表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月読みの転生元伯爵令嬢は元インチキ占い師  作者: 真央幸枝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/33

26夜月の日の美しき涙と転機

元々は公爵家のご令嬢。しかしながら10代の頃、反国王派の手により誘拐事件に巻き込まれた。事件後の現在は平民となり、王都の高級娼館の支配人をしているのがシャルロットである。


そんな反王政派・反国王派たちの犯罪がついに(つまび)らかに暴かれ大粛清された。シャルロットははやる気持ちを抑えて、いの一番に王都を発ち、ディアーナのいる海辺の街へ向かう。


過去、反国王派は国王を始め、王妃や側妃に毒を盛り、流産に至らせたり、亡き者にしようなどと非道を尽くした。現在に至っても王太子に、毒を混入させ弱体させていた。先日の日食の際には、反国王派を引導する国王の義弟のジャハラムード自らが、王太子に手をかけようとした。

この大悪党を見事現行犯で捕らえ、余罪等を自白させるべく、ベラドンナ酒を摂取させると聞いたシャルロットは、彼女とっても往年の敵の顔を見るべく地下牢へとやって来た。


「・・・ざまあないわね」


シャルロットが異臭漂う地下牢前で、悪口雑言を叫びまくる酩酊状態のジャハラムードの姿に眉をひそめて吐き捨てた。


「誰だ」


「誰だ、ねぇ・・・アンタのせいで人生台無しにされたと言うのに、覚えてないとは。

でもそうよね。アンタの欲望のために、売られたり、いたぶれたり、殺されたりした子女も少なくないんでしょうよ。

そんな数多くの中のひとり、なんて覚えているわけないわよね。

アンタにとっちゃ、私たちなんて、虫けら以下なんでしょうから」


シャルロットは国王の婚約者候補であったある日、武闘派勢力に誘拐され、高級娼館送りにされた遠い過去を逡巡した。

当時公爵令嬢だったシャルロットが、表立って客を取ることはもちろんない。シャルロットは高級娼館に拘禁されたのだ。

目的は高級娼館に通う貴族たちを脅し、活動資金を巻き上げ、さらには反王政派の一味にすること。

娼館にお忍びでやってきた貴族男性に、実は大物貴族令嬢の娼婦がいるのだと、男性たちに高額料金を支払わせ、シャルロットを引き合わせた。その直後に武闘派の手下たちが現れて、貴族を暴力等で脅し、勢力に加えていったのだ。

令嬢シャルロットは当初は自分の運命を呪っていたが、その内に、シャルロット自身も娼館で力をつけていき、娼館を乗っ取るように支配人に成り上がった。


「いつの時代も、どこの国でも跡目争いは生じるものだけど、アンタたちの国王家に対する恨みや執着は尋常じゃないわね」


「国王は我こそが相応しい」


「アンタほど国王に相応しくない男もいないわよ。

アンタは側妃(ははおや)に洗脳された、ただのマザコンクズ男じゃない」


「黙れ!売女!!母上は完璧だ!母上こそが正妃に相応しかったのだ!」


ジャハラムードは唾を飛ばして怒鳴りつけた。


「我以外の王族はみんな死ね!!死ね!死ねっ!」


「・・・頭がイカれてんのね。こんな男の言いなりになって身を滅ぼした連中も大馬鹿者だわ」



☆☆☆



「・・・こんな具合に、ジャハラムードとはまともな会話が成り立たなかったのよね。刑の執行時も無様なものだったわ」


「そうだったんですね・・・」


シャルロットの突然の訪問に、たいそう驚いたディアーナは、大きな息をついた。

大粛清によって、ひとまず収束といったところだろうか。

正直、反王政派を撲滅することは不可能なのである。


それよりも今は王妃殿下のご懐妊で、国中が喜びに沸いているのだ。


「王妃の懐妊は、絶対にあの夜のおかげよね」


シャルロットが愉快そうにディアーナを見たが、ディアーナは肩をすくめるだけであった。


「いい加減、王都に戻りなさいよ」


「商売がいい時なんですよ・・・」


シャルロットの誘いに、ディアーナは困ったように首を振る。


「・・・ジャハラムードの敗因はね。王太子殿下にあなたたち、凄い味方がついた事に限るわ」


「そんな事はありません。そういうタイミングだったのですよ」


「良いタイミングを引き寄せるのも、また才能よ」


困惑極まりないディアーナに、シャルロットは大きく頷いた。


「ジャハラムードは自滅したと言っていいわ。引き際、諦め時を誤ったから。おまけにたくさんの犠牲を出した。

貴族たちの大粛正に武闘派たちは大喜びでしょうよ。

元々、貴族を嫌う庶民は多いもの。

大体、貴族なんかより、庶民の数が圧倒的に多いのに、庶民には権力とお金がない。

貴族って何のために存在するの?

