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天凪はすぐさま、「メシの時にふざけんな」と低い声で言って彼の腕を掴んだ。
「てめえ、何すんだよ」
剣呑な目つきで睨み据える少年と共に、髪を引っ張られて涙ぐんでいた少女も、同時にこちらを振り返る。
水干姿――白い袷の下に緋色の長袴を穿き、縫い目に藍鼠と橙の華やかな菊綴があしらわれている服装――に、肩までの髪を透きとおった赤い水晶玉で左右ほんのひと房ずつ掬って留めている。
磨き抜かれたように色白で気弱く儚げな風情をした少女の名は、蛍火と言った。
不安げな眼差しでたじろぐ蛍火を、天凪は手を引いて自分の傍に寄せた。
ふわりと、えも言われぬ芳しい香りがするのは、彼女が首から提げて持ち歩いている花袋だった。
「いいから、とっとと行け。前空いてんだろ」
何か言いかけた少年を遮り、
「喧嘩ならいつでも買ってやるぜ。メシ食った後でな」
「そんなこと言って逃げる気だろ、腰抜け」
「俺は親切で言ってやってんの。今やったら俺腹減ってイラついてるから手加減できないんだよ。分かったらさっさと消えて出直してこい、野良犬」
少年は怒りに頬を震わせていたが、「はい、次の人ー」と事務的に呼ぶ声に憤然と踵を返す。
「……あ、ありがとう」
消え入るような声で蛍火は言い、おずおずと頭を下げた。
天凪は手を離して大きく息をつく。