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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第9章 花と月と天の契り
99/138

96.麗将軍ファリス

GWなのに充分休めず…今日も仕事…

時間とれず…執筆すすまず…文章見直しもややザツ…遅くなり申し訳ございません…



前日の百体を越す小鬼(ゴブリン)の群れとの戦闘と、その後の村の支援…

そして揺れの激しい山道を、激しく馬車で揺られながら…

かなり夜も更けてから、麓の村まで戻り…

かなりの激務である…。


さすがにこういう時は、体力の差が顕著に出る。


翌朝…

冒険者組、すなわちフローレン、アルテミシア、クレージュ、レメンティたちは、全然余力がある感じだ。冒険中に戦い続け、不眠不休で移動、十分食事も摂れない…そういった状況も越えてきている。


けれど…冒険にも旅にも慣れていない女兵士たちは、疲れが取れていない感じだ。

小鬼(ゴブリン)との戦闘があって、そこから村の支援をしてたのだから仕方ないのだけれど…


火竜族(サラマンド)森妖精(ドライアード)の四人はまだしも…

不良三人娘は、三人揃ってなかなか起きることもできず、ぐでっとした感じが抜けない…

何とか起きて、何とか馬車に乗って、寝転びつつ馬車に揺られながら…村を出てしばらくして、何とかやっと覚醒してきた…という感じだ…


だけど、兵士である以上、こういった強行軍にも慣れていく必要はある。

この七人にも今回の経験は生きてくるだろうし、もっと強くなる努力をするだろう。


まあ今日は移動を済ませれば、後は休息日だ。

エヴェリエの都に着けばゆっくりできるのと、お腹いっぱい好きなものを食べてもいい、ということで…朝からみんな、残りの元気を振り絞って、かなり頑張っていた…。





エヴェリエの都に着いたのは、まだ日が中天に上りきる前だった。

みんな早起きして頑張ったおかげで、昼前に着くことができた。


いつもの宿屋に着くと、すぐに歓迎の用意がなされた。

お代は頂いているので、好きなだけ食べて下さい、と言われた。

ここは女子全員でありがたく…

遠慮なくご馳走になる事にした!


「えらく手回しがいいわね…いつ来てもいいように準備してたみたいじゃない!」


「いつ来てもいいように、準備してくれてたんでしょ?

