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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第9章 花と月と天の契り
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86.森の中のお茶会


村人たちを治療しているこの建物の中に、そのお姉さん、イヴがやってきた。

とりあえず一段落し、やっと落ち着いて話ができる、という感じだ。



「有難うございます…村の見回りから、お付きの方々に治療の手伝いまで…」


イヴは恭しく礼をした。

女兵士たちの事を「お付きの方」と言うのがいかにも貴族らしい物言いだ。

高貴な感じは隠れようもなく伝わってくるけれど、物腰は非常に低い。


「気にしないで。困ってる時はお互い様でしょ?

 それと、わたしたちに対して、(かしこ)まる必要はないわよ」


フローレンは、人助けは当たり前の事、のように考えている…

そして、自分も畏まる気はない。

身分が上の相手にも口調が変わらないのは、そういう事を気にしないフローレンらしいところだ。


「そうよね♪ それに…どう考えても、貴女のほうが爵位は上、でしょ?♪」

アルテミシアも、あまり(かしこ)まった話し方をされるのは好きじゃない。

冒険者は基本的にみんな、そんな感じだ。

作法うるさく小綺麗に食事をするよりも、一緒にお酒を飲んでお馬鹿に騒ぐほうが似合っているのだ。


「いえ…爵位など、この際、関係ありません…

 我が公国の民をお救い頂いたこと、大変感謝しています…」


また畏まって、またイヴは深々と頭を下げた。


「あー、もう、そういうの、無しよ! なしなし!

 もうちょっと、こう…砕けた感じで、いきましょう!」

フローレンは基本的に自由な女子だ。

堅苦しいのは苦手なのだ。

それに、この女騎士イヴの事も、もっと砕けた接し方ができる女性だ、と見ている。


「ええ…まあ、意識するようにしま…するわね…」

そこで気づいて言い直せるあたり、イヴはやっぱり砕けた話し方もできそうだ。


「えと、わたし達の事を知っていたみたいだけど?」


「ええ。貴女方がよくエヴェリエの地を経由して、行商をしている事は知っているわ… 何しろ、助爵位を持つ女性が三人もいる、ということで、私も気になって調べていたから」


「なるほど…あれ、あなたの仕業だった訳ね…」


あれ、とは…

花月兵団の一行は、エヴェリエの都に行くたびに、確認を受けていた。いつも馴染の宿に泊まるたびに、兵士や役人が訪ねてくるし…

なぜか盛大にご馳走を振る舞われた事も…。


「どうして私達が見張られているのかはわからなかったけど…貴女の興味本位だった、って事?♪」


「いいえ、大事なことよ。優れた人材について調べて知っておく事は…

エヴェリエでは貴方がた三人だけじゃあなく、レイリア様、ユーミ様、ラシュナス様の御三方のことも、花月兵団の幹部として認識しているわよ」


ロロリアとアルジェーンの事は言われなかったのは、まだ知られていないからだろうか?

それと、

(ん? 待って…今レメンティの名前…抜けてたような…?)

彼女が聞いたら「なんであの娘(ラシュナス)が入っててあたしが入ってない訳!」とか、ツンツン怒り出しそうな気がする内容だ…




「でも、いい時に来てくれて良かったわ。

 あなたが来てくれなかったら、ちょっと危なかったかも…」

フローレンはあの火が投げられた時に技を構えたけど、その技で対処しきれる自信がなかったのだ。


「そうよね♭ でも、…どう考えてもかなり速く着いた計算になるんだけど…?」


アルテミシアの計算では…

花月兵団があの麓の村に訪れた頃に、伝令がエヴェリエに到着している…としても、エヴェリエから急いで出発し、全力で馬を駆けさせても、この山中の村に着くのは、最速で今日の夕刻くらいになるはずだった。


