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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第8章 花月兵団
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79.鷲馬の魔獣と北の残党


森の中に、低くなり開けた円形の広場…

その中央に(しつら)えられた、粗末な祭壇のような木組みの台座…


いかにも何か、おどおどしい儀式の間、のような感じだ…。


その台座の上、柱に伸ばした両腕を縛られた、ひとりの女の子の姿が…


裸…か…あるいは、長い黒髪で隠れているけれど、最低限の布地だけは着けている…ようにも見える…

この広い空間…一見、その真中に縛られた乙女だけがいるように見える…


 <<反応感知>> センス・リアクション


アルテミシアが感知魔法をかけると…

岩陰に隠れている男の姿が、それも多数…


「あっちの岩の陰に、人の反応…四…いえ、五人…こっちにも五…

 って…!? ちょっとぉ!# フローレーーン!!##」


アルテミシアの報告を聞くまでもなく、フローレンはもう崖を滑り降りて駆け出していた。

こういう(しいた)げられている女の子がいると、助けずにはいられないのがフローレンなのだ。



フローレンは祭壇に駆け寄って、乙女の両腕を縛っている縄を断ち切った。


「あ! おい! 何すんだ、ねーちゃん!」

「勝手な事、してんじねぇ!」


岩陰から、アルテミシアの言っていた男どもが姿を現した。

わらわらと…五人と…もう五人…軽装備の男たちだ。

山賊…に見えなくもないけれど…何かちょっと違う感じがする…


「勝手なこと…!?」


フローレンの構える花園の剣(シャンゼリーゼ)に咲く幻花が、炎のような強い朱橙色に燃え上がった。

振り向くその瞳にも、炎が宿っているように映ったことだろう…


「ひ、ひぃ~~!」

「な、なんだぁ…?」

「まて…! こいつ! 戦巫女か!? 気をつけろ!」


十人からの男どもが、フローレンの外見と闘気に押されたように、後ずさった。

男どもの剣を抜くその姿も、恐る恐る、といった感じだ…。


フローレンの花びら鎧、赤いビキニスタイルの鎧姿を見て“戦巫女”と呼ぶのなら、

…おそらくこの者たちはブロスナムの兵士崩れだろう。

赤ビキニの女戦士女兵士は、軍神シュリュートの精鋭の巫女たちだ。


「いや! 待て…! 戦巫女なら、何で俺たちと戦うんだ!?」

「そうだ! オレたちゃ、味方だろうが!」


話せばわかる、的に、必死に弁明する男ども…

だが、フローレンの怒りは、その言葉に耳を貸すことはない…


「か弱い女の子にヒドい事して…何が、味方なのかしら!?」


フローレンが、その花園の剣(シャンゼリーゼ)を向けようとした、

その時…



空気が、肌を刺した。



その気配を感じ、僅かに振り向きつつ、背後から迫る…その姿を目端で捉えた。


それは、巨大な影…


(魔獣?)


ものすごい速さで飛来する。


フローレンは、その裸の女の子をかばうように身をかがめた…


その瞬間、真横を突風が抜けた…!

フローレンの、仔馬の尾状(ポニーテール)の薄い紅金色の髪が、突風に舞い上がる。



立ち上がって向き直る。

風で乱れた(おく)れ毛を、軽く掻き上げて整えた。


その姿は、巨大な(ワシ)…のように見えた…

ただし、足がある。

動物の足だ。

つまり、通常の鳥獣の(たぐい)ではない。


魔獣である。


「これは…鷲獅子(グリフォン)…? こんなところに…?」


鷲馬(ヒポグリフ)ね…# 下半身が馬だから♪

 本来気高い神獣だけれど、人を食べたものは魔獣に堕ちるって聞くわね♪」


いつの間にか隣りに来ていたアルテミシアが、山高帽のつばを整えながら教えてくれた。人の味を覚えた鷲馬(ヒポグリフ)は、人を襲ってくる、というわけだ。


「フローレン!」「大丈夫ですかー!?」

女兵士たちが、上の森からの崖を下りてきている。


縛られていた半裸の女の子を、そちらに走らせた。


「みんな、下がって! こいつは危険よ!」


こちらに来ようとする女兵士たちを、フローレンは手で制した。




赤く染まった花園の剣(シャンゼリーゼ)を、両手持ちで前に向け構え…

そしてアルテミシアと二人、魔獣に向き直る。


 <<風纏>>ウィンドヴェール


アルテミシアの援護魔法…

風が、二人の身体を巻いた。


身体の動きが軽くなる。

魔獣、鷲馬(ヒポグリフ)の動きに、これで少しは近づけるか…



魔獣が、飛来する…

大きい。

その巨体…その突進を受けるだけで、彼方まで押し飛ばされるであろう…

その足…掴まれれば人の体を文字通り、鷲掴みにする大きさだ…


来る。

その、鋭い目が、こちらに向いた。


今は…

(かわ)すことに専念、

斬りつけるのは、次だ。

浅く斬っても意味はない…


まずは相手の動きを…剣を叩き込む間合いを読む…


二人が、同時に身をかわした。

巨大な爪が、空を裂く…

風圧とともに、その音が伝わってきた。


飛び去る。

先程より押される感覚が薄まっているのは、風の守りの魔法のお陰だろうか。


弧を描くように旋回し、また彼方から迫ってくる…

巨鳥が、得物を掴み、飛び去る…そういう動きをするように思えた。


つまり、獣、というか、鳥の、単純な動きのそれだ。


次の襲来で、剣を叩き込む…!



