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239  作者: Nora_
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04

「ひえっ」


 少しゆっくりしすぎた、もう真っ暗だ。

 別にまたなにかやらかしたとかではなくてのんびりしすぎた結果だけど今日は一段と怖く感じる、いつもの帰り道なのにどうしてこうなのか。


「夜が苦手ならもっと早く帰りなさいよ」

「きゃあ!?」


 急に現れたからすぐに逃げたけど壁があって止まることになった。


「え、そこまでなの?」

「……心臓に悪いからやめてよ」


 深呼吸をすることで慌てる心臓を落ち着かせる。

 でも、すぐにどうこうなるわけではないことも知っている、依然として心臓は大慌てだ。


「だからゆっくりしないで早く帰りなさいよ」

「な、なら、水口さんは?」

「私はあなたが起きるまでずっと待っていたのよ」


 なのにその人間は走って出ていこうとするからむかついた、ということらしい。

 正直に言ってそんなことは知らない、頼んでもいないのに勝手に待つ方が悪い。


「今日は私の家に来なさい、それで泊まってほしいの」

「いいけど……着替えがないから今度にしない?」

「駄目よ、私がいってあきちゃんに取ってきてもらうからとりあえず家にいきましょ」


 意地を張ってしまっている感じかなあ。

 優しくしてくれてもすぐに変わるわけではないから少し時間が経過した後に損をしたとか言われなければいいけど。


「じゃ、いってくるわ」

「危ないよ、私もいく」

「駄目よ、お菓子でも食べて待っていなさい」


 なにも聞いてくれないぞ……。

 このままだとお互いに疲れてしまうだけだ、でも、自分のお家ではないとしても屋内に移動してしまったのもあって一人で出たいとも思えない。

 仕方がないから一人で大人しく待っておくことにした。

 いつご家族が帰ってくるのかわからないから違う意味でもドキドキしていた。


「ただいま」

「おかえり、ねえ――」

「安心しなさい、明日の朝まで私しかいないわ」


 なんとなくそんな感じがしていたけど実際に知ることになるとなんとも言えない気持ちになる。


「え、それって水口さんは寂しくない?」

「寂しいときもあるけどそうも言っていられないわ、だってわがままでこうして出てきているわけだし。いまからご飯を作るわ」

「それなら手伝うよ」

「いいわ、いまからお風呂も溜めるから溜まったら先に入ってちょうだい」


 過保護属性の子なのだろうか。

 なんでもかんでもしてもらう人間ではない、そのため、せめてお風呂を溜めるぐらいはやらせてもらった。

 ご飯を作っている最中も出しゃばったりはしなかったけどずっと見ていた、なにを勘違いしてか「熱烈ね」なんて言ってくれた。


「いってきて」

「水口さんが一緒ならいくかもね」

「だから私は――いいわよ、先にいって髪なんかを洗っていてちょうだい」


 これ以上は駄目だから諦めてお風呂に入らせてもらうことにする。

 どうせ嘘だ、途中でやめたくなかったとか言い訳をして来ないに決まっている。

 そもそも自分で言っておきながらまだ一緒にお風呂に入ったりする仲ではないという考えがあるため、特に内が荒れたりもしなかった。

 だからこそ驚いた、洗って湯舟につかったあたりでなにも隠さずに浴室に入ってきたことが。


「あんまり見ないでちょうだい」

「いや、え、本当にくるとは……」

「いいわよって言ったじゃない」


 これは私が馬鹿だった、先程の発言もそうだしいま意地になっているのにこうなることを想像できないことがね。

 同性の裸をじろじろ見る趣味もないから反対を向いていたら「そこまでする必要はないわよ」と言われて少し戻す。