自治を行うのは貴族でなく、有能な庶民でもいいじゃない?そう考える庶民も多いのよ」


いずれ・・・いずれこの国も貴族は廃れていくと思う。異世界人のディアーナはそんな言葉を飲み込んだ。


「そんな世にあって、王太子は素晴らしい仲間に出会えたわ。人間のありとあらゆる醜さを見てきたから言えるわ。ディアーナ。結局はね。憎悪は純真な想いに敵わないのよ。


「シャルロット先生・・・」


シャルロットは意を決したように、ディアーナの手を握った。


「ディアーナのここでの商売、うちの嬢たちに任せてもらえないかしら?」


「え?」


ディアーナは握られた手を見てから、シャルロットを見る。


「うちの娼館に自ら望んで来る娘なんて、ただのひとりもいないわ。親兄弟に売られ、運命に翻弄され、泣く泣く連れて来られるの。うちの嬢たちは本当に頑張っている素晴らしい娘たちよ。そして何より、ディアーナ、月読みレディー・ディーの大ファン。

あの娘たちの新たな生き場として、任せてくれないかしら?

もちろん私が責任を持つわ」


「・・・それって」


ディアーナが言葉を詰まらせる。


「ええ。私も支配人を引退よ。娼館は取り潰し、王都を出て、ここを終の住処にするわ」


シャルロットの手のひらに力がこもった。


「・・・シャルロット先生は、国王陛下を愛していたのですか?」


ディアーナの思いがけない質問に、シャルロットはピクリと片眉を上げたが、ふっと目を細めた。


「・・・そんな昔の話、忘れてしまったわ」


固く握られた手を解き、ディアーナはシャルロットの手のひらを見た。


「・・・呆れるくらい波瀾万丈の運命線ですね。ああ、だけど運気の大転換を迎えます。晩婚の線も持っています。

シャルロット先生はきっとここで、運命の相手と出会いますね」


ディアーナの言葉にシャルロットは息を飲む。そしてその意味を理解すると、その瞳からポタリと涙が落ちた。



☆☆☆



ディアーナが王都へ戻り、シャルロットが海辺へ移住する話が、あっという間に海辺の街に広まった。

女たちを中心に連日、送別会が催される。

手相占い会も催され、冬のビーチが異様に盛り上がった。焚き火の周りでは、ダンスに興じる姿もある。


「ディーちゃん」


ずっとご厄介になっていたブラン家の夫人が、占いにひと段落ついたディアーナの傍らにやって来た。


「ブランさん。本当に長いことお世話になりました」


ディアーナは立ってお辞儀をした。


「いやだ。お世話になったのはこっちよ。街をこんなに活気づけてくれて。それに・・・」


ブラン夫人は一瞬、口を噤んでから、再び開く。


「シャルロット嬢のこと、感謝してもしきれないわ。

誘拐事件の当時、私たち高位貴族は何もできなくて、とても歯がゆい思いだったの。

武闘派に拉致されて、娼館落ちしたと噂された娘を、王家と公爵家は無慈悲に切り捨てたわ。

私はその現実に衝撃を受けたの。

高位貴族なんて力があるようで、まるでない。

ずっとずっと心の奥に疑問と罪悪感があって・・・

・・・でも、女は流されっぱなしの、か弱い人間ではないって、ディーちゃんとシャルロット嬢に教えられたわ」


「ブランさん・・・」


「だからね。そんなディーちゃんと、シャルロット嬢にはちゃんと幸せになって欲しいと願っているの」


ふたりはきゃいきゃいはしゃぐ住民たちを眺める。


「そして民たちがいつまでも平穏でいられるよう、それぞれの場所で尽力しましょう。

ディーちゃんのその場所は王城よ」

とんでもなく遅い更新にも関わらず、お読み下さり、本当に感謝でいっぱいです。

申し訳ありません。

感想フォームは閉じさせて頂いております。

m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