90.炎と氷の洞窟(4F)
諸理由によりちょっと更新が遅れております…申し訳ありません…
時間がかかってもこの物語は最後まで書ききる気でいますので、まあシなない程度に頑張ります。
硝子とも水晶ともつかない、透明な丸い管の中…
アルテミシアは女騎士イヴと共に、移動する床の上にいる。
天空の神殿から上にのぼっていって、辺りはすっかり暗くなった。
その“部屋”の中だけは、天井?に据えられた光石のような白い照明のお陰で、仄かに明るい…
やがて床の上昇は止まった…
そこには入ってきた時と似たような扉があった。
顔を見合わせ、同時に頷く。
アルテミシアが軽く触れると、扉はゆっくりと両側に分かれるように開いていく…
そして、開いた扉からは…
かなり強い熱気が流れ込んできた…。
「暑いわね…」
「ええ、多分、本当はもっと熱いはずよ♪」
守りのアクセサリの冷熱耐性のお陰で、多少の暑さは無効化できる。
それでも暑いと感じるということは、通常ではかなりの熱さのはずだ。
イヴはあの指輪を受け取って間もないので、まだ温度の感覚が正しく読めてはいないようだった。
イヴが先に扉を抜け、アルテミシアが続く…
“部屋”の外は岩の洞窟のようだ。
まっすぐに続いている。
薄暗い…
通路の先からは、松明や蝋燭のような、火で照らされた色の明かりが溢れてくる。
「えっ…?」
細い洞窟を抜け、広い部屋に出たのだけど…そこは…
溶岩の流れる灼熱の洞窟だった…
部屋、というよりは広くなった洞窟という感じで、
真ん中がやや高くなって通路が真っ直ぐに通っているけれど、両端は溶岩溜まりが長く続いている。
「何…これ…? 燃えてる…? いえ…」
「あー…溶岩ね、暑い訳だわ…♭」
そういえば、イヴは溶岩を見るのが初めてかも知れない。
どんな物なのかは知識はあるようで、すぐに状況を理解した様子だ。
通常なら、ここにいられないくらい暑いはずだ。
アクセサリで熱が軽減されていても、かなりの熱が伝わってくる…
でもここを進むなら、冷熱耐性LV1程度の熱軽減ではムリだろう。
それでも何とか進もうとするイヴを止めた。
「行くのはちょっと待って# 耐火の魔法かけるから♪」
“暑さ”はともかく“熱さ”には耐えられるものじゃあない。
そもそもイヴは板金鎧を着込んでいるから、熱を持ってしまって、身体が蒸された感じになってしまうだろう…
そうなると、いかに優れた戦士でも、身体の自由が効かなくなる…
<<炎熱抵抗>> レジストファイア
薄青色の魔法陣から流れ出る氷のような粒子が、二人の身体を包み込む…
そして、暑さを全く感じなくなった。
「これで大丈夫♪ この感じだと、炎や溶岩の罠があるかも知れないし、どうせ火を纏った敵とか出てくるだろうしね♪
ところで…
あの子…セレナも、こういう魔法、使えるのよね?」
「ええ、多分大丈夫よ。あの子、あんな感じだけど、守りの術に関してはエヴェリエ公国でもおそらく一、二を争うくらいだから」
「え~! そうなんだ…♪」
あの…「あわわゎ…」とテンパってる、か弱そうな少女が…
ちょっと、いや…かなり意外な感じではあるけれど…
でも先程の飛竜の攻撃を弾き返した、あの強力な守りの術を見れば納得も行く。
アルテミシアはちょっと大きな声でフローレンたちに呼びかけた。
例の遠隔通話の魔法だ。
この魔法は、常に声が聞こえているわけじゃあない。
そのようにも設定できるけれど、繋ぎっぱなしだと、逆に周囲への注意力が下がってしまう危険性もあるから、会話は必要な時や緊急時だけだ。…大声を出せばもちろん聞こえてしまうけど。
通話を始める時、最初にその話したい意思を込めて呼びかけるのだ。
そして周囲の音の影響を考えて、多少大きめの声で話す必要がある。
「もしも~し♪ そっち、どう? 暑さで倒れてない…?」
『暑い!? 何言ってんの!? めっちゃ寒いわよ!』
フローレンの声が帰ってきた。
通話を意識するまでもなく、やけに声が大きい…
『氷の洞窟って感じ! あちこち凍ってるし!
