第4話 今更だけど、“あましろ”ってなんだよ……
本日4本目の投稿です
第一話をご覧になってない方は是非1話をご一読ください
ゲーセンを後にした僕たちは、サイ○リヤに入った。
安い、うまい、居心地がいいの高校生御用達の三拍子揃った、最高なチェーン店だ。
「でさぁ……」
向かい側の席に座る鳥羽が、ドリンクバーのグラスを手で包みながら、ニヤニヤと見つめてくる。
「結局、白樺さんとはどうなんだよ……」
「白樺さん? いや、普通に友達だけど?」
「「いや、嘘つけぇぇい!!!」」
コイツらが大声+ハモったから、周囲の客からの視線が痛い……思わず、顔が引き攣った。
「あの反応は“友達”で済むはずがないだろ? 俺だったらあの勢いで告ってる!」
「本当だよ! もうアレから一年だぞ!? 『次付き合うカップル』四期連続受賞だぞ!?」
「今まで告るタイミング、いっぱいあったろ? 文化祭後の帰り……告る。体育祭で、大衆の前で告る。二人きりなった時に告る。好きっていうタイミング、あったよな?」
(いや、好きなんて言えるわけねぇだろ!)
勘違いしてるし、僕を勝手に告白魔にしないでほしい。
こっちは、気を遣って告白してないのだから。
あと、知らない媒体が出てきたな……それでも僕と白樺さんは友人だ。
白樺さんも、こんな噂が立つのは内心嫌なはずだ。
うん、そうに違いない。
「何度も何度も言ってるけど、僕と! 白樺さんは! 友達だ!」
「ほぉ……無意に鈍感系ラブコメに侵されてしまったか……この手は、使いたくなかったが……」
村松がコクコクと頷いた。
おい! なにが始まるんだ! オラは悪くねえだろお!
「お前たち、学年のどのカップルよりイチャイチャしてるけど……」
――は?
村松が、わざとらしく低い声でそう告げた瞬間、鳥羽も頷きながら追い打ちをかけてくる。
いや、たまたま全員険悪カップルという可能性もあるし、村松たちの意見は一部でしかない。
「しかもだよ? お前らの“甘々エピソード”だけで、文化祭の朗読劇一本できるって噂だからな?」
「過言すぎるでしょ! なんで脚本書かれているんだよ!」
「いや、そんな事ない。今もこれからもあまあまだろうなぁ……」
「じゃあ正直に答えろ。白樺さんのこと、どう思ってんの?」
鳥羽がグラスをテーブルに置き、じっとこちらを見る。 その目があまりに真剣で、僕は思わず口をつぐんだ。
いや――好きなんて言えるわけないだろ!
「……友達だってば」
「じゃあこれで観念しろ!」
村松が手を挙げ、店員を呼びそうな勢いで声を張り上げた。
「今からお前のドリンクバー、全乗せドリンクにするぞ!」
「おお!? どの時代の拷問だ!? 小学生でもやらないって! そんな嫌がらせ!」
「自白しないお前が悪い」
二人はにやりと笑いながら、ドリンクバーに向かおうと立ち上がる。
「おい、マジでやめて! 本当に付き合ってないし、甘い関係でもないから!」
「……お前なぁ」
鳥羽が溜息をつき、村松がしみじみと僕を見た。
「もう重症だな。こじらせすぎて、自覚がない」
「可哀想だから、ちゃんと見てやれよ……」
「……お、おう?」
僕はいつまで、彼女を否定しないといけないのか……。
◇
夏休みまで後少し、昼休みとなった教室は相変わらずの騒がしさだ。
その中に、机を挟んで向かい合わせの白樺さんはやっぱり天使だ。ああ〜癒される〜。この時間は、僕のことを考えてくれるのだから、片思いの身としてはありがたいことこの上ない。
「お勧めしてくれた本、完読したよ」
「それで! どうだったの?」
「バッチグーよ。最高でした……」
親指を立てると、「だよねぇ!」と、ドヤ顔が返ってきた。可愛いなぁ……。
少し特殊なシチュエーションだったけど、心理描写がリアルすぎて、親近感が湧くくらいだ。
それでも甘々じれじれで、最高でした……。
「それで、たけの○の里か、きの○の山、どっちが好きって話だったよね?」
「いや、そんな話してたっけ?」
苦笑いしながら弁当のフタを開けると、白樺さんもふふっと笑う。可愛い……。
いつもの、穏やかな昼休みだ。
……なんだけど。
「今日も癒されますわぁ〜」
「ほんと〜、“あましろ”案件じゃん」
小声で漏れる周囲の女子たちの声が、否応なしに耳に入ってくる。いつも思うけど、“あましろ”って誰が名付け親だよ。
ちなみに“あましろ”とは、天野と白樺をくっつけた超安直なカップルネームである。言い得て妙すぎて、否定できないのがこそばゆい。
それに、そこは“しろあま”じゃないの? 自分の苗字が最初に来るなんて恐れ多い。
――あ、“攻めが左で受けが右”ってやつね。
………………いや、僕がいつ攻めに入るの?