「ええ、馬を全力で飛ばしてきたので…」


「馬…?」


イヴが外に出て見せてくれたのは…

馬だ。

かなり大きい…かなり走りそうだ…。

だけど、そんなことより…


青い馬だった。


つまり、普通の動物じゃあない…

毅然としたその(たたず)まいには、神々しいものを感じずにはいられない…


「幻獣…もしくは神獣の(たぐい)、ね…♪」


通常でない獣の中でも、人類に益をもたらすものを特に、神獣と呼ぶ。

逆に害をもたらすのは魔獣だ。種類としては、こちらのほうがはるかに多い。

幻獣はそのどちらとも言える感じだけど、唯一獣などがそう呼ばれる事が多い。


ただ、この辺りの呼び方はかなり曖昧ではある。

たとえば、この麗しき女騎士がこの馬に乗っていれば、神獣や幻獣と呼ばれ、

恐るべき敵将がこの馬に乗っていれば、魔獣と呼ばれることになるだろう。


「なるほど…かなり速そうね…」

「ええ。その気になれば、一日でアングローシャまで往復する事も可能かと」


フローレンは、その距離感をすぐには計算できなかったけど、

隣でアルテミシアが「そんなに速いの~!#」と驚いていた。


それにしても…

こんな珍しく大きい馬が広間のすぐそこにいたのに…

紹介されるまでフローレンもアルテミシアも気づいてはいなかったのだ…




イヴの妹セレナも外に出てきた。


「ふぁ…り…わわゎゎ…お、お姉様…み、みなんさんの治療、終わりました…」


なんか変な驚き方をしている…

この子は、けっこう慌てやすい性格かもしれない…


でも、フローレンは、親近感を感じずにはいられない…

この姉妹の雰囲気はやっぱり、心の満たされるような懐かしさがある…。


「えっと、セレナ…

 お疲れ様。大変だったでしょ?」


「貴女って、かなりすごい治癒術使いよね♪

 うちの子たちが、みんな驚いていたわよ♪」


と、褒められたセレナは、恥ずかしそうに顔を赤らめ、そわそわし、なぜか一人で慌てるような感じで、

「あわわゎ…いえ…だ、だいじょうぶ、です…。はい…。

 …か、花月兵団の皆様に、だいぶ、たす、助けて頂きましたので…」


セレナは…人見知りが激しいのか…わりと口調がテンパってしまっている…

このあわわゎ娘が…先ほどまでの、ものすこい治療術の使い手…とは思えない…ギャップがすごい…


「すいません…こういう子なので…」

妹に変わってイヴが頭を下げている…


当のセレナも、「すいません!すいません!」と何度も頭を下げまくって…

別に謝るような事は、何もしてないのだけど…


フローレンもアルテミシアも、「いえ…」「お気になさらず…♭」と、

なだめるように対応する…しかなかった…。





村中の家の食料が、小鬼(ゴブリン)に食い散らかされている…

持ち去られている物もありそうだ。


村の広場では、村人たちがそれぞれの家から、僅かに残った食べるものを持ち寄っていた。集めた食料をまとめて、そこで煮炊きをしている。

そして、その少ない量を、みんなで分け合って食べていた。


村人たちは、イヴとセレナに対し、とても(うやうや)しく接している。

この村人たちからすれば、公国都から来た貴人なので、敬うのは当然ではある。

食事も沢山入れて渡そうとする。

だけどイヴもセレナも、村人と同じ量しか受け取らない…


