81.~~リルフィと友人たちの才能~~
悠久の帝都、ルミナリス。
光の曜日で学園はお休み。
リルフィは今日も、お出かけの予定だ。
繁華街で行われるイベントに、招待されている。
その会場の一角で行われるファッションショーに、学園の友人メアリアンがモデルとして出るらしい。
メアリアンは、いつもお休みの日には、服飾のお店でアルバイトをしている。
学校が終わった後で働いてる日もある。
お家がそれほど裕福ではないので、少しでも自分で学費を稼ごうとしているのだ。
その中で、モデルをやってみないか、というお誘いがきたらしい。
腰が細くて、それでいておしりはしっかりしてるメアリアンは、ぴっちりした服が映えるのだ。
そして、会場の別の場所では、もう一人の友人ミリエールのお家の会社の商品展示会があるらしい。
ミリエールがデザインした食器や小物が、お披露目される、と言っていた。
ミリエールは、お休みの日なんかは、父親の経営する会社で、デザインのお仕事をしている。
得意なことを活かしている、それもお家のお仕事の中で。
彼女の中では仕事というより、デザインは楽しい趣味の領域なのだ。
「あ、リルリル~!」
「…おはよう…リルフィーユ…」
会場前で待ち合わせ。
ファーナとキュリエが先に来ていた。
ふたりとも、お揃い…というか、色違いのペアルックだ。
ファーナが黄緑っぽい、キュリエが薄紫っぽい、段々フリルつきのワンピース。
この二人は、本当に仲が良い。
「今日は来てくれて、ありがとー!」
メアリアンの出場する、ファッションショーの会場。
まだ始まっていないので、会場は静かなものだ。
「あ、みんな~」
ミリエールもこっちに来ていた。
メアリアンはまだ、普通の動きやすい、地味な衣服を着ている。
ここから着替えて、どんな衣装を見せてくれるか、楽しみだ。
「緊張しますよー…こういう…人前の、舞台って…始めて、ですからねー…」
メアリアンはかなり緊張してる…
呼吸が少し弾んで、言葉が切れ切れになってしまってる…
「あなたなら、大丈夫ですよー!」「…頑張って…」
「メアリ~は、ここ一番に強いから、心配してないよ~」
「ありがとうー…」と、代わる代わる四人の手を取るメアリアン。
友人たちに勇気をもらった感じだ。呼吸もおちついてきた。
「あ、ごめんなさい! 今から打ち合わせですから…行きますね!」
「メアリー、頑張ってね!」
リルフィも応援する。
手を振りつつ、メアリアンは向こうの集団のところへ行ってしまった。
もう次に見る時は、ステージの上だ。
ショーの開始まで、まだ時間がある。
ミリエールのお家の会社が出している、商品展示会場を見に行った。
綺麗な食器類や、文具、小物類が並んでいる。
「どれがわたしのデザインか、わかる~?」
ちょっと自信に満ちた感じに、ミリエールが三人に問いかける。
「う~ん…」「…これ…?」
ファーナとキュリエが、迷いながらそれぞれひとつ指をさす。
「リルフィ~、わかる~?」
その聞き方は、正解ではない、という事だけど…
「全部!」
「せいか~い!」
リルフィはこういうのを当てるのは得意だ。
親しくてよく知っている人のものだったら、書かれた字や、描かれた絵から、当人を当てるのを間違った事がない。字や絵には、その人の雰囲気が宿っている。
目の前のどの作品からも、ミリエールの雰囲気が表されている…それが読み取れるようにわかるのだ…。
ファッションショーの会場は幕が張られ、暗がりの中だ。
そのステージの上だけが、光を伴っている。
多くのモデルさんの中の一人として、
メアリアンは、ぴっちりしたパンツルックで登場した。
腰が細くておしりがキレイに目立つ。
その丸みが左右に揺れて、歩き姿がかなりセクシーなのだ。
この中には、かなりこの仕事に慣れている女性も少なくない。
それでも新人とは思えないほど、メアリアンもしっかり違和感なく馴染んでいた。
着替えて二回、メアリアンは出てきていた。
二回目は最初とは色の違うロングパンツ、三回目はかなり短いショートパンツで。
三回目のは、他のモデルさんと比べても、かなり目立っていたように感じた…。
「メアリー、格好よかったね!」
「ステキでしたね~」「…いいなー…」
普段見る友人とは違った、輝きを放つような姿を見て、リルフィもファーナもキュリエも、ちょっと興奮した様子だ。
「うん、いつもの、食べてるときとは、全然別人な感じだったよね~!」
ミリエールも、普段の食い意地仲間とは思えなかった、…と感じているのだろう。
だけど、
(それ、あなたが言う?)
