ヤバい年上夫が幼妻に求めるもの②・8日月
ディアーナに対し、バチバチ火花を撒き散らすのは、14歳の童顔少女を娶った14歳年上のアラサー夫。こちらの男爵夫妻は今春、政略結婚で結ばれた新婚ほやほや年の差夫婦である。
この王国は婚姻年齢を法律で定めてはいない。
貴族は貴族学園を卒業する18歳前後、農民は15歳前後、商人は17歳前後で結婚に至ることが多い。
稀に政略や伝統などの理由で、とても早くから婚姻を結ぶケースもある。
幼妻がゆくゆくは継ぐ予定の男爵家は昨夏、農作物が病虫害に遭い、壊滅的な被害を受けた。そこにつけ入った、いや救済を申し出たのが夫の男爵家。
農地整備、提携を行い、今秋の収穫はほぼ安定と見込まれている。
不思議なのは、夫の男爵家には嫡男の夫を始め、男子があとふたりもいる。しかも、ひとりは幼妻と同い年。普通なら、嫡男が生家を継いで、次男か三男が幼妻の男爵家へ婿入りするところを、次男に家督を継がせる算段で、なぜか年の離れた長男が婿入りしてきた。
「・・・離縁は絶対にしない」
胸がデカくなきゃ女じゃないだの、たかが女のくせにだの、失言が多く、幼妻に対しても、グズだ、倒木だ、石だ、ヒトデだ、デッドフィッシュだ、などと暴言を吐いて、愛情があるようには思えないのに、離縁はしないと言う。
「・・・それは困りましたわ」
ディアーナは羽ペンの羽で、幼妻のうなじや首元を這わせながら、コテンと首を傾げた。
幼妻はその度にゾクゾクと身震いしている。
「こんなに愛くるしいご令嬢を、心ない言葉で傷つける男爵を看過するわけには参りませんの」
そうして幼妻の肩に手をそっと置き、もう片方の手で、羽を隣の男爵に向けた。
「『胸がデカくなきゃ女でない』のが、男爵の理論でしたら、短い、細いお粗末ペニー氏をお持ちの人は、男ではないってことになりますわよね」
「「「!」」」
これまでニヤニヤして聞いていた、スージーとミリアムまでが、ルナのようにアングリとカバのように大口を開けた。
しかも、それまでどこかに隠れていた、オッドアイの兄妹白猫がスージーたちの足元で珍しくニャアニャア鳴き出すあり様。まるでディアーナに加勢しているようである。
「だって、お粗末ペニー氏が相手でしたら、女の悦びが感じられなくってよ。彼女が喘がないのは、男爵が男でない可能性が高いですわ」
「「「!!!」」」
「「ニャアー!」」
本日、サロン内にブリザードが到来した。サロンの気温が氷点下まで下がったかのように、真っ赤になっていた男爵が一気に真っ青になった。ルナはもはや、顎が外れそうになっている。
天然なの?ねえ、天然なの?マジなの?そんな顔だ。
「・・・ですので、離縁した方がお互いに幸せになるかと・・・」
ディアーナが言いかけた時、男爵が叫んだ。
「もし、アンナがデッドフィッシュじゃなかったら、俺は全裸になって土下座しよう!男だと証明もしてやる!その代わり、証明できなかったら、俺様に跪き、靴に口づけしやがれ!!」
あら、幼妻さん、アンナという名前なのね。
え、でも、全裸?なんで全裸?
