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天凪たちが暮らすのは、町外れにある大きな古い屋敷で、「安寿園」と呼ばれる孤児院である。
身寄りのない子供、それも男児のみが集められ、十五歳の誕生日を迎える日までここで過ごすこととなっている。
稀に養い親となってくれる引き取り手が現れることもないではないが、そんな例は今まで数えるほどしかない。
現在は総勢で十七名、うち七名が五歳以下の幼児であった。
園長は帚木で、他にも手伝いに来てくれる婦人連や屋敷の修繕を行う職人もいるが、彼らに支払う給金は国からの補助金で賄われている。
すなわち、補助が打ち切られれば即廃園、子供たちは路頭に迷うことになるのだった。
それを防ぐためにか、帚木は許可を取って敷地内を開墾して小さな畑や田んぼを作り、そこから上がる農作物を少しでも献立に回すなど工夫を行っていた。
農作業には、十歳以上になった子供たちも駆り出された。
それゆえに――。
「天凪さん」
背後に回った帚木がにっこりと笑う。
彼女はいつも微笑を絶やさないが、怒っている時は同じ笑顔でもすぐそれと分かり、余計に気迫を増している。
「な、何だよマザー。鮭ならやらないぞ。最後に食べようと思って取っといたんだからな」
と、脂の乗った旨そうな鮭の切り身を箸で持ち上げ、口の端に米粒をつけたまま天凪は抗弁する。