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僕と死神  作者: 建上煉真
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2章:吸血鬼:――TYPEⅩ――

 土曜日。天気、超快晴。ただし午後からのち雨。

 今日は刑事さんとの面会の日だった。別にほっぽといて遊びにでも行ってもいいのだが、なんだかそれははばかれた。

 マシロは結局のところつれては来なかった。霊体化すれば刑事さんどころか僕にすら存在はキャッチできない。それならば危機回避対策のためこっそりとつれてきてもよかったのだが、昨日の刑事さんの会話の端々から僕の愉快な過去話まで掘り下げて話さなくてはいけないかもしれない。別に面白くもなんともない話だし、愉快に不愉快な話を彼女に聞かれるのはどうしても避けたかった。昔はどうであれ、彼女には今の僕を見てほしい。いや、もちろん嘘だけどね?

 待ち合わせ時間は12時だが、何があるかはわからない。念のためを含めて、10時にはボロアパートを出た。マシロに勘ぐられたのだが(昨日家に帰ってきてからすぐに休みのことを言ってしまった。不覚だ)、適当に理由をでっち上げて一方的に家を出てきた。後でうまいご飯でも作ってやればぶーぶー言わんだろ。

 そんな訳でデパートに着いたのは10時半だった。約束の時間よりも1時間半早い。さて、どうしようか。

 このデパートには始めて入る。いつもは学校の下校途中のという限定条件のため、アパートと学校を結んだ一直線上の途中にあるスーパーを利用するから、デパート自体に入る必要もないからだ。僕は基本的に必要なもの意外は、あんまり買わない。しいて言うなら本ぐらいか。小説と漫画ぐらいしか読まないけどね。人がつらつらと書いているエッセイなんか読む気にもなれない。人それぞれがそれぞれの考え方があってもいいと思うが、それを他人に自慢げに説明するのはどうしても生理的に気に食わない。説教をたれるのは老後にでもとっておいてくれ。『私はこれで人生を成功しました』とか、激しくどうでもいい。

 どうでもいいことをデパートの正面玄関で考えていると、人々が怪訝そうな顔をして横を通っていく。ふむ。だいぶ邪魔になっているみたいだ。さっさと中にでも入ろうと歩を進もうとしたとき、ぐいぐいと上着のすそを引っ張られる感触がした。

 …………。はて、僕は最近子供の出会いの運勢でも高いのだろうか? 僕の後ろで小学生ぐらいの女の子が泣き顔で僕の上着をつかんでいた。格好は水色の簡素なワンピースを着て、靴はちょっとしたおしゃれなのだろうか? 雑誌にでも載っていそうなサンダルを履いている。今日は暑かったし、子供は風の子ってよく言うしな。ちなみに僕の妹は風邪の子だった。

 僕はこの子をどうしようかと考えを頭の中で一回り巡回する。人の行動を決定するのは二つの手段。一つは甘やかす。もう一つは厳しくする。いわゆる『アメとムチ』だ。僕の似合っている行動といえば……?

 僕は少女を無視して先に歩を進めた。一度振り返っている以上、無視はできないだろうって? 甘い甘い。僕は人としての“欠陥製品”だ。普通の人がするようなことを僕がすると思うか? なんて天邪鬼的なことを自虐しつつ考える。迷子の名も知らぬ少女よ。恨むんなら僕に助けを請うた自分を恨めふはははーとダークヒーロー的なことを心の中でつぶやく。僕は偽善者ですらないのだ。まったく、始末が置けないな。

 デパート内に入ってきょろきょろと周りを見渡す。ふむ。今日は朝ごはんも食べてないし、先に軽く軽食でも食べておこうかな。

 「ということで、レストラン街はどこだろう……」

 「レストランならいちばん上だよ?」

 ばっと振り向くとさっきの少女がにこにこしながら後ろに立っていた。

 「……なんでいるの?」

 僕はなるべく紳士的に問いかける。あれ? 僕この子について来いなんて言ってないよね?

 「おにいちゃんがわたしと同じ“おめめ”をしてたからー」

 朗らかな笑顔でよくわからないことを言われた。同じ目をしている? おいおい、冗談だろ? こんな天真爛漫な女の子と僕のようなただ生命活動をだらだらと続けているだけの“欠陥製品”が?

 「うん。だっておにいちゃんも私も“魚がくさったようなおめめ”してるからー」

 …………。この子は…いったいなんだ? 考えるだけ無駄なのか? だけど――

 「……君はなんていう名前なんだ?」

 気づいたら僕は彼女に声をかけていた。僕でもよくわからない。でも、突発的な衝動を駆られたのだ。そういう意味では、僕も深層心理の中で彼女を“同類”と感じているのだろうか?