「あきちゃんが何回も付いていきたいって言ってきたけど断らせてもらったの、あなたと二人きりがよかったからよ」

「怖くなかった?」


 私だったら表情なんかで揺さぶられて、負けて連れてきていたと思う。

 にこにこ笑顔のときはいいけど怒ったら怖いから、まあ、怒っているのに可愛かったりするときもあるから駄目なときばかりでもない。


「あきちゃんなんて全く怖くないわよ、それどころかあなたのことが好きだとわかって嬉しくなったぐらいだわ」

「はは、なんでそれで嬉しくなるの?」

「だってあなたは一人じゃないからよ」


 そう、完全に一人ではないからやっていけているのだ。

 だから恋なんかできなくても楽しくはやれるようになっている。


「水口さんは一人だよね」

「私? ああ、確かに一人だけど平気よ」

「違うよ、学校でもだよ、あきやごう君と一緒にいても踏み込み過ぎないから一人なんだよ。だからさ、同じ一人の私とお似合いなのかなって」


 お友達を増やしたくないとかではないから矛盾しているわけではない。

 来てくれる可能性が低い子よりも興味を持ってくれている子なら……って、うん。


「ふふ、なに一緒にしているのよ」

「……興味があるんでしょ?」

「あるわ、それに変えたいと言ったあれも適当に言ったわけじゃないもの」

「な、ならっ、お友達になれるよねっ?」


 しまった、興奮しすぎだ。

 しかも服を着ている状態ならいいけどここはお風呂でなにもまとっていないのだから近づくのは危険だ。


「落ち着きなさい。なれるわよ、そもそも私はもうそのお友達のつもりだったけどね」

「いきなりハイテンションになってごめん」

「謝らなくていいわよ」

「も、もう出るね」


 違う違う、求めすぎるのは危険だと答えを出したばかりではないかと自分に呆れる。

 そのため、話しかけられたときだけ相手をさせてもらうように切り替えた。

 これはすぐに上手くやれて、少なくとも私的にはいい状態で朝までいられた。




「よー……って、なんでそっちからきたんだ? はな先輩の家はあっちだろ?」

「あー水口さんのお家にお泊まりしていたんだ」

「マジっ? となると、はな先輩にとっての水口先輩って大きい存在なのかもな」

「いやいや、ことの、君達のお家にだって何回もお泊まりしたんだから変わらないと思うけど」

「でも、出会ったばかりだ、そこが違うだろ?」


 そう……かもしれないけど別になにもない……けどね。

 その証拠に、ご飯を食べていかないかって誘ってくれても断っていまこうして出てきているわけだし。

 出ていく間際、お礼を言っても怖い顔のままだったから逃げてきた形になる。


「つかさ、はな先輩はもっと来てくれよ」

「はは、あきにしか興味がないのによく言うよ」


 一緒にいても大体はすぐに妹のことを出してくる。

 嫌ではないけど私である必要はない、妹のことが気になるなら本人にところにいけばいい。

 あー……だからまだつもりだっただけで切り替えられていなかったということだ。

 自分で言っておきながら馬鹿かと、妹にしか興味がないなんていいことではないか。


「それとこれとは別だ、わかってくれ」

「そんな顔をしなくても……今日はどうしたの?」

「はな先輩だって友達だ、友達とは一緒にいたいだろ」

「わかったよ」


 暇な時間は多いからね。

 一旦、お家に帰って話してこようかとも考えていたけど彼と一緒に登校することにした。

 帰ったところでご飯があるとも考えられないからね。


「俺はさ、確かにあきのことが好きだけどみんなといるときに出したりはしない、みんなともいたい。なのにはな先輩は全く来てくれなくなった、はな先輩が中学三年生になったときからだ。隠しているだけでなにかあったとかか……?」


