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第16話 裏サイト(2)

 僕は今、とてもピンチだ。

 場所は職員棟三階の一番奥、オカルト部の部室。

 両脇には部活引退間近の三年生が僕の腕をガッチリと掴んで離さない。



 ことの発端は、星条学園で話題になっている裏サイトだった。

 裏サイトで名前を見た者は事故に遭うと言われている恐ろしいサイトを、僕のクラスメイトの一人が見たと騒いでいたのだ。

 僕はこの現状をなんとかしなければいけないという強い使命感のもと、裏サイトを開いてサイトの開設者を探った。


 それはもう巧妙な手で隠されており、僕が昔からコンピュータ大好きのクソキモオタクでなかったら開設者が誰かわからなかっただろう。

 そう、わかったのだ。

 裏サイトは、この学校のオカルト部のパソコンで作られたのだ。


 オカルト部に事情を聞きに行ったら、ここに連行された。

 最悪、逃げる。全力で。



 部室は意外と片付いており、コーヒーメーカーが置いてあるせいか、コーヒーの匂いが部屋に染み付いている。


「さっそく、本題なのですが」


 眼鏡におさげといういかにもな、部員が口を開いた。


「裏サイトを、消してくれないでしょうか!」

「………は?」





 いつぞや、トロールと遭遇したファミレスにて僕はすみれちゃんを呼び出していた。

 裏サイトの話だと言った時、めっちゃ嫌そうだったけど何とか説得に成功した。


「それで、裏サイトに関する噂を流したら本当に怪異化するのか実験して、噂が大きくなりすぎて手に負えなくなった、と」

「そうらしい」

「馬鹿じゃないの」


 言ってやるなよ……。


「それで、裏サイト自体が自我を持ち出して勝手にサイトに書き込んだり、アクセス権限乗っ取ったりしてるらしい」

「私、そんはデジタルの世界のことなんて知らない」

「そこは僕に任せて欲しい。すみれちゃんには、僕の護衛をして欲しいんだ」


 お前はいつからそんなに偉くなったんだ、的な顔で睨まれている。


「裏サイト、今日の夕方も死者を出たらしい」


 すみれちゃんは優しい。こうなったら必ず協力してくれる。

 案の定、彼女は大きなため息をついて運ばれてきたスパゲッティを一口食べる。


「いいよ、協力してあげる」

「マジか」

「その代わり、今週末私と付き合ってほしい」

「………ん?」


 嫌な予感しかしない。

 だが、協力してもらえるのならと僕は仕方なく了承した。





「これ、バレたらすみれちゃんも僕も死ぬな」

「お前が始めた物語だろうが」

「すんません」


 オカルト部の部室を、すみれちゃんの能力でこじ開けてパソコンにアクセスして裏サイトに入る。

 おそらく、全校生徒ほぼ全員の名前が載っていた。


「えっと、サイトの消去っと」


 画面にノイズがはしり、見たことない広告が現れる。消しても、消しても、次々と現れる。

 プログラムが書き換えられているのか?

 どうしたら、いいんだ………。


「早くしないと、先生とか来るかもね」


 時間は放課後。

 生徒は部活動生以外は帰宅している。オカルト部も今日は活動日じゃないし。校内に残っているのは、教師と合唱部、新聞部、美術部くらいだ。

 もしかしたら、図書館に図書委員がいるかもしれない。


「すみれちゃんはちゃんと見張ってて」

「はいはい。この部室は私の領域になったから早々侵入なんてできないわよ」


 今、盛大なフラグを建築しなかったか?

 広告が発生しないようにプログラムし直して、裏サイトの管理画面へと移行する。

 すみれちゃんは、勝手にコーヒーを作り始めた。怒られるからやめろ。



「………ここがオカルト部の部室かー?」

「なんか、中で音しない?」

「は?マジ?」

「パソコン叩くみたいな」


 僕はすみれちゃんの方を見る。

 今は手が離せない。というか、こんな呪いのサイトを弄り回して僕は明日を無事に迎えることができるのだろうか。


「だしてぇ」


 すみれちゃんが迫真の演技を始める。鍵をかけた扉をわざとガタガタと鳴らして、半透明のガラスにバンッと手を叩きつける。


「あの男を呪い殺してやるぅ」

「ひぃっ!」

「スクープかも!」


 一人ビビってない奴いないか?


