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月読みの転生元伯爵令嬢は元インチキ占い師  作者: 真央幸枝


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29/33

カウントダウンは始まっている・12日月

ここのところ、ディアーナはピリピリと緊張感を張り詰めていた。

気になるのは日々の天気だ。

最近では、月だけではなく、天気も読んでいる。


皆既日食の際、晴天だと真っ暗闇にはならない。

夜明け前の様になり、でも星も見えたりする。


逆に曇り空だと、真っ暗になる。


「・・・もし自分がジャハラムードだったら・・・」


ローマン大公殿下から借りている豪華な部屋で、ディアーナはティンシャを響かせ、香を焚き、水晶をかざして集中する。


・・・どう王太子殿下を狙う?


毒殺はさすがにない気がする。

王城の人間は、以前にも増して飲食物は警戒しているし、日食時に服毒させるのは、現実的ではない。


・・・とすれば、どこかへ誘き寄せて、転落死とか。

刺殺とか。


刺殺でくるだろか。

恨みつらみが大きい場合、何度も刺すのが人の心理なのだと、前世で観たニュースなどが証明していた。



ジャハラムードは先代王の第二側妃の息子。

しかし子どもの頃から、素行が悪く、王位継承権は与えられなかった。

そんな恨みがあってか、腹違いの兄の国王にも毒殺を試みている。もちろん証拠は一切残していない。


カトリーヌの推理では、第一側妃は第二側妃に殺害されたのではないかと言う。

それが真実ならば、母子揃って鬼畜である。

王妃殿下が毒を盛られたせいで、2人目のお子が流れたのは間違いない気がするし、それに噛んでいたのは、ジャハラムード。王太子殿下に毒を盛っていたのもジャハラムード。


・・・存在を疎まれ、憎まれるなんてね・・・


ディアーナは水晶を見つめた。

自分自身に不安があるせいだろうか。

水晶は歪んだ自分自身を写していた。


ルナが心配そうにディアーナを見つめている。


日食の際は、ルナにも迷惑が掛かるかも知れない。


「ルナ」


「何でしょうか。ディアーナ様」


ルナはすぐにお嬢様と呼んでしまうので、名前呼びにさせていた。


「これから忙しくなるわ。午後、マシュー様とデートして来なさいよ。何なら今夜はマシュー様のところへ泊まってくるといいわ」


ルナが目を見開いて、ディアーナを見たが、その真意をすぐに理解した。

日食の時、もしかしたら自分たちも巻き込まれて、ケガを負うかもしれないし、最悪の場合は死ぬかも知れないのだ。

そのくらい油断がならない上、展開が読めない。


「・・・分かりました。ありがとうございます」


ルナは素直に頷いた。



☆☆☆



王太子殿下は執務室で書類仕事をしていた。

ひと段落つくまで、ディアーナ達はガーデンを回ることにする。


「ねぇ、エド」


ディアーナは植物研究家のエドに尋ねた。


「ちょっと気になっていたんだけど・・・ビーチでの集団デートに参加していたお花好きのCちゃんって、今どこの所属か知ってる?」


エドは首を振った。


「さあ・・・。王城で働く使用人たち全員と面識があるわけではないので・・・」


「そうよね・・・」


「何か気になることでも?」


考え込むディアーナに、今度はエドが聞いた。


「実際問題、王太子の直属の使用人、ワン、いえ、バートは王太子殿下の元婚約者候補の侯爵家の寄子。侯爵家の一派だったわよね。

もし、Cちゃんも同じような境遇だったら?

侯爵家一派とは限らず、別の派閥に属していたりしたら・・・?

彼女は花の毒にも詳しいかも知れないし、毒の混入もさほど難しくはなかったかも知れないわ」


「・・・・・・」


エドはジギタリスが植えてあったところを見つめた。

ジギタリス毒の混入騒動の後、ジギタリスは全て引き抜かれ、処分されていたのである。


「派閥とか実にくだらないですね。目指すものは良い国作り、健全な(まつりごと)でしょう。全く、植物には何の罪もないのに、処分されてしまって」


「強欲な人間ほど、権力やお金に固執するのでしょうね」


ディアーナも何とも言えない表情をした。


「ジギタリスだって使い方によっては、薬にもなるのにね」


「・・・そう言えば、ディアーナ様が初めてお城に来た時に、Aに会ってますよね」


護衛官のトレイシーが思い出したように言った。


「そうだったわね。あの時は、トレイシー様と、殿下の乳母さんと、ルナと4人でここに来て・・・あの時に、Aちゃんと再会して、私がお城に来ることを楽しみにしてくれていたって言ってくれていたわ・・・」


