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「ほら、あいつだよ」
背後から聞こえる声と不穏な気配に、天凪は振り向いた。
すると、先ほど蛍火に絡んできた少年が、仲間と思しき何人かを連れ集めてこちらを指差し、何事か囁き合っている。
「天凪だろ、ほら安寿園の。手のつけられない乱暴者で、この町きっての悪童だっていう」
「師範でさえ匙を投げたんだ、本来なら感化院に入れられて当然だったところを、帚木様がご慈悲で迎え入れてくだすったんだと」
「でもガキだろ、四、五人で囲んで、袋叩きにすりゃあ」
「馬鹿、知らねえのか。三年前、花町を根城にしてる破落戸十五人、たった一人でぶちのめしちまったって話。武器持った大人も混じってたんだぜ。俺らに敵うわけねえよ」
「んなもん、ただの噂だろ」
「噂じゃねえよ。この目で見たっていう奴がいるんだ」
「嘘かどうか、やって見れば分かるさ」
腕まくりをしたきかん気そうな面構えの少年を、後ろにいた何人かが押し留め、
「待て待て。とにかくやめとけ。あいつには手ぇ出すな。勝っても負けても、何の得にもならん」
と、一番年長らしき大人びた少年が冷静に諭した。
何人かはまだ不服げに鼻を鳴らしている。
好戦的な気持ちと振り上げた拳のやり場がなく、出かけたくしゃみが出ないような、中途半端にむしゃくしゃとやるせない様子でもあった。
天凪はやりとりの一部始終を小耳に挟んでいたので、ゆらゆらと立ち昇る敵愾心をまつろわせて、彼らの一団に近づこうとした。
その時ぽつりと、誰かが洩らした。
「気味悪いよ、あいつ」