94.古代ダンジョンのお宝
いよいよお宝の受け取りだ。
四人が揃ってその画面の近くに寄ると…
その画面に、読めない太古の文字が表示されていく…
一番上でキラキラ七色に変色している飾りのある文字は、なんとなく…
「おめでとう!」
とか、そういう意味の事が書かれてる気がする。
どこにも触れていないけれど、突然、頭にイメージが入ってきた。
同時に画面にも読めない文字が表示され、古代語のようなアナウンスも流れるのだけど、そちらは誰も言葉がわからない…
『ダンジョンクリア報酬…配布…
亜空間ポーチ 容量2000竓
女性用鎧 色・形状可変機能つき
以上2点はクリアメンバー全員に配布…
運命絆装備のため他者への譲渡不可…』
「あ…」「なんか、来たわね…」
全員に換装装備と亜空間ポーチが与えられたのが、なんとなく感覚でわかった。
「やっとわたしも、亜空間収納持ちね…」
意外にもフローレンほどの冒険者でも、亜空間収納系を持っていない。
というより花月兵団メンバーではアルテミシアしか持っていない。
このダンジョンほどの古代のみならず、もっと後のヴェルサリア時代にもこの亜空間収納技術は確立されているので、わりと出回っていそうなのだけど…意外とけっこうレアなのだ。
その理由は、必ず絆装備となって、他者への譲渡が行えないからだ。
通常、他人の亜空間は触れないが、持ち主が同意するか、持ち主を倒すなど圧倒できれば、中の物を取り出す事はできる。この辺りは物理的なバッグやポーチと同じだ。
亜空間ポーチよりも容量の多い“亜空間バッグ”を既に持っているアルテミシアが、亜空間ポーチの使い方を三人に指導する。
「こう…頭で念じながら、空間を探るようにして取り出すの♪
中に入ってるものを強く思えば取り出しやすいわよ…♪
だから何も入ってない最初が難しいんだけど…あれ?」
アルテミシアは何か取り出した。
長細い透明容器のピンク色のポーションだ。
古代の高性能ポーションだ。
「あ、ポーションだ」
さっきフローレンが、どこからともなく取り出したものと同じだ。
亜空間持ちでもないのに、どこから取り出したか謎だった、あれだ。
「おまけ?♪ 十と…二本、入っているわ♪ こういうサービスは嬉しいわね♪
…みんな、これを見て参考に、探ってみて…♪」
各ポーチに十二本ずつ、おまけのポーションが入っているらしい…
アルテミシアの手にあるそれを見て参考にして…それを頭で念じて探すと…
三人ともすぐに取り出すことができた。
「このポーションって、良い物?」
さっそく取り出してみた、この親指ほどの大きさしかない薬の効能について、イヴはちょっと懐疑的なようだ。
「ええ♪ 小さく見えるけど、効能はすごいわよ♪
私でも、魔法で治しきれない大きな傷だったら、迷わず使うわ♪
傷を受けた直後だったら、目とか指とか損傷した身体の部位再生ができる場合もあるほどよ♪」
アルテミシアは以前、これを使って致命傷を治した事を思い出した。
そう、海賊討伐の時、ショコールの女兵士に使った時だ。
「成程。それは良い物ね! 有り難く頂くわ…」
イヴはいかにも軍人らしく、治療薬の説明を聞いて大いに興味を示していた。
戦いに赴く身としては、自分や仲間の重傷や命を救える物ならいくらでも欲しいだろう。
「そして…次は、これ♪ みんなで試してみましょ♪
オシャレ機能つき女性用鎧、ってやつ♪」
