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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第2章 焼け崩れる山砦
8/134

7.割を食うのはいつも 弱い村人…


村の広場に、村オサを始め、主だった者を集めてもらう。

そこでフローレンは、山賊討伐の依頼を正式に受けて来た件を説明した。

アルテミシアも、ユーミもレイリアも、とりあえず食べたい飲みたい事は置いておいて、ちょっと冷静さを取り戻し「山賊から食を取り戻しに行く!」という気持ちに傾いている。


「でも、あんたがたのような、その、」

この村のオサは、子供をみるような目で、ユーミの幼気な可愛らしい顔を、じっと見つめた後、

レイリアの露出した、くびれた腰回りを、じーっと見つめ、

アルテミシアのボディスーツの、股間の食い込んでいる場所を、じーーっと見つめ、

フローレンの花びら鎧が作る、胸元の丸くふくよかな谷間を、じーーーーっくりと見つめながら、


「若くてえろ…いえ、キレイな娘さんたちに、山賊退治なんて、その、できるんでしょうか…」と尋ねた。

他の村人たちも、うんうん、と疑いの瞳と、あとちょっと男特有のゆるんだ目の色をして頷いている。


レイリアやフローレンは、自分が女の魅力的な部分を晒している事に自覚が薄い。

魔奈(マナ)循環効率の関係上、肌を晒していることを自覚しているアルテミシアは、

(コイツら、どこ見ながら言ってるんでしょーか?#)

と、少し怒り混じりの呆れを感じたけれど、そこは大人の対応で、


「まあ♪ キレイだなんて(本当の事を)嬉しいわね♪」

と、ちょっと心の声を滲ませながら、とりあえず礼を言っておいた。


「でもね…♭」

自分たちの力量を測れない村人たちが「非力な女の子」と考えるのは仕方ない、とアルテミシアはわかっている。

まあ、話を円滑に進めるには、自分たちの力を見てもらったほうが早いだろう。


フローレンと目を合わせた。その目は、同じことを考えている。


「あれ、壊して燃やしてもいい?」

フローレンが指さしたのは、広間に面した一角にある、屋根が半分傾いたボロ屋だ。

さっき前を通った時「解体予定」みたいな張り札がしてあるのを確認している。

大半の村人は文字が読めないだろうから、それらしい絵と大きく☓の印が描かれている。子供たちにも、中に入って遊ばないように口頭で説明はしてあるだろう。


「ああ、あれな。壊してくれたら助かるべな」

「面倒だでほったらかしとるだけだべ」

村人も彼女の意図はわかっているかいないかはさておき、とりあえず壊す同意はした。


「大丈夫そう? 見た感じ誰もいないけど?」

フローレンも、確認を怠らない。

万一、中に誰かいたりしたら大事である。


《反応感知》センス・リアクション


「生命反応、なし。その付近一帯を含めて、誰もいないわよ♪」

アルテミシアのその言葉に、ユーミとレイリアが進み出た。

二人とも意図を察している。

彼女たちの仲間内では、言葉をかわさなくても、この程度の意思の疎通はできている。


ユーミの右手が一瞬、金剛の輝きを宿した。

その光に変わって、突然、その手に漆黒の両刃の大斧が現れた。

それも、ユーミの身長よりも遥かに長く、刃も巨大で、いかにも鋭そうに陽の光に輝いている。

「「「「ひぎぃぃーーー!!!!」」」」と叫ぶような表情を見せながら、一部は実際に叫びながら、村人たちが一斉にビビった。


ユーミの動きは風のように疾い。

一気にボロ屋に駆け寄ると、片手で巨大な両刃斧を軽々と振り回す。

その大降りの一撃で綺麗にまっぷたつになり、みっつになり、よっつ、いつつ、

「ふぅ」と肩に斧を背負うように歩いて戻って来るユーミの背後で、ボロ屋は細切れになって崩れ落ちた。


レイリアの右手には、炎の剣が現れている。

正確に言えば、手に現れた赤銅色の剣が、その刀身から炎を発しているのだ。

火色金(ヒイロカネ)という。炎の力を持つ、銅に類する金属の剣だ。

その剣が炎を伴い、そして炎を増幅してゆく。

剣の炎が大きくなると共に、激しい炎が周囲の温度を一気に上げ、空気を歪ませていた。

「「「「あわわわわ…」」」」とテンパりながら、村人たちが一斉に後ずさった。


手の中で激しさを増していくその炎を、レイリアはその残骸に向け、軽く振り下ろした。

猛る火の玉(ファイアボール)が轟音と熱気を残し、飛んでいく。

廃材の山に吸い込まれ、そして…

爆発…!