今セレナに寒くない魔法掛けてもらったとこ!』
「こっちはかなり暑いわよ。溶岩流れてるし♪」
『あー…炎と氷か…そういう仕様な訳ね…』
「セレナに言っておいて♪
多分炎の、いえ、そっちは氷の敵が襲ってくるから、気をつけてって#」
『あ、それ言わなくても大丈夫。あの子、自分で警戒してるわ。
なんか、身体の周りに炎か光みたいなの出して守ってるみたい』
フローレンの隣りでは…
セレナの身を守るように、その周囲を三つの輝く炎が廻っている。
レイリアの使う天の理の炎のような、白く輝く炎だ。
「セレナ! フローレンの言う事を聞いて、しっかり手助けするのよ!」
『あわゎ…はいぃ! がんばり、ます…!』
口調からは厳しいお姉さんだけど、妹のことを充分信頼している感じだ。
そうでなければ、こんな所に同行させないだろうし、このダンジョンの先に進むなんて言わなかっただろうし。
「こっちはまっすぐ一直線みたい♪
…ええ、そっちもそうね♪ 対称型ダンジョンよね♪」
『じゃあ、お互い慎重に進みましょう!』
「「了解!」♪」
危険な洞窟を進む事になる…。
それでも、この二人と二人なら、気を抜かなければどうということはないだろう…
薄着のフローレンが氷のほうに行ってしまって、厚着のイヴが炎のほうに来てしまった事は…まあ何というか、めぐり合わせの悪さみたいなものを感じるけれど…
まあどちらにも対炎熱、対氷冷の術使いが居るので些細な問題にすぎない。
アルテミシアも戦闘魔法の準備をしておく。
この地形だと十中八九、溶岩や炎の敵が出現する。
だから、水や氷の魔法が有用なのはわかっている。
しかし…こういった熱い場所では、水や氷を用いる魔法は発動しにくい。
生成した瞬間に、熱で削がれるからだ。
だからちょっとした工夫が必要になる…
先日見たイヴの剣技は、多量の雨を降らせるものだった。
屋内で使えるかどうかはわからないけれど、かなり頼りになりそうだ。
イヴはいつの間にかその手に、蒼穹の剣を現していた。
ただの剣じゃあない…おそらく、唯一品…
青空を映したような色の、神々しい剣だ。
アルテミシアがそんな事を考えていた…その矢先…
突然、イヴが立ち止まった。
「囲まれてるわ…!」
イヴはちょっと緊張している様子だった。
こういう戦いには慣れてなさそうだから、ムリもない…
アルテミシアには(あ~…やっぱり来たわね~…♪)と、まあ予想通りの展開だ。
石畳とも“氷畳”ともつかないが、洞窟の中央は通路が設けられていた。
洞窟の左右の端は、凍てついたように凸凹な氷の壁になっていて、
氷明かり、とでも言うのか…氷壁が光を発しているかのように感じる…
それ程に、この洞窟は明るい。
フローレンはその石とも氷ともつかない床を、花咲くサンダルで蹴って軽やかに進んでいく。
「あっちの二人と、どっちが早く着けるか…競争ね!」
ノリは軽いけれど、フローレンも決して軽く見ている訳では無い。
冒険なのだから、一つの失敗、一度の選択ミスが、即命取りになる事もある…
それでも…その余裕ある態度を見て…
ダンジョン攻略初心者セレナは安心を覚えたりするのだ…。
「あ、フローレンさん…さ、寒くない…ですか…?」
歩きながら、唐突にセレナが口を開いた。
「うん。あなたの魔法のお陰で全然平気よ。どうして?」
「あわゎ…その…フローレンさんって…その…お姿…恥ずかし…
いええ、う、薄着で、さ、寒そうだから…あゎわゎゎ…」
「? あなただって薄着じゃない?」
フローレンは(変なコト、聞く子ねえ?)とか思ったけれど…