そう言ってアルテミシアが装備換装を使用…
光の螺旋が消えた後…
フローレンの着ているようなビキニ鎧姿になっていた。
女性用鎧というのは、いわゆるビキニアーマーの事だった訳だ。
アルテミシアが着ているのは、鉄のビキニアーマーだ。
「オシャレ機能?」
「ええ、色とか細かい形状を自分好みに変形できるみたいね♪
これは、私にはちょっと色が地味…かな♪」
アルテミシアは、灰色だった鉄ビキニを、白銀色に変色させた。
でもすぐにその白銀の鎧も「髪の色と被るから♪」とか言いながら、黒っぽい金属色に変化させ、さらにそこからやや紫がかった黒い金属色に、自由に変色させている。
「あ、なんか面白そうね!」
フローレンも装備換装してみた…
花びら鎧はもともとビキニ形状なので、色以外は…あんまり変わった感じはしないのだけど…
装備換装した姿は…、鉄製のビキニで、下も前垂れ後垂れじゃあなくて、ショーツ形式…この姿が基本形のようだ。
鉄パンツなので痛そうな感じもするけれど、そこは穿き心地は悪くない…
“1点未満のダメージ無効”効果のおかげなのか…論理魔法装備とは女子の身体に優しいものなのだ。
フローレンはそこからブラとパンツを鱗状鎧形状に変形させ、普段着の花びら鎧に近い形にしようとしていた。
下のパンツ形状を前垂れ後垂れに変形させ、胸を覆う部分はもう少し少なく…わりとギリギリ…色も赤に変色させたけれど必ず金属色になるので、花びら鎧の色とはちょっと違う…
それと、さすがにヒモ部分を蔓草にすることはできないようだ。
イヴとセレナはその装備を試したりすることもなく、あっけらかんと眺めている…
「論理魔法装備としての防御性能も…まあまあ…♪
冷熱耐性、精神耐性、魔法耐性、低速治癒、病毒耐性、などなど耐性付き…
防御的には、このビキニアーマーは+6相当ってところね…♪」
「+6? それは、何の数字?」
二人の着せ替えの様子をただ眺めていたイヴが、そこにちょっと興味を持った。
「魔法強化を数値化して評価したものね♪ +6は軽い金属鎧くらい、かな?
ちなみに、貴女の着ている板金鎧が10くらいの評価よ♪
…あ、でもイヴの鎧は+2相当の硬化が付与されているわね…
これを着ると単純な物理防御力は半分くらいに落ちる感じ♪
あくまで、鎧を着ている部分に関しては、だけどね♪」
「へえ…その…裸みたいな鎧が、そんなに…」
イヴは自分の板金鎧に触れながら、そう言った…。
ちょっと信じられない感じのようだ…。
「ええ♪ それが鎧を着ている部分だけじゃなくって、全身にね♪
その上、魔法耐性や冷熱耐性も働くようになるわよ♪」
この太古のビキニアーマーと、ヴェルサリアのアクセサリでは、防御力のみならず各種耐性も、重複する項目が多い。
ヴェルサリアのLV1装備アクセサリも、太古の論理魔法装備を参考に作られているから、当然と言えば当然なのだけど…。
論理魔法装備では、重複している箇所は、最も高い効果のみが現れる。
だからこのビキニ鎧(+6)とLV1アクセサリ(+4)を併用しても、防御力は+6相当だ。
ただもちろん、ビキニ鎧の金属部分は金属素材特有の防御力はある。その部分だけ見れば、総合計すればイヴの鎧とほぼ同格の硬さ…という見方もできる…ほんとうにごく僅かな部分だけ、だけど…
通常、イヴくらい重厚な鎧だと、魔奈の流れが阻害される。
