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魔力・・・だと?

 異世界転移と言えば「チート能力」はつきものなのだろう。先頭を行く2人はその話で盛り上がりを見せている。だけれど、応接室(と言うにはあまりにも豪華に見える)に通された僕たち7人は、そんなことよりも驚かされるこの世界を聞かされることになった。

 アールデコ調と言えばいいのだろうか?僕の感覚からすればアンティークと言いたくなりそうな調度品の数々は、しかしアンティークと呼ぶにはあまりにも新品に見える。おそらく高価な品々だろうそれらは、僕たちの世界観からすればちょっと引いてしまいそうになるような価格だろう(yes)。そう言えばこの頭に響いてくる「yes/no」だけど、よくよく考えたら、考えるだけの情報を持っていないのだから、今考えるべきことではない。少々ウザったいとは思うけれど、先にこの世界の情報を得る方が優先だろう。まぁ、だいたいの正体は分かっているつもりだけれども。

 「では、この世界について少しお話いたしましょう」

そう言って話し始めた男の内容は、なるほどやはりファンタジーな世界という認識で間違っていないらしい。ただそれは世界観としての話であって、実情と言えばいいだろうか?思っていたような状況ではないらしい。まずは種族についてだ。

 この世界に存在する種族は、今目の前に居る者たち「人間」、そして彼らを襲う「魔族」、他に少数ではあるが特殊な能力を持っている「亜人種」、世界の構成に関連するとされる「精霊族」、そして「妖魔」と呼ばれる不明種が大きな分類らしい。基本的に魔族は人間を糧としているらしく、当然、敵対関係にあるのだけれど、悪いコトに彼らは妖魔を使役しているらしい。人間の間では「むしろ魔族が妖魔を生み出した」のではないかと言われるほどで、その攻撃性は極めて高い。この2つに対抗するため、人間は亜人種と手を組んだ。しかしそれでも魔族、妖魔の脅威は高く、ついに人間は召喚の儀を行った。その結果が僕たち7人と言うわけだ。

 概ね想像通りかと思っていたけれど、どうも途中から想定外の設定が割り込んできたようだ。ファンタジー世界に無くてはならない「魔法」についてがソレだ。まずは精霊族だ。その存在は世界の構成に関与すると言うだけあって、どうやらこの世界では存在そのものが魔法みたいなモノらしい。そして精霊族と仲が良く、彼ら彼女らの(実際には性別というものが存在しない)力を借りることができる存在が亜人種だということだ。亜人種の中でも「エルフ」という種は、特に精霊を戦闘目的として使用することに長けているらしい。この時に聞かされはしなかったけれど、この世界に召喚されたとき、僕たちを取り囲んでた先頭にエルフ(だと思う)が並んでいたのはそういう理由からだろう(no)。他にも例えば、「ドワーフ」と呼ばれる種は精霊を生産目的で使用することに長けているらしい。生産という言葉は僕たちにも馴染みある設定と言っていいだろう。

 驚いたのはここからだ。魔族は亜人のように精霊の助けを得る術が無い。そして魔法を使えるわけでもない。もちろん身体的には全ての種族より優れた身体能力を持っている(と言っても俊敏性なんかはエルフの方が上らしい)そうだが、驚いたことに、魔法を行使できる種はこの世界において「人間」だけだと言う。「魔法陣を組み上げる」ことや「詠唱呪文を構文する」といった、言ってみれば、魔法を行使するための()()を行える(あるいはその知識を持っている)のが人間だけだということもあるが、そもそも魔力と呼ばれる力を有してるのは人間だけだと言う。当然のように、人間は全種族の中でもっとも身体能力が低く、物理的な戦闘という意味では最弱なのだが、この構築した魔法によって身体を強化することで、そうした脅威に対抗出来ているらしい。

 ではなぜ、人間は危機に瀕しているのか?実にシンプルな話だが、ソレは「数」だった。魔族そのものの数もさることながら、こと妖魔に至っては、その存在は無尽蔵だと言う。さらに悪いことに、妖魔という存在そのものが、いったい「何なのか」すら分かっていない。もしかしたら僕たちの認識でいうと「アンテッド」の類なのかもしれない。

