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悠久の歳月を沁みこませて黒光りする床という床を拭き終わった頃には、陽は中天近くまで昇りつめていた。
「やっべー昼飯食いっぱぐれる!」
虫食いだらけの本を小脇に抱えて天凪は駆け出した。
貴人の駕籠や人力車、天秤に鮮魚や野菜を抱えた商人が往来する大通りを、砂埃を立てて北へ北へとひた走る。
近道して民家の裏へ回ると色づいた銀杏の葉が黄金の羽のように散り敷き、秋の硬く白い光に輝かしい色彩を添えている。
おおよそひし形をした街は、全体的に南から北へ緩やかな勾配が続いている。
坂を登りきった先には、碧の釉薬や丹塗りに彩られた目もくらむばかりの豪華絢爛な宮が聳え立っている。
神事と政事を司る王府直属機関――朝霞神宮である。
神宮より数町手前、露店の連なる商業地が途切れると同時に、張り巡らされた塀と門扉に囲まれた青塾(学校)が見えてくる。
門番の初老の男性は、天凪の姿を見るなり相好を崩して腰を屈めた。
「よう、天坊。また盗み食いがばれてお仕置き食らったんだってな」
「うるせえやい。急いでんだよ。メシ。早く開けてよ、じっちゃん」
「仕方ねえなあ」
と門番が正門の脇にある小さな勝手口を示すと、天凪はその木戸をくぐり抜けて校舎へ入った。
炊き出しの匂いが鼻をくすぐる。
山菜入りの汁物と麦飯、それに干しぶどうが並んでいる生徒たちの器にそれぞれ配られているところだった。
天凪が自分の器を持って列の最後尾に並ぶと、「きゃっ」と短い悲鳴があがった。
見ると前の少年が、後ろから少女を羽交い絞めにしていた。
「いやっ、離して」
「やなこった。出来るもんなら抵抗してみろよ」
意地悪くいたぶられ、後ろで手を束ねあげられ、少女は泣きそうな顔をした。