上弦の月夜!前代未聞の集団デート②・あなたって・・・っぽい、ゲーム!
「自己紹介ありがとうございました。
皆さま、まだちょっと固いので、簡単なゲームをしたいと思います」
ディアーナがゲーム、と言うと、チェス好きの3の目が光った。ディアーナは笑いを堪えつつ、
「まずは2回手拍子をお願いします」
そう言って、パチパチと手を叩いてみせる。
「2つの名前を呼びます。例えばセブンさん、Eさん」
セブン王太子とEルナがおっ?と反応した。
「最初に呼ばれた方は2番目に呼ばれた方の印象を言って下さい」
「印象?」
セブンがEをまじまじと見て答える。
「明るい感じ、かな?」
ディアーナは頷く。
「そうしたら2番目の方は、それに対するリアクションをお願いします。例えば、違う〜とか、当たってる〜とか。ではEさん、『明るい感じ』に対するリアクションをお願いします」
「セブンさん!当たりです!良く言われます」
Eが明るく答えると、笑いが起きた。
「2番目の方はリアクションの後、拍手の後にまたふたつ名前を呼んで下さい。
パッと見た感じの『印象』なので、深く考えないで下さいね。
さぁ、行きますよー。『リズムで印象♪』パチパチ、ツーさん、Fさん」
2がFを見た。
「山歩きが好きそう」
「大好きです!!」
Fが頬を赤らめて首を縦にぶんぶん振る。
おおー、と他のメンバーが声を上げた。
「リズムで印象♪」
パチパチ♪
「Aさん、シックスさん」
Fがふたりを指名する。
「真面目そう」
「真面目です」
Aの言った印象に対して、6は腕を組んで大真面目な顔をして頷くと、女性陣は少々呆れて、男性陣は吹き出した。
「リズムで印象♪」
パチパチ♪ 6が真面目な表情を崩さず言う。
「フォーさん、Gさん」
「脱いだら凄そう」
「ご想像にお任せしまーす」
ちょっと女たらしっぽい4のセクハラじみた言葉にも、Gは動じることなく上手に躱した。
「リズムで印象♪」
パチパチ♪
メロンをふたつくっつけたようなダイナマイトボディのGが指名する。
「ファイブさん、Eさん」
「嘘がつけなさそう」
細マッチョの美丈夫5が、Eルナに優しげな瞳を向けたので、Eルナは真っ赤になった。
「心の声がいつもダダ漏れしています」
そうしてリズム遊びがしばらく続き、
「ワンさん、Dさん」
とディアーナたちが指名される。
「宇宙人っぽい」
1が言った。
「ドキッ!・・・よく言われます」
ディアーナが両手を胸に当て、大げさなリアクションをとると、隣りのEルナが、
「・・・初めて言われたでしょうが」
などとツッコミを入れて、一同の笑いを呼んだ。
ところが、ディアーナは内心、ヒヤヒヤしていた。
実はここは地球ではないのかも、と薄々思っていたからである。
太陽もある、月もある、海もある。
でも知っている星座がひとつもない。
ディアーナは前世で小さな頃から思っていた。
地球に生命体が存在するのだから、同じような惑星が宇宙のどこかにあるはずだと。
「・・・リズムで印象♪」
ディアーナがパチパチと拍手をして、
「Dさん、ワンさん」
などと自分で自分を指名した上に、順番を逆にした。
「・・・スパイっぽい」
スパイ、と言われた1が、一瞬だけ鋭い視線をディアーナに向けたが、すぐに破顔して、
「えー、何ですかそれー。汗臭くて酸っぱいかもしれませんが、スパイじゃないですよー」
どっ、と笑いが起きて、一瞬間が空いたとき、7王太子が、
「人からどんな風に見られているのか、こうやって知るのは面白いな。僕は『優しすぎそう』『食べものの好き嫌い多そう』『湯浴みが好きっぽい』だったな」
Eルナも楽しげに同意した。
「ほんとですよねー。私は『明るい感じ』『嘘がつけなさそう』『甘いものを見たら涎を垂らしてそう』全て大当たりです」
ところが、4はちょっとムスッとした表情で、
「僕なんて『プレイボーイっぽい』『浮気しそう』なんですが」
などと不満を漏らし、そこにGがすかさず、
「セクハラ発言するからですよ。自業自得です」
とフン!と鼻を鳴らした。
「えぇ?褒め言葉なんだけどなぁ・・・」
「脱いだら凄そう、が褒め言葉なんですか!?」
Gはびっくりして、目をパチクリさせる。
4とGがやいやい言い合っていると、ゲルの外から、
「みなさま、軽食のご用意ができました」
年配の使用人が呼びに来た。
「なんか・・・!肉の匂いがする!!」
Gが目をランランと輝かせ、4をほっといて、ゲルの外へ飛び出して行った。
☆☆☆
「・・・なんてことでしょう。すでにカップルができあがっております・・・」