 これは予想でしかないけれど、この世界で言う精霊術というものは「有」の術式なのだろう。そもそも存在している(この場合は()()がソレにあたるか)力を自分の都合に合わせて行使もしくは、変質させている。コレに対して魔法は「無」の術式。何も無いところから力そのものを生み出して行使している。これを成し得るのが()()の有無であって、魔力を有している種族が人間だけだということなのだろう(yes)。この設定はあまり聞いたことが無い。

 「つまりこういう認識で合ってるかな?数で圧倒的な差となっている戦争を個の力で打破してほしい。けど、この7人にそれほどの力があるって言うのか?オレには自分がそんなだって思えないが」

屋地の言う結論は合っていると思う。問題は、「個の力(と言ってもこの場合7人だが)」としてこちらに呼び出された存在である僕たちに打破するほどの力があるのかという点だろう。実際僕自身、この頭に響く「yes/no」を除けば、何か変化があったようには感じられない。

 「申し訳ありません。それはこれからのことでございます。まずは魔力をどれほどお持ちなのかを測定いたしましょう。ベルトラン、測定器をここへ」

ベルトランと呼ばれた男が一度扉から姿を消した。僕たちが入って来た扉とは別の扉だったことから、この部屋の別室ということか(yes)。そんなことを考えている間にベルトランが再び姿を現した。元からあちらの部屋に用意してあったのだろう、台車と一緒だ。予想外だったのは、例えば水晶球みたいなモノが運ばれてくると思っていたのだけど、ベルトランと一緒に現れたソレは、どう見てもガッツリ機械だった。僕の認識からすると、どことなく医療機器のような印象がある。

「それではお1人ずつこちらの席へお願いいたします。なに、数秒で済みます」

用意されていた個人掛けの椅子の側へ設置された測定器をベルトランが触っていると、ソレから「ヴーン」という明らかな機械音が静かに響きだした。ボックス型をしている本体の上部が立ち上がって来たかと思うと、クルリと反転して見慣れたモノが姿を現した。モニターだ。てっきりこの世界に機械は無いとばかり思っていたが、どうやらそれなりに進んだ機械文明を持っているみたいだ。

「コレはこの世界に1台しか存在しないシロモノでして。遥か太古から我々王族が管理しております」

 ・・・ん?コレだけだって??となると、コイツは明らかなオーパーツだということか。超古代文明というコトなのだろうか?そんなコトを考えている間に、屋地が自ら進んでその椅子へ腰かけた。ベルトランがコードのつながったベルトのようなものを腕に巻きつけたあと、測定器の向こう側で何か操作した。機械そのものはホテルの宴会などで見かけるカラオケ機程度の大きさがあるのだけれど、どことなく「血圧測定器のようだ」などと思ってしまった。

 それにしてもこの屋地という男、なかなかデキる男のようだ。「1人ずつこちらへ」と促されて真っ先にその腰を上げたワケだが、その前に他の6人の様子をチラっと見ている。要するに、何をされるのか分からない状況だったのだけれど、先駆者が居て目の前で結果を見ることができれば、後続は続きやすいというものだ。屋地はソレが分かっているのだろう。

 「ほほう・・・コレは・・・屋地どの、流石でございます」

ベルトランが言ったように数秒でモニターに何か文字のようなものが浮かび上がった。画面の中にはレーダーチャートのようなもの(というかそのもの)も見える。文字に関してはいろいろパターンがあったと思うけれど、僕たちの場合、知っている文字ではないにも関わらず、それを判読することができるパターンのようだ。言語といい文字といい、この辺りはもう「設定」がそうなのだと受け入れる他ないか。それにしてもあの測定器、いったいどうなっているのだろう?彼らこの世界の住人には7人の誰も名乗っていないはずだけれど、モニターにはフルネームがしっかりと記されている。

