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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第2章 焼け崩れる山砦
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8.月夜の潜入作戦


日がすっかり落ちた。

月の光が、周囲を明るく照らし、山砦の姿もくっきりと闇の中に映し出している。


「いい月だわ♪ 今夜はかなり調子出ちゃうかも~♪」

今日は、綺麗な満月がその姿を夜空に輝かせている。


アルテミシアは、月の妖精とも言われる月兎族ルナーレの血を強く引いている。

月の最も満ちる日、特に満月の現れる夜間には、彼女の魔力が最も高まるのだ。

逆に、ある程度月が欠けても三ヶ月までは僅かにしか影響がないが、

それ未満、特に朔夜(さくや)になると、別人のようにぐだぐだとやる気も魔力も低くなって、ヒドい日には一日中引き籠もって寝転がっている事もある。


「あ、フローレン、お花の香り、消すね♪」


《消臭の霧》 デオドラント・ミスト


フローレンは花妖精フェアリエの血が強い。

剣技と組み合わせた花の術が強力なのも、そのためだ。

そして何もしなくても、その肌からお花の甘いいい香りがするのだ。

すれ違った男たちは、その顔立ちの可憐さと、魅惑的な肌の露出度に加え、お花の香りにまで振り向かされるのだ。いい匂いなので普段は漂わせていても、彼女の魅力を上げる事にしかならないので問題ない。

が、こういう潜入などの時は邪魔になるので、アルテミシアが魔法で一時的に消去している。


嗅覚のいいユーミがすぐに気づく。

「くさいの、けしたの?」


「ちょ、ユーミ! 言い方ぁ!!!」

その無頓着な物言いを受けてフローレンが珍しく取り乱した。

ユーミも別に悪気はない。匂いとクサいの使い分けができないだけだ。


フローレンはその後も「く、クサくなんか、ないんだから…」とか小声で言って気にしてる様子ではあった。

クサくない、むしろいい香りなので、自身を持ってもいい特性なのだけれど…。


さておき、アルテミシアの魔法で、他の気配も消し去る。


《不可視=透明化・月鏡》 インビジビリティ☆ムーンリフレクト

《沈黙=無音化・月波導》 サイレンス☆ムーンウェイヴ

《上記魔法に例外を設定》

   →対象四体のみ互いの可視・有音を保持


「さあ、行きましょう♪」

アルテミシアのその声は、既に彼女たち以外には聞こえなくなっている。

その姿も。


通常こういった隠密系の魔法は、攻撃などの能動的行動をとれば解除されてしまう。そうでなくても魔法効果を長時間継続させるには、術者の精神集中や魔奈マナの管理や消費が必要となる。

だがアルテミシアの場合、月の魔法力を乗せれば 月の照らす範囲では、その魔力元を月の光で代用することができる。

学術系魔法に月の魔法力を重ねる、月兎族ならではの独自の魔法スタイルである。

匂い消しの魔法に月の魔力を乗せられなかったのは、月とニオイの結びつけができなかった、という理由があるのだ。



砦の正面の扉は開かないだろう。強引に開けたとしても気付かれる。

そもそも気づかれずに潜入するのに、わざわざ正面から入る事はない。

なので、砦の一番北側、つまり崖側から侵入する計画だった。


進入路は、ここから見える二階のバルコニーだ。

だが、断崖沿いの岩壁の上であり、背丈の四~五倍(7メートル)はある高さの場所である。


「よじのぼるの?」

ユーミは簡単に言うが、ほぼ垂直に切り立った岩壁など、よじ登るものではない。

まあ、野性味あふれるユーミだったらよじ登ってでも行けそうだけど、他の三人はそうはいかない。


「まさか。もちろん、魔法で、よ♪」


魔法陣が輝くので先程からアルテミシアは、少し離れた木の影から光が目立たないように魔法を行使している。


《石壁作成》 ストーン・ウォール

《上記魔法創造物の触媒を指定、ならびに形状を指定》

   →外壁の岩壁を使用、指定した部分を一(メートル)伸ばす

    角度四五度、総距離十(メートル)、階段状に壁を作成、各段の高さ二五(センチ)


