大団円!?夏の新月・新しい命の誕生!
時は慌ただしく過ぎて夏。
王妃陛下の出産に向けての準備と、王太子殿下の結婚式の準備で、今や王城はてんてこ舞いの状況である。
王妃の出産予定日の半年後が結婚式となっているが、結婚式を一番心待ちにしているソル王太子殿下は、待てない待てないと、周囲に不満を洩らしている。
側近たちは微笑ましく思いながらも、忙しいせいか冷たくあしらっていた。
貴族や諸外国からは、お祝いという名目の袖の下が続々届き、上手くさばいていくのも大変な業務である。
「ディー」
本宮の裏手の東南側に設けられた、王太子殿下の婚約者のための小さな別宮に、ソル殿下がひょっこりとやって来た。
「また来た。この忙しい時に」
ソル王太子殿下の婚約者、ディアーナ侯爵令嬢の専属侍女、ルナがちょっと呟く。
即座にディアーナに視線で、めっ、とたしなめられた。迫力は皆無であるが。
ちょうど今、結婚式後のパレードの際に、後続の付き添い女官たちが、民衆に向けて配るお祝い焼き菓子に、ちょっとしたラッキーメッセージを加えるのはどうかと、女子会よろしく盛り上がっていたのだ。
この国の王族の結婚式は、王都を馬車でぐるりと巡るパレードがあり、見送る民衆は籠に詰めた花びらを撒き、王族側は主に子どもたちに焼き菓子を配る風習がある。
ディアーナ侯爵令嬢は、裏の顔が月読みレディー・ディーと呼ばれる大衆向け占術、まじない師・雑貨デザイナーといった令嬢実業家なので、焼き菓子にラッキーメッセージをつけよう、必ずや王太子妃殿下の人気向上に繋がると、急に話題にのぼったのだった。
「へえ、面白そうだね。そのラッキーメッセージ、僕も欲しい」
ソル殿下がのんびりと言うと、ルナが白けたように、
「祝い菓子は子女向けであって、主役の殿下にお配りするのではございませんわ」
と遠慮なく言った。
ルナはディアーナの侍女であると同時に、騎士団に属する伯爵家三男マシューの婚約者だ。
そして元々、伯爵令嬢だったディアーナに伯爵家から結局ついてきたルナの補佐スージーも、ソル殿下の側仕えであり、植物研究家でバラ博士のエドとは事実婚状態。
加えて、伯爵家で調理補佐をしていた、変わり者の子爵家の次女・ミリアムも護衛官トレイシーと事実婚状態で、ディアーナの婚姻後、合同結婚式を行う予定になっている。
このようにディアーナと関わる女性たちが、幸せなご縁にあやかっているのをネタに、ゴシップ新聞記者のカトリーヌが、盛りに盛った記事を書くおかげで、国内外の女性たちが良縁を授かりたいと、家門を通して袖の下を送ってくるのだ。
でもね、とディアーナは思う。
確かに子爵家に嫁いだ幼妻アンナや、平民ベティを始め、多くの女性たちが素晴らしい人格や才能をそれぞれ開花させた。
でもそれは特別なことではない。
万人が持っているが、潜在的に眠ったままであったりする本質、才能なのだ。
ディアーナは単に、それをちょっと引き出すきっかけを作ったにすぎない。
才能に気づくのも、また才能であり、
その才能を活かしていくのも、才能。
さらに活かす努力をし続けることも才能なのだ。
王弟のローマン大公の婚約者のアナスタシア公爵令嬢が主催するサロンには、ソル王太子とディアーナが飼っているオッドアイの白猫兄妹のタペストリーや絵画が飾られているが、今やその作成者は王国内で人気のアーティストとなっている。それも彼女たちの情熱と、継続するひたむきな力があってこそ。
「ラッキーメッセージももちろんですが、セブンとディーにも可愛い帽子と首輪をつけるんですよ」
ディアーナは足元で戯れ合っている白猫兄妹たちに視線を落とす。
「オッドアイは幸運のシンボルだから、パレードでは人気を持って行かれそうだな」
ソル殿下が言うと、ルナがすかさず、
「そりゃあ、王太子殿下は婚約破棄騒動とか、病弱設定とか、お命狙われてたりとか、色々やらかしているので、人気なんてそもそも・・・」
ありませんよね、と言う前に、ディアーナに口を塞がれた。
「ルナ!殿下に遠慮がなさすぎるわ」
「ルナはディアーナお嬢様に献身な侍女であります」
ルナが堂々と胸を張ったので、ソル殿下とディアーナは呆れたように目を見交わした。
「ディアーナ様」
その時、王妃陛下側から王妃の出産が始まったと言伝てが入った。
「いよいよか」
「いよいよですね」
別宮の面々が緊張した面持ちになる。
王妃の今回のご懐妊は、十数年ぶりである。
ディアーナの元いた医学の発展した世界では、30代後半から40代での出産はもとより、初産も珍しくはなかったが、なんせ電気も鉄道も水洗トイレもない、異世界の中世ヨーロッパ的世界でのお産である。