 「わたしは『みなづききょうか』ていうのーっ!!」

 少女は僕の心の中など知りえていないかのように、朗らかに微笑んだ。


     †


 「ふーん、『みなづききょうか』って、『水月鏡花』って書くんだ」

 時は鏡花ちゃんと衝撃的な出会いをしてから30分後。午前11時。場所は自動販売機が乱雑しているエントランス。家族連れが黒い炭酸水やら緑色の日本になじみの深い苦い飲み物とか飲んでいる。そんな中で、僕と鏡花ちゃんは何個もあるベンチの一つを陣取っていた。

 「うん。なんかねー、『美しいものをたとえるよじじゅくご』からとってるんだってー」

 「ああ。『鏡花水月』のことか。ふーん、ずいぶんとしゃれた趣味のご両親だね」

 「『きょうかすいげつ』てー?」

 「『鏡に映る花や水面に写る月のように、絶対に触れることのできない美しいもの』って意味だよ」

 正直自分でもこれはあっているかわからない。確かこんな意味だったような気がするだけだ。

 「うーん、意味がむずかしくてよくわからない」

 「だろうね」

 僕だって意味が通じるとは思っていなかったさ。

 「でも、それがとってもいい意味だってことはわかるよー」

 鏡花ちゃんは太陽のような笑顔で言った。

 …まったく、この子はよく笑う。僕が子供のころなんか、一度たりとも笑顔なんてしたことはなかった。今もその不敗記録は続行中だ。

 「…うん? おにいちゃんどうしたの?」

 「なんでもないよ。僕は鏡花ちゃんと同じころにはこんなに笑ったことはなかったなぁーとかまったく思ってないよ」

 「あははー。なにそれー」

 あはははと邪気のない笑いをする。子供だ。まごうことなきほど、子供だ。精神も体も子供だ。だが――

 「わたしはねー。わらうことしかできないだけなんだよー」

 と鏡花ちゃんは笑いながらいった。その台詞は笑顔ととことん似合わない。

 ……今時の子供はみんなこうなのか? 難しい言葉を言って煙に巻いている――わけでもなさそうだしなぁ。まったく、わけが分からない。

 「なにむつかしいかおしてんのー?」

 と鏡花ちゃんが僕の顔をのぞいてくる。「なんでもないさ」と僕は答えた。

 さて、のんびりとジュースを飲みながら話しているが、時間があと1時間もない。まさか刑事さんとの対峙にこの子を連れて行くわけも行かないしな。

 「鏡花ちゃん、迷子だったよね? お母さんと来たの?」

 子供には優しい偽善者。あれ? 30分前と間逆のようなこと言ってる気が。

 「ううん。今日はきんじょのおねえさんときたのー」

 「近所のお姉さん?」

 ふーん。子供にやさしいお姉さんなんだね。これがお兄さんだったらロリコン疑惑が浮上する。いや、もちろん冗談だけどね?

 「うん。あおこおねえちゃんっていうんだよー」

 「ふーん……」

 はて、どこかで聞いたような名前だ。いや、『あおこ』なんて名前、それほど腐るほどいるしな。

 「じゃあ、その『あおこ』お姉ちゃんを探さなきゃ」

 「んー、だいじょうぶだよ。ほら」

 鏡花ちゃんはふと前方を指差す。そこには走ってくる人影が見えた。物凄いスピードで人影がこっちに来る。漫画で表すと、背景に『ドドドドド』と迫力ある字で書かれていることだろう。人間技とは思えない。ちなみに『技』を『業』って書くとなんかかっこいいよね。『罪』とかそれに近い意味だからさらにぴったりだ。こんな事言ったら瞬殺されるけど。

 「――っていうか『伽藍(ときあい)』先輩じゃん!!」

 その走ってくる人影は知り合いだった。しかもめちゃくちゃ会いたくもなかった人だ。

 「おにいちゃん。おねえちゃんとしりあいさんなの?」

 鏡花ちゃんが不思議そうに首をひねって僕を見る。僕だって首をひねりたい。僕の運の悪さに思いっきり首をひねりたい。

 「鏡花ちゃーん!! どこに行ってたの!?」

 その人影こと伽藍先輩が鏡花ちゃんを捕まえて頬ずりしている。その光景を見て僕はため息をついた。このはちゃけた人が伽藍青子(ときあいあおこ)という、僕の2年上の先輩なのだ。

 伽藍青子。僕らが通う高校の3年生。大の子供好きで近所の保育所や託児所にボランティアで遊びに行っているらしい。性格・行動ともにはちゃけた人で、1年の僕ですら知っている。まぁ、それを抜いても僕と伽藍先輩は知り合いということもあるのだが。

 「もうもうもうもう!! どこ行ってたの? あれほどアタシから離れちゃだめって行ったのに! いい? この世にはね鏡花ちゃんが思っている以上の変態がいるのよ? たとえば●●(ピー)とか■■(ピー)とか。鏡花ちゃんは可愛いんだから特に狙われやすいんだから!! って言うかももうアタシがお持ち帰りしたい!!!」

