第2話 好きなんて言えるわけねぇだろっ!!!
本日、2話目の投稿になります
1話をご覧になってない方は、是非1話をご一読ください
自己紹介が遅れましたね。改めまして、僕の名前は天野 晴。高校2年生、青春真っ盛り、ピュアピュアで甘々な恋愛をしたいお年頃でございます。
オタク趣味なもので、やっぱラブコメが好きですねぇ……特に、天使様に駄目にされるやつとか、ロシア語でデレられるやつとか。
そんなこんなで、今、暑すぎる屋上にいます。床がステーキが焼けそうなくらい熱いので、日陰で正座です。
うちの高校では珍しく屋上が空いている。まあ、夏は日光がキツイから、空いている穴場になっており、現に今は僕以外の人間はいない。
なんで屋上にいるかって? 白樺さんと屋上でお弁当食べる約束をしている。青春だよね。
「お待たせ……」
「全く待ってないよ」
「ほんと?」
「いや、さっき授業終わったばっかじゃん」
「そうだったね」
また天然出てる……可愛いなぁ。白樺さんは、日陰になっている僕の隣にちょこんと座った。
彼女の動きはどこか軽やかで、まるで本当に天使の羽がついているかのようだ。……いや、比喩じゃなくてガチで。
「今日の弁当、いつもと違うんだよね~」
「お、まさかの新作?」
「そう! 昨日、お母さんが気まぐれで作った卵焼きがすごく美味しかったから、レシピ教えてもらって作ってみた!」
「へぇ、それは楽しみだね」
白樺さんは嬉しそうに弁当箱の蓋を開ける。中には、ふわっふわの卵焼きが綺麗に並んでいた。
他にも彩り豊かな野菜、ミニトマト、照り焼きチキン、そして白ご飯の上にはちょこんと乗った梅干し。……めちゃくちゃ美味しそうじゃないか。
「ほら、天野くんも食べてみて!」
「え、僕が?」
「うん! 感想聞かせてほしいし!」
白樺さんは、小さな卵焼きを箸でつまみ、こっちに差し出してくる。
あ、これって、いわゆる……あーん、ってやつでは?
食べていいの? いや、え? ん? どっち?
「……えっ、それは、つまり……?」
「えっと、違う違う! 自分で取って食べて!」
「あ、そっちね! うん、それ挟み箸だね」
「あ、コレお行儀悪いんだった……」
白樺さんは慌てて箸を持ち直し、「えへへ」と照れ笑いを浮かべた。
「まあ、僕もつい意識しちゃったし、おあいこってことで」
「? 何を意識したの?」
「な、なんでもないよ!」
危ない危ない、うっかり本音が漏れるところだった。
僕は自分の箸で卵焼きをつまみ、一口食べる。
おいしい……! ふわふわで卵本来の甘さとか、旨みとかそう言うのを感じて、卵のまろやかな風味が鼻を抜ける。
「……うまっ」
「でしょ!」
「うん、ふわふわだし、甘さもちょうどいい。白樺さん、料理上手いんだね」
「えへへ、お母さんのレシピのおかげだよ。でも、こうやって誰かに食べてもらえるのって嬉しいなぁ」
彼女は満足げに笑いながら、自分の卵焼きをパクっと口に運ぶ。
そんな姿を見ていると、なんというか、心が温かくなる。この時間を独り占めできるのが幸せすぎる。
……やっぱり、好きだなぁ。
ダメなところも、「可愛いところ」に変換されるし、そんなことより良いところの方がいっぱい見つかる。
改めて「好き」なんて思ってしまうから本当に困る。
「それでそれで? 天野くんのお弁当は?」
「今日は、僕が作ったね。そぼろと卵のあれ、なんだっけ……そう! 二色丼」
「シェアするの難しそうだね……」
そういうと白樺さんは、しょんぼりとしたからつい、「いや、なんとかなるでしょ」と言ってしまった。
そう言うと、明るい顔に戻ったので、ホッとした。
「え、いいの?」
「まあ、白樺さんがよければ……」
そう言いながら、僕は弁当箱の蓋を開けた。
