上弦の月夜!前代未聞の集団デート③ついにカップル成立!そして、おしおき
軽食という名の、豪華なバーベキューを心ゆくまで食べ、ディアーナの演奏でダンスに興じた面々は、ゲルの中に戻ってきた。また円になって座ったが、先ほどとは違い、ルナは美丈夫の騎士と並んでいる。
「さて最後のゲーム、フィーリングカップル6対6です。これからみなさんに、本日の名前が書かれたカードを渡します。そのカードに今日、気になった異性の名前を記入してください。ここからの進行は、セブンさんと私で務めさせて頂きますね」
「・・・何組のカップルができるんだろうね?」
7王太子がノリノリでディアーナに尋ねた。
「どうでしょうね?ダンスはなかなか盛り上がっていましたけれど」
「月夜の海辺と、美味しいワインと肉と、魅力的な男女。興味深いね」
「・・・セブンさんがこんなに饒舌だったとは意外です」
皆が名前を記入している間、7王太子とディアーナは漫才よろしく会話でつなぐ。
「書き終わったようですよ。それでは集めてマッチングしている間、ホットココアを飲みながらお待ち下さい」
そうして、ディアーナ自ら、ココアを全員に配って回る。日中はアイスにしたが、夜はやはりホットが良いだろう。
使用人たちは滅多に飲まないココアに目を輝かせて、カップを受け取った。
「マッチングが終了したよ」
王太子の呼びかけにディアーナは頷いて、カードを覗き込むとパチパチと早い瞬きを繰り返した。
「なんと今回は2組のカップルが誕生しました。それではセブンさん、発表をお願いします」
「それでは発表します」
参加者の面々が神妙な面持ちで7王太子を見つめる。
「まずはツーさんとFさんです!」
王太子の発表に、おお〜と声が上がり、まぁ、当然だよね、という雰囲気になった。
王宮の見習い庭師、そしてディアーナの専属侍女補佐。植物好きで趣味も合うふたり。
初々しいカップリングに拍手が起こる。
「さてもう1組は・・・」
皆の真剣な表情に、ディアーナは苦笑を浮かべる。一応、イベントのつもりなのだが、完全に集団見合いになってしまっているようだ。
「ファイブさんと・・・」
もったいぶっている7王太子を、食い入るようにEルナが見つめている。
「で・・・」
「で?」
王太子のひと言目に、ディアーナがハテ?と小首を傾げた。
「では発表します!」
ガクッと脱力する一同と、早く言えよ!と目力を強めた5の様子に満足した王太子は叫んだ。
「Eさんです!」
きゃー!と伯爵家サイドの女性たちが歓喜の声を上げる。ルナなど涙ぐんでいるではないか。
「随分と間を取りましたね」
ディアーナが少々呆れたように言った。
「ああ、奴には、普段から痛めつけられているからね。ちょっと仕返しを・・・」
7王太子が肩をすくめるのを見て、5騎士が反論する。
「痛めつけているのではなく、鍛錬、訓練ですから!」
ココアを飲み干したEルナは瞳を潤ませ、横の5を見つめていた。
2庭師とF侍女も、トロンとした瞳で互いを見つめている。
「・・・えーっと?ディーさん?ココアに媚薬でも入れましたか?」
王太子の問いに、ディアーナは首を振る。
「まさか!そんな事はしませんよ」
だが、ポヤポヤと色香を漂わせる面々に、ディアーナはハッとした。
「カカオに慣れていない人たちは、稀にムラムラすることがあるようです・・・」
「「ムラムラ?」」
7王太子とココアを飲み慣れている高位貴族籍の護衛や騎士たちが声を揃えた。
「えー・・・俗に言う、性、的、興奮、と言いましょうか・・・」
しどろもどろのディアーナに、王太子が目を細め、
「へーえ?稀にムラムラするかも知れないココアを僕に飲ませたんだ?何?誘惑でもするつもり?」
からかうように聞いてくる。
「ち、違いますよ!」
ディアーナは真っ赤になって、
「カカオに媚薬効果なんてありません!滋養強壮に効果が・・・」
と言ってから、しまった!と言う顔をした。
そういうつもりで選んだドリンクではないのに!