しばらく待った。

基本的に精製系の魔法は、丁寧に作ると時間がかかるのだ。

乱雑に地面から石壁を伸ばす程度なら、手早く作れる魔法もある。

敵の遠隔攻撃を瞬時に防ぐような使い方をする石壁の場合、だ。

だが、階段となると形状を細かく指定しておく必要がある。

一段一段が高すぎても上りづらく、低いと上まで届かない。

このあたりは魔法の強さではなく、創作力が問われるところなのだ。


目を凝らすと、砦の一階部分に当たる岩壁が、何箇所か伸びてきていた。

それが段々状に伸びてきている感じで、さらにその間を埋めるように伸びてきている。徐々にそれが精錬された形へと作られていく。


やがて、岩壁がそのまま伸びてきたような感じに、階段が形成された。


二階部分のバルコニーまで伸びている。段の高さも均一だ。

転落止めはないので慎重に進まなければならない。

危険な状況に慣れていない普通の人だったら、足がすくんで危険だろう。

だがこの女子たちは冒険者なので、こういった場面もまあ慣れたもので、臆せず上っていく。


「魔法って、便利ね」

フローレンはいつもながらアルテミシアの魔法に感心する。

魔法に必要な要素は、単に威力だけではない。

こういった要所で使いこなす発想こそが重要なのだ、と思い知る。

使える事と、使いこなす事は、違うのだ。


「ええ♪ でも暗いから足場には注意してね♪」

この階段は夜の闇の中にあるおかげで、中からは見えないだろう。

逆に言えば、明かりが灯せないから、足場には気をつける必要がある。


魔法も万能ではない、とアルテミシアは言ったつもりだった。

更に言うと、この魔法は効果時間が短い。

上り切るくらいの時間なら、十分もつであろうが。


ここから踏み外せば、崖下の森に転落する羽目になる。

崖の下はかなり遠く、落ちたら命の保障はないかもしれない。

尤もこの四人だったら、花の術や、魔法や、破壊力や、炎で、何とか生き残るだろうが。


注意して登っていく。月が出てはいるが、足元は暗いのだ。

四人は慎重に、魔法でできた階段を上がっていく。





二階のバルコニー部分から潜入する。砦の二階・北西に当たる場所だ。

壁際に掛けられた松明の炎のおかげで、砦の中は温かい色の明かりで照らされている。

中が明るいと言うことは、外の暗がりに目が慣れないわけだから、

月が照っているとは言え、登ってきた階段は見えていないだろう。

もちろん四人の女子の姿は消えたままだ。音も同様だ。


バルコニーでは、賊と思しき見窄(みすぼ)らしい男が四人、座り込んで酒を片手に談笑などしている。

どうでも良いようなくだらない話題、下品な話題で盛り上がっている。

もしこいつらが見張り番だとしたら、その役目をこなそうとしている者は一人もいない。

ここの賊どもは警戒心など全く持ち合わせていない訳だ。


無視してその横を通り抜けていく。

姿も音もないので、接触さえしなければ、気づかれることもない。


一応、上がってきた近くの西側の端には木の扉があった。が、ここを開けるとさすがに誰か気付くだろう。

なので、東側、つまりこのまま賊の横を素通りして、奥側に向かって進んでいく。

そちらは扉ではなく曲がり角になっているのが、視認できる。

その曲がり角の逆側に、そこにも扉も見えるが、もちろん開くと気付かれるだろう。


砦の内部構造はわからない。

姿も音も、約一名は匂いまで消しているが、慎重に進む事になる。

だがその透明化も静音も、バルコニーを離れ、月の光が当たらなくなると、あまり長くは持たない。

アルテミシアは、通路を曲がったところで、再度、生命反応を調べておく事にした。


《反応感知》センス・リアクション


角を曲がった位置まではぎりぎり月の光が届くので、こういう静かな魔法なら、隠密化を解かずに使用できる。

「大勢が、下の階に集まっているわね。集会…? いや、宴会してるのかしら…? あ、待って♭」

宴会、という言葉に「あーしのおにくを!」「アタシの酒を!」という感じに怒り反応を示したユーミとレイリアを手で制して、

アルテミシアは目を閉じて集中したまま続けた。


「ちょっと違う反応があるわ…四つ…多分、拐われた女の子ね…高さが等しい…つまり、この階にいるわ…位置も近いわね…

 それぞれ違う生命反応と一緒に…つまり、それぞれ山賊と一緒にいるっぽいわね#」

今度はフローレンが反応を示したので、手で制した。


バルコニー側から角を曲がった通路はまっすぐに伸びていた。

左手の壁には等間隔に小さな窓穴が開いている。昼間なら外の様子が見えるのだろう。

という事は、砦の東側の壁に沿って歩いている、つまりここが砦の逆側、になると思われる。

小窓から月明かりは差さないが、通路の壁には松明が掲げられ、暗くはない。


通路は東の外壁に沿って先があるが、右手にも横道が伸びているのが見える。


「こっち!」

ユーミが示すのは、まっすぐ奥の通路だ。火が灯されているが、先の様子はわからない。

「いっぱいの、こえがする! おにくの! おさけも! ニオイがする!」

ユーミは聴覚も嗅覚も優れている。獣人族の特性である。

特に、大好物の肉の匂いには敏感でも不思議はない。


大勢の声がする、という事は、やはり酒盛りでもして、騒いでいるのだろうか。

多数の生命反応が下の階にあった、という事と合わせると、この通路は下の階に繋がっていると思われる。


あーしのニクを! アタシの酒を! 勝手に飲み食いしやがっって!

と、言わんばかりの二人が、怒りの様相になっているのが感じられる。

先程この二人が「宴会」という言葉に反応したのも、そこだ。


「そっちは後、まずは」

捕まっている女の子たちの救出だ。

フローレンは横道に当たる、右手側の通路を目で指し示した。

「多分、そこね♪」

アルテミシアが反応感知でとらえたのは、だいたいこの辺りの位置だ。


その横道に入った。姿と音はまだもう少しの間は消えているが、それでも歩みは慎重だ。

通路は行き止まりで、両側に扉が二つづつ。合計四つの部屋がある、という感じの構造だ。

その各部屋から揺れる物音や、争う物音や、女の子が声を上げているのが聞こえる。


「慎重に行きましょう」

透明化(インビジビリティ)静音化(サイレンス)は、この襲撃で効果が消えるだろう。

何の合図もなく、四人がそれぞれの扉の位置に分かれて立っていた。


目で合図、

そして四人が一斉に扉を開く…。


ちょっと短めです… 前回の話の切るとこ悪かったかも

…早ければ今日中に続きUPします

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