「何がどうなのか、教えてくれるとありがたいんだが?」

「おお、これは失礼しました。まずは名前の下、魔力値ですが・・・ああ、文字や数字は分かられますかな?」

「ああ、不思議だけどな。魔力値・・・いちじゅうひゃく・・・うん、21万?」

「そこのベルトランはこの王宮でも屈指の魔法師でして・・・ベルトラン?」

「は。屋地様、私の魔力値は7万ほどでございます。この数値を超える者はこの世界に居りますまい・・・つまり、それほどに圧倒的な数値を、屋地様はお持ちということになります。さらに力の配分も申し分ない。ギフトの方も・・・魔法にも剣技にも長けておいでのようです」

 力の配分というのはレーダーチャートを見てのことだろう。力、敏捷、反応など7つの項目全てが高い値で均等化されている。そしてチャートの横に書かれている「ギフト」というものが2つ。「レーヴァティン」と「メイカー」。説明のようなものは見当たらなかったけど、ベルトランの説明でなんとなく分かった。「レーヴァティン」は魔剣の意味で剣技の才能だ。もう1つの「メイカー」は驚異的な能力だろう。武具に関してのみとは言え、素材を必要とせず瞬時に作り出すことが可能らしい。この能力、武具か否かの線引きをどう判別しているのかによっては、脅威度が飛躍的に高まりそうだ。他に情報は・・・男なのは見た通りだが、なるほど、23歳ね。僕より2つ上だったか。とりあえず、屋地(ヤチ) 翔真(ショウマ)が戦闘に特化しているらしいことはなんとなくだが分かった。あともう1つ。コレで自己紹介はしなくて済みそうだ。


 水谷(ミズタニ) 一馬(カズマ)、17歳。魔力値はトップの26万。ギフトは「プルリエル」というもので、魔力を分割することで自分を複製することができる。ベルトランが最高峰ならざっと4人分ってところか。魔法特化の勇者様だとかで本人も浮かれているようだ。

 光崎(ミツザキ) (オウ)、22歳の女性だ。魔力値17万、「フライクーゲル」というギフトを持っている。このフライクーゲル、魔力を弾丸として打ち出すらしいけれど、そもそも実弾じゃないせいか、弾速や貫通力、破壊力、果ては弾道まで自由自在に操れるらしい。一馬と一緒に異世界転移前向き勢だ。

 小見(オミ) 風花(フウカ)、21歳、女性。魔力値20万。ギフトは「チェンジャー」というものらしい。コレはややこしいらしく、対象を()()させるのだが、条件設定が必要だそうだ。

 園田(ソノダ) 千絵(チエ)、17歳、女性。屋地に支えられていた女子高生だ。魔力値は10万と思ったほど高くはない。ただし、ギフトが「タイムキーパー」と非常に強力なギフトを得ている。

 宮田(ミヤタ) 輝雷(キラ)、20歳、男性。魔力値23万、「アイギス」というギフトだ。そのとおり「盾」であり、馴染みやすい言葉に置き換えれば「タンク」役ということだろう。

 「では最後ですね。どうぞ」

ベルトランに促され、いよいよ僕の番がやってきた。おそらく、この頭に響く声が関連するギフトだろう。他に気になるとすれば魔力値だろうか。あれこれ悩んでもしょうがないので、促されるままに着座し、腕にベルトを巻かれるに任せた。

 「・・・え?コレは・・・どうなっている?」

ベルトランの声がおかしい。自分でもその原因を知ろうとモニターに目を向けた。

舞原(マイハラ) 華焔(カエン)。これは僕の名だ。21歳、男性。コレに間違いは見当たらない。だが、なんてことだ・・・。レーダーチャートはそれほど他の6人に見劣りはしないようだが、問題は魔力値だ。

「こんなコトがあるのか?人間は生まれたばかりの赤子であっても魔力値があるのだぞ?」

僕たちと主となって会話していた男は、その狼狽を隠せなくなっている。

「私もこんなのは見たことがありません・・・率直に申し上げて、人間()()()必ず魔力値は出ます」

僕に対して表示された魔力値は「0」。表示されていないとかじゃない。「0」。つまり無いという意味だ。その結果として招いているのは、そもそも僕が人間であるかどうかという疑念だった。

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