なので、ここに入る前にあげた指輪、ヴェルサリア装備LV1の効果がほとんど発動しないはずなのだ。防御効果も、各種耐性も…だ。
“1点未満のダメージ無効”以外の効果は、全く現れないはず…
なんだけど…なぜかイヴの場合、冷熱耐性や魔法耐性、低速治癒の効果がごく僅かに現れている…。
おそらく…イヴ自身の魔奈循環が卓越して優れているので、板金鎧による阻害はあるが、僅かにでも論理魔法装備の効果が現れているのだ…。
珍しいケースだけど、ありえないことではない。そう、たとえば…仮にフローレンが重厚な鎧を着ても、同じ様に多少の効果は現れるだろう…という予想は立つ。
「よければ、装備換装の仕方だけ教えておくわ♪
今だけ、この鎧に着替えられる?」
「そうね…念の為…ね…いえ、でも…この格好は…ちょっと…」
イヴは…ちょっと拒否的だった…
この形状の鎧を着るのが、恥ずかしい、という感じだ…
貴族の令嬢だし、男の兵たちを指揮することもある立場だとしたら…、
この格好を断るのは何となくわかる気もする…。
「さっきの雷獣みたいなのと戦う時とか、軽装で動きたい時は、これに装備換装したら楽になるわ!」
そうフローレンが諭す。
だけど言われるまでもなく、イヴはその事を感じていた。
防御とは、単純な物理的な防御力だけじゃあない。
それが今回の戦いでよくわかった。
通常の人相手の戦いでも、火をかけられたり、魔法使いに遭遇する事もあるのだ。
それに、兜代わりに着けている髪飾りも、これも論理魔法装備だけれど、それ程の防御効果はない…アルテミシアの解析によれば、せいぜい+3といったところ…
+3相当では矢を防げない可能性がある…ので、乱戦になる戦場ではさすがに兜は被る。
でも全身+6なら、金属鎧と同格…ということで、狙撃矢はムリでも流れ矢程度なら防げる防御性能という事だ。
「着心地もいいから、野営中に寝る時なんかもオススメよ!
鎧を着ていない状態で襲われた時も、守られてるから安心だしね!」
そのフローレンの一言が、このお堅い女騎士の気持ちを納得させた。
「成程…夜襲の時とか…そういう状況で命を拾う可能性もあるのね…
これは…自分を高めるために…必要な…精神修行のようなものね…!
よーし…!」
ビキニ着るだけの事で、えらく大袈裟だ。
しかも女子しかいないのに…。
この女騎士にしてみれば、この露出度の高すぎる鎧を着ることは…
剣を取るのとはまた違った意味で…大きな戦いなのだろう…
「セレナはどう? かなり硬くなるわよ♪」
アルテミシアは、何の反応も起こさないセレナにも勧めてみる…のだけれど…
「イヤイヤイヤ!!! 絶対イヤですー!!!」
ものすごい勢いで拒否された…
「他の人にはあげられないから…使わなきゃお蔵入りになっちゃうわよ…?
練習だけでもしておいたら…?」
フローレンも一緒に勧めてみる…のだけれど…
「そんな裸みたいなの…! 着るヒトはおかしいです!
そんな格好で人前に出るヒトは、ヘンタイです! 気が知れません!
……あ……」
フローレンと目があった…
なんか気まずい沈黙が訪れる…
「あわわゎゎ…ご、ご、ごめんなさい! ごめんなさい!
そ、そういうつもりで言ったんじゃ…あゎゎゎ…
フ、フローレンさんはヘンタイだけど、あああ…違、違う…ヘンジンなだけ…
ああ…あわわゎ…また違、違…えっと…何?