フローレンもアルテミシアも村人たちから、口々に感謝された。

たくさん食べるように勧められたけれど、ここは同様に、村人と同じ量だけ頂いた。


夕方までにはクレージュたちも戻って来るだろうから、みんな晩ごはんはいっぱい食べられるだろう。

四人の女兵士、ペリット、パティット、ルベラ、コーラーも、我慢する。

このメンバーだと…それ程たくさん食べる子がいないのが救いであった…。





その短い食事を終わらせた後すぐに、フローレンが言いだした。


「わたし達はこれから、小鬼(ゴブリン)の住処を殲滅しに行こうと思うんだけど」


それを聞いた四人の女兵士たちが、反応する…

が、フローレンが手で制した。


「いや、あなた達はいいわ。治療で疲れているし、ここに残って村の人たちをみてあげて」


四人は「あ、了解です…」という感じに、入れかけた気をまた抜いた感じに座り直した。

実際疲れている様子だし、待機と言われて安心したようなところもある。



「じゃあ…私は、ご一緒させて頂こうかしら?」


イヴが名乗り出た。行くのが当然の事のような感じで、だ。


「ええ、よろしくお願いするわ!」

そして、フローレンは、その答えを待っていた…。

イヴなら絶対に行くと言うと思っていた。


「セレナも…休ませてあげたほうがいいかな♪」

と、アルテミシアは気遣うのだけど…


「いえ! わ、わたしなら、だ、だいじょうぶ、です!」


と…セレナは、わざわざ立ち上がって、元気アピールをしていた。

あれだけ治療術を使ったのに、この様子だと、まだまだ余裕がありそうだ。

その、テンパった言い方を聞き、慌てたような動作を見ると… 

「この子…ほんとに…大丈夫?」…と思ってしまうのだけど…



「さあ、行きましょう!」

「おっけ~♪ 追跡、開始♪」


アルテミシアが光る糸巻きを発生させ、針の先の追跡を開始した。





フローレンと、アルテミシア、イヴと、セレナ…

剣士、魔法使い、騎士、神官…

バランスのいいパーティが森の中を進んでいく。


イヴは重たい板金鎧(プレートアーマー)のわりに、移動に困ることもなく進んでいた。

高貴な感じにもかかわらず、こういう行軍も難なくこなしている…。


慎重に、進んで行く…

見ず知らずの場所…ということで警戒しながら…

アルテミシアは定期的に反応感知を行い、索敵を続けている。


「私も、こういうケースは初めてだから…小鬼(ゴブリン)の被害は時々報告があるけれど、大抵は…野菜や家畜を盗まれる、とかそういう報告だから…」

イヴは冒険者ではないので、あまり詳しくはないのだろう。

それでも、高貴な身分でこんな森深くにまで探索に来るのは、よほど責任感が強い、という事だろう。


「そうなのよ…ちょっと、おかしいのよね…♭」

アルテミシアは腑に落ちない感じだ。


「? おかしい、というのは…?」

イヴは、冒険者の意見を素直に聞こうと、耳を傾けている。


「今回みたいに小鬼(ゴブリン)がいきなり大勢で襲ってくることは、あまり無い、って事♭」


「そうね。小鬼(ゴブリン)は人里があると、まずは様子を見に来て、小さなちょっかいをかけるのが普通から…そう、畑を荒らしたり、物を盗んだり、イタズラしたりするんだけど…」

