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第10話 合同体育祭(1)

 国立競技場に、ゾロゾロと色んな高校の体操服を着た生徒たちが入って行く。

 私がぼんやりとその様子を眺めていると、後ろから肩を叩かれた。


「スミレ、久しぶり。マサルは元気?」

「西宮(はるか)か……」


 マサルを私に紹介?してくれた人狼の青年。人間のときの姿は、人狼の時と同じく二メートル弱。かなりの巨人である。

 ちなみに、バスケ部に所属している。


「優くんには、あれから会ったの?」

「いや。僕と彼はあの街でしか会ったことないからね」


 すれ違っても気づかれないよ、と遙は得意気に言った。しかし、こんな大男と並んで歩いていると目立つな。


「今年で最後の合同体育祭だから、めっちゃはっちゃけるつもり。あ、スミレは初めてか」

「別に楽しみとかないけど」

「スミレ、そういうキャラじゃないもんね」


 会場に入って、白団の団席についてからそれぞれ自分の学校のエリアに行くからと別れた。




「おはよう」

「おはよう、すみれー」


 若干緊張気味の雛を見て、私は思わず笑みを溢す。


 この合同体育祭は、退魔士を目指す生徒限定の競技がある。その成績によって、退魔局の様々な部署からスカウトをもらい、インターンに参加することになる。

 退魔士を目指す雛にとっては、初の晴れ舞台というわけだ。


「雛、頑張れー」

「すみれは気楽でいいなー」

「出来損ないには出来損ないなりの苦労もあるさ」


 隣に座っていた浅葱蓮(あさぎれん)が、こちらを見ることもせずに呟いた。


「蓮くん、すみれに謝りなよ!」

「事実だろ。あの夏目家の出身なのに、能力一つ備わっていない無能力者」

「だから、来たくなかったんだよなー」


 私はあからさまにため息をついて、反対側の団席の人を眺めていた。遠すぎて顔はおろか、何をしているのかもわからない。


「じゃあ帰ればいいだろ」

「団対抗リレー負けちゃうよ……? あーあ、優勝逃した白組の退魔士なんて……あーあ」

「性格悪いなお前……」

「ダメだよ帰ったら!!」


 雛に手首を掴まれて涙目で止められた。

 さすがの浅葱も観念したのか「いいすぎた」と負けを認める。


「ま、目障りならここから離れるけど」

「行くあてあんのかよ?」

「あるよ。私、友達多いし。全団の団席に行ける」

「スパイして来いよそのまま……」


 そんな会話をしていると、担任が歩いてきた。

 イケメンとして有名な桜木海斗先生である。退魔局の退魔士でもある彼は、体育祭の服装とは思えないスーツ姿で登場した。


「先生、やっぱ警備班なんだ〜」


 かっこいいーと雛が目をハートにしてメロついている。


「みんな揃ったな? この後開会式だから、トイレ以外ではウロウロしないように」


 私は開会式前にトイレに行こうとして立ち上がる。ついでに、優に声をかけに行くか。





 白団の団席にて、スマホで優を呼び出す。


「おはよう、すみれちゃん」

「おは……誰?」


 優の後ろに星条学園の体操服を来た男子が五人ほどいた。


「優の友達でーす」

「マジで九条院のお嬢様じゃん!」

「羨ましい!」

「ね、彼氏いんの?」

「優くん………」


 私は優を軽く睨んだ。これでは怪異絡みの話ができないではないか。


「すまん。説教は後で聞く」

「なんて名前?」

「夏目菫子です」

「夏目って、退魔士の!?」

「スゲェ!」

「エリートじゃん!」


 優は気まずそうに手を合わせて、後で説明するからと口パクで言った。



『まもなく、開会式が始まります。団席に着席していない生徒の皆さんは、すみやかに団席に戻り着席してください』



 助かった。


「じゃあね、優くん」

「なんかあったらメッセージ送って」





 校長の長い挨拶の後、準備体操をして、第一プログラムの生徒が準備を始める。

 私の出番は昼からなので、雛と一緒に屋台を回ることになった。


 たこ焼きを買って、壁に寄りかかって食べ始める。

 朝ごはんを少ししか食べていなかったから、腹にしみる美味さだ。


「あ、退魔士」

「ほんとだ。先生もいる」


 私はたこ焼きを頬張りながら、桜木先生の隣にいる退魔士たちを観察した。一人だけ、知っている人がいた。歳は二十代前半、背中に長めの棒を背負っている。


灘千隼(なだちはや)だ」

「あ、ほんとだー」


 夏目慶一郎がSランクになる前に最年少だった退魔士である。

 今では完全に慶一郎の下位互換として扱われるが、おそらく実力は慶一郎よりも上である。


 彼が学生だった十年前、私の体感ではもう八年前だが、神隠しにあった彼を案内したことがある。

 私は夏目家の会合や他家との交流会には出席させてもらえないため、直接会ったことはない。


「かっこいいよね、千隼さん」

「慶一郎よりはかっこいいかも」

「可愛いって言う人もいるよね」

「ちょっと女顔だしね」


 二人で話していると桜木先生が気づいて手を振ってきた。私たちは笑顔で答える。

 灘千隼と目が合った。

 その目が微かに見開かれた。


「千隼、行くぞ」

「はい」


 年配の退魔士に呼ばれて千隼は遠ざかっていく。

 夏目菫子は、名前だけが一人歩きしており、顔を知る人は実は少ない。夏目家の中ですら、私と会ったことがない人がいる。

 特に、実力派の人間は私を毛嫌いして会わない。

 つまり、千隼は私が夏目菫子とは知らないはずなのだ。


「灘千隼って、目と記憶力がいいんだね」

「そういう噂は聞くかも」


 うん、まずいな。

 会わないようにしよう。



   ◇◇◇



 灘千隼は警備班として、合同体育祭の会場を巡回していた。

 同期で退魔士になった桜木海斗に、先ほどから気になっていたことを尋ねる。


「ねえ、さっきの子は?」

「俺の生徒だ。川崎雛と夏目菫子。川崎は退魔士志望だし、そこそこ優秀だぞ」

「夏目、菫子。すみれ……。まさか」

「あー………夏目はほら、知ってるだろ。『夏目家の出来損ない』『夏目慶一郎の搾りかす』なんて言われてな、性格も捻くれてるし、救いようがないな」



『僕、退魔士になんてなりたくない』

『じゃあ、ならなければいい。家族に「出来損ない」「期待して損した」って言われて一生肩身の狭い思いをして、生きていけばいい』



 だから彼女は、千隼にそんなことを言えたのか。


 SSSランクの都市伝説『すみれちゃんの神隠し』。

 かつて自分も遭遇した、人智を超えた最強の道案内人。

 彼女は決して迷子にならない。

 どんな呪いにかかろうが、どんな結界には阻まれようが。


「面白いね、実に」


 彼女ならもしかしたら、正門の怪異に取り込まれても、迷子を連れて戻って来れるかもしれない。

短めです!

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