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月読みの転生元伯爵令嬢は元インチキ占い師  作者: 真央幸枝


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19/33

立待月(たちまちづき)・つわもの平民少女現る!!

王妃殿下の趣味嗜好満載の豪華なサロンの看板猫、白毛で黄色と青色のオッドアイの兄妹猫は、かなりクセ(つよ)の猫である。

兄猫セブンはディアーナに懐いてはいるものの、かなり気まぐれ。気が乗らなければそっぽを向いている。

妹猫ディーは里親で、名付け親でもある王太子殿下が大好き。そして人間のメスをあまり好まない。


2匹とも聴覚がやや弱いようだが、その分とても敏感だ。人間の死をも事前に察知する。


先日、サロンを訪れた老婦人は死の淵にいて、ディアーナが顔相で死相を見るより早く、兄妹猫が感知していた。その時は遠くから老婦人をそっと眺めているだけであった。


基本的にはお客様にじゃれることがあまりない。

だから・・・


「きゃー!くすぐったいよぉ」


本日ラストのお客様である、平民の少女をペロペロ舐め回すセブンと、少女の足元で寝ているディーの様子に、ディアーナは敗北を感じていた。


この平民の少女、なんと自分の村から半月ほど掛けて、徒歩で王都までやって来たという。

毎夜、民家の物置や馬小屋に侵入して、雨風をしのぎ、時には教会や、孤児院、救護院などで厄介になったそうだ。


前にサロンに来た幼妻アンナよりも幼い印象。12、3歳ぐらいだろうか。

そんな少女がひとりで村から徒歩でやって来て、物置や馬小屋を渡り歩いていたとは。


王妃殿下が始めたこの慈善活動は、王国内の女性ならば誰でも利用可能な、完全予約制の接待つき、無料ティーサロンである。利用時間はひとり40分。希望すればディアーナのお悩み相談と占術のおまけまである。

だが、王国中から予約希望が殺到しているので、抽選会が催される。今やその抽選会までが名物となっていた。遠方の村などの場合、村人が一丸となり、皆でお金を出し合って、代表の女性が馬車を乗り継ぎ、王都入りするという話すらあるほどだ。

単身徒歩ではるばるやって来た、この少女はかなりの強者である。


教会などで衣服をもらったのだろうか。ワンピースは古いけれど、めちゃくちゃ汚れているわけでもなかった。


それでも到着するや否や、ディアーナは女中たちに頼んで、身綺麗にしてもらった。

なぜか、少女にぴったりのサイズのワンピースが用意されていたりして、王妃の意図を感じる。


紅茶を飲んだことのないと言う少女は、ディアーナのお勧めを頼んできたので、ディアーナは紅茶とオレンジジュースのセパレートティーを少女に出した。


「・・・ジュースが2色に分かれている・・・!」


少女は嬉々として叫んでから、


「お貴族さまは、いつもこんなの飲んでいるんだ」


などと大きく舌打ちをした。

ディアーナは前世でしょっちゅう舌打ちをしていたので、気にはならなかったが、ルナたちは女子が舌打ち、しかも伯爵令嬢の目前で、と眉をひそめている。


「ねぇ?教えて?どうして身分なんてあるの?」


さらに、ディアーナの白いマキシ丈のワンピースを上から下まで、睨みつけるように見て、


「お貴族さまはいつも、そんな綺麗な服着れていいよね」


そう吐き捨てるように言った。


ディアーナは基本的に、白一色のドレスやワンピースでサロンに出ている。ドレスかワンピースかは、その日のお客様に合わせていた。

ルナの強い要望で、髪には季節の生花やリースを飾っているが、気合いを入れたドレス選びはしない。その代わり、生地の良いものを好んで取り入れている。本日もコットンオーガンジーで、シアー感、光沢感を演出していた。

白を選んでいるのは、インチキ占い師だった前世では、いつも黒を着ていたからだ。

前世でのミステリアスなブラックと、現世の爽やかなホワイト。多分、反動で白を好んでいるのだろう。

ああ、ドレス選びに時間を掛けたくないという思惑は前世も今も同じではある。


「あなたは貴族が嫌いなの?」


ディアーナが尋ねる。


「大嫌い。村のみんなから奪うだけ奪って、贅沢しているから。昨年の収穫は一昨年よりも少なかったのに、採れた作物の半分を領主に納めなくてはならなかったんだから!」


「半分?」


桁違いの搾取ぶりにディアーナは困惑した。


「例えば、一昨年のリンゴの収穫が100個で、納めたのが50個。昨年は30個で、納めたのが15個ってこと?生きていけないじゃないの」


ディアーナが考え込む。少女は頭を振って、


「リンゴじゃないし、そんな少ない収穫量じゃないけどね」


肩をすくめて見せた。


「例えばの話よ。収穫量に関係なく、半分を領主に納めるってそういうことでしょ。よく暴動が起きずに済んでいたわね」


「領主はゴロツキみたいな私兵を雇っているし。

村人を決して殺さず、でも元気に生かさず状態にして、反抗できないようにしているんだと思う。

で、たまにお祭りとかして、ご馳走を振る舞ったりしてるの。生活は苦しいけど、領主はそれほど悪人ではない、って認識」


「・・・あなたの認識は違うわけね?」


「あたしはずっと村から逃げたいって思っていたから。どうして貴族はあんなに偉そうで豊かなのに、平民はいつまで経っても貧しいわけ?ズルいでしょう?」


少女は出されたフルーツケーキには手をつけずに、じっと眺めている。


「こんなケーキ、村の子どもたちは食べたことないよ」


ふーっと、ディアーナは長いため息をつく。この王国は王家が広大な領地を持っていて、財源が潤沢なため、地方自治に関しては領主に任せきりになっている。

貴族には王領での奉公の義務があるが、領主の場合や病気などの一定の条件に当てはまれば、毎年の税金を納めることで免除になっていた。重税を課されているわけではないから、かなり蓄えのある領主も多いだろう。