…と三人揃って、そう思っていた…。
で、空腹を思い出したミリエールとファーナが、何か食べる事を提案…
飲食のブースで、それぞれ別々に何か買いに行く…
こういうところで一人でいると、リルフィは…
「キミ…カワイイね~…」
と、必ず声をかけられる…
その声の主は、一般で言うところの、けっこうイケメン男子…であった。
が、
「失礼します!」
リルフィは簡単に断って、その男子を追い越すようにして、行ってしまう…
「ねえ、キミ! ボクたちライブやるんだけど、興味ない?」
「ないです!」
「カノジョ! この後、オレと遊び行かない?」
「お一人でどうぞ!」
「ねえねえ、一緒に食べようよ~?」
「お友達と食べますので!」
「ほら、オレだよ、オレ?」
「知らない!」
…という感じに…
リルフィは、こういうところでは、やたらと声をかけられる…
それも、自分に自信がありそうな男子ばかりなのだけど…
(女の子、いっぱいいるんだから…興味のある子を誘ってあげたらいいのに…)
興味のない自分に言ってきても、断るに決まってるのに…男性連中はどうしてわざわざ無駄に声をかけてくるのか…
そういう疑問が頭に浮かぶ…
…自分の魅力に気づかない系の女子には、それがわからないのだった…。
休憩の後、四人で会場を歩き回っていた。
「何だろ…? あっちのほう…」
「すごい盛り上がりね~」
その一角は、人だかりができている。
そして、その前には、ものすごい数の守衛の兵士が、ずらっと並んで壁を作っている。
そこに、麗人がいた。
「ああ、えっとね~…あの人、誰だっけ~?」
「ご令嬢ですよー、エヴェリエ公爵家の、お嬢様ですー!」
ミリエールの問いに、ファーナが答えてくれた。
リルフィもその姿に見とれている…
遠目にしか見れなかったけれど、それでも貫禄というのか、オーラが出てる感じ…
青の三段階調のドレス姿がとてもステキだった…。
この高貴なるご令嬢は、第一皇太孫と婚約している。
すなわち、将来の皇后様だ。
守衛の兵士が多いのも、そういう貴人だからだ。
そんな高貴な女性が、この会場で何をしているのかはわからない。
まあこういうイベントには貴人が訪れ、挨拶の言葉を述べたりするものだけど…
会場の守衛の男性の兵士だけじゃない。
兵士が壁のように並んだその内側には、青の三段階調のレオタード鎧姿の女兵士が並んでいた。
さらに令嬢本人の周りには、護衛っぽい女性が三人もついていた。
その女兵士たちも、側近の三人も、みんな素敵な感じなので、その一角は異彩を放っているように感じられる。
リルフィはこういう光景を見るとわくわくしてしまう…。
ユウナさんたち、町の女兵士さんも大好きだ。
そして…夢の世界の…「花月兵団」と称した女兵士たちの姿…
夢から覚めてその姿を思い出すだけで、とてもわくわくする!
