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僕と死神  作者: 建上煉真
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2章:吸血鬼:――TYPEⅦ――

 結局として、居候死神少女は見た目どころか、精神年齢も低かった。昨日あった事を洗いざらい語ってみた物の、マシロにはさっぱり分からないようで、「ふーん」としか言わなかった。

 僕としても的確な指示や説明なぞ求めていたわけでもなく、こんなもんかと思っていた。実際、今日の朝まではそう思っていた。

 

 ――そう、朝までは……


    †    †    †


 次の日。学校に行くと、担任から美術教諭の大河内明が行方不明になったことが伝えられた。

 正確には失踪と言うよりは、ただ単に連絡が取れないだけらしいのだが、大河内先生の性質上、遅刻もしないし、連絡もなしに休むことも無いらしいので、大慌てらしい。生徒の中で誰か昨日の下校時間に、大河内先生を見たものがいないか、担任はまくし立てた。だが、少なくてもウチのクラスにはいない事がわかり、ほっとするやら何やら良く分からない表情をした後、すぐにクラスから出て行ってしまった。すぐに職員会議があるらしい。お陰で1時間目が自習になり、クラスのみんなは各自好きなことを始めた。

 僕は本でも読もうかと、机の中を漁っていると、愛澄が近づいてきた。

 「ねえ、どう言うことだと思う。これ?」

 「さあね。愛澄。君がさらったんじゃないかい? それとも駆け落ちとか?」

 僕は軽い冗談を言う。だけど残念ながら愛澄には冗談だと思われなかったらしく、思いっきりひっぱたかれた。

 「ばかあ!!」

 そう言って走り去った。何処へ行くつもりなのだろうか? 教師は全員職員室だとしても、不良グループが俳諧してるだろうに。

 ふと周りを見ると、クラスのみんなが冷ややかな目で僕を見ていた。まあ良い。良くある事だ。僕はそう思って、ようやく探し出した小説を机の上に出して、読み始めた。しばらく僕の事を睨んでいたクラスメイトも、そんな僕に呆れた果てたのか、元のように談話し始めた。

 本を読み始めてから数十分。僕は中々愛澄が帰ってこない事にイラついていた。

 「あんな軽口いつものことだろ? 何怒ってんだ」

 とぶつぶつと愚痴っていたが、どうしようもない。僕は本を机の中に放り込むと、黙って教室を出た。何人かが僕のこと見ていた気がするが、気にしない。これもいつもの事だ。

 とりあえず、行くところの見当がつかないので、職員室へ行ってみる。

 職員室は生徒塔の2階にある。そこそこ広く、職員100人はゆうに入るほどの大きさだ。学校自体が大きく、生徒数は1000人前後いるため、職員も必然的に多くなってしまう。校舎も『生徒塔』と『教科塔』の二つがあり、どちらとも5階建て。県内でも一番大きい学校のはずだ。僕たち2年生は生徒塔の2、3階を占めている。クラスは10クラス近くある。

 僕は3階のクラスなので、階段を一つ下り、職員室の前へと行ってみる。案の定誰もいない。職員室に入って、愛澄が来ていないか聞こうと思ったところへ、人の声が聞こえた。

 「――そういえば、美術の大河内先生、行方不明なんでしょう?」

 行方不明…? 担任が言ってた事か。

 僕は思わず足を止め、声の発信源を探す。どうやら職員室の横の書類室のようだ。コピー機の駆動音もする。

 ゆっくり、中にいる人の気づかれないように書類室の前へと足を進める。ドアは開けっ放しのようだ。ついている。壁の影に隠れて、聞き耳を立てた。

 「そうなのよ。校長先生が授業の事で電話しても繋がらなくて、家に行ったらもぬけの殻だったらしいのよ」

 「へえー。でも、ただ単に出かけてただけじゃないの?」

 「でも最近、大河内先生の妖しい噂が立ってたばかりだったから」

 「ああ、あの『生徒と怪しい関係になってる』ってやつね」

 「そうそう。『あの真面目そうな大河内先生に限って』って他の先生方もおっしゃられてたけど、やっぱり妖しいと私は思うのよ」

 「そうねー。私的にはあの優男風の外見的に妖しいとは思ってたけど」

 「でた。ミステリマニア」

 あはははと談笑が続き、全くの別の話になってしまった。

 クソ。対した収穫が無かった。でも、気になる噂があったようだな。

 『生徒と妖しい関係になっている』

 愛澄の言ってたとおりになったな。ってことは、マジで駆け落ちでもしたか?