ディアーナもトレイシーの言葉に頷いた。


「待って・・・あの時、Aちゃんは、『あの時の3人は全員、月の女神ディー様の大ファンですよ』って言ってくれたのよ。Aちゃんに聞けば、Cちゃんの事が分かるかも知れないわ」


トレイシーも思い出したように、そうでしたね、と言い、ディアーナ達はまず、Bちゃんがいるだろう洗濯班へ行ってみることにした。


集団デートの自己紹介で、Bちゃんは寒い時期の洗濯が辛いと言っていたのだ。


お城の裏手の一画の洗濯場では、大勢の女たちが山のような洗濯物と奮闘している様子が遠目でも伺えた。


「何、チンタラやってんのよ!さっさと終わらせて次やんなさいよ!」


「アンタッ!グズなんだからっ!」


ピリピリしているのか、怒号が飛んでいる。

この洗濯の量では、ぬるま湯なんて作っている場合ではないのかも知れない。

清潔な衣服は、衛生面でも大事なことなのに、洗濯担当は地位の低い女性たちやお城に仕え始めた新人が担当する事が多い。

前世の洗濯機って、本当に神器だったのだな、とディアーナは思う。


「怒鳴り、怒鳴られ、なんてやっているとますます効率が悪くなるわよ」


たまりかねて、ディアーナが口を挟むと、女たちがギョッとしたように顔を強張らせる。


ディアーナ、スージー、トレイシー、エドが不快そうな表情を隠さずに見ていたからだ。

ちなみに、医師と乳母は執務室で待機してもらっているし、ルナはマシューのところへ行っている。


「ディー様!」


Bちゃんがびっくりしたように立ち上がった。


「こんなところへどうして・・・」


「こんなところ?大事なところでしょう?」


ディアーナは首を振る。


「衣服の洗濯はただ綺麗にするためだけではないわ。

埃やバイ菌を落として、清潔に保つものよ。

もっと自分の仕事に自信を持った方がいいわ。

誰にでも真似できる仕事じゃないもの。重労働だわ」


「・・・・・・」


しーん、と誰もが口をつぐむ。何、綺麗事言っているんだ、内心ではそのように思われているのかも知れない。

この国では、いつ洗濯機が開発されるのだろうか。

せめて脱水機でもあれば、だいぶ楽であろうに。

いや、絞り機ならば、作ってもらえそうではないか?


ディアーナは色々考えつつ、Bちゃんに尋ねた。


「ねぇ、Cちゃんって今、どこにいるの?」


「Cちゃん?」


Bちゃんは首を傾げて、ああ、あの別荘地での、と呟いた。


「・・・そう言えば、姿を見ないかも知れません」


「え?いつから?」


「そうですね・・・最後に見たのは・・・ああ、ディー様がお城に入ってからかも知れないです。

彼女は食堂での配膳係だったし、それまではよくガーデンで姿を見ていたけど、めっきり見なくなったから」


ディアーナたちは厳しい表情で、互いを見やった。


「ありがとう。忙しいところをお邪魔したわね。後で皆さんに差し入れを持ってくるわ。本当に本当に大変な作業、お疲れ様です」


「・・・・・・」


相変わらず、皆は口をへの字に曲げていた。

人をまとめるって大変よね・・・

自分の置かれている状況に不満を持っていたら、尚のこと。

ディアーナはやれやれ、と息を吐いた。



☆☆☆



「ディー!全然戻って来ないから心配したよ!」


王太子殿下が眉を寄せて立ち上がった。


「申し訳ありません。洗濯場が思いのほか遠くて・・・」


「洗濯場?」


「いえ、こちらの事です。ところで何かご用でしょうか?」


「いや、ちょっと、癒されたいかな、なんて」


先日の勉強会以降、王太子とディアーナの距離感がぐっと近くなっていた。


「そうだったのですね。お疲れ様です」


ディアーナは王太子の背中に腕を回す。

王太子もディアーナをぎゅっと抱きしめた。


この状況もいずれ変わる。

どう変わるか分からないけれど、絶対に王太子は守ってみせる。

元インチキ占い師、現正統占い師の名にかけて。


ディアーナは背中に回した腕に力を込めた。

ふたりの足元ではオッドアイの白猫兄妹が、足首に身体をすり寄せていた。







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