えっと…露出狂…? ち、違! あゎゎゎ…」
自分の発言でどんどんドツボにハマっていく挙動不審娘…
見ている方が気の毒な気持ちになっていく…
守りの力はすごいけど、ちょっと残念なところがある、いたいけな少女だ…。
「あ、うん…えと、気にしてないから…うん、大丈夫!」
フローレンも、気にしてはいないけれど…
何とか…聞いていないことにしようと、ごまかすのに一生懸命…
「セレナったら…そんなにイヤなんだ…♭」
この嫌がり方を見ていると…さすがにアルテミシアも、ムリに、とは言えない…。
なので、イヴだけがこの軽装鎧の装備換装を練習する事になった。
イヴの身体が光の螺旋に包まれ…
その光の中から、清純な女騎士がビキニアーマーに着替えて現れる…
こういう格好が不慣れ…なのか…
イヴは胸を抱えるようにちょっと隠して、かなり顔を赤くしている…
「とっても、似合ってるわよ!」
そのフローレンの言葉に…
イヴはさらに下を向いて、腕組みに力を込めて、そして顔を赤くする…
重厚な鎧に隠されて、全くわからなかったけれど…
かなり大きい…フローレンと同じくらいはある…
「あー…えっと…♭ まずは色変えからー…♭」
その大きさにちょっと敗北感を感じながら…
アルテミシアは説明を始めた…
イヴはまず鎧の色を青に変えた…といっても金屋光沢のある、青銀という感じ…
肩当てとか腰当てとかいっぱいつけて、基本形からはかなり露出度は下がった感じだけど、青の金属色が、彼女の蒼穹の剣とよく似合いそうだ。
「いい感じじゃない♪」
「うん。でも、もうちょっと飾りの少ない形にも変えれたほうがいいかも…
そのまま横になってもジャマにならない、すっきりした形のものに、ね」
「? というと…?」
「さっきも言ったけど…あなたの場合、それを着て戦うというよりは、野営の時なんかに軽い衣装に変える事のほうが有用だと思うの。
重い鎧をわざわざ脱がなくても、装備換装するだけで軽装になれるし、何かと便利なのよ」
このビキニアーマー歴の長い先輩の言うのは、着たまま寝れるような形を選ぶのが良い、という事だ。
「成程! 下着の代わり…という事ね!」
と考えると、イヴは気が晴れた感じだった。
先程までの羞恥心もどこに行ったのか…鎧の面積を一気に減らしたスタイルに変形させた。
というか…今度は…かなりギリギリだ。
ビキニというよりは、ほとんど鎖のヒモだけ…上も下も重要な部分しか隠れていないような…ほんとうに普段着の下着代わりに使おうと考えているのかもしれない…。
その姿で人前には出ない、と思っているから、恥ずかしくはないのだろう…。
アルテミシアは元の月影色ボディスーツ姿に戻っていた。
「防御的にも外見的にも、私には使い道少ないかな♪」
フローレンもいつもの姿に戻っていた。
「私も…この花びら鎧が破壊されちゃった時、くらい…かな?」
花びら鎧が破壊されるほどの攻撃を受けることも稀だし、破壊されても一日経てば再生するので、この鎧の出番は、あまりなさそうだ。
運命の絆装備は一人一つに限定されない。
このように二つ目は予備に持っておくことも可能なのだ。
それに…もしフローレンに娘が生まれて大きくなった時、その子に花びら鎧を譲った後に、このビキニアーマーを着る機会があるかもしれない…彼女の母がそうであったように…。
「でも、鎧の形を変えれるのって、ちょっと面白いわよね?」
「そうなの♪ その事について、ちょっと考えてたのよね…
この鎧つくった人のセンス、っていうか…
ビキニアーマーって、要は女性用の装備でしょ?♪
だったら当然、女性らしくオシャレ機能とかが充実してると、嬉しい訳♪
毎日違う服を着るように、鎧の色形を変える楽しみがあるのはいいな、って事♪」
「なるほど…そういう考えはなかったわね…」
フローレンはオシャレとかそういう事にはちょっと疎いけど…
まあアルテミシアの考えは、なんとなくわかった気がする。
「これって…男性がここにいたら、男性用の衣装がもらえるのかしら?」
