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ヤバい年上夫が幼妻に求めるもの①・8日月

・・・イヤな予感がする・・・

サロンオープン前に、ホワイトセージを焚いていたディアーナは、空気の淀みに眉をひそめた。

何だか、厄介なお客が来そうね・・・

専属侍女ルナや、なぜか急に伯爵邸から手伝いに来た、ディアーナの専属侍女補佐のスージー、調理補助のミリアムたちと共に準備を終えて、ディアーナは豪華なマホガニーの椅子に座った。

サロン内の調度品は全て、王妃殿下が私財を投じ、趣向を凝らして揃えた高級品である。


「本日、10時台の男爵夫妻がいらっしゃいました」


女中の案内でやって来た男爵夫妻を見て、ディアーナは内心、ははぁーんと思った。

かなり年上と思われる夫は、反り返り気味に歩き、童顔の妻は夫より、3歩も4歩も後からオドオドした様子でついて来る。

一応ここ、女性専用サロンで、子どもや夫の同伴可能にはしているけど、本来ならこういう男性はお呼びではないのよね・・・


ルナが恭しく引いたディアーナのほぼ向かい側の椅子に、さも当然と言わんばかりに、先にドッカリと座る夫。妻は身を縮こませながら、その隣の椅子にコソッと座る。


「ようこそいらっしゃいました。メニューをどうぞ」


第一声は決して夫には譲らせまいと、ディアーナがルナに目配せした。


「俺はコーヒーとナッツを」


ルナから受け取ったメニューをさっと見て、さっさと注文を終えた夫は、美しい文字で手書きされたそのメニューを、テーブルに投げるように置く。

茶菓子のラインナップが毎日違うので、女中たちがわざわざ毎朝、手書きをしてくれるのだ。


一方の妻は真剣な表情で、メニューの始めから追っている。


「早く決めろよ。ほんとグズだな」


貧乏ゆすりをしながら、夫が舌打ちをした。


「あ、ご、ごめんなさい。ええと・・・」


妻はディアーナを上目使いで見ると、


「あ、あの・・・む、胸が、お、大きくなる、お茶はありますか?」


と聞いてきた。


「・・・・・・」


サロンの女性たちが息を飲み込んで、無言のディアーナを見た。


「そうだな。胸が育つ茶があれば、それを頼むといい。何と言っても女は胸がデカくなきゃ、女じゃないからな」


夫がフンと鼻を鳴らした。


「・・・お茶を飲んで胸が大きくなるのでしたら、世の女性たちは誰も苦労しませんわ」


ルナはディアーナの口調がいつもと違うことに気づいた。お高く止まった高位貴族令嬢の口ぶりを真似している。


「そ、そうですよね。そ、そ、そんなお茶ないですよね・・・」


「即効性のお茶はございませんが、女性ホルモン・・・いえ、女性の心身に役立つお茶ならございます」


気取った話し方に気を取られていて、話の内容には意識を欠いてしまった。いけない、いけない。ディアーナは自戒する。この王国では、女性ホルモンなどの概念はまだないのだ。


そうしてディアーナは妻に向かって、優しく微笑んだ。


「遠い異国の古代女王が美容のために好んで飲んでいたとされるお茶はいかがでしょう。

ローズレッド、ローズピンク、ローズヒップ、ハイビスカスのブレンドティーにハチミツを添えて。お茶菓子はその古代女王が好んで食べていた美容と健康に良いドライデーツなどお勧めです」


ディアーナのお勧めを聞いて、パァと顔を綻ばせた幼妻はコクコク頷いた。


「そ、それでお願いします」


「失礼ですが、お年はおいくつなのでしょうか?」


幼妻にディアーナが問うと、


「じゅ、14歳です」


とビクビクしながら答える。


「まぁ、14歳。男爵とは・・・随分と年齢が離れていらっしゃるのね」


「だ、旦那様とは14歳離れています」


14歳の年齢差と聞いて、ルナがハウッ!と変な声を上げそうになり、慌てて両手で口を押さえる様子を、ディアーナは目の端で捕らえた。コラ。お客様の前で失礼よ。まぁ、でも気持ちは分かる。愛し合っての年齢差夫婦とは思えないからだ。


「妻の領地の危機を我が男爵家が救った。政略結婚だ」


また出た。政略結婚。


「・・・男爵殿は嫡男でありながら、危機的状況の領地を抱える奥様の男爵家に敢えて婿入りして、尽力されていると社交界の噂になっておりますわ」


「そうだろう、そうだろう」


褒め言葉と受け取ったアラサー男爵が胸を張った。


嘘だけどね。とディアーナは内心思う。

ディアーナは社交に出ていないから、そんな話すら聞いたことはない。

噂好きの貴族夫人たちならば、大方、男爵は幼女好きとか、性格に難ありで結婚相手に恵まれなかったなどとアレコレ詮索するに違いない。

たまたま今回は王妃殿下の側控えから、事前に男爵家の情報を聞いていたのだ。

あれ?待って。もしかしたら、スージーとミリアムは波乱の展開になることを予想して、今日、手伝いに来たのかしら?