そうじゃなくって。
セレナは、肌も露わなフローレンの鎧姿を見て、気遣っているのだ…
…というか、落ち着かない、とも言える…
この清楚すぎる神官少女は、女性が肌を晒すのを見慣れていないのだ。
エヴェリエ公国は、厳かな雰囲気の地域である。
首都オーシェや商業都市アングローシャのように、女性の兵士が太腿どころか半出し全出しのお尻ふりふりして町中を歩いているのとは訳が違う。
エヴェリエでは女性の兵士自体が稀だし、多くいる女性神官たちも、それほど肌を晒す事もない。
魔奈循環効率を考えると、女性は肌をさらしたほうが良い…事にはなるのだけれど、エヴェリエ公国や西の神聖王国ラナのように、教義に基づく術使いはそれほど肌を出している感じでもない。
このセレナも、今は動きやすいように、膝上くらいのスカート姿だけれど、この子はこれでもちょっと恥ずかしいのだ…
そんなだから、セレナはフローレンと二人きりでいることで、ちょっとそわそわした感じになっている…のだ…
まあ…ともあれ…
フローレンは自分の格好を「普通」だと思っている。
なので、様々な行き違いを起こす…
その行き違いの大多数は男性が相手であり、
身体を触ろうとして殴られたり、その疑いを持たれるだけでふっ飛ばされたり、
中には実際に触って、半殺しや七分殺しにされた愚かな男も数しれず…
同性なのだけど、このセレナのような無垢で性的耐性のなさそうな娘にも、フローレンの花びら鎧姿は刺激が強い、のだろう…
そういう訳でセレナは、フローレンのちょっと間を空けた後ろからついて行く感じだ…
彼女の周囲を廻っている白い炎の守りが触れないように、というのもあるかも知れないけど…
この氷の洞窟は、縦長の広い空間だ。
あちら側に洞窟の出口…というのか、扉のない門のような、細い通路の入口が見えてきた。
この氷の洞窟のちょうど中間…左右のみならず前後にも対称形な感じだ。
「気をつけてね。
こういう場所ではね、大概、いきなり周囲を囲まれたりするものなのよ」
それを聞いたセレナは、「えっ! えっ!」と落ち着きなく辺りを見回している…
「…来たわね…」
言ってる端から来た。
フローレンの手に花園の剣が現れ、一気に幻花は真紅に染まる…
氷が動いた。
部屋の両端の氷の壁…その至るところで…
姿を現したのは…
狐か狼を思わせるような、白いやや小さな獣だ…
「氷獣ね…」
真っ白な毛皮…というより、氷でできたような、硬そうでかつ靭やかな、不思議な外観をしている…
凹凸のある氷の壁の隙間から出てきたのか…
あるいは氷壁に擬態していたのか…
それとも、こいつらも幻影だから、壁とか関係ないのか…?
問題なのは、その数だ。
周囲を囲むように、十と五、六… ゆっくりと歩み寄ってくる。
「さぁ…気をつけて…一気に来るわよ…」
「は…はい!」
セレナの周りを廻っていた白い炎が、分かれて、また分かれた。
大きさはそのままに、炎が十二個になった。
もはや白の聖女は、白の炎の防壁の中にいるような感じになった。
(この子…意外とやるかも…)
けっこう強そうな術、という気がする。
この子自身も、あわわゎと慌てていた感じより、心做しか、しっかりした感じ…がする。
「いくわよ…!」
フローレンも剣の技、花の技を構える…
《炎斬・光栄之百合》 レッドフレイム・グロリオーザ
フローレンの剣が炎を帯びたかのように、その幻花の朱橙色に染まった。
氷獣たちが襲いかかるのと同時だった。
吠えながら飛びかかって来る、白氷の狼たち…