 …あ、わたし…これと、これと…これ!」

「そうよね♪ 私達が来ること、わかっているものね♪

 …あ、私…この列の全部、ええ食後じゃなくて、すぐに持ってきて頂戴♪」

「折角だし、有り難く頂きましょう…

 私…珍しいの頂こうかしら…エヴェリエ料理って、けっこうクセになるのよね…」


一人で意外がっているレメンティの疑問になどお構いなく、フローレンもアルテミシアもクレージュも、それが当然と言うように注文している。



森に籠もっていた森妖精(ドリアード)二人はともかく、不良三人娘も教養が足りず文字が読めないので、火竜族(サラマンド)の二人にメニューを聞きながら注文…

で、陰キャラなコーラーはおどおどして説明にならず…結局陽キャラなルベラの主導になって…

好奇心旺盛すぎて全部食べてみたいルベラは、結局上から順番に一つずつ頼む、というわかりやすい注文を始めた…。




次から次から出てくるのは、どれもかなり豪勢なメニューで、慣れない女子たちはかなり驚いて、喜んで、そして食べるのに必至だ。

ラクロア大樹の村の食事も美味しいけれど、ここのはまた違う味の感動がある。

デザートのスィーツまで各種食べ放題…というかアルテミシアは、最初からそっちしか食べてない…。



「いきなり美味しい料理をいっぱい出してくれるなんて…」

「人間の社会は、いいとこなのですね~」

人間世界の美味を堪能した森妖精(ドライアード)のペリットとパティットが、いつか誰かが言ってたような事を言っている…。


森妖精(ドライアード)(オサ)であるロロリアは、エルフ村にいる八人の森妖精の子を、交代で行商に参加させて人間社会を経験させようとしている。

村の薬師と服飾職人であるこの二人は商業都市アングローシャでそれぞれ薬屋と服飾店へ行く目的がある。



「いや~、これは…とても意外な味です…エヴェリエ料理…なかなか手強いですね!」

火竜族(サラマンド)の陽キャラのほう、ルベラはここの高級料理に今日もまた新鮮な驚きと感動を味わっている…。

この娘は…新しいことに出会うたびに派手に感動しまくるので、ちょっと鬱陶しいところがあって…「いちいち騒ぐな!」とレイリアの姉御によく叱られる…

今回行商に同行するにあたって、好奇心に(かま)けて勝手な行動を慎むように姉御からきつーく注意されていた…。


その相方の陰キャラ、コーラーはなんかこっそりひっそりと食べていて…

影が薄いあまり…そこにいたのか!的にいきなり気付いてびっくりさせられる事がある…

でも実は以外と沢山食べている…相方よりいっぱい食べている…

この娘は…影が薄いので、そこにいるのにいきなり気づいて、メチャ驚かされる事があって…「びっくりさせるな!」とレイリアの姉御によく叱られている…

町とかに行ってちょっとは世間に揉まれてこい、と姉御からきつーく言われ、仕方なく今回の行商に同行している…


この火竜族(サラマンド)の二人は…よくまあここまで…というくらい両極端…

足して二で割れば、丁度いいくらいのキャラになるんだけど…



こっちではグラニータ、チョコラ、パルフェが、これまた負けじと…三人で競うように食べている…

朝からこの方、三人ともへばっていたとは思えない食べっぷりだ…。


もともと不良娘なこの三人は…フルマーシュの店に来たばかりの頃は…女子にしては品のない食べ方をしていて、クレージュからかなり厳しく(シツケ)をされていた…

クレージュが不在の時も、管理担当のカリラと料理長のセリーヌから、しっかり女子らしさを(シツケ)られ…品がないと他の先輩たちの中でも浮いてしまうので…

そういう訳で、今では振る舞いも女の子らしくなって、食べ方の品も悪くない…

それでも必至な感じなのは、こんな高級料理を食べる機会がないから、食べ溜めしようとしているのか…ヒトのそういうところは変わらないものだ…。




そんなこんなで、高級料理フルコースな昼食が終わって…

女兵士たちは、昨日からの疲れがどっと出たのか…


居室に戻って眠っていた…


食べると眠たくなる、それは仕方ないのだけど…三人娘なんかは、そのままテーブルにうつ伏せて寝ようとするから…「部屋で寝なさい!」とクレージュに叱られた…

その三人娘は部屋の大きなソファで重なり合うように、森妖精(ドライアード)の二人はベッドで抱き合うように、火竜族(サラマンド)のルベラはひとつ横のベッドで悠々と、コーラーは一番端のベッドで…もといベッドの下に隠れるように…

七人全員ぐっすりお昼寝だ…。


十一人全員が大きな一つの部屋に泊まっている。

お疲れな女兵士たちがみんなお昼寝してしまった姿を見守りながら、

クレージュたちは四人で食後の紅茶を頂いていた。



「結局、何だったの?♪ 貴女の占い…?」

アルテミシアが唐突にレメンティに尋ねた。


「ん? なんだっけ?