「・・・そんな汚いもの、見たくな・・・」
ディアーナが抗議しようとすると、またまた横槍が入った。
「では立会人はわたくしが務めさせて頂きますわ!」
ミリアムが挙手をして、名乗り出てきた。普段とは違う気取った口調で言う。
「ええ?」
ディアーナがちょっと驚いた。
「わたくしは恋人との契りをすでに交わした身。全裸土下座の立会人として、全身全霊尽くさせて頂きますわ!」
「え?そうなの?」
ルナが目を丸くして、ミリアムに聞いた。
「ええ・・・恥ずかしながら、トレイシー様ったら、待てができなくて・・・あの襲撃後は特に・・・ちなみに・・・トレイシー様のペニー氏、こほん、トレイシーくんは最大でこのくらいですのよ」
絶対、嘘でしょう!とディアーナがツッコミたくなるくらい、ミリアムは自慢気に両手で特大サイズを現した。サロン中がどよめき、男爵はますます顔色を悪くする。
「で、では、わたくしも・・・」
おずおずとスージーが手を挙げる。
「わたくしもエド様と閨を共にした身。この歴史的瞬間に、責任を持って立ち会わせて頂きますわ」
「エッ!?スージー!アナタもなの!?一体、いつの間に・・・」
ルナがふるふると肩を震わせる。
「ええ、まぁ、ホラ・・・エド様は貴族ではなく、大商家の息子で、庭師見習いと言うか、研究者と言うか・・・ですので、そこまで純潔主義ではないと言うか・・・ええ・・・キノコ狩りに乗じて、エド様のペニー氏、こほん、キノコを・・・」
スージーが両手で大きなキノコの形を作ると、きゃー、と王妃サイドの女中たちが叫びながら、床に倒れ込んだ。
そうよね、トレイシー様もエド様も、お城でお勤めしているんだものね。今度、顔を合わせたら、想像しちゃうわよね。
当伯爵邸の侍女たちが肉食系女子でごめんなさい。
ディアーナは呆然としているルナをチラリと見た。大丈夫?置いてかれたって、思ってない?
え?何?うらやまけしからん?心の声がダダ漏れているわよ。
「で、では、もしも証明できたら・・・」
咳払いをしたディアーナが、改めて確認しようとすると、またまた横から口を出された。
「全裸土下座の際には、王妃殿下側仕えのわたくしも記録係として、立ち会わせて頂きます。むろん個人の尊敬はしっかり厳守いたします」
などと淡々と宣言する。段々と大事になってきた。というより、全裸土下座する前提で話が進んでいる。
「あいわかった」
男爵が頷いた。
「ええ?本当に良いのですか?赤の他人の女性3人が立ち会うって言っているのですよ?」
「構わん」
ディアーナの戸惑いをよそに、男爵はうむ、と了承した。
「たかが女のくせに、って侮辱したクセに・・・一体なんなの・・・」
釈然としないディアーナだったが、もう好きにしてちょうだい、と肩をすくめ、
「ではアンナ様、ドレスを脱いで、こちらのソファに横になって下さいませ。スージー、脱いだら、お湯でさっと拭いてあげて。ルナは香油とキャンドルとティンシャを用意してちょうだい」
「え、ええっと・・・あ、あの、コルセットは・・・」
妙な展開に巻き込まれたアンナがアタフタと聞いた。
「もちろん脱いで頂きます。大きなタオルで隠しますので、ご安心ください」
「わ、分かりました・・・」
アンナがスージー、ミリアム、気を取り直した女中たちに手伝われて用意をしている間、ディアーナは側仕えの記録係に尋ねる。
「ところで、今何時になるのでしょう?11時台のお客様は・・・」
「ご安心ください。本日の午前中はこちらの男爵夫妻のみとなっております」
くいっと眼鏡を直す仕草をして、記録係が言う。
「左様でございますか・・・」
ディアーナは以前から、サロン客を決める抽選会には疑問を待っていたのだが、その疑惑をますます強くした。抽選で当たるお客様もいるだろうが、王妃殿下の裁量、いや趣味で選んでいる可能性もありそうだ。
「用意が整いました」
スージーの言葉に、ディアーナはルナからティンシャを受け取ると、キャンドルが灯されたロマンティックな空間を浄化させるべく、ティンシャを鳴り響かせた。
「ではアンナ様。これからとても気持ちが良くなる天国へご案内いたします。身体の力を抜いて、ゆっくり呼吸をしてくださいね」
ソファにうつ伏せになったアンナの身体に巻かれた、タオルを外し、下半身に掛ける。ディアーナは香油を両手に馴染ませながら、昨日はここに王太子が座っていたのよねぇ、などと思う。
なんの因果か、ここで性感?マッサージをすることになるとは。
椅子に座った男爵が、ゴクリと唾を飲み込んだ音が聞こえた。
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