タイミングが非常に悪かった。
「ふーん、滋養強壮、ねえ?」
「ああ・・・セブンさん、誤解しないでください」
ディアーナが言い訳をしようとしたその時、
「異議あり!!」
4護衛官が立ち上がる。
「異議?」
ディアーナと王太子が顔を見合わせてから、4を見た。
「どうして僕とGさんはカップルにならなかったんですか?」
伯爵家の調理補助をしているステーキ好きGが、ギョッとした表情をする。
「あんなに盛り上がって、ダンスまでしたのに!」
「・・・でもGさんの用紙は無記名でしたよ?」
ディアーナが4護衛官を哀れむように見つめた。
「ゲームやキャンプファイヤーで盛り上がっても、カップルになりたいとは思わなかったんだろう。ここは男らしく諦めろ」
セブン王太子が至極もっともな事を言い、ディアーナとGもうんうん頷いた。
「君は僕を誤解している!」
4はGに詰め寄った。
「誤解って・・・」
迫られたGが少しのけぞる格好になる。
「僕はプレイボーイでも、浮気者でもないっ!」
「でも・・・脱いだら何とか言ってたし・・・女性に慣れてそうな感じだったし・・・」
「アレはイキッていただけ!カッコつけていたんです!僕はれっきとしたドーテーだっ!!」
しーん、とゲルが静まり返った。
「・・・ワインとココアで酔ったの?」
たわわな胸を少し弾ませて、Gが頬を赤らめる。
「酔ってない。初見で君を好ましく思っただけだ。僕は乗馬が好きだから、君と遠乗りをしたい。その肉感的な身体を密着させて・・・」
「ちょ!ちょっと黙ってくれます!?」
Gはカッカッと耳や首元まで赤くすると、7王太子から用紙を奪い取った。自分以外の用紙を放り投げ、そして自分の紙に万年筆で何かを書く。
それからその用紙で4の口を押さえつけた。
「カップル3組目は・・・僕とGさんです」
王太子とディアーナはポカンとして、1を始め、王太子の使用人たちは白けた表情で、用紙を読み上げる4護衛官を見つめた。
2組のカップルはすっかり自分たちの世界に入ってしまっていて、そもそも4の異議など聞いていない。
「・・・オメデトウゴザイマス」
ようやくディアーナが口を開いた。
☆☆☆
そうして『海岸デート上弦の月の巻・男女14人それぞれ物語〜』はお開きとなり、3組のカップルはそのままビーチに残り、砂浜に座って夜の海を眺めている。
カップル不成立だった王太子の使用人たちは別荘に引き上げてしまった。
残念ながら、たったひとり、カップル成立とはならなかった伯爵家のランドリー担当の使用人は、呆然とした様子で、少し離れたところで待機している。
「・・・面白くない」
王太子はゲルの中でディアーナに膝まくらをしてもらっていた。
Cランドリーは1を記名したのに、1はなんとDと書いていたからである。
すっかり不機嫌になってしまった王太子のリクエストで、ディアーナは膝まくらをする羽目になったのだ。
「これはただのゲームですから」
「だけどディーは僕のガールフレンドなのに」
ぶつぶつ不満をこぼす王太子に、
「AさんもBさんも7と書いていたではありませんか」
ディアーナは床に散らばった用紙を手繰り寄せ、ヒラヒラさせた。
「セブンさんは随分とおモテになるようで」
「・・・嫉妬してくれるの?」
不貞腐れていた表情を途端に緩ませる。
・・・なんかチョロいのね、とディアーナは思った。
「嫉妬なんてしませんよ。殿下のような麗しき王太子は王国中のレディーから愛されているんですから」
ここに来て初めて『王太子』と呼んだため、ディアーナの膝の上から真剣な瞳を向けられた。
「ディー、僕はそろそろ王宮に戻る」
「そうですか」
「ディー、僕の婚約者候補になってくれないか?」
王太子が手を伸ばして、ディアーナの頬に触れる。
「無理ですよ」
ディアーナは静かな声で言った。
「どうして?」
「王宮住まいは私向きではありませんし、そもそも王太子妃候補だなんて無理です」
「僕は君がいい、と言っているのに?」
「無理なものは無理です」
ディアーナは王太子の手を取って頬から離した。
「王太子殿下の婚約者様は侯爵家のご令嬢とほぼ決まっています。これは王家の繁栄のため、国のため、民のためになりますから」
「・・・僕の気持ちは無視か」
王太子は苦々しく吐き捨てる。
「お気の毒ですが・・・」
「ディーは側妃や愛妾はもっとイヤだろう?」
「もちろんです」
「ワガママだな。僕には我慢を強要するのに」
王太子はディアーナの膝から身体を起こした。
「もし王命が出たらどうする?」
「その前に結婚するか、外国へ逃げるだけです」
キッパリと言い切るディアーナに、王太子は愕然とした。
「そんなに僕がイヤ・・・?」
「殿下がイヤなのではなくて、王宮に関わること、侯爵家と争うことが嫌なのです。
どうか私のことはここでの限りとして、良い思い出で終わらせて下さい。
そして私のことはそっとしておいて下さいませ」
そうしてディアーナは困ったように眉を下げた。
「もし・・・もし、僕が侯爵家とか伯爵家の息子だったら・・・」
ディアーナは指を王太子の唇に当てて、首を横に振った。
「『もし』なんてあり得ません。
・・・しっかりして下さい。
シャトン、月夜の夢から覚める時間です」
ディアーナはゆっくりと、でもキッパリと言った。
「じゃあ夢から覚める前におしおきタイムだ」
王太子はディアーナを押し倒した。
「えっ!ちょ・・・」
ディアーナが顔を青ざめさせ、身体を硬直させる。
「乱暴はしないよ、ディー」
王太子は仰向けになっているディアーナを見下ろしながら優しく言う。
そうは言われても男性慣れしていないディアーナは、身体中を強張らせた。
「おしおき1。まずはそのスリットの入ったドレス。他の男がディーの足を見るなんて許せない」
ディアーナのおでこに軽いキスを落とす。ディアーナが目を見開いている。
「おしおき2。僕とダンスをしなかった」
ディアーナはだったら誰が演奏するんだと言わんばかりに顔をしかめた。
そんな瞼にまたキスを落とす王太子。
「おしおき3。この僕に向かって舌を出したな。そんな舌にはこうしてやる」
・・・舌を絡め取る深い口づけ。
やはりココアでムラムラしてしまったのかも知れない。月夜の夢など覚めなくていい。そう思ったのはどちらだったのか・・・
リップ音と波の音が互いの耳に響いていた。
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