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第5話 正門の怪(3)

 青い空、白い雲。

 正門の前には、大きな桜の木が植えてあった。

 そんな桜の木の下に、私を引きずり込んだ犯人がいた。


 時は移り変わり、正門も、校舎も壊されて新しい街が出来上がっていく。焼け野原になった東京は知らない街になっていく。

 1945年3月10日。

 一人の少女がこの正門の前で死んだ。


 彼女は学校に運び込まれた多くの人たちの怨念と共に縛られて、やがてとある怪異の核になった。

 何十年もの時をこの正門で過ごした。


 この正門が領域を作れるまでになったのは、おそらくつい最近のことだろう。

 この学校で多くの人が亡くなったことを誰かが知って、噂話を流したのかもしれない。それが、七不思議になって力をつけた。

 正門の怪異は、人々を取り込んだ。


「どうして、こんなことを?」


 静かに人の往来を見る少女に私は問いかけた。

 どうやら、先に元の場所に戻ってしまったらしい。


「助けて欲しかった。あの恐ろしい記憶から、早く解放されたかった」


 少女はようやくこちらを見た。

 顔は焼けただれ、見るも無惨な容貌へと変化している。片目はもう、使い物にならないだろう。


「せっかく、こんな綺麗な街を眺めていたのに。変な噂が流れたせいで、あの場所に閉じ込められてしまった」


 有り余る力は、時に怪異自身を狂わす。

 彼女もまた、自分の力を制御できなかったのだろう。だから、誰かに助けてもらおうとした。

 けれど、あの恐ろしい記憶の中にはいつも戦争の影があった。取り込んだ人たちは、少女と同じように銃弾の雨によって殺されたのだ。


「私たちはもう、終わった方がいいのよね」


 少女から一筋の涙が溢れた。


「こんな何もない正門に憑いた私たちを祓う人間なんていなかった。いつも、誰か来ないかと人を見ていたけれど、いざその時が来るのはやはり怖いわね」

「大丈夫、私がきちんと案内します」

「必要ないわ」


 少女は目を細めて歩き出す。

 彼女の体はそれと同時に淡く光出して消滅を始めた。いずれ、魂だけになって天道へと行くのだろう。


「道ならわかる。私がきちんと、みんなを連れて行きます」



 ありがとう、私たちを見つけてくれて。

 ごめんなさい。



 私はランプをしまって、綺麗な校舎を振り返った

 忘れ去られた過去の記憶は、ただ静かに正門に閉じ込められいた。それも今日、ここで消える。

 覚えていよう、私たち人間にできることなんてそれくらいしかないのだから。





 正門の怪異の消滅と同時に、女子生徒と高専生、それからヘロヘロになっている優が現れた。

 その更に後方に血まみれの肉片が顕現する。

 取り込まれ損ねた犠牲者のものだろう。女子生徒たちはせっかく食べた乾パンをすべて吐き出していた。


「とりあえず、救急車呼んだから」

「ありがとうございます」


 私は優の鞄を拾って軽く合図を送る。


「それじゃ、元気でね」

「あの、貴女は」


 私はしばらく考えてから、歩き出す。


「ただのボランティアだよ」





 正門の怪異は、後日、大々的に放送された。

 死者八名、重軽傷者三名の今年最大の怪異事件となった。

 生存者を助けたのが、退魔士ではなく謎の高校生とスライムだったこともかなり議論された。そして、私は思いっきり顔を晒して、自校の制服を着ていたことを思い出したのである。

 しかし、女子生徒たちが極限状態であったために、私の顔立ちなどがあやふやで似顔絵作成が困難だと知った時はさすがにホッとした。


 というわけで、週末も終わり、あの事件以降はじめての登校になるのだが。


「マジか……」


 正門前に退魔士と思われる人たちがたむろしていた。しかし、門を通り過ぎる生徒たちには目もくれず、体育教師と話し込んでいる。


 ならば大丈夫だろうと、そのまま素通りしようと歩き始める。


「当日活動していた部活はわかりました。今は九条院学園から藤沢高校へ向かう電車の防犯カメラを……」


 だいぶガチだな!?


 私はスマホを取り出して管理塔の主に連絡しようとして、肩を掴まれる。


「一年、歩きスマホはよくないぞ」

「す、すみません」


 生徒会長は満足したように、元の場所に戻って行った。教室ついてからにするか………。



 正直、九条院学園から藤沢高校までの電車の防犯カメラを見ても何も出てこない。

 なぜなら、私は星条学園を経由して藤沢高校へ向かったから。このルートを通れば、路線はおろか、実は降車駅すら変わるのだ!