 …ああ、『希望の光が天に帰り、大きく回って演舞は始まる』ってやつね?」


「違うわ。『希望の光は天との邂逅を果たし、演義は大きく廻り始める…』だったわよ」


クレージュがつっこみをいれる…

記憶力の良い彼女がしっかり覚えているのはともかく…占った当の本人がメチャ間違えてるのは、どうしたものか…


「そ、そうだっけ…? まあ、その…結果がよかった、って事で、いいんじゃない?」

その口調からは、要するに…

占った当のレメンティにも、その内容は、全くわかっていない訳だ…


村人も全員無事、小鬼(ゴブリン)も全滅させた。

加えてこれは想定外だけど、古代ダンジョンも踏破できた。

確かに、結果良し! という感じではあるのだけど…


「でも…希望の光、天との邂逅、そして演義…全く意味がわからないわね…」


「まあ…天との邂逅、は多分…♪」


天の妖精、天翼族(アンジェ)の血の強い、イヴやセレナの事だろう。

その二人と出会った事を示している…。

まさか、あのダンジョン三階の天空フロア…は関係ないだろうし…

と、アルテミシアは自分の仮説を語る。



「じゃあ、希望の光って…?」

ここではじめてフローレンがこの話題に興味を示した。


「それは…希望の光が、天と邂逅する、んだから…?

 えっ…じゃあ、私達の事…?#」


邂逅とは、つまり運命的な巡り合い、みたいな意味であるから…

その仮説に当てはめると、そういう事になる。


「わたしたちが、希望の光…?」

フローレンは「何それ?」といった感じだ。


それを受けてクレージュも口を挟んだ。

「まあ…あの村にとっては、希望の光だったかもよ…

 あ、でも…じゃあ、演義、は…?」


「それね♪ …まったく、わからない…♭」


「そもそも、エンギって、何?」

フローレンが尋ねた。多分、この四人の中で一番こういう知識に疎い…。


「まあ、色々意味はあるんだけど…歴史を題材にした物語…かな? 一般には♪」

「そうね。商業都市アングローシャだと、演義を題材にお芝居みたいにした見世物があるわよ。

 けっこう大きな劇場で行われたりするのよ」


「へえ…」


「ヴェルサリア時代とか、ルルメラルア建国期とか、題材になる時代は様々…

 人気のある役者さんが、違う時代でもまた主人公を演じたりするの。

 それが、前の演目の子孫の役とかで出るから、観客にも分かりやすい訳」


「なるほど…

 でも、それが…占いの中でどういう意味で出てきたの…?」


一番の問題はそこなのだ。

フローレンの質問に、三人の目が…当の占い師のほうに注がれる…


「し、知らないわよっ!