イヴが二人に質問した。
興味本位なのか、もし同じようなダンジョンを見つけたら、エヴェリエの男性とパーティを組んで攻略を考えているのだろうか…
「どうだろ…? こういう鎧とかもらえるの、私達も初めてだし…♪」
「男性冒険者と一緒に冒険した事あるけど…
あの時のお宝は、いくつかの中から選べる、って感じだったわよね?」
「ああ…あれね♪ ファルコンが姪っ子のために双剣を選んで、ヴァールは妹のために笛を選んで、ショーはケイトにあげるって七色の宝石を選んで、トースルは山盛り古代特選肉料理を選んでユーミと食べてたやつ♪」
「そう、あなたが古代スィーツを選んで、レイリアが古代のお酒を選んで、何も残らなかったやつ!」
「貴女だって# 古代の七色花の種とか、選んでたじゃない!#」
「全然、違うわ! だいたい、私はまだ、あの種、持ってるし…!」
「えっと、要するに…男性でもそれなりの物はもらえそう…ってことね…」
ちょっと話が脱線したのを、イヴが二人の話を切った。
イヴは一度細いヒモみたいにしたビキニ鎧を、肩当て腰当てつき露出度の低いものに戻していた。早くも二つのスタイルへの変形ができるようになった感じだ。
一旦止まっていた画面の表示が、再び動き出した。
彼女たちの話のタイミングをちょうど見計らうような感じだ。
あとは…全体報酬…つまり全員で分けるやつだ。
報酬である各アイテムが、画面での説明の後、空間に浮かび上がるように実際に現れる…。
その効果の説明は頭にイメージで浮かんでくる…のだけど…
ここの三人に対しては、魔法的な効果に関して、アルテミシアからの補足説明が必要だった。
まずは、手の平より小さめのお守り。
平らな円形の表面には、数多い古代文字や模様が刻まれ、炎や氷の記号が九つの宝石のように輝いている。宝飾品としても美しい一品だ。
「魔法防御のお守り…九大属性に対する抵抗力がかなり上がる逸品ね♪
さすがに記述装備の唯一品ってほどじゃあないけど、汎用品にしては最高ランクじゃないかな…♪ 持ってるだけで効果があるのよね♪ 重い鎧にこだわりがあるなら、イヴにちょうどいいかもよ♪」
通常こういう複数属性に対応する守りは、瞬間的に受ける属性に対する防御を一気に高くする感じだ。
だから複数属性を同時に受けても、全部を守りきれるということではない。
「九大属性の防御だけだから…七大元素の水とか風の攻撃は防げないけど…♭」
けど、水と風と光の祝福を受けた、その妖精の血が強いイヴなら、水も風も全く問題なさそうだ。
「それと…天の理とか冥の災いの技も防げないからね。
と言っても、天冥の技を受ける事はめったにないんだけど♪」
天の炎はそこにいるセレナが使えるのだけど…実はそれほど使い手はいないのだ。
神の教義による高位の使い手のみに限られる印象がある。
次は、そのセレナにぴったりのブローチだ。
ダイヤモンドのように色は無色だけど、四葉のクローバーのような宝石の並んだ形状だ。
これも、装飾品として見ても価値が高そうな一品だ。
「この宝石のそれぞれに、魔法や術をあらかじめ込めておけるのよ♪
そして、必要な時にすぐに発動できるの♪
宝石の数だけ…四つまで込めておけるわね…♪」
高位の治癒術や守りの術を込めておけば、瞬時に発動させる事ができる。
実はアルテミシアもこういうアクセサリを持っているのだけど…今日まで全く使う機会なく過ごしている…高レベルの魔法ばっかり封じていて、なかなか使い所がないのが実情だ…。
もしあの重力場の虚魔法を込めていたなら、雷獣相手に迷わず使っていたところだったのだけど。
次は、三枚の小さな楕円形の金属の板を、細い鎖で吊るした首飾りだ。
金属板は鉄に近い素材…文字がぎっしり刻印されている…
宝飾品としての価値は低そうだ…
「えっと、これは…召喚魔法のアイテム…?♪」
「召喚魔法のアイテムって…珍しいわね。何を召喚するのかな…?」
フローレンも物珍しそうにしている。
「えっとね…♪ えっ? 黒の女戦闘員集団…? あの…?」
