87.小鬼の住処は古代建築?
急ごしらえでUPしていたので、大幅修正行いました。
次の話(88話)から少し持ってきて、後ろに足してます。
一階層だけで話をまとめた感じです。
追跡魔法で小鬼を追ってきた…
森の開けた場所にある、連中の集落…
ではなくて、岩場のような場所だった。
「え…?」「何…これ…♭」
いや…岩場じゃあない…
遠目には黒っぽい岩のように見えたそれは…
いきなり姿を変えた…
黒灰色の岩場に見えていたものは、眼の前で似た色の古代建造物に変わっていったのだった…
「これって、幻術…?」
「そう♪ 遠距離からは別の物に見えるっていう、古代の幻術ね♪」
南街道にあった遺跡のように、目の錯覚的に岩場に溶け込んでいる感じではない。
一定の距離に近づくと、いきなり景色が変わった感じだ。
追跡の針を刺した小鬼の反応は、この中からだ…
周囲にも、他の小鬼の反応はない…
警戒しつつ…その建物に近づいた…
塔とも神殿ともつかない、おそらく古代の建物…
その表面の壁は、見目麗しい黒灰色の一枚岩でできていた。
近づいてよく見ると、それは滑らかに…自分の姿を映している…。
「何これ…全部…鏡…?」
「あるいは…硝子ね… ほら、うっすらと中の様子が透けてるわ♪」
言われてみれば… 建物の中からいくつも白っぽい光が点っている感じだ。
「この大きい石の板が全部ガラスって…いったいどういう技術で…」
「超古代にはアタリマエだったみたいよ、こういうの♪」
ヴェルサリア時代より、もっと古代に存在した文明、の事らしい…
突然転移して現れるのは、その超古代文明の遺跡やダンジョンなのだ…
裏までは見えないけれど、形状はおそらく四角形の柱状と推測…
その高さは…おそらく五階建て…くらいと推測される…。
いったい、何の目的でこのような建物が作られたのか…
「へぇ… 小鬼って…こういう珍しいところに住んでるのね…?」
「あわゎ…人間よりも…文化的なのですね…」
イヴとセレナがちょっと気圧されたように、その建物を見つめ見上げている…
「いえいえ… そんな訳ないでしょ!」
「これって、あきらかに、おかしいから!#」
ヴェルサリア時代よりはるかに古代のこんな立派な建造物で、現存している物はないはずだ…
アルテミシアは、冒険には疎そうなこの二人に「普通」の話を語り聞かせる…
小鬼は通常、森や山に集落を作って生活している。
基本的に原始的な生活なのだが、割と手先も器用で、自分たちで道具を作ったり、人里から盗んできた人間の道具を使いこなしていたりする。
割と頭が良い、というより、ズル賢い…という言葉がぴったりはまる。
まずは人間を観察して、その道具の使い方を学習してから、盗み出すのだ。
だが、盗むだけだ。
自分たちで技術を進化させる、というところまでは行かない。
製鉄どころか、青銅器すら自分たちでは作れない。
どうやら小鬼たちは「盗むほうが早い」と考えているので、技術を高める努力はしないようだ…
頭はキレても所詮は、発展性のない下等な亜人にすぎない訳だ…。
小鬼に限らず、亜人種の多くは、遥か北の地にまだかなりの数が生息しているという。
北の未開地には、多民族の亜人から成る国があるらしいが、小鬼は大抵一番下っ端であるらしい。
その国以外の集落でも、他の亜人種族の集落に混じって、奴隷のようにして使われている事もよくあるらしい。
「と、いう訳だから♪ こんな建物に住んでるのはオカシイってお話♪」
「そうよね…変だと思った…」
「で…です…ですよね…」
アルテミシアの解説で、二人共、なんとか理解してくれたようだ…
だが…そうなると…
「じゃあ…この建物は何なの…?」
と、イヴは尤もな疑問を呈した。
「それはね… ま、入ってみればわかるわよ!」
と言いつつ、フローレンもわかっていない…わかりようもないのだ…。
で、入ろうとすると…
「待って# ちゃんと調べてから」
と、アルテミシアに止められるのだが…
《反応感知》センス・リアクション
「やっぱり…というか…建物自体が光るわね…♭」
アルテミシアもいつもの感知を行うけれど…結局ムダだった訳だ…。
転移か何かでいきなり現れた建物…だとしたら、これ自体が魔法の産物…
当然、魔法感知を行うと、そうなる。
まあ、フローレンはこうなる事が予想がついていたから、入ろうとしたのだけれど…。
入口の大きな扉がある。
その扉を調べようと、フローレンがその前に立つと…
その両開きの扉が、すーっと左右に動いて…開いた。
「? 入ってこい、って事…かしら…?」
通常、入口には鍵がかかっていて、侵入者を阻みそうなものだけど…
この扉は独りでに開いた…
