FXXKの四つの綴り方、あるいは対存在証明について
目が覚めると、俺は地下牢にぶち込まれていた。
周囲を囲むのは青灰色の石材。陰気で冷たいが、妙に乾燥していて、キノコすら生えていない。もしあの親切な村人が服を恵んでくれていなかったら、今頃もっと悲惨な状況になっていただろう。
一体……どうしてこうなったんだ。
そもそも、俺は流されるままに生きるだけの人間だ。大した個性なんて持ち合わせていない。
おそらく、俺が助けた蜜村というクラスメイトも同じようなものだろう。流されるままに生きる人間でなければ、あんな破廉恥な、星条旗がプリントされたビキニなんて着るはずがないのだから。
いや、違う。あれは『FXXK魔法』だ……。
蜜村は、アメリカかぶれのビッチだからあんな格好をしていたわけじゃない。アメリカ人に『FXXK魔法』をかけられていたんだ!
FXXK魔法には、指向性のある精神操作作用がある。
あのアメリカ人を自称する忌々しい魔女、彼女が村人たちに魔法をかけ、山へ登らせ、熊の餌食になるよう命じたに違いない。
きっとそうだ。これはすべて……アメリカ人の陰謀だ。罪のない村人たちも、蜜村も、みんなアメリカ人の仕業なんだ。
なのに俺は……なぜ俺まで……。
ふと、小学生の頃のことを思い出した。
あれは、俺が初めて『FUCK』という体裁の悪い単語を知った時のことだ。『Son of Bitch』を覚えるのは、それからずっと後の話になる。
「ねえ、車男。」
隣に住んでいた幼馴染、アメリカ人のメアリー・スー。当時俺より三つ年上で、親切なお姉さんだった。
三島車男、それが俺の名前だ。
「知ってる? FUCKには四つの書き方があるのよ」
「えぇ……? 別に知りたくないよ」
「知らないと、私以外の女の子にいじめられちゃうわよ」
「えっ……それは嫌だな」
彼女は微笑んで、こう続けた。
「『FUCK』。これは一番ありふれた書き方。でも、あちこちに書いちゃだめよ。これは粗俗で下品、サタンが世の人々を惑わすための書き方だから」
「でも、どこでも見かける気がするけど。特にアメリカ映画とかで」
「あれは日本人向けに撮られたバージョンだからよ。『FUCK』はとても危険な書き方なの。もう口にするのはやめましょう」
「次は『FXXK』。これは……」
これについては、彼女が当時なんと言ったか忘れてしまった。もし覚えていれば、今のこんな無様な姿にはなっていなかったかもしれない。
「それから『fuck』。小文字のfuckよ」
「なにそれ? なんか迫力がないね」
「これは『無』を表すの。無意味な虚無よ」
「えぇ……『無』って何もないってことでしょ? なんでそれ自体が存在してるの?」
当時の俺はそう思った。fuck、無、それは単に不在を示す記号に過ぎないと。
「違うわ。そういう理解は俗物すぎるのよ、車男。fuckは単に不在を表す記号じゃない。あれは、『存在に対する否定』を表しているの」
「存在に対する……否定?」
「そう、fuckは動詞なの。映画を見ればわかるでしょ? アメリカ人がfuckと言うとき、中指を立てる動作を加えるわ。まるでこうやって……」
fuck!
彼女は突然、形相を変えて叫び、俺に中指を立てた。
確かに、俺は自分の存在が否定されたような感覚を覚え、危うく虚無へと遁走しかけた。
彼女は続けて言った。
「見た目は攻撃的だけど、実はある種の防御的な姿勢なの。外界を否定することで、自己を確立する、あるいは維持しているのよ」
奥が深いなぁ……。
否定を通じて得られるもの、それは境界線なのだろうか?
「じゃあ、次は……」
メアリーは突然身をかがめ、俺を強く抱きしめると、泣きそうな声で言った。
「FXXK……車男」
「メアリー姉ちゃん?」
「絶対に、絶対に死なないでね、車男。死ななければ、死よりも恐ろしい死後の出来事を経験せずに済むから……絶対に死んじゃだめ!」
「メアリー姉ちゃん? 俺……死なないよ」
ごめん、メアリー姉ちゃん。俺は結局死んでしまった。
そして異世界へと転移した。
俺はまだ知らない……自分がこれから、死よりも恐ろしい出来事を経験するのかどうか。そもそも、いわゆる異世界転移というものが、何を意味するのかさえ反省したことはなかった。
◇◆◇
喉が、渇いた。
「お水、あげるわ」
目の前に、一杯の水が現れた。
アッシュブルーの髪、冬の湖水のような冷たく澄んだ声。一人の少女が、地下牢に姿を現したのだ。
「お前は……誰だ?」
「水を飲むことよりも、私が誰かということの方が気になるのね? 生物としては、失格だわ」
彼女は言った。
生物として失格、か。よくわからないが、確かに俺は猛烈に喉が渇いている。それなのに、なぜその水を受け取らず、唾液を浪費してまで相手の正体を尋ねたのだろう?
その水には毒が入っているかもしれない。あるいは、俺が身をかがめてその水を舐める姿が、まるで犬のように惨めに見えるからか。俺はアメリカ人の犬にはなりたくない、ただそれだけのことだ。
いや、違う。そんなものはある種の建前だ。言い訳をして、自分の本心を隠しているに過ぎない。
そこで俺は、正直に自分の考えを口にした。
「俺はただ、地面に置かれたその清冽な湧き水よりも、仙泉のように清らかな君の声を、もう少し聞いていたいと思っただけさ。もっとも、俺を憐れんでくれるなら、黙っててくれ。そうすれば渇き死にせずに済む」
「あ……」
俺は彼女の表情を見ることなく、ただ身をかがめ、牛のように水を飲み干した。どうにか渇死の危機は回避できたようだ。
ずっと、ずっと彼女の声を聞いていたい。
だが待てよ、俺は『FXXK』に支配されているのか? それとも、本心からそう思っているのか?
身をかがめた視界の端に、彼女の白く美しい足首が映る。掴んで、弄びたい。だが……。
もし彼女に勝てれば、手錠を解かせることができるかもしれない。
一般的なアメリカ人が一日に『FXXK』を使用できる回数は四回。以前の敗因は、単にその点に気づいていなかったからだ。
しかし……今は果たして二日目なのだろうか? 俺は一体どれくらい昏睡していた? 賭けるべきか?
もし俺の『FXXK』が、リボルバーの弾丸のように再装填されているなら、一戦交えるチャンスはある……。
だが、もし相手が意図的にこの日の差さない地下牢を利用して、俺の時間感覚を狂わせているとしたら……無意味に『FXXK』を消耗させるように誘導しているとしたら……。
そもそも彼女の目的は何なんだ?
「FXXK!」「FXXK!」
俺が顔を上げた瞬間、彼女は俺に指を突きつけていた。
まるで西部劇の決闘のように、俺たち二人は同時に発動した。
さっきまでの思考は、単なる表層意識によるフェイントに過ぎない。
呼吸、眼球の動き、心拍、それらすべてを使ってワンテンポ遅れているような偽象を作り出していただけだ。
実際には、深層意識ですでに発砲のタイミングを決めていた。
「俺の勝ちだ」
俺の方が、半拍早かった。
「さあ、手首の枷を外してもらおうか」




