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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第9章 花と月と天の契り
88/138

85.聖地エヴェリエからの二人


女騎士の技で放たれた豪雨も、それを降らせた黒雲も消え、村の広場には雨後の虹が架かっていた。


イヴと名乗ったその女騎士は、クレージュ、フローレン、アルテミシア、

そして花月兵団、の名を知っていて、彼女たちがそうであるとわかっていた様子だ。


驚きの重なったフローレンは、固まってしまったかのように、声も出せないでいた。

(私達の事を、知っている…?)


「私達のこと、ご存知みたいね♪」

フローレンが思っている事を、アルテミシアが率直に訪ねた。



その板金鎧(プレートメイル)姿の女騎士は、


「はい…以前より、ご活躍は耳に致しております」

と、ただただ(うやうや)しい物腰で、答える…


まだ何か話したそうだったけれど…


「待って、話は後よ♪ まずは先に…私たちは村の中を見回るから♪」

アルテミシアがここで一旦、会話を切る。


「そうですね。私達は村人の安全を…セレナ!」

女騎士イヴは、妹を呼んで、指示を与えている。


アルテミシアのその一言だけで、何をすべきか理解したらしい。

この女騎士は、相当にこういう場合の対処に慣れている感じだ。


最も重要なのは、村人の安否確認と怪我人の治療。


そして、村内の確認。

まだ何匹か、村に潜んでいる可能性がある。

発見した場合は(すみ)やかに対処する。


「お~い♪ だいじょうぶ~?」


フローレンは、まだちょっと呆気に取られているようだ…





アルテミシアはいつもの探索魔法を掛ける…


 <<反応感知>> センス・リアクション



かなり強めに調べる…

村のどこかに潜んでいれば、危険だ。

いきなり不意を打って刺してくるかも知れない…


「いるわね…一…いえ、二体…同じところに…♭」

「隠れている感じ?」


「じゃない、わね…家の中で動いてるし…」


「了解! 

 探索は私達でやるわ。三人はクレージュの指示を受けて。

 あと、あなた達四人は、村人の治療を手伝ってあげて」


立ち直ったフローレンは女兵士たちに指示を下す。

三人娘の傷を直していた妖精族の四人に、今度は村人の治療を指示した。


森妖精(ドライアード)のペリットは薬師だ。

だけど、薬を使うだけでなく、“樹”系統の術で、薬を作り出せる。

パティットは服飾担当だ。だけど、あの村の森妖精(ドライアード)は、八人全員が少なからず治癒の術や技を持っている。

ルベラは火竜族(サラマンド)には珍しく、“光”系統の技で治療が行える。

太陽からの生命力だ。

コーラーは…引籠り娘…というのはこの際関係ないだろうが、“火”系統の技には、火傷や熱発を相殺する技があるようだ。





フローレンとアルテミシアは、村の捜査を始めた…

二つの反応がある家へ…

部屋一つの小さな家だ。


アルテミシアが魔法の詠唱を始めている…

フローレンが剣を構えながら、そっと扉を開いた…。


中では… 二匹の小鬼(ゴブリン)が…


ご飯を食べていた…。


村人が食べていた途中のもの…だろうか…

しかし…外で戦闘が行われているのに、呑気なものだ…

小鬼(ゴブリン)社会にもこういう気楽な連中はいるのだ…


食べるのに夢中で、こちらには気がついていない…


踏み込もうとするフローレンを「わたしに♪」とアルテミシアが手で制す。


そしてアルテミシアは用意しておいた魔法を打ち出した…

二本の光の針が飛び……刺さった…。


二匹の小鬼(ゴブリン)共は、ダメージを受けた感じではない…

ただ、刺さった事には気づいて、「何ダ?」という感じに扉の方を見て…


そこにいた二人の姿を見留め…大いに驚いた!


そして大慌てで狭い部屋内を右、左、右と駆け回る…



そしてフローレンは花園の剣(シャンゼリーゼ)を手に…斬…


「待って!#」

斬ろうとするのをアルテミシアが制した。


小鬼たちはその隙に、窓を飛び出して逃げてゆく…


「いいの?」

フローレンは怪訝な感じに花園の剣(シャンゼリーゼ)を片付ける。


「ええ♪

 “針”を刺しておいたから♪」

と、いつの間にかアルテミシアの手には、糸巻きが握られている。

先日、魔獣ヒポグリフに付けて追撃したのと同じ魔法だ。


「住処への案内、いるでしょ?♪」

「なるほどね!」



つまり、この後…住処の殲滅に向かう、ということだ。

野放しにしておくと、またこの村や、別の村を襲ったりしかねない…。





村の中央広場にもどった。

女騎士イヴが、集まった村人たちと話をしている。

クレージュとレメンティも一緒だ。


村から小鬼(ゴブリン)の反応が消えた事を伝えた。

とりあえず、危機は去った…

だが、問題は数多く残っている…。



避難所だった大きな建物の前の広場の片付けが進んでいる。

小鬼の残骸は、とりあえず一箇所に纏めておいて、エヴェリエ軍の本隊が訪れてから、後片付けを行うとの事だった。



村じゅう、家の中も外も荒らされている…

まずは住む場所の片付けが大変だ…

しかし、それよりも…


食料が食い散らかされていた!