フローレンも同様に、ずっと違和感を持っていた。


「いきなり群れで来る、って事は…よほど、食べる物がなかった、とか、そういう事よね…?」

「そう♪ ここで問題なのは…その原因が何であるか、って事かしらね…♭」


フローレンもアルテミシアも、ただならぬものを感じている…

その空気は、冒険に慣れない二人にも、しっかり伝わっている…。





森の中の、ちょっと開けた場所に出た。


ここで座り込んで、小休止、といった感じだ。


アルテミシアが、何かを探るように手を動かしてしている…


「? 何か探してる…?」

「あ、うん♪ あれ…あの装備…お二人にも渡しておこうと思って…♪」

「ああ、あれね」

そう、あれ、だ。


「あ!#」

「? どうしたの?」


「いいもの持って来てたの、忘れてた♪」


アルテミシアは、亜空間ポーチから、葉っぱの包みを取り出した…

二…三…と、全部で四つ…。


「あ…! それは確かに、良い物ね!」

フローレンも、それがあった事を思い出した。

包装用のクルーム樹の葉に包まれてる…それは明らかに食品の包みだ。


それを見たイヴとセレナも、やっぱり嬉しそうだ。

まあみんな、おなかがすいていたのだ…


さすがに昼食量が少なかった。

村人に遠慮してたので、仕方なかったのだけど…

これから戦うのだから、食べれるならしっかり食べておいたほうがいい。


「いいでしょ? じゃあここで…ティータイムにしましょう♪」

アルテミシアは続けて、筒状の物を取り出した。

これは、水筒だ。


「ティー…って、言ったって…」

「あ、えと、カップが…ないですけど…」

知らない二人がそう言うのもムリはない。


「ええ、そうね♪ まず、お二人にはこれを渡しておくわ♪」


続けてアルテミシアが取り出したのは、例の指輪だ。

そう、あれ、だ。


「付けて♪ そう、どの指でも…後で変えれるから問題ないわよ♪」


言われるままに、イヴもセレナも指輪を着けた。

銀のツタが変形して指に馴染み、ピンクの宝石が輝く…。


「で、頭の中でイメージして…ティーカップが見えるから♪」


「カップ…?? 武器が沢山見えるんだけれど…?」

イヴは騎士だけに、さすがに武器にたどり着くのが早かったようだ。


「ああ、本来そっちが本体みたいなものだから…強く念じると手に現れちゃうから、注意ね」

フローレンが注意を促した。

なんとなく、イヴが武器を簡単に見つける事は予想していた…。


カップ&ソーサに換装するのはセレナのほうが早かった…

イヴもすぐに取り出した。この二人は武器換装もかなり早くに覚えてしまいそうだ。



アルテミシアは耐熱水筒に、魔法で精製した高温の水を注ぐ…

お茶っ葉は入れてあるので、お湯を注ぐだけで、香り高い紅茶の出来上がり…


ひとつひとつ丁寧にクルーム樹の葉に包んであるのは、アルテミシアが大樹の村から持ってきた、木の実とフルーツたっぷりの焼き菓子だ。

本当はフルマーシュの店へのお土産、と考えていたのだけど、それはまた次回にしよう…。




森の中で、乙女(オトメ)たちのスィーツタイムが始まった…


まあ話す内容は…

女子トーク…ではなく、LV1装備の説明…

まあ…戦いに来ているのだから、無駄話はまた今度…。


イヴとセレナが着ている鎧と衣は、魔法強化が付与されていた。

エヴェリエ公国も通常の魔法付与技術は持っているのだろう。

ルルメラルア王国でも、貴族や上級武官、特殊部隊の兵士などは、このように魔法で硬化された武装を着けている事が多い。


でもそれは、論理魔法装備ではない。

だから露出部分までは守れない。


ただ、イヴが着けている特殊な髪飾りだけは論理魔法装備のようだ。

だけどその守りの範囲は限定的で、あくまで頭部から首筋までを守るための物…

つまり、重装備をする女性が、兜の代わりに着けるものでしかない。


ヴェルサリア装備LV1を渡したけれど、イヴのように重装備だと、守備効果はもとより、冷熱耐性などもほとんど発動しない。一点未満のダメージ無効の効果くらいしか発動しないかもしれない…まあそれだけでも充分な効果なのだけど…虫が多いこの森の中などでは、すごく重要だ…。


セレナも露出部分の少ない長衣(ローブ)だから、効果は半分程度かもしれない。

この子の場合は、衣の強度はあまりないので、脱いだほうが魔奈(マナ)循環が上がって防御力が上がるのだけど…「脱いだら?」とか言いにくい…

この子はとても清楚で…多分、すごく恥ずかしがりで…胸やお尻を見せる格好は嫌がりそうだ…。


「こんな良い物を頂いて…エヴェリエに来られた際、何かお返し致しましょう…」

イヴは、可変アクセサリと予備の武器、というだけでも充分な価値がある、と思っているようだ。


「え~! 有難う♪ どんなスィーツが頂けるのか、楽しみだわ♪」

と、その言葉を受け、アルテミシアが嬉しそうだった。


「あ…そう…?」

イヴはこの魔法装備の事でお礼を言ったのだけど…なぜそういう展開になるのか…。



アルテミシアとイヴは同年齢…くらいのようだけど…なぜかアルテミシアのほうが子供っぽく見えてしまうのは…

スィーツスィーツ言ってる時のアルテミシアは乙女(オトメ)になっているからだ…仕方がない…。





アルテミシアが糸をたどる…

「もうすぐよ…用心して頂戴#」


だけど…着いたところは、小鬼(ゴブリン)の住処、という感じではなかった。

森の開けた場所にある、岩場のような場所だ。

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