 問題があるとすれば、事件当日になぜか星条学園に現れた九条院学園の生徒がいるという事実があるということだろうか。

 私たちの足取りを調べれば、藤沢高校へ向かったことが余裕でバレてしまうのである。



『というわけで、責任取ってください』


 返信は返って来ない。

 忙しいのか、気ままなのか、私には彼のことはよくわからない。


「すーみれっ!」


 デジャヴを感じつつ、私はいつものように机の角を掴んで持ち堪える。


「雛、それやめてって」

「ごめんごめん」


 そう言いつつ、彼女の目はキラキラしている。


「聞いた!? この前話した連続失踪事件、ウチの女子生徒が解決したって!」

「知ってる。特殊プログラムの生徒かな?」

「んーん」


 雛は残念そうに首を横に振った。


「あの日は、プログラムのカリキュラムでみんな放課後残ってたし欠席もいなかったらしいから有り得ないよ」


 一瞬言葉を失ったのは言うまでもない。


「じゃあ、誰だろうね」

「闇のヒーローっぽいよね、でも、スライムの名前はマサルらしいよ」

「犬みたいな名前ね」


 ごめんな、優!!いつもはそんなこと思ってないから、本当だよ、本当だからね!


「退魔士が血眼になって探してるって。怪異と協力してるってのがどうも引っかかってるとか」

「なんでそんな詳しいの?」

「聞いた」

「なにペラペラ喋ってんの……」


 そんなことを九条院学園の生徒に話していいのだろうか。雛は特殊プログラムの受講生だから、判定が甘いのかもしれない。


「これから合同体育祭の準備期間に入るし、学校に残ることも増えるから怪異には気をつけろって言われたよ」

「確かに、学校には怪異多いからね……」


 私は遠い目をしてつぶやいた。

 一人で行かなくてよかった。まさかこんな大事になるとは。だが、防犯カメラで見つからなかった場合、別のルートのカメラも調べる、なんてことあるのだろうか。

 ないといいなぁ。



   ◇◇◇



 すみれちゃんがバレそうでバレない。

 そんな感じのメールをもらい、僕も気をつけるように言われた日の昼休み。


「そう言えば、鈴木って金曜日、九条院の生徒と何してたわけ?」


 一人でいつものように弁当を食べていると、近くを陣取っていた男子のグループに声をかけられた。

 僕は思わずからあげを喉に詰まらせそうになる。


「な、なんで?」

「いや、話題になってんじゃん」

「僕らじゃないよ……? ちょっとした知り合いで、相談に乗ってもらっただけ」

「なんの?」

「進路……」

「あー」


 九条院学園はこの星条学園に並ぶ進学校だ。

 この学校に友達のいない僕が、別の学校の友達に進路の相談に乗ってもらうのは不自然ではないはず。


「今度紹介してよ」

「あの人、そういうの嫌いだと思う」

「ケチだな。可愛い子を独り占めとか」

「あの人、見た目はともかく中身は全然可愛くないよ」


 あの人の中身、最高クラスの都市伝説だし。


「いいじゃんいいじゃん」

「じゃあ、今度の合同体育祭の時に、機会があったら」


 合同体育祭は毎年5月下旬に行われる都内の私立高校が主催・参加するビッグイベントで、五日間に渡って開催される。

 毎年、テレビ中継などもされて全国的にも注目度の高いイベントだ。毎年、赤・青・白・黄と四色の団に分かれて競う。

 たしか、星条学園は今年は白団だったか。

 九条院学園も白団だと、塾のクラスメイトが言っていた気がする。ということは、どこからしらで遭遇するだろう。


「約束だからな!」


 それから、何となく流れで昼休みの間中、その男子グループと話した。





 藤沢高校に献花でもしようと、なけなしのお金を集めて花屋に寄った。菊の花が無難だろうと、店員に選んでもらい、例の正門前まで行く。

 泣き崩れる高校生たちが多い中、大人もちらほら見えた。わざわざ作られたと思われる献花台に花を置いて手を合わせる。

 九条院学園の生徒も何人かいたが、さすがに怪しまれるからか、すみれちゃんの姿はなかった。


 しばらくして、テレビ局がきて取材を始める。

 被害者の家族だという人が取材を受けていた。弱々しい顔で、隣では男の人に肩を支えられていた。

 別のところでらは、藤沢高校の女子生徒が大声で泣きながら「いやだ、信じない」と繰り返していた。

 好きな人が巻き込まれたのだろうか。


「B29、結局落とせなかったな……」


 僕の心残りといえば、それくらいである。

 スライムの能力なのか定かではないが、僕は自分の体を自在に変形できる。実は、人間の姿もその容量で保っていたりする。

 今回は空を飛ぶためにワイバーンみたいな姿になって爆撃機を墜落させようとしたのだが、鉄の塊をスライムが落とすとは流石に無理があった。


 僕は正門に背を向けた。

 いまだに別れを惜しむ声が聞こえる中、僕は鞄からイヤホンを取り出して流行りの曲を流しはじめた。

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