「でもね~、あのお嬢様って…あんなに護衛なんていらないんじゃあ…?」
「ですよね! 何か、すっごく強いって話ですよねー!」
「…とってもキレイなのに…」
そうなのだ。
かのエヴェリエ家の令嬢は、女性剣士としても、王国で五指に入るとか…。
リルフィは、先々月行われた、あの武闘大会の女剣士を思い出した…。
夢の中に出てくる、花の剣士フローレンを思わせる、あの素敵な女剣士…
…彼女はあの後、準決勝にあたる戦いで、棄権した…
…というより、試合に現れなかったのだ。
リルフィはかなり悲しかった。
未練たらたらで、あの女剣士と同じあのビキニアーマーを、軍神の月の間、誰から何と言われようと、ず~~と着続けていた…。
この青の令嬢は大会に出たりはしないけれど…
あの赤の女剣士と、どちらのほうが強いのか…なんて、つい、考えてしまう…。
その翌日の放課後…
いつものカフェ「ローレライ」学校帰りに寄るあの喫茶店だ。
「あら? いらっしゃい」
流れる水のような髪がキレイな、このお店のオーナーさんだ。
「ええ! b…お姉さん!」
リルフィは自然に「部長」って呼びそうになって、ちょっと慌てた…。
ステキな夢で見る、女兵士の訓練“部長”さんに、すっごく似てる…気がして…。
昨日あんなにステキで格好よかったメアリアンも、日常生活に戻ると、別人のように地味な感じに戻ってしまう…髪型はクロワッサンカールの派手なままだけど…
キュリエとファーナは、今日もお揃いだ。
今日はキュリエがピンク、ファーアナが水色…
「ご注文、おまたせでーす」
「特大サンド~、五人前~」
夢の中でよく見るような…、空色のさらさら髪と、白いふわふわ髪のウェイトレスさんペアが運んできた…
それは特大サンドイッチ…
「ほら! 久しぶりの、特大サンドだよ~。
今日は、わたしの、奢りだから~食べて~ もぐもぐ…」
ミリエールが嬉しそうにして、言いながら最初にかぶりついた。
「うーん…みんなでなんて、食べましたかー?」「…食べてない…」
ファーナとキュリエは記憶にないようだ。
「え~? いつだったか、一緒にたべたじゃあな~い? もぐもぐ…」
「食べましたか? もぐもぐ… ミリーとはいつも食べてる気がしますけど…むぐむぐ…」
リルフィも、こんな大きなのは一緒に食べた記憶はない…
だってそもそも…
「キュリエのちっちゃなお口では、食べれないですよ~」
とファーナの言う通り、な訳だ。
お上品なキュリエが、こんなおっきいの、食べれない…
みんなで食べた、というのは、ミリエールの勘違い、だろう、多分…。
「でもー、姫のサンドは、あたしがかわりに食べて上げるですから、ご安心でーす!」
と言って、キュリエの分にかぶりついた。頂上から。
ちょっと記憶がごっちゃになってるけど、リルフィの記憶では…
(そう、正確には、キュリエに持ってきてあげたけど、ファーナに食べられた、だよ。そしてキュリエがそのやり取りを面白がって、可愛く笑うの…)
「…うふふっ!」
でも、そんな光景を見て、キュリエが笑った。
「あはは! キュリエ~、わらった~」
ファーナが喜んでいる。
キュリエは普段あんまり笑わないので、笑うとその親友はすごく喜ぶのだ。
(ほら、夢で見たのとおんなじ…
あれ…?
何か、ヘンかな?)
ま、いいや。
なんか既視感と違和感を同時に覚えたような感じだけど…
お友達の楽しそうにしている光景を見ていると、あとは些細な事に思えてしまう。
リルフィは深く考えない!
「次回もよろしく、って言われたんですー!
