表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第9章 花と月と天の契り
91/138

88.転移型古代ダンジョン(2F)

3月末日の当88話にて、毎日更新終了となりました。

家庭事情なのでやむなし…




階段を上った先…第二階層は…


森の中の広場に、集落が広がっていた…


「…何…これは…? 屋外…? 一体…どういう…」

「あわわ…そ、どうして、お外に出たんでしょうか…?」


驚くのはムリもない。

空まで見えるのだから。

ここは屋内に相違ない…はずなのに…?


「屋内よ、景色は、幻」


「そう、太古の幻術ね♪ 

 実際は天井があるし、周りもずっと森に見えても、どこかで壁にあたるから♪」


「そういう事ですか…」

実際に目にして、イヴはなんとなく先程の会話の内容を理解したようだ。


四人は、そっと木陰から集落の様子を伺う…



ここは、小鬼(ゴブリン)たちの集落だった…

先ほど村から奪っていったと思しき食料を、取り合うように食べている…


木材をいじって物を作ろうとしているのとか、

よくわからないふざけ合いをしているのとか、

他にはそのへんに寝転がっているのが多い。

先程の襲撃で怪我をしているのもいるだろう…



狡猾な連中だ。

そして、知識も知恵もある。

どこで学んだのか、油を、火を使う事を知っていた。

それを効果的な場面で使う事も…


何を武器として利用してくるか、わからないところがある。

単体は非力でも、集まると厄介だ。

そして弱い者を襲う…


打ち漏らせば、また村を襲いに来たり、思わぬ被害を生む危険性がある。


だから…


「容赦は、無しよ!」


フローレンはその手に花園の剣(シャンゼリーゼ)を現す。


イヴもその手に、青い光と共に、蒼穹の剣を現した。



「ま、まってください…皆さんに、光の…守りを…」


戦いの前に、セレナが光の技を掛けた…

半分テンパってるあわわゎ娘とは思えない、おちついた聖女の表情…

そして、膨大な“光”系元素の力が流れる…

その光が、四人の全身を包み…膜のようになって、やがて輝きは消えた…。


「すごいわ♪ この防護魔法…私のよりかなり強力よ♪」


光の系統は、天の加護とも言われる。

この強力な加護は、ある程度のダメージは無効化し、それ以上ならこの防護膜が肩代わりするような、高度な守りの技だ。



まずはゆっくり、歩み寄る。

小鬼(ゴブリン)どもは、突然の見慣れぬ訪問者に注目し、戸惑いながらも興味深そうな目で眺めてくる。

先ほど戦った相手だという認識は、あるのか、ないのか…

小鬼どもが気づいている様子は見られない…


相手は狡猾だけど、こちらは四人とも強力なメンバーだ。

それ以上に狡猾に、対処する術を揃えている。


集める。

できるだけ、近くに、できればここにいる小鬼すべてを…


しばらくの対峙の時間…

そして、小鬼(ゴブリン)どもが歓声を上げ、切りかかろうとする刹那…



 <<朝霞の剣・五里霧中>>


イヴの剣技は、天の候をその場に呼び起こす、光と風と水の技…

周囲はまたたく間に深い霧に閉ざされ、小鬼(ゴブリン)共はみな驚き、辺りを見回している…


そこに…



 <<氷雪嵐>> アイス・ストーム


アルテミシアを中心に、風が舞う… 彼女たち四人の場所だけを避けるように…

その風は冷気を帯び、やがて水分を凍てつかせ、鋭い氷刃氷柱の嵐となり吹き荒れる…


氷に刺し刻まれ、凍りつく小鬼(ゴブリン)共…

嵐の収まった後、氷を免れていた小鬼もいるが…

濃い霧に惑わされ、まっすぐに逃げる事もままならない…


そこを花園と蒼穹、二振りの剣が、容赦なく斬り捨ててゆく…

当の四人は、この霧による視界の影響から除外されているのだ。



集まった小鬼(ゴブリン)を全滅させるのに、大した時間はかからなかった。

あとは残敵の掃討だ。



《反応感知》センス・リアクション


やはりこの空間全体が光る…

強力な幻術がかかっているのだから、当然と言えばそうなのだけど…


アルテミシアは意識を集中させる…

光の中にも、違う反応…生命の反応を読み取る…


この集落の範囲に…微かに動く反応…何かがまだ残っている…


「この先…反応が五つほど…多分、あの小屋ね」


この集落にある大半の住居は、藁葺(わらぶき)の粗末なものだ。

一つだけ、小屋のような建物があり、非常に目立っている…

