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夜が明けてからは実に円滑に事が進んだ。
進軍先の敵拠点は聞いていたよりも小規模かつ弱小であった。
万が一にと備えて覚えていた形代から妖を呼び出す呪文は活躍の場を見い出せず、ユエは敵拠点の外で石を蹴っていた。
敵拠点の主は生かしたまま捕えようと試みたが、自害した為その目的は果たせなかった。
ユエは拠点制圧を確認すると、任務完了の知らせを送る。
実に簡単な任務だった。
しかし、進軍した者の中には、懸念を抱く者がいた事は間違いないだろう。
その夜。
屋敷にいる妖がつどい宴会がはじまった。
それぞれが自分の眷属らを連れ、大広間がいっぱいになっている。
ユエの姿はない。もう寝てしまったようだ。
「敵のワニがヤギを庇うようにしていたんだ、あれはさ……」
ヒラスケがぺらぺらな身体を捻じるようにして言葉を吐いた。
この先に続くべき言葉はどんなに気持ちに疎いものでもわかってしまう。
「私たちが敵のようだったってこと、よね。」
モミジが苦々しく言葉を繋ぐ。
大広間にいた、敵拠点への進軍へ参加していないもの達からどよめきが聞こえる。
「だが、それっぽかったってだけで、そうじゃなかったかもしれないだろ?」
カワラが水掻きのついた手を挙げながら言った。
「でも私も、おや?ってなったことは、あるのよね。」
サチがううんと唸って小さな腕を組んだ。
「だとしても、だ。」
クロカゲが大きな羽を広げ、立ち上がる。
「俺たちは、主に仕えている。そうだろう?
……主がどんな道に進んでいこうと、ついて行くと決めたのでは無いか。」
一見すると盲目な台詞だが、その一言で皆の気持ちもまとまったらしい。
はっきりとした強い意志を持つ目で、まだ立っているクロカゲの方を見上げた。
「あたしたちは今は主さんのためにある。あの子を守るためなら例えしっぽが切れてもいいと決めたもの。」
マコトから声が上がり、それに眷属の猫らが立ち上がる。
「あ、あっしだって、皿が割れても主人は守るぜ!」
「僕だって、例え主がハサミで僕を切りたいって言ったって……許せるくらいさ!」
やんややんやと眷属らも巻き込み、競い合いを始める。
「鬼はこうと決めたら曲げないのだ。」
「なにを!狐の忠誠心を舐めないでください!」
そうだそうだと声が続き、段々とざわめきが大きくなる。
喧騒に驚いて跳ね起きたユエは小さな足で外廊下をつたい大広間の襖をそっと開けた。
「ぬしさま〜!私の尻尾はハサミで切ろうだなんて言いませんよね〜?」
横からがばっと足にしがみついたモミジが顔を真っ赤にして尋ねる。
「お酒臭い…。というか少し声を下げてよ、びっくりして起きてしまったじゃないか。」
頬をふくらませて鼻をつまむユエを見て、一同はそれはもう楽しそうに笑う。
「すまないな。主殿。」
「さぁもう遅いんだ、寝所までついて行こうね。」
妖たちの優しい声を聞くと、ユエはとろん、と眠気に襲われた。
「おやすみ」
そう言って閉められた扉の向こうでは、楽しげな声が一晩中続いていた。