花園の剣の一振りごとに、情熱的に燃え上がる、炎の百合の幻花が咲く。
炎の百合花に斬られた氷獣は、文字通り溶けて蒸発していく…。
セレナは、というと…
天の炎は強力だ。
攻撃を防ぐ…どころじゃあない。
襲いかかってきた氷獣どもは、一匹残らず撃退されていた。
迫る白い氷獣は、廻る白い炎に触れると、その炎が全身を包むように燃え上がっている。
そして地面に転がって、白い炎に焼かれたまま、のたうち回っている。
天の理の炎は、氷のような燃えるはずのないものも燃やす。
その上、熱い炎であることには変わりないのだ。
氷のまま燃えている。
氷が溶けきるまで、炎は消えることもない…
白い氷の空間で、白い氷の獣が、白い炎に焼かれ、溶けて消えていく…
ちょっと異様な、白一色な戦いの光景だった。
ただひとつの問題は、一体片付けるごとに、周りの炎を一つ使ってしまうようなのだ。
セレナの炎は、もう既に半分の六つに減っている…。
だいぶ片付けた。
だが…
さらに新たな氷獣が、壁際から湧き出すように現れているのが見えた。
「セレナ!」
まだ数匹の氷獣が残っている。
噛みつきにかかってくるのを焼き斬り捨てながら、フローレンは呼びかけた。
「私が斬って進むから…ついて来れる?」
「が、がんばり…ります!」
そう答えながらセレナの背で、また一匹が理の炎に焼かれて地に転がった。
「いくよ!」
眼の前の右と左を斬り捨てながら、フローレンは駆け出した。
セレナが遅れまじと、遅れ馳せについてくる。
普段の神官着の長いスカートではなく、動きやすいように短いスカートで来たので、ちょっと恥ずかしとか思っていたけれど、走るには裾が短いほうが邪魔にならない…
フローレンは、駆けながらもセレナの位置を確認する。
遅れて孤立させないように、敵を往なすついでに少し立ち止まる。
セレナの背から残った氷獣が追い迫ってくる…
もうすぐ、通路への門はすぐそこだ…!
「速く! 頑張って!」
足は早まらない…セレナはもともと全力で走っている…
(間に合わない…!)
白い炎が氷獣を捉える。
最後の一つだ。
これで、小柄な神官少女が無防備になった。
(先へ! 行って!)
フローレンは目で諭す。
半歩横に道を開け、迫る白い獣の群れに向き直った。
セレナが全力で、その真横を駆けていく。
(これで…)
フローレンは腕を交差し身体を抱くような姿勢で、剣を身体の反対まで回し…
その背を追ってきた氷獣どもを、大薙ぎに焼き払った。
(炎の花も見納めね…)
まだ数匹追ってくる白の獣を、火の消えた花園の剣で追い払いながら…
通路に至る門をくぐった…
氷獣は通路に入ってまでは追ってこないようだった。
「怪我はない…?」
「はぃ…大丈夫…です…はぁ…はぁ…」
全力で走ったセレナは、膝と手をついて、呼吸も絶え絶えに返事した。
通路はすぐに右に曲がり、そのまま奥へ続いている。
ここはもう氷ではなく…床も壁も天井も、ちょっと青光りするような人工の通路になっていた。
灼熱の洞窟の中だ。
ただの氷柱を作って投げても、この熱さでは、冷却に時間がかかるし、
作成できても飛ばしている間に小さくなり威力も下がり、挙げ句の果には溶けてしまう…
だけどアルテミシアは、こういう状況での魔法の掛け方も想定している…
<<水召喚>> サモン・ウォーター
<<出現位置を指定>>
→術者の頭上、距離十米の空中
そして間いれず、
<<氷柱散乱>> アイシクル・スカーター
大量の水を空中に召喚し、それが降り注ぎきる前に、瞬時に冷却して、無数の氷柱にして飛ばす!