村が襲われてから、村人が集まった大きな建物を囲まれるまで時間がかかっているけれど、

それはおそらく…まず、小鬼(ゴブリン)たちが、さんざんに食い散らかしていたからだ…


だからお陰で、村人が襲われるのが遅れ、結果的に救出が間に合った…のは幸いなのだけど…



まともに食べられるものが残ってない!



「だから、私が戻って取ってこようと思うの」

と…クレージュは、大きすぎる胸元に挟んだ、丸めた書簡を取り出した。


イヴから麓の村の長に宛てられた、食料提供の要請書らしい。

その村からありったけ食料を借りて、後でエヴェリエの都から返却するようだ。





小鬼(ゴブリン)に襲われた形跡はあるが、花月兵団の荷馬車は無事だ。

お馬さんたち、ぴんぴんしている。

何か…いつもより元気で…みなぎっている感じがする…。


「お馬さんたち、強かったはずよ!

 そりゃあね、あたしが、気を注入しておいたんだから!」


レメンティがやけに自慢げだった。

彼女は、気を注入して活性化させ、馬たちを強化していたらしい。

戦いになってもレメンティの姿が見えなかった理由はこれを行っていたからだ。


馬の周囲に小鬼(ゴブリン)が何体も倒れている。

気で強化された馬にやられたようだ。


馬は、かなり力の強い生き物だ。

人や荷を乗せた馬車を引っ張って走るのだから、言うまでもない。


その馬が“気”で強化されれば…

小鬼(ゴブリン)程度の力ない刃は入らないし、その(ヒヅメ)で蹴られれば、小さな鬼など一発であの世行きだ…


逆に、気を与えていなかったら…メッタ突きにされてやられていた事だろう…


「あたしだって、ちゃんとやる事、やってるのよ!」


誰も何も言ってないのに…、レメンティはやけにツンツン…

あのいい加減なラシュナスの相方を務めているうちに、こういう性格が育ってしまったのだろうか…


(いあ…誰も、やってない、なんて言ってないわよねえ…)

フローレンは小声でアルテミシアに話しかける…


それとも…愛すべき相方と離れてるから…誰も お馬鹿やってくれなくて、イライラしてるとか…?


(相方のラシュナスがいなくて…淋しい、のかな?♪)

アルテミシアも小声で…


「ちょっと! そこ! 聞こえてるわよ!

 あ、あんなヤツ、いなくたって…

 …さ、淋しくなんて、ないんだからねっ!」


((あー…やっぱり淋しいんだ…)♭)


