表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寄稿作品  作者: 采火
書き出し祭り
1/21

フェアリーフォーチュン・ティーカップ!

肥前文俊先生主催、第十回書き出し祭り参加作です。

「今日一番ラッキーな星座は───」


 朝ご飯を食べながら見る、テレビの星座占い。


「スキ、キライ、スキ……」


 隣の席の男の子のことを想いながら花びらを摘まむ、花占い。


「あーした、天気になぁーれ」


 おでかけ日和になるかわくわくしながら靴を投げる、お天気占い。

 占いでちょっとしたことを知るだけで、今日のことも、明日のことも、きっとうまくいく気がすると思うんだ。


「それなのにあの子ったら『そんなの子供だましですわ』とか言うんだよ!? ひどいと思わない!?」

「そうだねぇ。まなかの言いたいことも分かるよ」

「でっしょぉ!」


 わたしの言葉にうなずいてくれたおじいちゃん。

 さっすがぁ! わたしのことを分かってるっ!

 ちょっとだけ気が晴れたわたしは、おじいちゃんにいれてもらったホイップクリームがたあっぷりなココアをぐぃっと飲んだ。

 ここは、わたしのおじいちゃんが経営している喫茶店「有楽内珈琲(うらないコーヒー)」。

 ぐるりと周りを見渡せば、ダークブラウンのテーブルや椅子、木の床、クリーム色の壁紙があって、天井には優しいオレンジ色で店内を照らすシーリングファンライト。

 たまにお客さんが来てカランコロンとドアベルが鳴れば、コーヒーの苦い香りが風に流れていって、知らない名前の音楽が一瞬だけ外のうるさい音にまざりこむ。

 大人がこういう喫茶店でお茶をするのがよく分かるくらい、心がとっても落ち着く場所なの。

 だからわたしも、学校で嫌なこととかがあると、ちょっとだけ寄り道をしておじいちゃんのお店に来る。

 今日もそう。

 クラスの子とケンカしちゃったから、おじいちゃんのところに来たの。

 一人でお店を切り盛りしているおじいちゃんは、忙しくなければわたし専用のスペシャルココアとおやつを出して、グチを聞いてくれるんだ。

 そんなわたしは有楽内(うらない)まなか、小学四年生!

 好きなものは、甘くておいしいおじいちゃんのケーキと、占いをすること!

 ……なんだけど。

 今日のケンカ、わたしの占いをバカにされたのが理由でしちゃったんだよね。

 いつもよりずぅっと悔しくて、もやもやして、ちょっとだけ占いがキライになってしまいそうなのだ……。


「ほんと、あの子キライ。なんで占いの良さが分からないのかなぁ」

「こらこら、悪口はいけないよ」

「だってぇ」


 クラスメイトのことを思い出してムカムカしながらぼやいていると、おじいちゃんがカウンターでカップを磨きながらわたしに注意してきた。

 むぅ、とすねて唇をつき出していれば、おじいちゃんはカップを置いて、わたしの方へ向きなおる。


「もしかしたら、その子は自分に自信があるのかもしれないね」

「自信?」

「そうだよ。占いなんて頼らなくてもいいくらい、自分のことを信じてるんだよ。それはとてもかっこいいことだと思うなぁ」

「うぅ~! おじいちゃんはどっちの味方なの!」


 自分に自信があっても、未来のことなんて分かんないじゃん! 未来のことが分かるほうが、魔法使いみたいでかっこいいし!

 ふんすふんすと怒っていると、カウンターの向こうでおじいちゃんが困ったように笑う。


「もちろん、おじいちゃんはまなかの味方だ。でも、占いばかりで大事なことを見失うのはよくないよ」

「ちがうんだよ、わたしはその大事なことを占ってるんだよ~!」


 バンバンとこの伝わらないもどかしさをカウンターに叩きつけていると、やれやれとおじいちゃんがカウンターから離れていってしまった。

 あっ、あっ、わたし、やんちゃしすぎた!?


「お、おじいちゃん、ごめん! やっぱり悪口とかよくないよね!」

「まなか」


 一人でわたわたしていると、おじいちゃんがお店の奥にある棚から何やら箱を取り出して、カウンターに戻ってきた。

 むむむ?


「おじいちゃん、それなぁに?」

「開けてごらん」


 おじいちゃんがカウンターに箱を置く。

 きれいなコバルトブルーの色をした、なめらかで手触りがいい箱。

 金具がついているけど……なんかこれ、めちゃくちゃ高そうだよ?

 そっとおじいちゃんの方を見れば、おじいちゃんは優しい笑顔でうなずいてくれる。

 あ、開けていいんだよねっ?

 ごくりと喉を鳴らして、金具を外す。

 ドキドキしながらフタを持ち上げると、中にはティーカップとソーサー、一冊の本が入っていて。

 おじいちゃんが箱からティーカップを取り出し、わたしの前に置いてくれた。


「これはね、フォーチュンテリングカップっていってね。まなかにぴったりのティーカップなんだ」

「わたしに……?」

「そう。棚の整理をしていたら見つけてね。まなかのおばあちゃんが使っていた物なんだよ」


 懐かしそうに話してくれるおじいちゃんをよそに、そろりとティーカップをのぞいてみる。

 わぁ、かわいい!