 だいたい! あたしの占いって、一種の啓示みたいなものだから…

 あたしにだってわからないのよっ!」


役に立つのか、立たないのか…

気の毒なことにレメンティの微妙っぷりがさらに目立つ…

まあ…レメンティの占いはいつもそうだから、仕方ないと言えば仕方ない。


ただし、その結果は必ず、その通りになる…

だから、謎は謎のままな訳だ…。





そんな話で盛り上がっているところに、来客があった。


「花月兵団の皆様ですね? お初にお目にかかります…」


メイドのような服を着た、小柄な女の子だ。

ピンクのセミロング髪にフリルのカチューシャがよく似合っている…

そのフローレンたちよりちょっと歳下っぽい乙女は、恭しく頭を下げ綺麗なお辞儀をした。


「私、レーナと申します…ご領主様のところにお仕えしております…

 どうぞ、お見知り置きを…」


丁寧な物腰は、良家の令嬢、といったところであろう。

そして、その僅かな仕草の中で…

この子は、戦士としてもかなり強い…という事をフローレンは見抜いた。


「ご領主のところ…?」

とレメンティがひとり(いぶか)しがった。

ここで領主といえば、エヴェリエ公爵ということになる…

なんでそのルルメラルアの大貴族ところから直々に使いが来るのか…? と疑問に思うのは、まあ当然なのだが…


「ありがとう。お待ちしていたわ」

「よろしくね、レーナ!」

「お迎えに…来てくれたのよね?♪」


ところがフローレンもアルテミシアもクレージュも、そんなレメンティの疑問など関係なく、

自然で当然って感じに、そのメイド乙女に対している。

この三人には、イヴからの招待であることはわかりきっているからだ。


「はい! 花月兵団の方々をお連れするように、と申し付かっております」

レーナはまたいちいち丁寧にお辞儀をした。


「招待されているのは…私達のうち誰かしら?」


ここはちゃんとクレージュが確認を入れた。

フローレンやアルテミシアはこういう事には無頓着で、呼ばれてもないのに全員で押しかけたりしかねない…。


「助爵で有らせられます、クレージュ様、フローレン様、アルテミシア様は、必ずお誘いするように、と仰せつかっております。

お付きの方々も、お嫌でなければ、是非に、との事ですわ」


準備ができていれば、今すぐにでも、ということらしい。


メイドのレーナはここで一旦退出した。

準備が済むまで下の階で待っているとの事で、深々とお辞儀をして去っていった。





「私達三人はご招待、って事だけど…あの子たちはどうする…?」


「寝かせてあげましょ♪ 疲れてるみたいだし…」


「そうね。招待を受けるのも、けっこう気が張るものよ」


部屋の奥のソファやベッドの上や下で、疲れ果てて泥のように眠っている女兵士たちを起こすのは、ちょっと躊躇われる…

好奇心の強い火竜族(サラマンド)のルベラなんかは「行きたい!!」って言うだろうけど…


問題は…

そこでふくれている占い系ガッカリ女子…


「いーんじゃない…? あなた達、さんにん、で、行けば!」


その三人に含まれなかったレメンティが…いつになく突っかかってくる…

ツンではなく、ツンツンでもなく、ツンツンツンくらい、物言いが尖っている…


「は~い! お付きの人、レメンティさんは、お・る・す・ば・ん、します!

 どーせ、あたしだけ、爵位、ありませんから! ありませんからっ!」


二回も言わなくてもいいのに…

レメンティは、ひとりだけ除け者にされたのを、ちょっと()ねてるみたいだ…


まあそれは仕方ない…

この四人の中で一人だけ爵位が無いのは事実だし…、

イヴからは何故か…花月兵団の幹部と認識されていないし…

それも、ラシュナスが入っていたのにレメンティが入っていなかったが…まあ、なんとも…気の毒というか…レメちゃんらしいというか…


「はいはい! もうそんなにイジケないの!

 貴女が何でもできる優れた子だって事は、みんな知ってるんだから。

 …それに、貴女がお留守番に残ってくれるから、安心して出かけられるわ」


眠りこけている女兵士たちと荷物をよろしく、って感じでこの子を持ち上げて…

そうやってさりげなくフォローを入れておくところが、クレージュの気遣いだ。


実際、この町の建物は青と白とその中間色で統一されていて、けっこう道に迷いやすい…

だから、慣れてない女兵士たちが外出しようとしたら、注意するように、声掛けが必要だ。

好奇心が強くて、勝手に出かけて迷子になりそうな子もいる事だし…。

近くの大きな看板のある薬屋、くらいなら迷わないだろうけど、森妖精(ドライアード)は金銭感覚、というか通貨の概念に疎いから…勝手に出かけると、面倒事になりかねない…


あの三人娘も含め、実は今回のメンバーはけっこうクセが強い…


「ま…まあ、あたしはここに残るほうがいい、って事よね!

 言われなくても、そうするわよ!