 となると、さっき愛澄が怒ったのはあいつもそう思ったって事か。でも、ただの冗談だろ?

 ここにずっといてもしょうがないので、気づかれないように壁から離れ、教科塔の方へ行ってみる。特にあてがあるわけじゃないし、確信があるわけじゃなかったが、なんとなしに屋上へ行くと、愛澄がぼーっと街を眺めていた。思わずはぁとため息が出る。

 愛澄が考えてる事が分からないわけじゃない。むしろ敏感に分かる。ゆえにどうしてそこまで思いつめるのかが分からない。

  

 ――僕が分かるのはその理由だけで、痛みまで分かるわけじゃないから――


 「おい」

 僕はなるべく怒鳴り声にならないように、慎重に声を掛けた。

 愛澄はビクッとした後、振り向いた。目には涙が溜まっていて、今にも溢れそうだ。

 ――否、既に満タンに貯められた涙は溢れていた。僕を見た瞬間に、あふれ出したのだ。

 「どうして……。どうして私がいる事……」

 愛澄がかすれた声でそう言う。そんな声で、そんな事を言われても困る。気づいたらココに向かっていたのだ。カンと言うよりも、“初めからそこにいると分かっていた”と言うしかない。

 だが、残念ながらそんな“心が通い合ってる恋人”みたいなシュチュエーションは僕は望んでいない。だから

 「別に。ただ何となくだよ」

 と言った。

 だが、愛澄には僕の心の中なんぞ見通しだと言いたげに、クスと涙をこぼしながらも、笑った。僕はその事に少しだけホッとした。初め、僕には愛澄が自殺しようとしているのかと思ったためだ。笑える元気があるなら、どうやらそれは僕の杞憂のようだ。

 「こんなところで何をしてるのさ」

 僕はなるべく口調を軽めに言う。愛澄の顔を見ないように、視線を愛澄の首筋へと移す。

 「別に……」

 愛澄はそっぽを向いて言った。顔は見えない。光は反射する。活動タイプなのに何故か愛澄は肌の色は陶器のように白かった。その白い首筋の肌を見て想像する。『この白い肌を傷つけて流れる真っ赤な鮮血を』。

 ゾクッとする。どうして僕は、そんなことを想像しているのだろうか。何故、自然にそんな妄想をしているのか。くらくらと頭が揺れる。否、揺れているのは僕の価値観だ。一ヶ月前に出会った死神の影響かは分からない。だが、どうやら僕は“死の概念”が薄くなってしまったようだ。まるで欠けているかのように。まるで死んでいるかのように。まるで壊れてしまったかのように。

 “欠陥製品”

 その単語が頭を過ぎる。“死神”は存在しているだけでその“人間”を崩壊させると言う。死神は死を司る神。それはつまり“終わりを司る神”と言うことだ。存在しているだけで人間の精神を崩壊させる。存在しているだけで人間の“何か”を欠陥させる。

 それじゃあ。すぐ側で“生きている”僕はどういうことなんだろう。

 それじゃあ。まるで。僕は。僕は――

 「どうしたの?」

 気づいたら愛澄は僕の顔を覗いていた。ビックリする。だが、声は出さない。“出せない”。

 「大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけさ」

 僕はおどけたように言う。欺瞞だ。偽善者ぶるので僕の右に出るやつはいない。

 「それって桜雪と大河内センセのこと?」

 大分気を持ち直したようで、気丈な顔をして僕に聞く。ぜんぜん違うのだが、とりあえず話は合わせとおく事にしよう。どうせココに来たのだって、愛澄を探していたのだって、その話のことなんだし。