悲しいくらいにバレバレ…レメちゃんはやっぱり、ガッカリ女子だった…。





クレージュとレメンティが三人娘をつれて、麓の村に向かう。

あっちの馬車にある自分たちの食料も持ってくるつもりだろう。


クレージュと三人娘を荷台に乗せ、レメンティが御者をつとめる。


占い師のレメンティが馬車の御者なんて…と意外な感じだけれど…

実はレメンティは割と何でもできる。

戦闘も、料理も、踊りも歌も、鍵開け、崖登り、変装、果には豚の飼い方まで…

多芸多才な万能女子だ。

まあ…ガッカリな性格のおかげで、すごい女子! といった感は全く薄いのだけど…


ともあれ、クレージュたちは出発した。

夕刻までには食料を持って帰ってくるだろう…。





イヴはまだ村人たちと話をしている。

その強さからして、おそらく…国の役職にある人物なのだろうけれど、

自国の村人を第一に考える、為政者としては好ましい人物である。



フローレンとアルテミシアは、避難所の大きな建物に入った。



切り傷、刺し傷、身体を打ったりと、小鬼(ゴブリン)にやられた怪我をしてる人々、

火傷を負ったり、そうでなくても炎の熱にやられたり、煙を吸ったり、火による被害を受けた人々、


村人の何人かがそこで寝転んでいる。

死者はおらず、それほどの重症者もいないのは幸いだ。


彼らを、妖精族の四人が、自分の分野の術と技で治療した。

かなり気力を使って、四人とも座り込んだり、村人に混じって寝転んでいる…。

術や技の過剰な使用は、精神力(メンタルパワー)(MP)に負担をかけるのだ。

それだけ一生懸命に治療を行っていた、という事だ…。



そんな中で、一人だけ、まだ動き回っている影がある。


イヴの妹…セレナだ。


この妹のほうは神官らしい。


聖なる地であるエヴェリエには、多数の神官がいる。

エヴェリエを守護する、光と、風と、水の、神官たちである。


セレナはおそらく、光の神官と思われる。


「あの子…すごいのよ…」

「ずっと治療続けてて…まだ精神(M P)尽きないなんて…」


へとへとになって座り込んだ森妖精(ドライアード)のペリットとパティットが驚いている。


「ほんっとに! あんなに光の系統使いこなす術者なんて、始めて見た~!」

火竜族(サラマンド)のルベラが、また感動している…。

まあ、同じ光系統の使い手として、相手の高い力量がわかるのだろう…


まあルベラは…ちょっと知らないことが起こると派手に騒ぐ、陽キャラの極みみたいな子だから…

「やっぱり大陸にはすごい人がいっぱいいそう」とか「やっぱ、大陸に来てよかったよ~」とか相方のコーラーに語っている…

まあ、その相方はこの陽すぎる相方に押されまくって萎縮するだけ…寝たふり、というか、死んだふり、みたいに、カワイイお尻丸出しでそっぽを向いて寝転んで…ぴくりとも動かない…。




注目のその少女のような可愛らしい、鮮やかな金髪の女神官は、休む事なく、村人達の治療を続けている…。




フローレンは、イヴから「自分たちのことを知っている」と告げられて、驚いた、という事もある。

それもあるけれど…

この二人に対して、異常なまでの親近感を覚えていた…


(こんな感覚… いつ以来かな…?)


そうだ…

このアルテミシアと始めて逢った時。

そして、クレージュと始めて逢った時。

レイリア、ユーミ、レメンティ、ラシュナス、ロロリア、アルジェーン…

彼女たちと出会った時の感覚と同じだ…


そして…

アルテミシアも、同じ事を感じていた。

運命の欠片が、またひとつ…いや、二つ…形にはまったような感覚が心を満たしている…



その光の少女は、倒れている人々の間をまわって、まだ治療を続けていた…

何段階にも分け、症状の引きが遅い村人に、再度治療術を施す感じだ。



「あの子…天翼族(アンジェ)の血が相当強いわね…」

「へえ…?」

「“光”系列の技術が高いのも、わかるって事よ♪」


アルテミシアに妖精の血脈がわかるのは、魔奈(マナ)の流れが読める感じなのだ。

この子、セレナの場合は、わかりやすい程にわかりやすく、天の光の流れが見える…。


「あのお姉さんもちょっとは天翼族(アンジェ)の血を引いているみたいだけど♪」

そう、お姉さんは少し、なのだ。

「そのかわり…お姉さんからは、風妖精(シルフィード)水妖精(ウンディーネ)の血脈を感じるけどね♪」

光、風、水、その三位一体こそが、エヴェリエを守るもの…

そのすべての血を引く者、という訳だ…


「でも、あんまり似てないよね…

 姉妹、って言われると、そうかも…ってなるけど…」


雰囲気は、似ている。

それは同じ教えの下にある、エヴェリエの人間だから、とも言える。



エヴェリエ公爵家は、ルルメラルアの貴族でもあるが、土着の信仰の宗家でもある。

つまり、聖地における祭祀の意味合いもあり、治めるところの公国民は一つの思想でまとまっている。

だから、どこか似ている、という印象になるのかもしれない。


伝統に基づく、光と風と水の、技と術を持つ公国…

イヴのような強力な騎士を抱えていても、不思議はないし、

セレナのような、術に長けた神官も、多数いるのだろう…


「まあでも、あの二人は特別、でしょ?」

「ええ、そうね」


特に、お姉さんのほうは。

フローレンもアルテミシアも、言葉を交わすこともなく、既に「その事」を認識していた。



フローレンは、相手の力量が読める。

僅かな構えや歩き方、間のとり方、そしてその技…そういった諸々の事から、読み取れるのだ。

そして、それを読み違えた事は、今まで一度もない。


「あの女騎士の実力は、おそらく…」

フローレンは途中でちょっと、呼吸を入れた。


「わたしと同格か、またはちょっと上…って感じよ」


「…うそ…?♭ それ程…?」

アルテミシアが大きく驚いている…


フローレンが自分より強いと認める相手はそういない。

それも、自分より強いと認めた女性は、アルテミシアが知る限りでもたった二人目だった…。


「そうよね♪ やっぱり彼女は…」


そう言っていると…

その噂の女騎士がやってきた。


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