 だから、これはあの子たちのためで…

 べ、別にあなた達のために残ってあげるんじゃ、ないんだからねっ!」


クレージュから直にそう言われると、単純な(わかりやすい)性格のレメンティは、まあすぐに気を治したようだ…

いつもどおりの、ちょっとツンツンくらいの口調に戻っている。


「な、何よ! 早く行ってきなさいよ!」


尖っているけど、こっちをチラ見したり…ちょっと名残惜しそうなところもいつものレメちゃんだ…


こうなったら…このツンツンがっかり占い系女子に、ブロスナム士官でも倒させて、助爵の地位を受けてもらうかな…

とかフローレンは考えていた…。


在野のブロスナム将校と言えば…

あの山中にいた、髭面の戦斧(バトルアクス)使いが思い当たる。

飼っていた魔獣ヒポグリフを倒したので、それほど厄介な相手ではないはずだ…レメちゃんだったらサシで戦っても楽勝だろう。


スィーニ山の平和のために、あのブロスナムの残党勢力とは、いずれ戦う事になるだろう…

拠点が判明したら、討伐しにいくつもりだ。





宿の外に馬車が止まっていた。

それほど飾りはないけれど、作りの良い馬車である。


エヴェリエ公国の紋章が掲げられた、公用馬車らしい。


いかにも貴族が使いそうな派手な馬車…じゃないところが、エヴェリエのお国柄を表している感じだ。

それでも、実用性に富んだ精巧かつ厳かな作りの馬車は、この町並みの中にかなり目立っている。

周囲の人々もそろって、何事か、と様子を見ていた…



その馬車は彼女たちを乗せ、町の南方向へ向かっている。 

白い壁と青い屋根、その中間色の装飾で統一された清らかな町並みを両側に見ながら、町の中央大通りをまっすぐ南へ。


エヴェリエ公国の首都であるこの都は、南北に長い形の町になっている。

彼女たちが泊まっている宿は、そのほぼ北端部に当たる場所にある。

というより、旅行者や商人のための宿や施設があるのは、北半分のさらに北側の区画だけで、町の南側には、そういった施設はない。



町のさらに南には、あの高く(そび)える白灰色の高すぎる岩壁が東西へ連なっている…

天まで届くような…雲の上までも届く、東西に果てなく真っ直ぐに伸びる、岩の壁…


数ヶ月前…南街道を越えての行商、そして杯の紋様の入った遺跡。

あの時…北側に連なっていた岩壁…、今…その北側にいる訳だ。



そして、その岩壁を背に、青と白を基調とした背の高いお城が見えるのだ。

そのエヴェリエの城は、町よりも一段高くなった丘の上にある。



南に向かうに連れ、古い時代の町、といった感じになってきた。

この風景の変化を見ていると、エヴェリエの町は、時代とともに北へ伸びっていっているのがわかる。


この伝統的な公国の南側…旧市街地は、他国の者がめったに足を踏み入れる事のない領域になっているのだ。


同じ青と白の町並みなのに…町の北側の明るい感じの雰囲気から打って変わって、

南の地域はどこか厳かな町並みのように感じられ、重たい感じが漂っていた。

宗教的な国家本来の、規律のとれた厳正な国の姿、なのだろう。



やがてその南端、小高い丘を上っていった先にある、荘厳なお城へとたどり着いた。

エヴェリエはルルメラルアの一貴族…なのだが、元々は独立した国である。

だから城があるし、領主の居城はこの由緒あるお城なのである。


馬車は、そのお城の中へと入ってゆく…



町から見ると、南の岩壁の下にお城があるような印象だったけれど、

実際のところは、それほど岩壁に近いわけでもなかった。

近すぎると岩壁の影になってしまうであろうが、少なくとも馬車の停まったこの広場には、かろうじて陽の光が落ちている。



馬車は、城の内門前の広場で足を止める。

馬車の外には、白・薄青・濃青三階調兵装の兵士が両側に整列していた。


彼らが手にするのは、槍の穂先とその両側が斧状と槌状になった、エヴェリエ公国兵特有の矛槍(ハルバード)だ。三つの武器が合わさったような感じに見える、“3”を強く意識した形状である。