三回目が来た。

鋭い爪が、日の光に輝いた。

襲いかかる


でも…?

こちらじゃあない…!


女兵士たちのところだ…!


崖側に寄ってはいるけれど…鷲馬(ヒポグリフ)はそちらを狙っている…!


(危ない!)


躱せるか…?


自分の技では、どうすることもできない…

アルテミシア…魔法を唱えている…任せるしかない…

対応できるのか…間に合うのか…


女兵士たちを、魔獣の、その鋭い爪が襲った…!



しかし…


突然、大きな盾が、彼女たちを覆った。


全員を覆い、陽光を激しく照らし返す、鏡のような盾が…


その巨大な盾…銀の大盾を…

三本の爪跡が、その盾の表面を鋭く(えぐ)っていた。

直で受けていたら、女兵士たちの守りのアクセサリ程度では、防ぎきれそうにない…。


「アルジェーン…!」


あの小柄で無表情な、アルジェーンの銀術だった。

身体を(まと)う銀鎖を、盾の形に形成して、魔獣の鋭い攻撃を受け流したのだ。


彼女の銀鎖のドレスは、スカートの部分の丈ががかなり短くなり…彼女の下のほうの大きな女の丸みが(あら)わになっていた…その中にも、(ヒモ)状だけど銀鎖の下着を履いているので、見えはしない…


アルジェーンは盾に変形した銀を、元の形に戻す。

銀の盾が光とともに糸状になり、形成された細い銀鎖が巻き付くように、彼女のドレスのタイトスカートの部分に、もとの姿に戻っていく…




そして…また、魔獣が迫りくる…

今度はまた、こっちに…


突進してくるこの魔獣の速度には、追いつけない…

すれ違いざまに、斬るしかない…


アルテミシアは少し、岩陰のほうに離れた。

フローレンが、一人、迎え撃つ形になる…

そのほうがやりやすい…この二人の連携は、言葉を交わさなくても行えている…



そして、来た…

まっすぐに…


意識を、集中させる…

交錯する…その瞬間…

全身の力が、跳ね上がるように上昇するのを感じた…


 <<身体強化>>フィジカルストレングセン


アルテミシアの援護だ。


そして

すれ違う一瞬…

花園の剣(シャンゼリーゼ)に、真っ白な幻化が咲く…


 《孤高乃純白》 エーデル・ヴァイス


一人立ち向かう勇気を、力に…

そして、この一撃に賭ける…


花園の剣(シャンゼリーゼ)の刀身が、白光に包まれる…


そして…

手に伝わる、肉を裂く…重たい感覚…!



