第7話 きょ、今日の天使様は積極的だぁ……(昇天)
本日2本目の投稿です
「お、天使様だ」
本屋の平台で、ふと足を止める。並べられていたのは、 某お隣の天使様の新刊。変わらず表紙イラストの天使様は、凄いキラキラした瞳をしている。
「やっぱ、可愛いなぁ……」
自然とそう呟くやく。
あ、僕の隣を歩いてる子も天使様だけどね。ほら、白樺さんってちょっと天然で、優しくて、全体的にふわふわしてて可愛いじゃん?
そのうえ、料理まで上手くて、僕のことを妙に気にかけてくれる。
新刊を手に取りつつ、帯を見つめていると、頬に斜め下からの強い視線を感じた。
「……ふーん」
ん?
顔を視線の方に向き直すと、白樺さんが腕を組んで少し膨れっ面だった。
「どうしたの?」
「別に」
そっけない返事とともに、視線をそらされる。もしかしてまだあの話気にしてるのかな?
僕が棚に戻そうとした本をじっと見つめたまま、白樺さんはぽつりと呟く。
「天使様には、『可愛い』って言うんだ……」
え……?
思わず、一拍の間が空いた。
「ま、まぁ……キャラとしてだね。正統派ヒロインって感じで」
白樺さんひぶっきらぼうに「ふーん」と返しつつ、拗ねたような瞳を逸らした。
(え? もしかして今、ボソッとデレた?)
いや、そんなわけ……いや、待て。これは拗ねてるのか、それとも――?
……いやいや、ありえないよな!?
「……私にも出来るのに」
白樺さんがふいに、僕の袖をちょんと引いた。
見れば、彼女は少し頬を染めて、何か言いたげにこちらを見上げている。
「えっと……なに?」
「だから、私にも出来るんだって! あの甘々なスキンシップ!」
「まあ、出来るかするかは別じゃない?」
「天野くん……そういうのは、したくないの?」
そう言って僕を見上げる白樺さんの目は、少しだけ不安そうだった。
「甘々? な、何するの?」
「だから……その、天使様のやつ」
白樺さんが視線を泳がせながら、口元を押さえる。
天使様のやつ……つまり、あの作中の甘々なスキンシップとか?
(いやいやいやいや、まさか!?)
だが、白樺さんの様子を見る限り、冗談ではなさそうだ。
さっきまで少し拗ねていたはずなのに、今はどこか挑戦的な目をしている。
「……えっと、冗談でしょ?」
「ふふっ、どうかな?」
白樺さんは少し意地悪そうに微笑んだ。
なんだろう、この感じ……いつもの天然な彼女とは違う。
「や、やめとこうか! うん!」
「えー? つむ、結構本気なんだけどなぁ……」
白樺さんがニコニコしながら二歩ほど詰め寄ってきて、至近距離で、小さく首を傾げるその仕草が――どうしようもなく可愛い。
僕は慌てて目を逸らす。
(え、なにこれ。なんでそんな可愛い仕草するの!? いやいや、そんなの反則でしょ……)
頭の中がぐるぐると混乱していると、白樺さんが悪戯っぽく笑いながら言った。
「何するか、聞くだけでいいからさ。話だけでも……ね?」
「……な、何するの?」
「たとえば――あの二人、手繋いだりしてたよ?」
「……!? 結構飛ばすんだね」
思わず声が裏返る。
てっきり、「肩が触れる距離で歩く」とか「お揃いのもの買う」とか、そのくらいのハードルだと思ってたのに――手繋ぐって、それ、もうほぼカップルじゃん。
あ、あの二人っぽいことだからか。
――いや、難易度高くない!?
白樺さんは僕の反応にくすくす笑って、少しだけ得意げに続ける。
「えへへ。そういうの、興味ないの?」
「いや、ないわけじゃ……」
言いかけて、僕は慌てて口をつぐんだ。
こんなの、正面から言えるわけない。
「……ないわけじゃ、ない」
蚊の鳴くような声で絞り出すと、白樺さんはにっこり笑った。
「じゃあ、やってみる?」
「……へ?」
「手。繋ぐの」
さらっと、当たり前のように言う白樺さん。
こっちは心臓が大変なことになってるのに、彼女はいたって平然としていて――
いや、よく見たら、耳の先がちょっと赤い。
(白樺さん……それ、自分で言っておいて、意識してるじゃん)
もう逃げられないな、と思った僕は、静かに手を差し出した。
「……じゃ、じゃあ」
白樺さんは、少しだけ躊躇して、でもすぐに僕の手を握る。
「……っ」
初めて握った手はあったかい。
それに、小さくて、すごく柔らかくて――。
いや、もう迷惑とかそういうの関係なしに、告白したい衝動に駆り出されたが、喉元まででそうな「好き」を呑みこんだ。
「じゃあ、行こっか……」
「……うん」
白樺さんも蚊の鳴くような声だったけど、指先に力が込められた。
――ん? 僕たち、アイツはのいう通り、「付き合ってない方がおかしい」のでは?
……いや、なわけないな。
◇
行先を決めるでなく、ただ混んだモールの通路を無言で歩いていた。
恥ずかしくて白樺さんの顔なんて見れないが、多分真っ赤な顔なんだろう。
突拍子もなく、白樺さんは呟いた。
「そ、それで……感想は?」
「感想!? 恥ずか死ぬよ、俺!?」
「だって……つむ、凄い頑張ってるじゃん! ね、天野くんも頑張るべき」
「……感想って、そんなの……」
恥ずかしくて言葉が詰まる。けど、白樺さんは僕の方を見上げて、じっと待っている。
その目は、いつものふわっとした感じじゃなくて、少しだけ真剣で。
逃げ場は、うん、ないね。
「……思ってたより、あったかいなって。それと……」
言いながら、僕はちらっと白樺さんの手を見た。
「掌が、きめ細かくて……すべすべだなって」
しん……と、沈黙が落ちる。
(あ、これ言っちゃダメなやつだったかも)
と思った瞬間、白樺さんはそっと僕の手を離した。
(あ……普通に『すべすべ』ってキモかったかな?」
「あ、ご、ごめん。変なこと言った?」
慌てて顔を覗き込むと――白樺さんは、両手で顔を覆っていた。
「っっ~~~!!」
耳まで真っ赤。肩まで震えている。
(……自分から誘ったのに)
僕は心の中で苦笑する。
白樺さん、こういうとこあるよね。
「……な、何? 怒ってるの?」
恐る恐る聞くと、白樺さんはぶんぶんと首を振った。
「ち、違うの……っ。ちょっと……恥ずかしいだけ……」
声がかすれているのは、たぶん本当に限界なんだろう。
(いやいや、こっちも死にそうなんですけど……)
そんなことを思いつつ、僕はポケットに手を突っ込んだ。
さっきまで繋いでいた白樺さんの手のぬくもりは、まだちゃんと残っていた。
――これ、マジで「付き合ってない方がおかしい」んじゃないの?
僕は改めて思う。だけど、今はその言葉を飲み込んで、ちょっとだけ口元を緩めた。
――いや、その気はない……はず。でも、今日の一件で信ぴょう性が……微妙に……。
――いや、僕が勘違いしちゃダメだな。
ブックマークありがとうございます
2025/04/05 19:12
内容が不自然だったので、改稿いたしました。