何と…あの黒レオタードの女兵士たちを召喚する魔法、らしい…
「一度の使用で十二人の女戦闘員が出現…効果時間は、十分…?」
十分、という古代の時間の単位は、この中では魔法に精通したアルテミシアにしかわからない…。
「使用回数は、三回限り… 一度召喚すると…次まで約一ヶ月は使用不可…♪」
三枚付いている金属板の、一枚で一回、という事だろう。
「あの鋼の弾を撃つ古代武器を持って現れてくれるなら、強いかもよ」
フローレンの言う通り…そして多分、あの武器を手に現れる予想はある。
このフロアの女兵士のほぼ全員が、あの筒状武器を持っているのだから。
「人間を召喚とか、そんなのありなんだ…」
イヴが意外そうな表情をして聞いてきた。
「まあ…召喚って言っても…どこかにいる人とか獣を呼び出す感じじゃあなくって、この世界に記述登録された存在を、具現化させる魔法だからね♪」
だから召喚魔法と言っても、正確にいえば召喚している訳ではないのだ。
だが、意思のある特定の英霊や聖獣を文字通り"召喚”する魔法も、この世界には存在が確認されている…。
「だから、その人の姿をしていても、再現された分身みたいなものよ♪
その人は姿や技能を提供して、世界に記述されて登録されているだけだから。
召喚されても本人は何の関係もないはずよ♪」
「そう。召喚魔法って、人でも獣でも、その場でやられてしまっても、実際に死んじゃう訳じゃあなくて、また次の機会に呼び出せたりするものね」
ここにいる女兵士たちも、おそらくそのような存在だ。
彼女たちが仮にここで戦って死んでも、その姿を提供した本人は遥か古代に生きていた人なので、関係ない…
それどころか、今の時代にはとっくに、生きているはずがない。
「召喚魔法って…よくあるもの、なの?」
「いいえ、めったにないわよ。幻獣召喚はかなり高位の技だしね。
人を召喚するのはもっと珍しいかも…」
「一人だけだけど、女兵士を毎日召喚できるのとか、持ってるヒトもいたわ♪
もっともその彼の場合は…♭」
美人の女兵士を戦わせるのではなく、毎晩寝床で呼び出していた訳だけど…。
古代にはこういう選ばれた美しい女兵士たちがモデルとして、何人も世界記述として登録されているようだ。尤も、歌手、踊り子、娼婦、召使いなど、兵士に限らず女性が登録されているケースが多い。もちろん男性が登録されているケースもある。
それに、動物、道具、食べ物、はてには建物など、多種多様に情報が世界に記述され、登録されている、という。
他の魔法道具…
片手で持てる水晶の板…
「解析してみないとわからないけれど…何らかの遊戯道具…みたいね…」
小さな正八面体の水晶…
「この形は…映像が記録されている水晶ね…♪
魔奈感知で閲覧できるけど、投射する方法もあったはず…」
「どんな映像が入ってるの…?」
「調べてみるわね♪」
アルテミシアは魔奈感知の魔法で、垣間見てみた…
「う~ん…見ないほうがいいわ…♭♭♭
これ、高値で売れるから、魔法店で売却しましょ…っと…♭」
「へえ…そうなんだ…」
男女が、その…全く何も着ずに“行為”をしている最中の映像…だなんて、この三人には言えそうもない…。
宝飾品や芸術品の類…
まずは、色の可変し続ける謎金属のチェーン…三重にすると首飾りの長さになる…アクセサリかどうかも含め、正式な使用用途は不明…。
つぎに、宝石つき謎金属の腕輪、古代数字で時間を刻んでいる…つまり時計らしい…そしてどうやら七日周期で石と金属の色が変わるようだ…。
そして、謎金属の薄い飾り板、十二神の円環を思わせる図柄…その中央をあわせて、合計十三個の宝石が埋め込まれている…宝石が時々強く輝いたりする…それも不規則に…。使用用途は不明…。
最後に、置き型の宝飾ランプ…魔奈機関による永久使用…詳しく調べないとわからないけれど、どうやら白以外の色の光も出すことができる、らしい…
ともあれ、これらは魔法宝飾品として、価値が高そうである。
あとは…
薄着の女の子の像…色鮮やかで素材はやわらかい樹脂…?
