表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月読みの転生元伯爵令嬢は元インチキ占い師  作者: 真央幸枝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/33

三日月の朝の女男爵の総回診

ざっざっざっ。

ディアーナ・ディーセブン女男爵を筆頭に、数名の男女が神妙な面持ちで、王太子殿下の私室に向かうギャラリーを歩いている。


前世で言うところの大学病院での、

『○○教授の総回診です』みたいなアレ。


それを意識してか、しないでか、ディアーナは白いローブを羽織っている。ローブの胸元には、セブンとディーの刺繍入り。その刺繍はカトリーヌの記事を読んだ例の刺繍の得意な男爵令嬢が、お祝いにと贈ってくれた品。タペストリーの作成もあって忙しいのに、ローブに刺繍を入れてくれたのだ。


「ディーディー女男爵様がお越しになりました」


執事が王太子に声を掛けて、身体を起こすのを手伝う。


「ご機嫌はいかがでございますか、王太子殿下。

朝食のパン粥とジュースをお持ちいたしました」


ディアーナとその仲間たちがズラリと並ぶ。

女男爵家の侍女頭、ルナ、侍女のスージー、護衛官トレイシー、主にバラが専門だが、植物研究家のエド、医師、先日一緒にガーデン巡りをした中年女性、実は王太子殿下の乳母だと言う。

ディアーナに対して、かなり懐疑的で警戒していたようだが、真摯な態度と並々ならぬ覚悟を見て、信用してくれたようであった。



☆☆☆



「この毒を盛った人物の特定は、当然しなくてはならない事ですが、私たちのチームは、何よりも殿下の健康回復に全力で務めていきたいと思います」


医療、祈祷チームが結成されて、初めての顔合わせの時、ディアーナは開口一番に言った。


「ヒトの血液が回復するのに、数日から数ヶ月。皮膚が1ヶ月、内臓は数ヶ月から数年は掛かると言われています。まず目標は2週間。2週間後に殿下がどの程度回復されるか・・・皆さまご協力お願いします」


エドが手を上げて発言した。


「毒については、症状から見て、ディーさんの見立て通り、ジギタリスで間違いないと思います。

ジギタリスは薬効としては強心の効果がありますが、反面副作用も強いので、最悪の場合は死に至ります」


続いて新顔の若い医師が言う。この医師の選定は王妃殿下が行っていた。


「幸い、心臓に影響は及んでいません。しかし、頭痛や吐き気、めまいが起きているので、慎重に診ていきたいと思います」


医師の言葉にエドも頷いた。


「ジギタリスの解毒法は、まだ解明されていません。対症療法で進めて頂きたいと思います」


「そうね。まずは対症療法で行きましょう。吐き気が落ち着いたら、体力回復も併せたいですね。体力がなければ始まりませんから」


ディアーナが同意すると医師に言う。


「もし薬師が必要でしたら、遠慮なくおっしゃってくださいね?」


「今のところはこのメンバーで問題ないと思います。

ディーディー様も薬草についてはお詳しいようですし、植物研究家のエド様もいらっしゃるので」


「分かりました。皆さんも何か気になること、必要なもの等、ありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね。今回は一切の妥協はなしです」


「「「承知いたしました」」」



☆☆☆



頼もしい人材が集まったとディアーナは思う。エドやトレイシーとは集団デートでも会っていたし、不思議な縁を感じるざるを得ない。


「・・・このパン粥、凄くおいしいね。病人食とは思えない」


王太子が感心したように言う。


「ハチミツとラズベリージャムを混ぜています。胃腸に優しいので、安心してお召し上がりください」


ディアーナが答えると、王太子は拗ねた口調で、


「ディー、食べさせて」


とねだった。


「・・・え?」


ディアーナが困惑したように眉を寄せる。


「食べさせてくれないといやだ」


また始まった、とルナとスージーが顔を見合わせる。

ディアーナが伯爵籍から抜けて、女男爵を叙爵してからというもの、ディアーナに対する王太子の執着が目に余る。

先日などは、ディアーナにお城に泊まれ、などとしつこく食い下がっていたのだ。


「お食事が終わらないと、ディーとセブンがお側に来れないですよ?」


ディアーナは執務室で待っている兄妹猫をダシにしたものの、王太子には通用しなかった。


「だから、早く食べさせて」


便利な『だから』だこと。

ディアーナは苦笑しつつも、はいはい、と返事をして、王太子の口元にスプーンを運ぶ。


王太子の気持ちが不安定になっているのが、よく分かるのだ。

毒物の混入など、腹黒陰険貴族社会では、ありがちなこと。

でも護衛がしっかりしているはずの王城ですら、誰が味方か、裏切り者か、一見だけでは分からない。そこが恐怖である。


だからこその医療、祈祷チームなのだ。


当然、祈祷を率先して行うのはディアーナである。

占い師であって、祈祷師ではないのだか、占いも、(まじ)ないも、(のろ)いも似たようなものだ。

祈願も祈祷も似たようなものであろう。


食事と健康ジュースを摂った後は、大真面目にディアーナが祈祷を捧げる。

祈祷時は、皆引いた感じで眺めているのだが、ただひとり、王太子の乳母だけは一緒になって、熱心に祈祷を捧げていた。



祈祷も終わり、薬草園で薬草の調達と、チームのミーティングを行うため、王太子の寝室を出ようとすると、王太子に咎め立てられた。


「傷心の僕を置いて、さっさと出て行くんだ?」


「殿下のために、薬草を摘みに行って、ミーティングをするのですよ?」


ディアーナが優しい口調で言う。


「僕はひとりきりで。みんなは集まって」


それから王太子は面白くなさそうに、


「いいよね。トレイシーのペニー氏だとか、エドのペニー・キノコ氏だとか。楽しそうで」


嫌味をタラタラこぼす。


ディアーナはギョッとした。

誰よ、この話を殿下にしたのは。

毒物混入も言語道断だが、病人にペニー氏の話はナンセンスである。


「僕をひとりのけ者にして・・・」


ブツブツ文句を言い続けるので、ディアーナはやれやれ、とため息をつきつつ、王太子の耳元で囁いた。

途端に王太子が真っ赤になる。


「では、行って参りますね」


頬を染めた王太子を残して、ディアーナの朝の総回診は終了した。


扉越しに、執事のうろたえた声と殿下のパニックになっている聞こえる。


「殿下っ、どうされました?」


「僕の、僕が、いや、僕のペニー氏を、ディーがっ!」


ディアーナが小さく笑っていると、ルナが興味深々に尋ねてくる。


「お嬢・・・いや、女男爵様、何と言ったんです?」


「それは、殿下と私のヒミツよ」


「えー、ケチ」


ルナが唇を尖らせた。

いつもありがとうございます!

申し訳ありません。

感想フォームは閉じさせて頂いております。

m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