その矛槍が、同じ角度、同じ間隔で全く身動きもなく、左右にずらっと並んでいた。



「ようこそお越しくださいました…」


両側に並んだ兵の向こうで、あの女騎士、イヴが直々に出迎えをしてくれていた。


「こちらこそ…この度は私共をお招きいただき、光栄の至りで御座います…」


一人前に進み出たクレージュは、恭しく深いお辞儀をした。

こういう所では、場馴れしたクレージュに任せておくに限る。

イヴは友人として招いてくれてはいるが、やはり周囲に他の人たちがいると、それなりの礼儀は必要になる…。

クレージュに(なら)って、アルテミシアが頭を下げ、フローレンもあわててそれに倣うように礼をした。





イヴが自ら先導し、城内を歩いた。

クレージュ、アルテミシア、フローレンはそれに続く。

その後ろから、小柄なメイドのレーナが、少し間を空けて付き従っていた。


エヴェリエ城は、悪く言えば非常に古い城…良い言い方をすれば、とても伝統ある城である。

この城に、助爵の地位を持つ三人が招かれている…というのは、別におかしな事ではない。


だが、その外見…

この厳かな雰囲気の場内にあっては…クレージュの大きく脚の見える色鮮やかな東方ドレスですら、やや浮いた感じに映ってしまう…

もちろん、アルテミシアの鼠径部まで大きく食込んだ月影ボディスーツはそれ以上に…

特にフローレンの花びらビキニ鎧に関しては、もう完全に場違いな感じは否めない…。


だが、

すれ違う兵士や使用人たちは、その誰もが立ち止まり、そして(うやうや)しく礼をする…

中には、武官や文官、または神官と思しき人物もいたが、その全員がイヴとその客人に向かって深く頭を下げていた。

この城にそぐわない衣装だろうと、客人を敬う態度は全員が徹底している。


そんな荘厳な雰囲気の中を、この冒険者女子三人は歩いていく、のだけれど…


クレージュは動じない。

お城は始めてだろうけれど、全く臆する事なく、静かにイヴの後をついて歩いている。


アルテミシアは…ちょっとおちつかない感じはある。

人前で歌ったりする以上、緊張を和らげる術を知っているようだ。


フローレンは…いつもの彼女じゃあないくらい、緊張を隠せない…

微妙に動きが硬くなって歩幅が乱れ、気になって辺りを見回しているような感じすらある…

お城なんて堅苦しい場所は慣れない、居づらい、落ち着かない…

戦場や危険なダンジョンのほうがまだ気が楽なのだ…。



とても長い時間、通路を歩いた…ように、慣れない三人は思った。

二度階段を上がったので、ここは三階部分に当たるはずだ。


やがて、二人の衛兵が守る大きな扉にたどり着いた。

イヴは皆を、その中へ招待する。


部屋の中は、この女騎士の執務室、といったところだ。

かなりの広さがあり、机やソファ、その他の装飾品に至るまで高級感が溢れている…。

侍女のレーナの他に、部屋の中にはもう一人長身の紫髪のメイドがいた。


「ごめん、気を遣わせて…もう、楽にして頂戴。

 …大丈夫? フローレン…?」


イヴが気遣う。

堅苦しく接する必要なく、タメ口を気にしなくていい…という事は、二人の侍女はイヴにとって気心の知れた存在だという事だ。


「んー…なんとか、だいじょうぶ…」

フローレンも、やっと緊張が解けたのか、…かなりほっとした感じだ…。


「お城とか…緊張するわね♪」

「さすがに、ね」



イヴはその長身のメイドに、もてなしの指示を出していた。


このメイドもかなり腕が立つ…という事を、平常時のフローレンなら、その動きから見て取るだろうが…やっと安心した今の彼女は、そんな事を測る余裕もなさげだ…。



二人のメイドが運んできた紅茶と焼き菓子で一服入れる。

さっき宿でよばれたものより、ずっと高級なお茶だ。


ゆっくりお茶とお菓子に手を付けるところ、フローレンもやっと緊張が解けたような感じだ。

その横でアルテミシアはひとりだけ、焼き菓子を頂くペースが速い…

焼き菓子も高級品だから、スィーツ乙女(オトメ)が見逃すはずもない…。


世間話から始まって、先日のダンジョンの話になって、あの村の話しになってゆく。

クレージュもあわせて、三人とも気軽な感じで話していた。


イヴはこの三人を友人として招いている。

だから気楽なのだ。

本来だったら、もっと堅苦しい謁見の場が設けられ、言葉を交わすにも口を開くにも形式張ったものになる。

何しろ…この女騎士、イヴは…身分が違いすぎるのだ。



「私の事…もう、わかってるんでしょ?」


イヴが唐突に聞いた。

そこは三人とも、うん、まあ、という感じだ。



麗将軍ファリス



イヴと名乗っていた彼女は、ここエヴェリエの公女であり、皆からそう呼ばれている。


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