「あ、コーヒー溢した」

「ちゃんと掃除してね……」


 それにしても、よくできている。噂を流して本当に怪異になるなんて、どうやって噂を流したんだよ……。


「噂が大きくなる理由って、結構少ないの」

「はあ……」

「一つはマジの事実だったパターンね、『すみれちゃんの神隠し』はこのパターンよ」


 二つ目は、話がよくできていたパターン。馬鹿らしい話でもあまりにも内容がリアルで「もしかしたら……」と思わせるのだ。現代の噂はこのパターンが多い気がする。○ちゃんねるとか。


 三つ目は、影響力のある人が広めたパターン。意外と知られていない都市伝説も、有名YouTuberが取り上げるだけで注目される。ただの物語だったそれが突然怪異になることもある。


 四つ目は、偶然が重なったパターン。

 密かに囁かれていた噂が事実になった途端、人々はそれを怪異の仕業とみなすことがある。


「今回は四番目。偶然が重なったパターン」


 すみれちゃんは、学園内新聞を持ち出す。

 オカルト部の記事があるからと読み上げてくれた。



「『みなさんは、この学校の怪談【呪われた裏サイト】をご存知ですか? このサイトに自分の名前が書き込まれていたら注意してください。あなたはもしかしたら、このサイトに呪われて事故に遭うかもしれません』」


 そして、別の日の記事。

 これは、学内新聞ではなく地域の新聞の切り抜きのようだ。


「『昨日の夕方、帰宅途中の男子生徒が車で轢かれる事件があった。男子生徒は重症で、救急車で運ばれる際に「学校の裏サイトに呪われた」と話していたといい、因果関係を調査中』」

「偶然、裏サイトを見た生徒が事故にあって噂が急成長したってこと?」

「それ以外ないでしょう。ただの裏サイトが」


 僕は、【裏サイトを削除しますか?】という画面を表示させて【OK】のボタンを押した。



【裏サイトは削除されました】

【裏サイトは削除されました】

【裏サイトは削除されました】

【裏サイトは削除されました】

【裏サイトは削除されました】

【裏サイトは削除されました】

【裏サイトは削除されました】

【裏サイトは削除されました】

【裏サイトは削除されました】【裏サイトは削除されました】【裏サイトは削除されました】【裏サイトは削除されました】【裏サイトは削除されました】【裏サイトは削除されました】【裏サイトは削除されました】【裏サイトは削除されました】【裏サイトは削除されました】【裏サイトは削除されました】【裏サイトは削除されました】【裏サイトは削除されました】



【どうして消したのォ?】



 画面が暗転する。


「怖すぎる………っ!」

「激ヤバじゃん」

「なんですみれちゃんは楽しそうなの!」


 廊下から走ってくる音がして、鍵が開く音がした。


「くたばれ、あくりょ………ん?」


 星条学園の退魔士プログラムを受けていると思われる生徒と教師が数名、カメラを持った女子生徒が二人いた。


「お前ら、オカルト部じゃいなよな?」

「てか、九条院の生徒がウチで何してる? 不法侵入だろ」

「………中谷先生を呼んでください」


 僕は消え入りそうな声でそう言うのがやっとだった。





 ファミレスのお姉さんこと、中谷先生を正面に、星条学園の校長と教頭に囲まれ、しばらくしてすみれちゃんの担任の先生が駆け付けてきた。


「夏目………お前」

「優くんはセフレじゃありません!」

「はぁ!? 九条院でそんなことになってんの!?」


 僕はすみれちゃんの肩を掴んで揺さぶる。


「訂正して、今すぐ訂正してよ死にたくないから! すみれちゃんの元カレに殺されるぅうう」

「かっ、彼氏なんていたことないし!」

「二人とも、どうしてオカルト部に侵入してたの?」


 中谷先生の鋭い声に僕らは姿勢を正して、これまでの流れを説明した。


「オカルト部に黙っていたのは、すみれちゃんとの関係が知られたくなかったからですけど。裏サイトはちゃんと消したので!」

「危ないでしょ、どうしてプロに任せなかったの?」


 ある意味、すみれちゃんはその手のプロだったからであって。別に大人を頼れないとかそういうわけでは……。


「じゃあ、真面目にこの話を持ち込んだとして、先生方は優くんの言うことを信じたんですか?」


 教師陣を沈黙が支配する。

 すみれちゃんはため息をついて「論外」と小さく呟いた。


「夏目、お前……そんなこと言うのか…?」


 すみれちゃんの担任は担任で、絶対零度モードのすみれちゃんに引いている。


「ふむ、裏サイトの件があるからな。ここはお咎めなしということでどうでしょう?」


 校長が口を開いて、教頭もぎこちなく同意した。


「そちらの生徒さんの処分は、九条院学園に一任しますよ」

「桜木先生、停学にしたら化けて出ますから」

「洒落にならないよ、すみれちゃん……」


 僕は、退魔士でもあるという桜木先生を見た。


「無理言って誘ったのは僕なので、許してやってくれませんか?」

「わかったよ」


 桜木先生はため息をついた。


「旧校舎の放課後掃除を、一週間続けること」

「ここから有罪になることってあるんだ」

「夏目………」


 とことん機嫌の悪いすみれちゃんは「はいはい」と言って立ち上がった。床に置いてあった荷物を取って教室の扉を開ける。

 そこには聞き耳をたてる新聞部の二人がいた。


「驚かせてごめん。でも、本当に危険な怪異がいたかもしれないから、放課後の学校は気をつけた方がいいよ」


 『すみれちゃんの神隠し(としでんせつ)』に言われると説得力があるなぁ。


「それから、優くん。週末の約束、待ち合わせ場所後で送るから、西宮と共有しておいて」

「………了解」


 二人きりで出かけるわけじゃないんだ。

 どこかホッとした僕であった。

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