第1話 僕の青春は天使ありきなもの
一年の七月に入った季節だった。白樺さんと昼食をとっていると、ある男子が突然言った一言。それが後に伝説のような扱いをされるに至る。
「いつも一緒にいるよな! 『付き合うまで秒読み!』って感じ!」
自分でもよく覚えている。
言われた瞬間はぱっちり目があって、恥ずかしそうに目を細めた白樺さんが、やたら可愛いく見えた。
急に話しかけてきた挙句、突拍子のないことを言い出したソイツに、当然、反論した。けれど、この頃から否定するのは切なさを感じていた。
「そ、そういう関係じゃ……ないけど?」
「やめてあげてよ、白樺さんが可哀想」
僕たちはすぐさま否定した。まあ、周囲の目は変わらなかったが、僕たちはそんな関係にはならなかった。
そう、“ならなかった”。『次に付き合うカップル』として周囲から騒がれ続け、ついには「もう付き合ってる」と結論づけられる始末。
昼食は毎日のように一緒に食べて、夏休み期間でも会って、文化祭は一緒に回って、体育祭ではお互いを応援した。
青春イベントを共に乗り越えた僕たちでも、関係は変わらず、気づけばあの発言から一年が過ぎてしまった。
◇
僕は密かに白樺 紬という友人に、好意を寄せている。まあ、あちらにはそういう気はないだろうから、この好意が消えるのを待ってる段階だ。
教室の端の席が僕の定位置、注目を浴びることの少ない高校生活だ。
ただ、一点を除いて――。
「天野くん、今日の放課後、空いてる?」
「空いてるよ。それで、今日はどこに行きたいの?」
「今日は、ス○バの新作飲みに行く!」
「ス○バ? 今回って、メロンのやつだっけ?」
「うん、美味しいって、大阪の親戚が言ってた!」
「親戚? まあいいや、一緒に行こ」
この子が白樺紬、天使のように可愛くて優しい子だ。
ミディアムヘアはフワフワしていて、つむじが見えるほどの身長、ブラウスから天使の羽が生えそうなくらい、軽やかな動きをして本当に可愛い。
あと、意外とオタク趣味な子で、執筆活動をしてるとか。どんな作品を書いてるかは、教えてくれないけど。
実は――そんな一面を知ってるのは、俺と白樺さんの親友だけだったりする。最高。
みんなに優しく、社交的な天使様なわけで、当然人気者だ。あと、よくわからないけど僕に凄い懐いている。
理由?――いや、僕が聞きたい。最初は、消しゴム拾ったとか些細なことで、それから行き当たりばったりなのだ。多分、ラノベとかを貸し借りしていくうちにかな?
「じゃあ、放課後ね!」
「はい、じゃあね」
白樺さんはふわっと後ろを向けると、翼で滑空するみたいに女子グループの方に向かっていった。
まあ翼は比喩で、簡潔にいうと“可愛いね”ってこと。
言い方がくどい? 理解してほしい。恋は盲目なのだから。
◇
放課後になり、僕たちは駅前のス○バに向かった。
白樺さんは店のガラス越しにメニューをじっと見つめ、目を輝かせている。
「うわぁ、本当にメロンのやつある! めっちゃ美味しそう!」
「そんなに楽しみだったの?」
「うん! だって、メロンって果物の中で一番好きなんだよ?」
彼女が嬉しそうに話すのを聞いていると、自然と笑みがこぼれる。
僕は白樺さんのそういう素直なところが、たまらなく好きだった。
「じゃあ、二つ頼んでくるよ」
「あ、一緒に行く!」
レジに並び、二人で新作のフ○ペチーノを注文した。
店内はそこそこ混んでいたけど、運良く窓際の席が空いていたので、そこに座ることにした。
相変わらずス○バは映える。下のオレンジ色の果肉ソースは存在感あるし、ホイップの白いところは……なんか、可愛い。
「いただきます!」
「いただきます」
白樺さんはストローをくわえ、一口飲むなり目を丸くした。
「ん~~っ、美味しい!! これ、最高!」
「そんなに?」
「飲んでみてよ!」
僕も一口飲んでみる。確かに、メロンの甘さとクリームのまろやかさが絶妙で美味しい。
夏の暑さとか、勉強の疲れにその甘さはダイレクトに気持ちいい。うん、自分でも何言ってっかわかんねえや。
「うん、美味しいね」
「でしょでしょ!」
白樺さんは本当に嬉しそうに笑って、幸せそうだった。
そんな彼女を見ていると、僕の気持ちがまた少しだけ膨らんでしまう。
こういう日常が、大好きだったりする。
「そういえばさ」
「ん?」
「天野くんって、なんで彼女作らないの?」
――突然の質問だった。
僕は一瞬、息が詰まる。
(いや、作らないとかじゃなくて、作れないんだよ!)
「……いや、別に、特に理由はないけど」
「えー? だって、天野くん優しいし、一緒にいて楽しいし、普通にモテそうなのに」
「いやいや、全くモテないけど?」
少し笑いながら誤魔化す。照れ隠しだ。ベタ褒めすぎて照れる。
モテないのは当然、ただ僕の高校生活から白樺さんを抜いたら、灰色どころでは済まない。だからこの繋がりは断ちたくない。気持ちを隠さねば――。
でも、白樺さんはジッと僕を見つめたままだった。
「……もしかして、好きな人とか、いる?」
心臓が跳ねた。はい、図星です。ニンマリとした笑顔も大好きですけど、今はその顔やめてほしいなぁ……。
でも、咄嗟に返事ができなくて、沈黙が落ちる。
白樺さんは、そんな僕の様子を見て、少しだけ目を細めた。
「……ふーん?」
意味深な声色。あとなんでにニヤつくんだ。可愛いな。
なんだか、心を見透かされている気がして、思わず目を逸らした。
「ま、いっか! そのうち聞き出してあげる!」
「な、何を……?」
「ふふ、秘密! まあ、想像以上の未来が待ってるよ」
白樺さんはそう言って、またフ○ペチーノを楽しそうに飲み始める。
僕はそんな彼女を見ながら、心の中でそっと思った。気づかれてはいけないのに、微かに期待してしまうのだ。
――いつになったら、気づいてくれるんだろう。
僕が、ずっと君を好きでいることに。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ひたすら「甘くて癒される作品が書きたい!」と胸で、新連載始めました!
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