そこに反応が残っている…



慎重に、その戸を開ける…

中では…

小鬼(ゴブリン)たちが、何かをこちらに向けて構えていた…

両手で持ったそれは、長い棒状の何か…まっすぐにこちらに向けている…

いや、それはどうやら、筒…のようだ…


「危ない!」

とっさに三人を守るように前に出た、イヴ…

彼女の板金鎧(プレートメイル)が、突然激しい火花を散らす…


四人は、瞬時に扉から跳び離れた。


「大丈夫!? 怪我は…?」


「ええ…驚いた、けど…この鎧と、この子の加護のお陰で…」

イヴは怪我もないようだ。


「でも、何…今の…って…?」

「多分…古代の武器ね…♭」


何らかの爆発力を利用して、鉄の弾丸をものすごい速さで打ち出す、古代に存在した、とされる武器だという。

九大属性のうち“鋼”系統の戦闘魔法には、この武器を模したような魔法がある。

だけど今の速度はその魔法より遥かに速い…見てから(かわ)せるレベルじゃあなかった。


いきなりの事で驚いたけれど、わかっていれば対処は簡単だ。


イヴが青の剣を逆立てると…そこに盾のような力場が発生した。

この蒼穹の剣の持つ、守りの力だ。

この状態で、彼女を先頭に、再び小屋に入る…


また例の武器から弾丸が放たれる…だけど、その青の盾はそのすべてを弾き、全く怯むこともない。


そしてアルテミシアが、セレナが、光の矢を投げる。

小鬼(ゴブリン)は簡単に倒れ、起き上がることはなかった。

…高威力で撃ってくるのはいいけれど…防備はがら空きだった訳だ…


その五匹の中央にいる小鬼(ゴブリン)の中で一番偉そうなヤツ、

他の者りも体格も大きく、威風のようなものも漂わせている。

小鬼(ゴブリン)君主ロードと呼ばれる存在だ。


だけど、攻撃が当たらないなら、何の脅威でもない。

フローレンは死角から駆け寄り、斬りつけ…その古代武器を弾き飛ばした。


弾を弾く。これだけの事で恐るべき古代武器も、簡単に対処された。



武器を失った小鬼(ゴブリン)君主ロードは、恐れ(おのの)き、

言葉は通じないけれど、命乞いをしている、といったところだろうか…


だけれど…

もし今、慈悲を掛けてあれを逃がしてやったとする。

そして次に、例えば…村の子供が、森であの小鬼(ゴブリン)に遭遇したとしたら…?

命を救われた恩を返すために、その子供を見逃してくれるであろうか?


おそらく無いであろう。

小鬼(ゴブリン)共が、人のように恩義を感じる事はないからだ。

所詮、人とは相容れない生き物、と考えたほうが良い。

それを知って逃がすとしたら、それは優しさではなく、甘さでしか無い…。


フローレンは躊躇(ちゅうちょ)なく斬り捨てた。

可憐に見えるフローレンも、やはり剣士であり冒険者なのだ。





これで小鬼(ゴブリン)共は片付いた事になる。

もう村が襲われることもないだろう。


「でも…腑に落ちないわね…」

何が? というように目を向けてくるイヴとセレナに、フローレンは説明を続ける。


「こういうダンジョンってね、普通は中の魔物は外に出てこれないはずなのよ…」


通常、転移型ダンジョンの内部にいる魔物は、表に出る事はない。

なぜかそのようになっている。

食料をどうする、とか、そんな問題もないようだ。


だけど、ここの小鬼(ゴブリン)たちは、外に出て村を襲いに来た…

それがおかしな感じではある。


「まあ、例えば…

元からここに小鬼(ゴブリン)の集落があったと仮定するでしょ?

で、そこに重なるようにこのダンジョンが出現したとしたら…

つまり、彼らの巣窟は、ダンジョンのフロアとして取り込まれちゃった、って事…かしらね♪

その時に…彼らはこのダンジョンから、食料など生活の供給を受けられる恩恵から外れてしまって…食べるものを確保するために、外に出て村を襲った…って考えられるわ♪」


アルテミシアの話では、そういう過去の事例も文献に載っていた、という事だ。





「えっと、持ち出し不能…て…そういうの、あるんだ…♭」


アルテミシアの鑑定魔法の結果。

「この筒状の武器は、このダンジョン、というより、このフロアからの持ち出し禁止指定がある、って出たわ…# さすがに太古のダンジョンは、管理がしっかりしてるわねえ#」

とアルテミシアは不満そうだ。

敵を倒して得た戦利品を没収、というのは、冒険者としては頂けないところではある…。


「あれ? でも…? 