話を戻そう、女子たちのコソコソ話に、白樺さんに嫌がる素振りはない。寧ろ、威風堂々としてないか?
前のめりになって、手を口元に添えて、僕にしか聞こえないような声で白樺さんは言った。
「ねえ、正直照れちゃうよねぇ……」
「……!? そ、そそそう、かもねぇ……」
「あはははっ……天野くん、なんでテンパってんの? 可愛い……」
白樺さん……コソコソ話からの笑顔で「可愛い」は、犯罪ですよ……。僕のライフはもうゼロよ! なのにどれだけ僕のハートを奪っちゃうんですか……。うん、小っ恥ずかしい。
そして女子達は盛り上がっちゃってるし……。
いや、でも白樺さんとセット、まるで彼氏みたいな扱いなんだよな……。片思い中の男子にとって、何よりの名誉では……?
――悪い気はしないんだよな。
そんな時、白樺さんが弁当を食べる手を止めて、思い出したように声を上げた。
「あ、そうだそうだ!」
普段全開することのない瞼が、全開してポンっと手を叩いた。
「もう夏休みまであと三日くらいじゃん?」
「ああ、そうだね」
それがどうしたのかと箸を止めると、白樺さんはにこっと笑った。
「天野くん、夏の代名詞は海だよ。みんなで海、行かない?」
「……あ、みんなで?」
大事なことなので、もう一度言おう。“みんなで”である。
個人的に誘われたわけではない。ええ、みんなで、だ。
ほらみろ村松&鳥羽。全くその気がないじゃないか。
「うん! つむの友達と、あと……天野くんの友達の……村松くんも鳥羽くんだっけ? その人達も誘って、みんなでワイワイしたいなって!」
「えっと、僕はいいんだけどさ? まだ誘ってないのにいうのは変だけど……村松達とは、あんまり接点なくない?」
「大丈夫だよ! 色んな人いた方が楽しいし、人集めてって言われてるから!」
天使かな?
白樺さんはそう言いながら、嬉しそうに手を合わせた。 その顔は、ただの友達としてのお誘い――たぶん、そうなんだろうけど。でも想像しちゃうよね。
思春期の宿命、思わず白樺さんの水着姿を想像してしまった。僕の予想だと……水色のフリルワンピースタイプかな。いかんいかん、話を戻そう。
「わかった。日付はまだ未定なんだよね?」
「うん、みんなの予定聞いてから決めようって。放課後にでもグループで話そ!」
白樺さんの無邪気な笑顔を見ながら、僕は心のどこかでうっすらと、こう願っていた。
(二人きりの時間、あったらいいなぁ……)
そんな期待を抱いてしまっている時点で、鳥羽と村松の言う通り、僕はもう重症なのかもしれない。
でも白樺さんと海に行く前に、目の前のことを頑張らないとな。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
ブックマークいただきましたありがとうございます。
本日はあと、2〜4本ほど投稿する予定です