ディアーナは王太子の隣でそう言った後、王太子にあーん、と口元に出された仔羊のローストをアタフタしながらも口に入れ、モゴモゴ咀嚼させた。
「良いじゃないか」
「・・・はぁ」
ディアーナは戸惑っていたが、王太子は楽しそうに、
「はい、あーん」
と、今度は焼きとうもろこしを差し出した。
「・・・自分で食べられますから」
さすがに焼きとうもろこしはないなー、と思ったディアーナが手で受け取ろうとすると、やんわりと払われて、
「いいから、いいから。はい、あーん」
などと王太子が迫るので、ディアーナは口を尖らせて、
「でしたら、そのジャガイモにして下さい」
断固、とうもろこしを拒否した。
「・・・僕はどんなディーだって、可愛いと思うよ?たとえ、とうもろこしが歯に挟まったとしても」
「・・・完全に面白がっていますね?楽しそうで何よりですけれど」
ディアーナが言うと、王太子はにこにこ笑って頷いた。
「うん、凄く楽しい。こんなに楽に呼吸ができるの久々な気がする。伯爵家の侍女たちはみんな良い子だしね」
「伯爵家の使用人たちは当家の自慢ですから。生家や生まれに問題があったとしても、彼女たちに落ち度はありません。自信を持ってお嫁に出せますよ」
ディアーナが胸を張る。特にディアーナの周りで働く若い子たちには、基礎学問と最低限のマナー教育を施している。縁があれば、お見合いの機会も設ける。
ところがどうだ。4人の侍女たちはあっという間に、パートナーを見つけ、仲睦まじく焼かれた肉や野菜を食べているではないか。
ルナは先日、支えてもらった美丈夫の騎士と。
普段ルナの補佐をしているキノコ好き侍女は、植物好きな庭師と。
ランドリー、アメニティ担当の使用人はワンと。
そして調理補助のボンキュッボンの彼女は、なんと浮気しそうな護衛官と何だかんだと仲良さげにしている。
残ったメンバーは4人でグループになっていた。
「・・・一夜の過ちなんてことがあったりして」
距離が近すぎるような気がするが、大丈夫だろうか?
ディアーナがぶつぶつ呟いていると、王太子がディアーナの顎をクイッと自分の方へ向けた。
「大丈夫だ。もうみんな大人なんだから。自己責任だよ」
「そうですけど・・・」
複雑である。いつも忙しい彼女たちに楽しんでもらいたい反面、いらぬ心配もしてしまう。
「ディーは僕だけ見ていればいいから」
「・・・見てますよ。ちゃんと見てます」
指が顎に添えられたまま、ディアーナは上目遣いで見た。
「・・・困ったな。破壊力ありすぎ」
「何がです?」
ディアーナは王太子を見たまま尋ねた。
「可愛すぎて抱きしめたくなる」
王太子は小さなため息をつく。
「え!」
ディアーナはギョッとして、王太子の指を掴むとポイッと払った。
「冗談はよしてください。可愛いなんて殿方に言われたことないですから」
そしてなぜか、ぷんすか頬を膨らませる。王太子はその膨れた頬をつんつん指でつついた。
「男たちに見る目がなかったんだろう。
それにディーの姉君たちがとても華やかだから。
ディーが目立たないのは仕方ない。
でもむしろ目立たなくて良かった。僕が初めてになれたんだから」
「なんか言い回しがイヤラシイ・・・確かに初めて可愛いと言ってくれた男性ですけど。身内以外で」
「ディーは可愛いよ。凄く可愛い。本当に月の女神みたいだ。僕が初めての男で良かった」
「・・・だから、言い方がイヤラシイですって。セブンさん」
思わず真っ赤になったディアーナに、王太子はくすくす笑って、
「ふたりなんだから、シャトンでいいよ」
ディアーナの手に手を重ねた。
「甘い。甘すぎますって」
ディアーナは自分から迫るのは何てことはないのに、グイグイ来られると弱いことを我ながら発見した。
恥ずかしい。照れ臭い。
動揺しているのを隠すかのように、運んでもらっていた傍らのバイオリンを弾き始める。
聞き慣れた舞踊曲に、離れたところに座っていたルナが、わぁ!と喜び、美丈夫にダンスを申し込まれているのが見えた。
皆が炎の周りで思い思いに踊る。笑顔で楽しそうに。
2曲続けて弾いたところで、王太子が面白くなさそうな顔をした。
「ディーが弾いていたら、僕と踊れないじゃないか」
ディアーナがペロリとちょっと舌を出す。
「その顔、淑女としてどうなんだろうね?ディー?後で覚悟しておきなよ」
「ええっ!覚悟って言われても・・・そろそろ最後のゲームをしましょうか」
王太子の抗議にディアーナは知らんぷりをすることにした。
いつもありがとうございます!
申し訳ありません。
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m(_ _)m