また見に来てくれたら嬉しいですよー」
メアリアンは今からアルバイトがあるそうで、ここで帰っていった。
「あ~…わたしも、今日は今から、パパの会社に行かなきゃ~」
ミリエールは、昨日の展示会でデザインの人気が高く、さっそく注文が入ったらしい。
少しだけデザインの変更が必要なので、今から打ち合わせに行くそうだ。
ファーナは、部活の夕練に参加する。
昨日一日練習を休んだので、その分、今日は頑張るつもりのようだ。
「ではリルリル、キュリエ姫の護衛は任せたのですよー!」
そう言ってファーナは学園のほうへ駆け戻っていった…。
めずらしく三人が先に行ってしまったので、
リルフィはキュリエとふたりで繁華街を歩いている…。
「…みんな…すごいなぁ…」
キュリエは友達たちの華やかな才能に憧れている。
メアリアンはモデルデビュー。
ミリエールはお父さんの会社でデザインを任され、彼女のデザインした商品も出している。
ファーナは順調にこのままだと、プロのスポーツ選手だ。
「…ゎたしには…何もないから…」
キュリエは、ちょっと憂いたような感じに、少し下を向いていた。
「わたしだって、ないよ!」
なぐさめ、とかじゃあなくって、リルフィは偽り無く、本当にそう思っている。
リルフィは、まだ何も成していないのだ…。
「…でも…リルフィーユは…何でもできるし…その…かわいいし…」
可愛いのはあなたでしょう…とリルフィは思うんだけど…
キュリエは、ちょっと恥ずかしそうに下を向いたまま…
「ゎたし……、その…、おむね…とか…おしり…とか…、足りないし…」
と俯きながら言った…。
キュリエは身体の起伏がちいさい…。
ミリエールやリルフィみたいな、大きなお胸に憧れ、
メアリアンやリルフィみたいな、女らしいお尻に憧れている…
話し方も、自信のなさそうな感じで、儚げで…
そこがまた可愛くて、守ってあげたくなるような魅力があるんだけど…
男の子みたいな性格のファーナが、そんなキュリエの事が大好きなのは、なんかわかる気がする…。
(そうかなー…おむねとか、おしりって…そんなに重要かなー?)
リルフィにはピンと来ていない。
男性が、女性のそういう部分に興味を持つイキモノだって事は知っているのだけど…だから自分がどうだとか、そういう事を考えない…
そもそもリルフィは、年頃の女子が当たり前に持つような、男の子への興味や関心が、まったくない…
だいたい…着替えが終わってからカーテン閉めるような無頓着な女の子なのだ…。
キュリエは可愛い。
顔もちょっと幼なげで、お姫様カットな黒髪が、体の小ささと相まって、すごく可愛い。
クラスの男の子たちも、ちらちらよく見ているので、多分すごくモテると思う…
そのダメ男どもは、ファーナにぶん殴られるからキュリエに手を出さないだけで…。
掛ける言葉もなく、そのまま二人、連れ立って歩いていた。
街の至るところに、今月の紋様が掲げられている。
三日月と星々を組み合わせたような、夜の神リシュナスの紋様だ。
主に東のラファール地方で崇拝される、闇の神であり、世界の変革のために必要な“破壊”の神でもある。
ルーメリアの暦の上では、四番目の月の守護神でもある。
そういえば…
あの窓際の魔導書…
円環に並んだうち、四つ目の紋様にも色が点っていた。
その紋様には、闇のような黒光りする鋼の色が点っていた。
今のこの時期、この四月を示す紋様は、帝都ルミナリスのあちこちで見かける事になる。
と、そこの看板にも…
でも…それはちょっと違った。
十二神の紋様が全部、しかも不規則に入っている…。
これは、ルミナリスで流行っているパズルのゲームだ。
家庭用の、水晶石板型装置で遊ぶのが主流だけど、上手な人はそこの遊戯店にあるような、大型水晶画面で自らの技術を披露したりするのだ。
十二神の紋章が出てきて、それを…決められた短い時間内で三つか四つ並べるような…なんか、そういうゲーム…だったと思う。
リルフィはあまり遊ばないけれど、キュリエはこういうゲームが得意だ。
一年生の時にクラスメイトの前でプレイする事があって、その時…
クラスの男の子が全員、びっくりしていた。
リルフィが素人目で見ても、すごく上手いとわかるくらい。
「キュリエ、こういうの、出てみたら?」
リルフィは勧めてみた。
そこの立て看板には、そのゲームの大会の事が書かれていた。
キュリエは頭が良い。
こういうパズル感覚は卓越してるのは間違いない。
「才能を、ためしちゃおうよ!」