 違う、そのときもこの前の私みたいになってしまっただけだ。

 つまり自滅だ、だって距離を作ったら戻せなくなってしまったのだからそうとしか言えない。

 あとはなにを勘違いしてかそのときに彼が妹のことを好きだと大事な情報を教えてくれたのが大きい。

 いやもう本当に戻ってきてほしいという話の後になんでそれを言おうとしたのかはわからないままだけど。

 見方によっては必死な状態にも見えたから勘違いされないためにだろうか? といま出てきた。


「そういうことだったんだね」

「ん? いや、一人で納得していないで教えてくれよ」

「なんでもないよ」


 学校に着いてしまえば学年も違うということで別れるしかない。

 来なくなったのは彼だって同じなのだ、その証拠に一緒にいられているのはこうしてなにかが重なったときや階下に移動したときだけだ。

 好意を抱いていたとかではないから傷つくなんてことはないけど人をすぐに好きになったりするような人間ではなくてよかったと今日は強く思った。

 それっぽいことを言っているくせに本当に求めているのは好きな相手、妹のことだから。


「はぁ……はぁ……少しはじっとしていなさいよ」

「お疲れ様」

「はぁ……あなたのせいだけど」

「だってそこまでお世話になるわけにもいかなかったから、あきでもあそこで帰ることを選択するよ」


 はは、急いで走ってきたのかせっかくの奇麗な顔が台無しだ。


「はな、私はいくわよ」

「うん、わかっているよ」


 すぐに諦められたらそれはそれで悲しいからせめて二週間ぐらいはこうしてほしいな。

 やっぱり一週間でもいいから来てくれたら……その後は自由にしてくれていいからせめて、ね。


「それだけよ、今日も頑張りましょう……の前に、はいこれ、お弁当を作ってきたの」


 可愛いお弁当袋だった。

 今度、どこで買ったのかを教えてもらうのもありかもしれない。

 長くは続かないだろうからいま聞いていた方が、


「食べてくれる……?」

「うん、作ってくれたなら食べさせてもらうよ、ありがとう水口さん」


 いや、なんで彼女は逆にここまでしてくれるのか……。

 渡すだけ渡して歩いていってしまったからそのことも聞くことができなかった。

 廊下で突っ立っていてもじろじろ見られるだけだから教室に戻ると「おはよう」と、私も挨拶を返しておく。


「お、ということは初めて生田が勝ったということだな」

「そういえば……そうですね」

「負けたか~一日一日、記録を伸ばしていたんだがな~」

「今日だけですよ、また簡単に伸ばしていけます」

「い、生田?」


 ライバルに勝っても全く嬉しくはない。

 というか、同じ日にあってほしくないことだった。

 なにが変わるというわけでもないからこの日は一日、無駄に移動をしたりはしなかった。




「お、丁度いいところにいてくれたな」

「今日、聞きたいことはありません」

「いや、俺が逆に生田のことについて聞きたいんだよ、なんか元気がなかったからさ」

「特にマイナスなことがあったわけじゃないと思いますが……」


 お弁当を受け取ってくれたときの顔が気になっていたけどそれもお昼の「美味しかったよ」という本人からの言葉でどこかに消えた。

 ただ気になるのはそのまま返さずに洗ってくるということと、お弁当を作ってくれようとしてしまっている部分だ。

 そんなに多く食べられるわけではないから作らないようにしなければならないものの、急に無理になった場合にはお昼になにも食べられないことになる。

 少しでも疑ってしまっているところに腹が立つのだ。

 私がこんな感じならはなが不安になってしまってもおかしくはない。


「水口とか小椋相手に喧嘩をしてしまったとかじゃないんだよな?」

「はい、少なくとも私は喧嘩をしていません、昨日なんか泊まってくれたぐらいですよ」


 少なくともとは言ったけど小椋さんともしていないと断言できてしまう。

 何故なら小椋さんが今日、はなのところにいくことはなかったうえにはな自身が動くこともなかったからだ。

 ああなってしまったのはこの曖昧な距離感のせいだとも思っているから私は同じようにはしない、そもそも我慢ができないから意味のないことでもある。


「おお、いいことだよな。いや~生田ってあんまり断ることもしないが積極的にいくこともしないからさ」

「よく知っているんですね」

「本人が全部話してくれたからな、だからこそ心配になるんだよ」

「私に任せてください」

「頼むよ」


 挨拶をして離れる。

 別にこうしたところではなが待ってくれているとかではないけどどちらにしろ残っていても意味はないから学校もあとにした。


「待ってたよ」

「はな? ごめんなさい、約束をしていたかしら……?」




「していないよ、ただ一人で帰るのも寂しかったからかな」


 ごう君でも妹でもことでも誰でもよかった、少しでも一緒にいられればそれでね。

 でも、目の前に現れたのは水口さんだったから話しかけただけだ。


「お弁当、ちゃんと作ってくるから食べてね」

「え、ええ」

「あ、疑っているでしょ? お弁当ぐらい作れるよ、素敵な物になるのかどうかはわからないけどね」

「ち、違うわよ」


 それならいいけど。

 あ、作るのはいいとしてもせめて容器は返せよという話だろうか?

 それでも洗って返してもらうのも違うから今回は我慢をしてほしい、こんなことは作ってくれたからしているだけで何回もしたりはしないから。


「本当にありがとね、水口さんのおかげで元気になれたよ」

「……なら名前で呼びなさいよ、昨日から頑なに避けているじゃない」

「いいの? それなら……さり、これでいい?」

「ええ」


 本当は名前で呼ぶつもりなんかなかった、だけど本当に悲しそうな顔をするから受け入れないとこちらが悲しくなるから駄目だったのだ。


「じゃ、ここまでね」

「うん、また明日ね」


 そっか、待っていてもすぐに別れることになるのか。

 って、すぐに不安定になるところは本当によくない、日課のために公園にいこう。


「てりゃー」

「いた……なんで優しくではあっても叩かれたの?」

「はなが水口さんとばかりいるからだよ」


 ああ……残念ながらことにも移ってしまったみたいだった。


「よいしょっ……と」

「はな、なんで来ないようになっちゃったの?」

「ん-嫌いになったとかではないよ、依然としてみんなのことは好きなままだし」


 誰かが誰かに恋をしていなかったら私はもっといっている、それこそうざがられるぐらいにはしている。

 何故か我慢できてしまっているけど基本的には我慢できないタイプだからだ、あとは不安定になるのもそうだ。


「それなら来てよ、あきちゃんやごう君みたいに誰かを好きでいるわけじゃないからいいでしょ?」

「あ、確かに」

「約束だからね?」


 なら……いくか。

 それに彼女相手に遠慮をするのも違う気がしてきたから守ろうと決めた。

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