「私たちを、招き入れる…って事は…♭」
何等かの罠、などを勘ぐってしまう…
だが、いざ入ってみると…中は、迷宮、という感じではない…
入ったところの空間は広々としているし、真正面に広々と通路が伸びている…。
そして明るい。
光石のような照明が、天井に等間隔に並んでいて、空間は明るい。
「糸の反応は…この上、ね…」
アルテミシアが追跡魔法の行方を告げた。
この階の端のほうに、そこから上に伸びている階段がある…
この謎建物の一階部分…
謎材質の壁床天井…その天井には多数の光石のような照明…
おそらく、この世界のどこでも見かけないような作りだ。
まず入口はだだっ広い空間…
光石のような照明だけでなく、豪華なシャンデリアや、壁際にも間接照明が据えられ、全体が明るい…
右手のほうにはテーブルや椅子が多数置かれている…高価そうな家具だ…しかもそのすべてに全く均一な刺繍や装飾が施されている…よく見ると飲食店のような作りにも思える…
左手の方には、店のカウンターのような場所がある…けれども、特に商品を扱う店のような雰囲気ではない…
その広間の真正面、その先に奥に続く通路が伸びている。
小鬼どもの通った跡に土が散らばっているのでわかりやすい。
その足跡はみな揃ってその通路へと続いていた。
その通路を進んでいく。
華麗な宮殿なども見慣れているであろうイヴとセレナの二人が、珍しい物を見る様子で辺りを見回している…。
フローレンやアルテミシアは過去に何度か、こういった太古の転移型ダンジョンを冒険したことがある。
「壁とか床のこういう材質も照明も、だいたい似たような感じね…」
「この感じだと…おそらく、一つの階層がほぼ正方形
…高さは…五階建て、って感じかしら♪」
材質も似ている、構造も似ている…
そして、最初のフロアには、だいたい何も無い。
それがこれまでの経験からの共通点だ。
既に乾燥し散らばった土は、そこから右に曲がった奥へと続いていた。
その先にあるのは、幾つかの小部屋らしいものが並んだ場所…
各小部屋の扉の横の壁には、文字盤のようなものが設えられている。
イヴは興味深そうにそれを見つめていた。
「これは…?」
「えっとね…多分、古代の昇降機じゃないか、って言われてるの♪
その文字盤、触れれば光ったりするみたいだから、
そこに刻まれてる文字は、太古の数字♪ ほら“2”から始まるとしたら、この上の方は“12”“13”…って感じでしょ? 文字の左側が同じ形だし、その前のは同じのが横に並んでるから、“11”
この文字盤で昇降機を操作するとしたら、ここは一階だから当然“1”がない、って考えられる訳♪」
「なるほど…」
イヴはこの程度の説明で即座に理解したようだ。
そして慣れない未知のことに関しても、受け入れが早い。
この建築物の外観は、どう見ても五階層かそこらの高さだった。
だけど、その文字盤には、二十近い文字が、円で縁取られるように並んでいる。
「高さと文字数が合わないから、要はこれが昇降機だとしても、形だけって事」
と言ってフローレンが適当に文字盤の“数字”に触れてみる。
すると数字はいきなり光を灯したけれど…一呼吸くらいの後に消滅した。
小鬼たちも、この昇降機を使った形跡はない。
さらに足跡が続くのは、その奥にある上りの階段のほうだ。
セレナは興味深そうに「こ、これが、6で…これが…7…」とか言いながらその文字盤を指で追いながら見つめていた…。
「セレナ、いくわよ!」
「あ、はい、あとちょっと…あわわゎ…」
まあそんな遣り取りもあったけれど…
その奥にある、折り返し型の階段を、二階へと上っていく…
「建物の各フロアは独立…自動生成タイプ…かな?」
「さっきの使えない昇降機があった事から考えると…そうなるわよね♪」
構造上どう考えてもありえないのに、その階の表示がある…そして使えないという事は、その一階の部分だけを持ってきている、と考えられる。
「えと、自動生成タイプって…?」
こういう機会が滅多にないからだろう、イヴは認識を深めようと、色々と質問してくる。
「まあ簡単に言うとね…♪
転移型ダンジョンには二種類あって、あらかじめ完成された全フロア統一感のあるのが現れる場合もあるんだけど…
大体の場合、各フロア構造が法則性もなくバラバラに重なっている構造な訳♪
そういうダンジョンが便宜上、自動生成型、って呼ばれているの♪」
「…ちょっと私には難しい…みたいね…」
アルテミシアの「簡単に言うと♪」は、大抵の場合、簡単ではない…
常人には理解しがたい…イヴにはちょっと理解できなそうだった…。
「まあ、実際に見ればわかるわよ」
と、フローレンは先頭で階段を上がっていく…