 ティーカップの内側にいろんなマークが描いてある!

 ハートにダイヤ、クローバー、スペード。

 手紙と、目と、ベル、ヘビ。

 あ、これ知ってるよ。惑星のマークだ。

 他にもいっぱい描いてあるね?

 じぃっとティーカップを見ていると、おじいちゃんがわたしの頭を優しく撫でた。


「こっちの本も開いてごらん」

「本?」


 おじいちゃんが示したのは手のひらサイズの小さな本。

 表紙には、ティーカップと羽のある妖精っぽい絵だけが描いてあって。

 表紙をめくってみる。

 えっと……。


「紅茶占い?」

「正解。よく読めたね」

「四年生だもん。これくらい読めるよ!」

「そうかそうか」


 目を細めたおじいちゃんがわたしの頭を撫でてくれる。

 やったね、ほめられたよ!

 得意気になって胸を張っていると、おじいちゃんがカウンター裏のキッチンでお湯をわかし始めた。


「その本に描いてある、占いの方法は読めるかい?」


 占いの方法?


「えぇと……いち、占いたいことを思い浮かべながら紅茶をいれる。に、ティーカップのマークをめぐるようにティーカップをゆっくりとまわす。さん、心を落ち着けて紅茶を飲んで。よん、カップをソーサーにふせる……?」

「そう。そしてカップに残った茶葉がなんの形かで占うんだ」


 わぁ、楽しそう!

 なんだかわくわくしてきたよ!

 わたしがティーカップと占いの本を見比べている間に、おじいちゃんはちゃちゃっと紅茶の準備をしてくれた。

 茶葉を入れたティーポットとティーカップ。

 それぞれにお湯をそそいで、手品みたいにどこからかだした砂時計をひっくり返してカウンターに置く。


「まなか。今、まなかが一番占いたいことは何かな」

「わたしが占いたいこと?」


 そうだよね、せっかくの占いができるティーカップなんだから、確かに何かを占わないとだよね!


「うーん……」


 首を捻っていると、ふと、頭の中を一つの出来事がちらついた。

 それは今日、学校で起きたこと。

 わたしのことをバカにしてきたクラスメイト。

 明日学校に行ったら、またバカにされないかな……。

 ちょっとだけ、不安になる。


「……うん、決めた。明日の運勢を占うよ!」

「それじゃ、ティーポットを持って。熱いから、気をつけて」


 砂時計の砂が全部落ちる。

 おじいちゃんがティーカップを温めていたお湯を捨ててくれる。

 おじいちゃんから準備万端のティーポットを受け取って、ティーカップに紅茶をそそいだ。

 透きとおった茶色のお茶にまざって黒とオレンジの葉っぱがティーカップに流れていく。

 そそいだら、紅茶占いの本に書いてあるようにティーカップをぐるりとまわす。

 たぷん、と寄せては返す紅茶の波。

 ティーカップを、ソーサーに置く。

 おじいちゃんをちらっと見ると、優しい声で「召し上がれ」と言ってくれて。

 わたしはティーカップを持ち上げて、ぐいっと紅茶を飲んだ。


「あっちゅいっ!」

「まなか、落ち着いて飲むんだよ」


 う~、おくちがヒリヒリするぅ~!

 涙目になりながら、今度はちゃんと、ふうふうと冷ましてから口をつける。

 紅茶のクセのある香りが鼻の奥へ流れていく。

 うぐぅ……おいしいのかなぁ、これ。

 甘くないし、渋いし。

 コーヒーもそうだけど、大人ってどうしてこんなおいしくないものを、おいしいって言うんだろう。

 不思議な気持ちで紅茶を飲みきって、ティーカップの底に茶葉がたまっているのを見る。

 ティーカップをソーサーにひっくり返した。


「おじいちゃん、どれくらい待てばいい?」

「まなかの好きなタイミングでいいと思うよ」


 おじいちゃんの後押しで「よし!」とわたしはティーカップを持ち上げた……ん、だけど───。


「あれぇ……?」


 ぱちぱちとまばたきして、目をこする。

 今、水色の塊が見えたような……?

 もう一回ティーカップを持ち上げてみる。

 雲の白が眩しい夏の空色の羽に、お月さまのように優しい黄色の頭。

 持ち上げたティーカップの内側から、ソーサーの上に丸くうずくまっているトリさんが出てきた。

 どこから出てきたの、このトリさん!?

 手品のように出てきたトリさんに驚いてぱちくりまばたきを繰り返していると、トリさんがパチリと目を開けた。

 むくっと立ち上がる。

 そして周りをきょろきょろと見渡して、最後はわたしと視線を合わせる。

 そして。


「やぁ、はじめまして。ぼくは紅茶の妖精・テオ。おいしい紅茶一杯分、きみのすてきな未来を教えてあげるよ」


 ……え。

 ええぇっ!?


「トリさんがしゃべったぁ!?」


 目の前のことが信じられなくて叫ぶと、トリさんはピルルルと楽しげに鳴いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