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道徳の真空地帯

「俺の勝ちだ。手錠を外せ、このクソ魔女」


俺は手を差し出した。


相手は無言のまま、身につけていた鉄の鍵で手錠を解いた。


「ここはどこだ? お前は誰だ?」俺は尋ねた。


「ここは……私にもわからない。私はここで育ったの。祖母に育てられたわ。私の名前は……エリシア」


立場は一瞬にして逆転した。相手はまるで人形のように従順になった。


天使が俺をこの異世界に送り込んだ……なるほど。FXXKを使い続けさえすれば、こんな可愛い女の子を手篭めにできるってわけか……。さすが天使様、本当に便利だ。


だが、これからどうする……。彼女がFXXKから覚めれば、また立場が逆転するだけだ。そうだ……きっと彼女が間抜けすぎたから、俺にチャンスが回ってきたんだ。


俺はただ……正常な思考能力を持つ人間として振る舞えばいい。異世界転生小説の主人公のように。現実世界ではただの一般人でも、現代人の常識を少し知っているだけで、中世のような異世界では無双できる。現代の知識で農業改革を行い、村人を組織し、資本主義さえ発展させる……。


俺も彼らのようにやればいい。FXXKは指向性の精神操作、今のところはそうだ。ならば、彼女の視覚を封じれば、安全率は大幅に上がるはずだ。


俺は手錠を彼女の手首に移し、彼女の服から引き裂いた布切れで目隠しをした。さらに新しい布切れで、彼女の足首を縛った。


だが、こうなるとここから出るには彼女を担いでいくしかない。


彼女を肩に担ぎ上げた瞬間、その柔らかな感触で理解した……。なるほど、こうすれば彼女と身体的な接触ができる。だから足首を縛ったのか。なんて下品な男だ、俺は。


そのまま彼女をベッドに寝かせた。


「どうして……あの人たちを殺したの?」


口を開けば偽善的な言葉ばかり。本当にしたいことはそんなことじゃないのに。


「頭を熊に噛みちぎられた男が、どこまで歩けるか見てみたかったからよ」


俺と違い、この子は正真正銘の『道徳の真空地帯モラル・バキューム』だ。


「なぜだ? 彼らはお前を傷つけたのか? それとも脅したのか?」


「いいえ、知らない人たちよ。山を降りる途中で偶然会っただけ」


「以前にも似たようなことをしたのか?」


「私を育てたおばあちゃんが、小さい頃からそういう遊びを教えてくれたの」


「なぜだ……彼らの死に何も感じないのか? 同じ人間なのに……」


「私たちはアメリカ人だから、どうでもいいの。でも、もしあなたが死んだら、私はとても悲しいわ」


待てよ……その言葉……。


いわゆる『人形』というのは、俺の思い込みか? FXXK攻撃を受けた後の状態のことだ。


いや、彼女は俺に何をした? 俺に対して何か仕込んでいないと言い切れるか……? なぜだ。

なぜこんなに簡単に制圧できた?


あの湧き水は、とても清冽だった。テーブルには彼女が用意した食事、雑穀の粥のようなもの。それに肉の煮込みまであった。


つまり、俺が似たような状態にあった時、彼女も俺に同じような尋問をしたはずだ。例えば、俺は誰か、彼女をどう思っているか、俺はどんな人間か……。


なぜならあの時、俺もまた人形のように従順だったはずだからだ。


俺の回答に基づいて、彼女は美味しくて新鮮な水を持ってきてくれ、肉を煮込んでくれた。

山で採れたキノコもだ。


中世の人間は、まともな水を飲む機会が少ない。水は腐りやすいからだ。多くの人はエール(麦酒)で水分を補給し、一日中酔っ払っている。


彼女はわざわざ、ある程度の距離を歩いて俺のために水を汲んできたはずだ。


よく考えてみろ。もし俺だったら、あのような人形のような状態で、彼女の質問にどれほど正直に答えただろうか。


そういうことか……。


シラフの状態の俺だからこそ、さっきのような退屈な質問をしてしまう。

人形状態の俺なら、はっきりとこう言ったはずだ。「あの熊に嫉妬しているだけだ」と。


熊よりも、やはり人間の方が寂しさを紛らわせる。だから彼女も新しいペットに乗り換えることにしたんだ。


俺は彼女の胸に顔を埋め、どうしていいかわからなくなった。


誰かに優しくしてほしい……そう願っているのに、俺は……。


彼女がゆっくりと目を覚ます。いつの間にか手錠は外れていた。俺が使い方を理解していなかったせいだ。


彼女は俺を抱きしめ、優しく囁いた。「大丈夫よ、アンジェロ。大丈夫」


あの熊の名前だ。


「ちなみに、スープに使ったのは熊の手よ」


彼女は冬の湖水のように優しい声で言った。


◇◆◇


FXXK! FXXK!


「一歩遅かったな、マーカス」


「やはり……君のフェイントに一秒騙されたよ、デイジー」


マーカスとデイジー。二人は魔女討伐のために派遣された教団の騎士だ。


「本物の魔女を相手にする時、そんな反応速度じゃ命がないわよ、マーカス」


二人は修道者の身なりで、田舎の野道をゆっくりと歩いていた。

近隣の村々は、これ以上魔女の気まぐれで働き手を失いたくないと願っていた。


「異端信仰の村なのに、なぜ我々がリスクを冒してまで助けなきゃならないんだ」


「彼らが頼るべきものを失い、不安定になっているからこそ、我々が介入する好機なのよ。神はどんな子羊も見捨てたりはしないわ」


先ほど二人が練習で放った二発のFXXKは、どちらも互いに命中しなかった。


そもそもFXXKは指向性の魔法だが、人間の目には見えない。そう、たとえアメリカ人であっても見ることはできないのだ。

5メートル離れた距離で直撃させるなど、素人にはほぼ不可能な芸当だ。


長距離FXXKには、通常、伝播のための媒体が必要となる。

あるいは、どこかのラッパーのように連射し、数で精度を補う――簡単に言えば「まぐれ当たり」を狙うしかない。


だが、そう簡単ではない。なぜなら……。


「キキーッ!」


マーカスが突然、奇声を上げた。


「キキーッ! キキーッ!」


「ちょっと、大丈夫? マーカス」


「すまない、少し気が抜けていた」


「リスに当たったの?」


「恐らく……」


「もう……」


「そんなに緊張する必要はないだろう、デイジー? 眉間に皺が寄ってるぞ」


「帰ったら、医者と牧師を紹介してあげるわ。冗談で済む話じゃないのよ」


指向性の精神操作魔法『FXXK』は、使用者と被弾者の間に精神的なリンク(接続)を生じさせる。不幸なことに、このリンクは使用者にとって有利に働く一方で、双方向性を持っているのだ。


リスを誤射したマーカスのように気を抜いていると、逆に影響を受けてしまうことさえある。


一方、デイジーが撃ち込んだのは近くの木だった。木には意識がない。


ただ、撃ち込まれたその松の木は、一年後、その幹の形状と色で近所の子供を誘惑し、首を吊らせることになるのだが。

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