 「ああ。さっき職員室でこんな話を聞いたんだ――」

 噂好きな先生がしゃべっていた、大河内先生のことをすべて吐露する。隠す必要性もなければ気を使う必要もない。正確にしゃべるボイスレコーダーのように。

 「――ってな」

 すべてを話し終わった後の愛澄は以外に冷静だった。むしろ思っていたとおりね。と愛澄はニヤリと笑う。

 「どういうことだ?」

 「そういうことよ」

 「いや分かんねぇよ」

 「だからね、大河内センセはそーいうセンセーだったってことよ!!」

 愛澄はグッと拳を握って高らかに言う。僕は思わずため息をついた。

 本当に大河内先生はそういう人間なのだろうか? 僕がこの学校に入学したときに大河内先生も赴任された。2年間学校である程度であるものの、すごしていた。今年は僕たちのクラスの隣ではあるが(そういえば、芹沢も隣のクラスだったか)、僕たちの学年を担当されたりしている。

 本当にそんな噂があれば、クラス担任を任すとは思わない。と言うことは、変な噂が立ち始めたのは最近と言うことか?

 大河内先生の本質がそういう人だったのか、何かきっかけになる事柄があったのか……。だが、まったくない話じゃない。問題は本当に“駆け落ち”したのか。それとも、何か“事件”に巻き込まれたのか? 今のところは行方不明扱いになるんだろうが、将来的にはどうなるんだろうか? 警察が絡んでれば、芹沢と大河内先生は意外と早く見つかるかもしれない。などと考えを巡らせていたときに、ふと遠くからサイレンが聞こえてきた。

 別にサイレンの音が聞こえること自体は珍しくない。人っ子一人いないど田舎じゃないんだ。事故や事件ぐらいはあろう。ただ気になるのは、そのサイレンが “近づいてくる”と言うことだ。警察・消防・救急どれにしたって向きとしては真逆の方だ。この近くで火災があるとしても、僕たちは今屋上に居て、見渡す限りには煙なんかはまったく見えない。キョロキョロと周りを見渡している今でも、サイレンはどんどんどんどん大きくなっていく。まるで警告の鐘音のように。

 警鐘音は止むどころか、どんどんと大きくなっている。と言うことは、確実にこっちへ向かっていると言うことだった。


 そして“ソレ”は現れた。


 “ソレ”は数台のパトカーだった。赤色の警鐘を鳴らしながら、パトカーは学校の敷地内に入り、何人かのテレビで見たことのあるようなダークスーツを着た警官が、中央玄関から入っていった。

 僕と愛澄は互いに顔を向ける。何もしゃべらない。言葉は必要ない。

 僕らは急いで身を翻すと、ダッシュで屋上をでて、階段を数段飛ばしで下りる。職員室のある2階まで降りてくるとターン。職員室前の書類室の影で二人とも身を隠す。こっそりと廊下を見ると、丁度3人ほどの警官が職員室へ入っていくところだった。扉は開けっ放しなので、職員室内での会話は筒抜けだった。何より、感情が高ぶっているのか、大声で叫んでいる先生もいるので、あれなのだが。

 警察捜査一課。

 彼らはそう名乗った。それは普通の事件を担当する部署じゃない。少なくても、行方不明者を探す専門員(ひとたち)ではないはずだ。

 捜査一課。担当する事件は――


 「本日未明。この学校の■■である■■■■が死体で発見されました」


 ――殺人事件。

 僕は自分の呼吸が止まるのを感じた。後ろにいる愛澄の息を呑む音も感じる。

 どういうことだ?

 ■■■■が…死んだだと?

 頭の中が真っ白になる。まただ。また僕の周りで誰かが死んだ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ! もう見たくない。もう聞きたくない。もう知りたくない! 骨の砕ける音。肉が潰れる音。矮躯(わいく)(ひしゃ)げる音。悲鳴。怒号。歓喜、狂気。頭で走馬灯のように回る言葉、音。映像はいつも決まって“アイツ” だ。僕はいつまでこの“映像”に囚われ続けるのだろう。思い出したくない。モノトーンで再生され続けるのは雪が降り続けるあの日。止めてくれ。あれは確か ――。もう止めてくれ。アレハタシカ…タシカ――

 「どういうことなの……?」

 愛澄は呆然と呟く。愕然と。唖然と。どこか破綻したように。




 「どうして桜雪が死体で見つかってるの?」




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