そこには茶色と黄色のコントラストが美しい二色丼が広がって、緑がなかったから三つ葉を添えたりして。鶏そぼろは甘辛く味付けし、卵はふわっと仕上げたつもりだけど……。
「うわぁ、めっちゃ綺麗! お店みたい!」
「いやいや、さすがにそれは言いすぎ」
「お店だよコレは……美味しそう……!」
白樺さんはじっと僕の弁当を見つめる。
その視線に耐えられなくなって、僕は照れ隠しに箸を動かした。
「ほら、食べる?」
「いいの? じゃあ、ちょっとだけ……」
白樺さんはおずおずと箸を伸ばし、そぼろと卵をご飯ごとすくう。
そして、パクっと口に入れると――。
「ん~~! 美味しい!」
目を輝かせながら、もぐもぐと味わう白樺さん。頭まで振っちゃって……ほんと可愛いな。
その姿に、なんというか……めちゃくちゃ嬉しくなる。
「やっぱ、料理上手な人っていいね」
白樺さんは、僕の作った二色丼を夢中で食べながら、そんなことを呟いた。結構食べるなこの子。まあ嬉しさが9割、残してねが1割かな。
「白樺さんも上手だよ」
「えへへ、ありがと。でも、天野くんのご飯、本当に美味しい! こんなの毎日食べられたら幸せだろうなぁ……」
「毎日はさすがに大変かも」
「じゃあ、たまにでいいから作ってほしいなぁ」
「うん、それくらいなら」
そう答えると、白樺さんは何かを考えるように小首を傾げ――ぽつりと、言った。
「結婚するならさ、やっぱお料理上手な人がいいよね?」
――は???
ちょっと待て、それってどういう意図?
え、今、ものすごく自然に将来の話をされてない!? いや、違う!? でも、そういう流れだったよね!? え? まずはお付き合いからだよね!?
「そ、そうだね……料理が上手な人って、素敵だと思う……」
動揺しながらも、なんとか返す。心臓がバクバクしてるのを、るのを悟られないように、そぼろをご飯に押し込んだ。
「だよねぇ~。天野くん、お嫁さんにしたら絶対いいと思う!」
「お、お嫁さんって……僕、男だけど」
「あ、そっか! じゃあ、お婿さん?」
――いやいやいや、会話の流れが完全にプロポーズじゃん!!
照れくさくて視線をそらすと、白樺さんは「?」と不思議そうな顔をしていた。うわぁ、無自覚にこういうこと言うの、ほんとズルい……。
昨日はあんな意味深なことしたくせに、わからないのか? じゃあ、ナチュラルに出た言葉? それは……嬉しいな。
「ま、まあ、まだ高校生だし、結婚とかは遠い未来の話だけどね!」
「うんうん、そうだね~!」
ようやく話題が流れてくれて、僕はひそかに安堵した。
◇
天野家の食卓。
今日の昼間にあった出来事を、何気なく家族に話していた。多分だけど、家族には白樺さんが好きなかの――バレてるんだろうなぁ……。
父の圭介(毛根がしぶとくて、禿げる気配ない)が、晩酌の焼酎を飲みながら、興味ありげに頷いた。
「今日は、白樺さんと昼食を食べた……晴、いつも一緒にいないか?」
「ほんとそれ! 晴ちゃんの女の子の話、全部その子!」
「ま、まぁ……仲はいいかな」
皿を洗ってる僕の二つ上の姉である、ひかり(家庭内での権力高)も会話に参戦してきた。
姉さんは怒るとめんどくさいので、下手に出ようかな。
「それで、結婚の話になって……それ、どうなんだ?」
「うん、私おかしいと思う」
「いや、『料理上手な人は素敵だね』って話だよ?」
「いや、もう告れよ」
――は?
きょ、今日はお酒が回るのが早いなぁ……。
「ほんとそれ! 絶対両思い!」
――んん!?
「どうだかなぁ……あっちには、そんな気ないだろうから、僕が勝手に告白すると、迷惑だと思うけど……」
「それでいいのか……それ、恋なのか?」
――おっしゃる通りです。
やっぱ好きなのバレてたし、母の奈美はずっと微笑んでるしで、逃げ場を失った……。
そしてこの後、散々揶揄われたという話だ。