なんの意味があるんだ。)


 周りにいるもの達が縄を少し解く度に


「おぉ!」


 と歓声をあげているのをみてユエは不思議そうな顔をしている。


 ユエにとってはただ太い紐を解くだけの簡単な作業に思えているが、


 他の人間や霊力のある妖にとっても、解呪というのは実はとても複雑なものなのだ。


 それをほいほいとこなし、それぞれの命を復元するにも等しい作業を汗ひとつかかずにやり遂げるユエは、


 その道を努力で極めた人が見れば、バケモノと言ったかもしれない程の実力の持ち主であったのだ。


 そもそも妖を複数体使役しておいてケロッとしているという話を聞いた時点で、ちょっと怖いなとは思っていたが。


 なんて『鐘鳴子』が考えている間に、解呪が終わっている。


 ついでにわたくしのもとせがんで『鐘鳴子』の紐をほどいてもらっていると、

『鶉飼子』だった狐はひょこりと顔を上げ、

 そこらじゅうを駆け回り、ユエの膝の上に収まった。


 そして『鐘鳴子』であった狐の紐がほどけると、それは砂になってしまった。


 ユエは突然手元で砂になってしまったことに驚いたが、


 もっと驚いたのは、中年の男が持っていた小さな機械(と言っても100cmはあった)がガタガタと音を立て始めたのだ。


 恐る恐る機械の蓋を開けると、中から大量の水が吹き出し、その中から座敷童子のサチよりも小さい子供がぽんぽんと出てきた。


 出てきた2人の子供のうち、

 髪を後ろで結った男の子が、よたよたとユエめがけて四つん這いで歩いてくる。


 そうして土下座のような格好をすると、


「たすけてくださり、ありがとう。」


 と、砂になった狐と同じ声で言ったのだった。

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