気高き純白の刃が、飛来する魔獣の身体を、深く斬っていた。


鷲の羽根と鮮血が、舞う風を追うように散る…。


風を裂く鳴き声。

手負いの鷲馬(ヒポグリフ)はその勢いのまま、南の、やや西のほうへと飛び去ってゆく…



アルテミシアの眼前、魔法陣から作られた大きな光の針…

その光の針が、飛ばされた。

風を裂いて駆ける空の魔獣でも、光の速さからは逃れられない。

刺さった…のであろう…

だが、鷲馬(ヒポグリフ)は、その軌道を変えることなく、彼方へと飛び去ってゆく…


「残念、逃がしちゃったわね…」


あの早さで飛んで逃げられれば、追うことはできない

弓や飛び道具があっても、あの速度は落とせないだろう。


「まあ…仕方ないわよ♭ あのレベルの魔獣だったら、一撃では倒せないわ…♭

 それに…」

アルテミシアの手には、光を放つ細い糸が握られていた。


「追跡はできてるから、問題はないわ♪」

先ほどの光の針は、傷を与える魔法ではなかった。


 <<追尾之針糸>> トラッキングニードル&スレッド


相手に光の針を刺し、そこから伸びる光の糸を手繰(たぐ)って追尾する、追跡魔法だ。





「大丈夫。怪我はない?」


助け出した黒髪の女の子。

長い前髪で前は隠しているとは言え、白い(ヒモ)布型の下着一枚…ほとんど裸だ。

エサにされるのだから、着ていると都合が悪いんだろうけど…


「ええ! 助けてくれてありがとう! ほんとに…

 わたしも…もう、死んじゃうんだ、って思いました…」


どうやら、西のオノア地域から逃げてきた、難民らしい。

この山にあるオノア難民の村が奴らに襲われ、その時にさらわれたという話だった。


「まだ捕まっている子がいるんです…わたしと同じ…オノアの難民の子が…」


あの魔獣の飛び去った方角に、あの連中の拠点があるらしい。


「わかったわ! すぐに助けに行きましょう!」


そこのところの岩陰に、この子の脱がされた衣服と履物が置いてあった。

服、と言っても…上着だけで極端に短くて、前も後ろもその紐下着がちらちら見え隠れ…。どこかで衣服を見つけてあげないと、ちょっと恥ずかしい姿かも…。



女兵士たちも、全員怪我はなかった。

約一名、あわてて転んだ子がいたらしいけど…怪我してても自分の魔法で治せるから問題はないだろう。



その南側の森の中…

さっきの男たちのうちの一人が、(ツタ)に絡み取られ、宙に浮かされている…。

残りは全員、地に転がっている…既に生きていないのは、見るだけでわかった。


その側に、ロロリアが、平然と立っていた。アルジェーンも一緒だ。



フローレンは、その男に問いを投げた。

「さっきの鷲馬(ヒポグリフ)は何?」


「あれは…オレたちが飼っている、魔獣だ…」

口だけが動く状態の男が、あきらめたように話し始めた。

あの魔獣を使役しているお陰で、彼らブロスナム兵の集落は、他の集落に対して、優位性を持っている、らしい。


「…あの魔獣に言うことを聞かせるには、エサを与えなきゃならんのだ」


そして、この娘がそのエサにされようとしていた、という訳だ。


「また…そんな勝手な理由で…!」


フローレンの、いつもの怒りだった。

村を焼き、女の子を(さら)い、不条理に命を奪う…

手に現れた花園の剣(シャンゼリーゼ)が、また朱橙色に染まる…

フローレンは斬って捨てたい衝動に駆られている…


その肩にそっと、ロロリアが手を置いた。


そしてロロリアは束縛の魔法も解かず、先へ歩き出した。

いつも冷静で温和な森の乙女?から、今は若干、怒りのような感情を感じる。

この男を解放するつもりもないようだ。


フローレンも、冷静さを取り戻す。

剣をしまい、その後に続いた。





「さ、追いましょうか♪」


アルテミシアが、光の糸巻きを手に、追跡を行っている。


 <<追尾之針糸>> トラッキングニードル&スレッド

   追跡…継続中…

    →場所を特定… 

     此処より南南西二二三度、一(キロ)四五七(メートル)先に停止中…


「すぐ南の…ちょっと西、か…近いわよ♪」


森の中だ。

ロロリアの霊樹三点設置の範囲からは、当然離れてしまう。

だけど、この先のギリギリの場所で霊樹を作れば、少ない空間だけどなんとか管理範囲指定が行えそうだ、という…。

そのために先ほどの広場の近くで、霊樹を作っておいたらしい…いつの間にか…。



歩きながら、黒髪のオノア乙女から話を聞いた。

ベルチェ、と名乗ったこの子は、オノアの草原で暮らしていた遊牧民の娘らしい。

戦いに敗れた民族で、自分だけが生き残り、こちらに逃げてきて、同じ境遇の人たちの村に入った。

その村が襲われた時に捕まって連れてこられ、さんざん男どもにいいようにされ、挙句の果てが、魔獣の餌、と絶望的な状況から救い出されたことを、非常に感謝してくれている…。


先程の場所は魔獣の餌場である…

さすがに魔獣に人を襲わせるのは、あまり見えないように、しかも儀式の形にしているそうなので、こんな離れた場所にあったのだという…。





意外に近く、言っている間に目的地に着いた。

森の中から、そっと様子を(うかが)う…。


集落のような感じの場所だ。

その西側は岩壁に沿っており、天然の洞窟を活かしたり、木で組んだ建物を作ったりしている。


村の中には、先程の鷲馬(ヒポグリフ)の姿が認められた…

暴れている様子はない。何らかの治療を受けているのかもしれない…

魔獣が負傷している姿に、村の連中は慌てている様子が伝わってくる…。


ロロリアが霊樹の儀式を行っていた。

完全な霊樹の三角形の内側という訳ではなく、端にある霊樹の周囲までは、ラクロア大樹の管理範囲に含まれるということで、この位置から村の中の少しまでの範囲なら、森の力を使って戦いのサポートができる、という事だ。


「みんな、準備はいい?」


ロロリアの霊樹の儀式が終われば、戦いを仕掛ける。

女兵士たちはなるべく大樹の加護の範囲で戦わせ、フローレンはアルテミシアとともに、強敵を討ちに行く事になるだろう…。


ここのところ、まったく予定にない話をねじ込んでいるので、ちょっと執筆に時間かかってます…

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