しかも領主の裁量によって、アタリハズレがあるから、ハズレ領地に住む民はたまったものではない。

やり手で常識的なアタリ領主だったら、生活は安定するが、そうでなければ困窮するのが目に見えている。

よほど嫌だったら、転居も可能だが、民にそこまでの熱量はないかも知れないし、そもそもどこの領地なら豊かなのか、情報を得ることすら難しいだろう。


「貴族の大元は、この国を興した人たちなのよね。

荒地、更地、湿地を人里までにした、小さな集落のリーダーたちだったのよ。

その中でも一番、尽力されたのが王家よ。

小競り合いがあったとはいえ、大きな内部紛争もなく、ここまでの歴史があるのは、やはり王家のリーダーシップの下、貴族たちがお国のために働いたからだわ」


「お貴族サマは繁栄して羨ましい限りだけど、その貴族の下で働く奴隷たちは?

長い長い歴史があるにも関わらず、奴隷たちが豊かになったようには思わないけど?

貴族が国のために働いた、って言うけど、実際に働いたのは、その下にいた奴隷たちだから!

畑を耕すのも、ぬかるみを埋め立てるのも、城を作るのも、みーんな、みんな奴隷よっ!!

あんた達はただ命令するだけじゃない!」


「・・・この国には、奴隷制度はないわ」


まくし立てる少女に、ディアーナは言った。


「自由になるお金も時間もなきゃ、奴隷と同じだって言うの!大体、あたしは売られそうになったから、逃げてきたのっ!あたしはモノじゃないっ」


はーはー、肩で息をする少女に、セパレートティーを飲むよう促す。


「・・・売られる、ってどこに?」


「知らないよっ!ロリコンオヤジのとこか、サディストのとこか、悪魔崇拝のとこか、なんて!

あたしの意志なんてまるで無視だから」


少女はセパレートのドリンクをスプーンでぐるぐる混ぜて、一気に飲んだ。


「・・・悪魔崇拝って・・・」


ディアーナが厳しい表情で呟くと、少女の膝で大人しくしていたセブンがむっくりと起き上がり、ディアーナをじっと見た。


「知らないの?悪魔崇拝者は処女や子どもを生け贄にするんだよ。悪魔に捧げるために、心臓を取り出したりするの」


セブンを撫でながら、少女は忌々しげに言い捨てる。


「ほんと、何も知らない貴族令嬢さまで羨ましいよ」


ディアーナはこめかみを押さえた。

待って?色々と情報が多すぎる。

ディアーナは少女の方が、何も知らないと思っていた。

知識や知恵がないから、悪徳領主の言いなりなのだと。


この国に本当に必要なのは、教育ではないの?


・・・そう言えば、先日の私刑だって、かなり残虐なものであった。

危険因子は常に王家と隣り合わせだと言うことなのだろうか。


「少女Aさん、あなたは今後は王妃殿下の管轄下で保護されることになります」


「あたしにはベティって名前があるんだけど?」


「・・・コホン。失礼しました。ベティさん。

あなたはここへ来るまでの道中、食べものを盗んだり、ひと様の物置小屋などに勝手に侵入して来ましたね。

まずは観察役の下で、更生教育を受けてから、王都のどこかで仕事を斡旋してもらうようになるでしょう」


「・・・王都にいられるの?」


ディアーナの言葉にベティは目を丸くする。


「ベティ。どうしてこのセパレートティーは二層に分かれていたと思う?」


「オレンジジュースの方が重かったから」


足元で寝ていたディーが、正解!と言うように、ニャア!と鳴いた。セブンも褒めるように、ベティの頬を舐める。


「その通りよ。ベティ、あなたはとても賢いわ。たくさん学べば、もっともっと賢くなって、強く生きていける力を持つわ」


「バカにしてるの?そんなの誰だって分かるでしょう」


ベティがムスッとした表情になる。


「それがそうでもないのよ。()()()()()()だと思い込んでいる人は思考をやめるの。

なぜ、どうして、と考えない。

学びは、知りたいと思う欲求から始まるわ。

私たち、もっと色んなことを知る必要があるわね」



ベティがフルーツケーキを食べ終え、しばらくしてから、騎士団所属のルナの恋人、マシューがベティを迎えにやって来た。

まずは教会で更生教育を受けさせるのだと言う。

もっとも、まだ少女だし、状況が状況なので、形だけにはなると思うが。


「ルナ」


マシューがルナを引き寄せ、頬に口づけをした。


「マシュー様。お会いできて嬉しいです」


ルナが頬を染めるのが目に入る。

その時、最近めっきり顔を見せなくなった王太子を思い浮かべ、ディアーナは急激に会いたい、と思った。


元気にしているのだろうか。

疲れてはいない?

隈を作っているんじゃないの?


セブンとディーがディアーナの足元で、ニャア、と小さく鳴いた。



いつもありがとうございます!

申し訳ありません。

感想フォームは閉じさせて頂いております。

m(_ _)m

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