 この中の…弾丸っていうのかな…これは持ち出し禁止がかかってないみたい…」

…意外と杜撰(ズサン)なのかもしれない…


暴発しないように、慎重に弾丸だけ抜いて、持って行く事にした…

縦長な団栗(ドングリ)型の金属物質だ。


この筒状武器は、小さな爆発を起こして、尖った鋼鉄を超速度で打ち出す、という仕組みである。

筒状武器自体ではなく、この弾丸のほうに爆発力を生む仕掛けがあるというのは判明している。

古代においては、魔法の力を行使できない者でも、殺傷力の高い攻撃をしかも遠距離から簡単に使うことができたという。


太古の武器に多く用いられる、爆発する粉。

魔法に頼らないで、爆発を起こせる物質であるとされる。

魔奈(マナ)を消費しないので、大規模な土木工事などに用いられた、とされている。


その爆発力は戦いにも転用できたのは言うまでもない…

だが、現在ではこの技術は使用できない状態になっている。

もし広範囲に爆発が起こせるだけの粉が存在したとしても、大規模な爆発は起きないのだ。

この力を危険視した太古の為政者たちが、魔奈(マナ)によらない広範囲爆発を禁止する条項をこの世界の法則として記述した為と言われている。


この小さな弾丸を打ち出す程度の小さな爆発なら規制外であり、爆発が発生すると言うことだ。

でも、それも、このダンジョン内だけの例外なのかもしれない…

そして、それを確認する(すべ)もない…


ルルメラルアのはるか東にあるという、「()」という大国では、この爆ぜる粉の研究は行われているらしい。

ただ実際の威力は、火花を散らして、派手な音を起こす程度…

つまり実用的ではない。


そもそも古代人たちが世界法則で禁止を掛けているなら、爆発は起こらないはずである。

あるいは、違う物質を用いるとか、違う過程で爆発を生み出すとか、禁止にされた世界法則をすり抜ける方法が必要、という事になる…。


アルテミシアはこの原理を調べる事にとても興味があるけれど…

取り扱いには危険が大きそうなので、売却するほうが無難かもしれない。

この弾丸だけでも、アングローシャの店でかなりの高値がつくだろう。

太古の遺品は、それだけで値打ちがあるのだ。

このまま持って帰って研究するか、これを売って生活に有用な道具を買うか、それは魔法道具店で売っている商品次第だ。


この筒状武器に似せた“鋼”系統の属性の魔法がある。

ヴェルサリア時代には、鋼魔法使いだけの部隊もあったという。

この筒状武器と同じような物を、魔法威力を高める補助具として用いているところが根本的に違う。

ただ、いかに優れた魔道士でも、先ほどこの武器から発射されたほどの速度、つまり威力は再現できない。太古の技術には敵わなかった、という事だ。


もちろん魔法使い兵士なので、その部隊は全員女性であったという。

彼女たちは野外活動にも優れ、森林での戦闘も得意としていたらしい。

なので鋼魔法部隊の女兵士は全員、森に紛れる迷彩柄のボディスーツ姿で活動していたとされる。

兜や手袋や長靴に至るまですべて迷彩柄、論理魔法装備なので、胸元や鼠径部、お尻や太腿も大胆に露出させた迷彩レオタード女兵士部隊…

彼女たちの装備は今でも時々発見される事がある。迷彩レオタードは有用な論理魔法装備として女子なら誰でも着用できるので、非常に高価である。

が、筒状武器のほうは鋼系統の魔法の威力を増す為の物なので、この系統の魔法使いが少ない今日、あまり役に立つ事はない…


ちなみに、花月兵団の女兵士たちが持っているLV1の換装武器の中には、この筒状武器も入っている…もちろん弾丸はないけれど…





小鬼(ゴブリン)は全滅させた。


「一応…これで目的は達成…ってなるけど… あとは、どうする?」


フローレンが指すのは、上へ登る階段だ。

樫の木の螺旋階段が、空へ向かって伸びている。


階段は途中で消えているので…

「次の三階は、こことはまた違う世界になる、って事」


問題があるとすれば…

追い込まれた小鬼どもが、この上の階には逃げようとしなかった、という事だ。

つまり上の階には、何か恐ろしいものがいるのか、恐ろしいものがある…と予想される…。


フローレンもアルテミシアも、冒険者としては、興味津津なのだけど…


ここはイヴに決定を委ねた。

小鬼(ゴブリン)を殲滅し、村を救うという目的を達成した彼女たちに、この先の冒険に付き合う必要はないからだ。


だけど、イヴは、


「行きましょう!」

と、迷いなく答える…


どうやらこの高貴な女騎士は好奇心も強く、冒険者としての素質もありそうだ。



87話の加筆に伴い、こちらから一階層部分のお話をそちらに移しています。

代わりに鋼系統魔法と、なぜか迷彩レオタ女兵士の話なんて書いてますが…

あまり意味のないお話に思えるかもしれませんが、実はそうであるような、ないような…(謎)


太古武器(銃器?)の話はこの辺で終了…メインはファンタジーなので…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