 「お、おねえちゃん!? くるしーいー!! というかなにいってるかわかんないよー!!」

 伽藍先輩は鏡花ちゃんの頬を皮膚が剥けるぐらいのスピードで頬ずりをしている。ああ、あれ絶対血ぃ出てるぞ。

 「お、おにいちゃん!! げんじつとうひしてないでたーすーけーてー!!」

 「おお、現実逃避なんて難しい言葉よく知ってるね」

 「感心してるばあいじゃなぁいー!!」

 わりかし大変な事になっていたので、僕は「とりあえず落ち着いてください伽藍先輩」といった。

 伽藍先輩はようやく僕の方に顔を向け、「ああ、いたの?」とかなりどうでもよさそうな表情をした。この人は可愛いもの以外は興味がないのだ。ちなみに“もの”は“者”と“物”とどちらとも取れたりするあたりなんだか貪欲さがにじみ出ている。

 「伽藍先輩は相変わらずですね。あれですか? 鏡花ちゃんもどっかで拉致でもしてきたんですか?」

 「そもそも何でアンタがこの子と一緒にいるのよ」

 ジト目で見られた。困る。僕だって聞きたい。神様に聞きたい。神様…あなたは馬鹿ですか?

 困惑というか機能停止をしていた僕に泥船――いやいや違った。助け舟を出すように、鏡花ちゃんが「まいごちゃんになっていたわたしを助けてくれたのー」と伽藍先輩の腕の中で苦しそうに言った。いい加減離してあげたらどうですか先輩?

 そんな僕の視線に気づいたのかは分からないが、伽藍先輩は鏡花ちゃんを腕の中から離してあげた。後ろではぁはぁ息を整えている鏡花ちゃんの一瞥した後、僕に対峙して言った。

 「てゆーか、アンタ迷子とか助けるような特称な性格してたっけ? アタシの麗しい脳みそが記憶しているあんたの性格は、迷子を見つけたら迷子センターに連れて行く振りして男子便所に連れて行くような性格だったはずだけど」

 「それはただの変態です」

 「シスコンの時点で変態よ」

 軽蔑された目で見られた。そう、この人は僕と同じ中学校出身者で、10年前の『あの事件』も知っている。もちろん、僕の妹とも面識があった。――あったと形容するたびに僕は胸を締め付けられるような気分になるけど。

 「シスコンの何が悪いんです? シスコンシスコンと蔑みますが、家族と仲良くすることがそんなにいけないことなんですか?」

 「アンタの場合度が過ぎんのよ」

 「――とは?」

 「死んだ妹に幻想を抱きつつどうでもよさそうに日々を生きてる。そのくせに常に妹妹って、アンタはなんなんだ?」

 ずいぶん酷い扱いだった。まぁいい。この人も人の話を聞かないどころか聞いた上であえて無視するようなタイプだし。僕自身もその評価にはうなづくしかない。

 「…………。別に。気にしないでください。そういう人間なんです」

 「……ふん」

 吐き捨てるように鼻を鳴らす。

 「まあいいわ。アタシも別に喧嘩する為にココにきたわけじゃないし」

 そう言って伽藍先輩は鏡花ちゃんを抱き寄せた。ああ、そういえば鏡花ちゃんと伽藍先輩は近所同士って言ってたな。

 「鏡花ちゃんとお買い物ですね」

 「うん。そうだよー」

 伽藍先輩ではなく、ほにゃほにゃとした笑顔で鏡花ちゃんが言う。

 「ふぅーん……。ま、それなら僕はそろそろおいとましようかな」

 僕はそういって飲みきったお茶のアルミ缶を握りつぶした。缶を捨てようと立ち上がると鏡花ちゃんが僕の方を見上げてきた。

 「えー、おにいちゃんもういっちゃうのー?」

 後ろでやけにハイテンションで万歳を繰り返している伽藍先輩を僕は無視し、缶を捨てるため自動販売機の横にあるゴミ箱に近づく。鏡花ちゃんはちょこちょこと僕の後をついてきた。

 「あおこおねえちゃんなら、むししていいんだよ?」

 「僕は鼻っから伽藍先輩の相手はしてないさ」

 鏡花ちゃんの飲み終わったアルミ缶を取り上げつつ答える。鏡花ちゃんは小さな声であっと言ったが、僕は気にせずに僕の飲み終わったお茶の缶と一緒に、鏡花ちゃんの空き缶も捨てる。その後振り返り、

 「僕はもともと予定があってね。これからはその予定消化のために人に会わないといけないんだ。鏡花ちゃんは連れて行けないよ」

 と言った。鏡花ちゃんはうつむき、しぶしぶと言った感じで分かったとうなづいた。うん。何気に伽藍先輩を無視したセリフに気づかないほどショックだったんだろうなぁ(他人事)。

 「うん、いい子だ。――それじゃあ先輩。後お願いしますね」

 「お願いも何も、アタシの本日のご予定通りさ。アンタに言われるまでもないね」

 「……おっしゃるとおりで」

 僕は肩をすくめつつ苦笑いする。そしてそのままエントランスを後にする。後ろでは鏡花ちゃんがちっこい体をめいいっぱい使いながら手を振っていた。その光景を見ながら思う。そうか。排他的な僕が鏡花ちゃんにあそこまで引かれた理由。天真爛漫な笑顔。無邪気な発言。舌足らずなしゃべり方。そうか――


 ――彼女は僕の妹にそっくりだったんだ。


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