各ページに露出度の高い女性が鮮明に描かれた大きめの書物…
横長四角形の紙切れの束…壮年男性の肖像と、数字らしい古代文字が精密に描かれている…
…これらは材質保存の魔法効果が永久的に掛けられているけれど、普通の芸術品や用途不明品だ。
だけど、お宝として出てくるという事は、古代には価値があった物、なのだろう…
お宝は以上である。
「五階層しかないダンジョンにしては、メチャ報酬いいわよね!?
全員に亜空間ポーチと換装防具だから、それだけでもかなり当たりの部類よ」
「へえ…そんなものなのね…」
ダンジョン初体験なイヴとセレナには、他がどんなものかわからないのだ。
「そうよね♪ 全体報酬の数からすると…本来はもっと多人数で挑むように設計されてたダンジョンだったんじゃないかな…最後の雷獣からの虚獣なんて、通常だったらかなり難易度高い感じじゃなあい? ま、私達四人だけでイけちゃったけど♪」
「なんか…よくわからないんだけど… 古代金属の装飾品はまだしも…
少女像とか、女性絵画の本とか…あれは何なの…? ガラクタ?」
「ううん♪ 微妙なモノもあるけど、どれも欲しい人からしたら、けっこうお金積むようなお宝よ♪ 商業都市アングローシャの魔法物品店で高く売れるかも♪」
で、アルテミシアはそのアングローシャへ行く予定なので、そこで換金してくる…
その金額の半分をイヴたちに渡す、って話をしたのだけど…
「あ、私達、お金はいいわよ…貴女たちから指輪をもらったからね」
あの指輪、ヴェルサリア装備LV1の事だ。
セレナは守りのアクセサリを、イヴは換装武器を、とても喜んでいる。
まあ、確かに…各種防護がついて、多種多様な武器や道具が使えるようになり、あの指輪の価値はかなり高い…今回手に入ったどのアイテムよりも高いはずだ。
話し合いの結果…イヴは属性防御のお守り、セレナは魔法込めのブローチだけを、全体報酬の中から受け取った。
「いい経験ができたし、私としては、これでも充分すぎる取り分よ。
ポーチと、下着…いえ、鎧も手に入った事だしね」
報酬の残りは全部、フローレンとアルテミシアの取り分でいい、という。
お宝の分配も終わったので…
部屋の外に出た。
扉のすぐ横では、ここまで案内してくれた乙女兵士が、この部屋の見張り役のように立ち続けていた。筒状武器を手に身じろぎひとつせず、姿勢良く立っている…。
ダンジョン退出の意思を伝えるまでもなく…
彼女は動作機敏に敬礼すると、また先導して歩き出した。
その丸出しのお尻のカワイイ女兵士に付いて、向かった行き先は…
ここの第一階層で見たのと同じ、扉の並んだ空間だ…。
文字盤…もとい古代数字の描かれた縦長な板が各部屋の前に付いている。
女兵士は、その個室の扉のほうを、手で指し示した。
説明はないけれど、この文字盤で“1”に当たる場所に触れればいいのだ。
ダンジョン内で計算問題をクリアしているのだから、このくらいは説明なしで気付ける、という事だ。
"1”に触れると、その古代数字に光が灯り…
少しして、警告音と共に、個室の扉が開いた…。
扉の中は、小さな部屋だった。
まあ四人が入るくらいには、広さは充分だ。
「ありがとうね!」
フローレンがまた声を掛ける。
その女兵士は、また綺麗な敬礼姿勢をとった。
その個室の扉が閉まるまでずっと、四人を見送っている…。
個室が動く感覚があって…
やがて警告音が鳴って、自動的に扉が開く…
一階層に戻ってきた。
そのまま歩いてこのダンジョンを出た。
西の空に夕焼けが見える。
外はもう日が暮れかかっていた。
「さあ、村に戻りましょう!」
ダンジョン編はこれで終了…
ここまで長く書く予定なかったんですが…