妊娠期間中も王妃側医師団、お産チームとディアーナの見解に相違があって色々とぶつかった。結局ソル殿下の立場を考えて、ディアーナは関わることをやめたのだ。
そうして長く苦しい陣痛を経て、新月の真夜中に誕生したのは女の子。王太子の妹君である。
「王女様がお生まれになりました!」
城内に通達が出されて、緊迫で静まっていたお城が、どわっと爆発したかのような歓喜に沸いた。
☆☆☆
「王女に会ってくれ」
太陽が高く上がった頃、一足先に対面を果たしていたソル王太子殿下は、万感たる面持ちで、ディアーナを迎えに来ると手を差し出す。
ディアーナはその手に指先を乗せて尋ねた。
「王妃様はいかがですか?」
「ぐったりしているが、母上に危険はない」
ソル殿下の答えに、ディアーナは安堵した。
「赤子があんなに、ふにゃふにゃ、シワシワしているとは思わなかった。でも温かくて、いい匂いがした」
「赤ちゃんっていいニオイがしますよね」
「ディーは赤子の匂いを知っているのか?」
ソル殿下に唐突に聞かれて、ぎくりとするディアーナ。
まさか、前世異世界で匂いを嗅いだことあります、なんて言えないからだ。
「ああ、ほら姉たちが・・・」
などと今やほとんど関わりのない、生家伯爵家の社交会の華であった姉たちを言い訳にする。
好き勝手に生きるディアーナのせいで、迷惑が掛かっては申し訳ないと伯爵家から籍を抜き、女男爵籍を賜った頃がなつかしい。
「赤子も可愛いけれど、僕たちはしばらくふたりで過ごそう」
ソル殿下がディアーナの手をきゅっと握った。
「あらあら、まあまあ」
後ろをついて来るルナが嫌味ったらしい声を上げる。
ディアーナはいつか、ルナが不敬で断罪されるのではないかと、ヒヤヒヤするが、当の本人はどこ吹く風といった表情をしていた。
「確かに王妃陛下、王女殿下の周囲も忙しくなるでしょうし、公務は国王陛下とソル殿下が主だってこなされるでしょうから、新婚だの何だのとは言ってられないでしょうね。私も覚悟しています」
ディアーナは的はずれな返答をしながら頷くと、ソル殿下はがっかりしたように肩を落とす。
「せっかくロマンスに浸りたいのに、そんな現実的なこと言わないで欲しいな・・・」
「何をおっしゃいますか。私なんて、まだまだひよっこです。私を王太子妃に認めない派閥もあるでしょうし、貧困問題も解決していないし、武闘派組織も解体されたわけではありません。
一に国民、ニに内政、三四軍事外交、五にようやく家族、です」
あと何か忘れてないかしら?とディアーナは首を傾げた。
「しっかり者の婚約者で嬉しいよ」
あはは、と笑うものの、ソル殿下の目元はちっとも笑っていなかった。
少々意地悪し過ぎたかしら?と、ディアーナはルナに聞かれないよう、殿下の耳元に唇を寄せた。
「王女殿下がお生まれになったお祝いですから、今夜は・・・ね?ご奉仕させてくださいね・・・
新月がもたらす愛情はどんどん深く、大きくなりますから」
ぼぼぼ・・・と、何を想像したのか、ソル王太子殿下の耳周りが赤く染まる。
カワイイひと。ディアーナは心の中で思った。
ディアーナ。お気楽貴族令嬢ライフを望んでいた元伯爵令嬢。からの元女男爵。そして王太子殿下の婚約者で侯爵令嬢に成り上がった、17歳。
しかしその実態は異世界から転生してきた、アラサーの元インチキ占い師。
思い切り甘いロマンスにしなくてはね。
だってこんなにイケメンの19歳が相手なんだもの。
きっと今日から国中でお祭り騒ぎが繰り広げられるだろう。
民衆は三日三晩、歌い、踊り、食べて、飲んで、きっと恋も生まれるに違いない。
多少の羽目外しは大目に見られるはず。
半年後の王太子殿下の婚姻に合わせ、国内外で若者たちの結婚ラッシュが巻き起こるのだが、ディアーナは夏至後の新月に誕生した王女に思いを馳せた。
この王女は国に多大な富をもたらすだろう。
多分、外国の王族に嫁入りすると想像するが、もしかしたら相手は転生者かも知れない・・・
だって夏至には太陽の力が最大に働いて、次元の扉が開き、異世界と通じると言われていたんだもの。
もしかしたら、そう、あの世界にも、この世界にも、転生者が現れたかも知れない。
いや、もうすでに成長しているかも知れないのだ。
信じるか、信じないかは別として。
ああ、あれこれ想像したら、ワクワクするわね。
執事が愛くるしい表情で眠っているだろう王女殿下の部屋の扉を開けた。
不定期更新にも関わらず、最後まで読んで下さり
本当にありがとうございます!
申し訳ありません。
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