やれやれ、みんな物好きね・・・と呆れていると、そのスージーがコーヒーとローズのブレンドティー、茶菓子を運んで来た。

男爵がコーヒーをひと口飲むと、

うーん、これは美味い、と絶賛した。

そりゃあ、そうだ。王妃こだわりのコーヒー豆である。

ホントはアナタみたいな激ヤバ男が飲んでいい代物ではないのよ。

幼妻の方は、ハチミツを加えたローズブレンドを口に含むと、ほわわわぁー、と頬をゆるめた。

そんなあどけない表情がとても可愛らしい。


「とても、おいしいです」


「それは良かったです」


ディアーナは微笑を浮かべた。


「ところで、まずバストについてですが・・・

バストを大きくする云々の前に、ヒトが育つにはとても大事な時期があります。

まず、誕生してからの乳幼児期。この時は、言わば人体の土台作りです。持って生まれた特性、先祖代々からの体質もありますが、この乳幼児期に、ちゃんと栄養摂取しないとダメです。

次に初潮を迎える頃の成長期です。

この時に十分に食べて、飲んで、動いて、眠らないと、胸はおろか、筋肉も骨も決して育ちません。

奥様は幸い今、成長期です。

これからどんどん女性らしい身体つきになるでしょう。

しっかり食べて、動いて、眠ることです」


幼妻に言い聞かせるように、ゆっくり説明した。


「それから胸を大きくするマッサージもあります」


ディアーナは幼妻に話す時は、普段の口調になる。


「は?マッサージ?そんなものしたって無意味だと思うね。コイツ、全く感じない石だしな」


男爵がコーヒーカップを置いて、フン!と言い放つ。

バストマッサージに思うことがあるのだろう。

ムダ、ムダ、と首を振る。


「そうでしょうか?マッサージは奥様、ご自身でできますわ。やりたかったら、やればいいし、必要なかったら、やる必要ありません。それだけのことです」


ディアーナの言葉に、幼妻は、


「やります!やりたいです!」


と目を輝かせた。


「ところで、男爵殿は奥様に対して、感じない石とおっしゃられましたわね」


「それがどうした。こいつは夜迦でいつも倒木の如く寝ているだけだ。胸もない。喘ぎもしない。感じもしない。倒木、いや、石、いや、ヒトデか、デッドフィッシュか」


ナッツを咀嚼しながら、男爵はディアーナを睨むように言う。


「それは男爵殿にも問題があるのではありませんこと?」


「はあ!?俺様のどこに問題があるって言うんだ!?」


男爵が怒鳴るように言った。ディアーナはいつも通りのポヤンとした表情で立ち上がると、おもむろに飾り棚から羽ペンを手にした。そして、幼妻の後ろに立ち、羽で幼妻の耳の裏からうなじにかけてゆっくりと撫でる。


「ひゃっ!」


幼妻がビクッと肩を振るわせた。


「・・・やはり、問題なのは男爵殿のようですよ?

例えば男爵殿のお持ちの()()がかなりお粗末なのか・・・例えば、男爵殿の夜の手ほどきに問題があったのか・・・例えば、そもそも男爵殿の女体の扱いがヘタクソなのか・・・」


「はぁ!?」


男爵はディアーナの言葉の意味を理解して、顔を上気させると、テーブルをドン!と拳で叩いた。

コーヒーとブレンドティーが受け皿にこぼれる。


ルナはいつものようにアングリと大口を開け、スージーとミリアムは隅っこでニヤニしながら様子を伺っていた。


「貴様、たかが女の分際で、俺様をバカにするのか!?」


「あくまで例えばの話をしているだけですわ。

でも、そうですね。こちらのお嬢様が石やデッドフィッシュではないことは、ここで証明できますわ」


「「「えっ!!!」」」


幼妻を始め、ルナ、側仕えの記録係、スージー、ミリアム、他女中たちが素っ頓狂な声を上げた。

あら、いつもは無言の記録係さんが声を上げるのを、初めて聞いた気がするわ。


「もし・・・証明できましたら、そうですね。彼女と離縁して頂こうかしら?」


奥様と呼ばなくなったディアーナが、客に対して提案ではなく、要求を出したので、一同が絶句した。


男爵は肩を怒らせているのに対し、ディアーナは飄々とした表情で羽ペンをくるくる回しているのが、とても対照的であった。

いつもありがとうございます!

申し訳ありません。

感想フォームは閉じさせて頂いております。

m(_ _)m

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