アルテミシアはこういう組み合わせ魔法の練習も、密かに行っているのだ。
詠唱を誤れば、大量の水を浴びる事になるし、もう次の手は打てない…
召喚する水の高さも、何度も試行錯誤を繰り返し、感覚を掴んでいる。
無数の氷の槍が、八方に飛散する。
周囲から飛びかかってくる炎獣を貫く。
燃える獣たちは、狼のような咆哮を上げながら倒れ、地に落ち、やがて炎が掻き消されるように消滅してゆく…
それでも氷の猛襲をかいくぐって襲ってくる炎獣もいた…
そのアルテミシアを庇うように、イヴが青の剣を構える…
<<寒空之剣・霙>>
イヴの蒼穹の剣…
その青空色の剣身が…天候が変わるように、曇り空の色に変化…
薄いグレーの、雲の色に変わってゆく…
曇り空に変色したその剣身に、溶け残るような氷と水が纏わる…
討ち漏らした燃え盛る獣が、一斉に飛びかかってくる…
そこに水氷の刃が薙いだ。
炎獣は氷に斬られて悲鳴を上げ、倒れ転がる。
そこに、溶け残るように水が舞い、燃え残りの炎にトドメを指す…
美貌の青騎士が繰り出す、氷閃の後の水舞い…見目にも美しい剣技…
そして剣身には、晴れ渡るように空の青が戻ってくる…。
「片付いたかしら?♪」
「流石。見事なものだわ」
炎獣は跡形もなく消えていた。
地面の何箇所かに、僅かな燃え残りの炎が燻っている程度だ…。
だが、あちら側…溶岩の中からは…
また新たな炎獣が現れようとしていた。
「さ、行きましょ♪」
「あれが来る前に、ね」
イヴとは呼吸が合う、とアルテミシアは思った。
フローレンとタイプは違う。
フローレンと二人で戦う場合、彼女の直感に基づいた自由な動きを、アルテミシアがサポートする感じだ。
だけどイヴの場合は、アルテミシアの動きを見て、それに合わせるように行動してくれる。
多分イヴは、全体を見渡して戦局を動かしていく、指揮官タイプだ。
実際にも、兵を指揮する立場だというのは想像に難くない。
『もしもーし! そっち、どう?』
ちょうど、そのフローレンから連絡が入った。
「問題なし♪ 今片付けて奥通路に入ったところよ♪ そっちは?」
『こちらも同じような状況』
『はぁー…はぁー…』
『あ、セレナが息切らしてるけど、ちょっと走っただけだから』
「大丈夫…? ならいいけど…慣れない子に無理させちゃダメよ♪」
「セレナ! しっかりなさい! フローレンの足引っ張っちゃ駄目よ!」
横からイヴが口を挟んだ。
『はぁ…はいー! あ…ふぁ…り……おねぇさまぁ…はぁ…はぁ…』
『あら? お姉ちゃん厳しいわね…大丈夫よ! すごく頑張ってくれてるから!』
「ありがとう…悪いわね、フローレン。合流するまで、お願いね…」
『ええ。でも多分、もうすぐ合流点じゃないかな…?』
「そうよね♪ 構造的にそうなると思うけど…そのにもう一押し、何かありそうな気がするわ♪」
『同感。罠とかだったら嫌だけどね…』
もうすぐ合流とか、その前に何かある、とかいうのは、
フローレンとアルテミシアの、今までの冒険での経験上の話だ。
言う慣れば、古代ダンジョンの法則みたいなものだ。
アルテミシアとイヴは先の通路へ進んでいく。
その通路はあからさまな人工建造物だった。
先程までのような洞窟でもなければ、熱さもない。
すぐに左に折れ曲がり、そのまま真っ直ぐ続いている。
木とも石とも金属ともつかない、青黒い素材の通路はなぜか薄明るい…
「えっと…
こういうダンジョンって…罠とか、あるの?」
イヴは先程フローレンの話した言葉が気にかかっているようだ。
「う~ん…どうかな…♪ この手の古代ダンジョンって、あんまり罠とかって、ないのよね…♪ あんまり本気でコロしに来るような罠は、見たことないわ♪
まあその分、敵は強めなんだけどね♪」
それこそ、遺跡だとか、墳墓だとか、宝の隠し場所なんかには、かなり危険な罠が仕掛けられている事が多い。
かかったら一撃で命を奪われるような罠だらけで、そういう罠を専門に発見し解除する技術や魔法を持つメンバーが不可欠だ。
だけどこういったダンジョンには、あまり強い魔物は出てこない。
「成程…私としては、罠…よりも、敵、のほうがいいわね…」
イヴはちょっと微笑んでいた。
安心した、といった表情だった。
罠なら対処の仕方がわからないけれど、敵なら強くても戦って倒せばいい…とか考えていそうだ…。
(なんか…こういうとこ…フローレンに似てるのよねえ…♭)
高貴な身分にもかかわらず、自分で正面から戦いを挑んで、道を切り開こうとしている。
アルテミシアがこの女騎士に好意を感じ始めているのも、そういうところだ。