爆音とともに炎がボロ屋の残骸をすべて飲みこんで、大炎上。

少し先で作業をしていた村人たちが、音と光と熱に反応し「何事か!」と広場に集まってきていた。


「ちょっと、やりすぎよ♪」

アルテミシアが立て続けに魔法を唱える。その魔法の呪文は、白い光の魔法陣を空間に描き始める。


《球状結界》 スフィリシアル・バリア


《水召喚》 サモン・ウォーター

《出現位置を指定》

   →球状結界の内部


白の大きな魔法陣が大きな光を放ち、消えた。

その後に続けて入れ替わるように、青い大きな別の魔法陣が現れた。

炎は周囲に燃え広がる前に、半球型の球場結界に封じられる。

目に見えない結界は、炎の行く手を阻み、炎はそれ以上には大きくなれないのだ。

そしてどこからともなく、大量の水が流れ込んで来る。

見えない巨大な半球型のドームの中が水で満たされ、炎は一瞬で消え去った。


それもほんの一時の事。

結界の半球形の消えた後には、湯気を立てる大量の消し炭だけが残っていた。


あっけにとられる村人達の前に進み出たフローレンは、

「わたしの剣技は、人様専用だけど、誰か試してみる?」

と剣を抜いて、目に止まらないほど素早く、くるっくるっと何回も手元で回した。

花の幻影が村人たちの前で、高速で軌跡を描く。


「いあいあ、も、もう、け、結構ですじゃゃ、よーわかりましたわわわ…」

村オサの言葉に、他の村人たちも、うんうん、と(あわ)てた瞳で頷いている。

もはやフローレンの胸元に目を落とす余裕のある男はいなかった。





村人の話では、山賊は山にある古い砦を根城にしているようだ。

定期的に食べるものや金品を差し出すように言ってきている。

大人しく言うことを聞けば、村を襲うのを控えてくれるということだ。


「怪我させられたり、殺されたりした人は、いないの?」

フローレンは一番気になるところを聞いた。

人的被害が無いのが、最も望ましい状況ではある。


「はい、誰も怪我一つしとらんですじゃ」

「言われたモノだけ出しとりゃあ、村は平和なもんだべな」

村人の口調は、どこか寂しげで、あきらめたような感じではある。


「じゃあ、村の人には被害はない、って事?」

そのフローレンの言葉を受け、村人たちはちょっと気まずそうに、それぞれが顔を見合わせたあと、

「いえ…女が四人ほど…」と細々と言った。


「四人? 山賊に何かされた、ってこと!?」

フローレンの口調が変わった。可憐な表情の中に厳しいものを(あら)わにした。


「いえ…さすがに女も出さないと…ですね、その、村に来られるんです、はい…。

 山賊共に差し出したんです、はい。この村の娘を…です、はい…」


「「なんですってーーー!?」♭♯」「何だって!?」「んだってー!」

女子四人の、驚き、というだけでなく、怒りの混じった感じの声が重なった。


「そ、そうせんとですね…、村のどの女がいつ襲われるか、わからん事になるとです、はい…」

どうやら、少数の娘たちを犠牲にする事で、他の女性たちは狼藉の難を逃れているらしい。


「ちょ! 待ちなさいよ! 女の子を差し出してって… それ、ヒドすぎでしょ!」

フローレンは村オサに詰め寄るように、厳しく言い放った。表情だけじゃなく、さすがに口調まで荒くなっている。さっきの剣を抜いている状態だったら、そのまま刺しかねない勢いだ。

村オサは勢いに押されるように後ろにのけぞりながら、恐れ慄いた。


「ちょっと…捨て置け無いわねぇ♯♯」

アルテミシアも持ち前の歌口調を鋭くして、

「私のスィーツだけでも断罪モノなのに…♯♭」と、さらに闇のオーラを(まと)わせて怒りを現す。


古き時代、魔物に襲われた村では、若い村娘を差し出し、その災難を逃れていたという話はよく耳にする、が、


「戦いなさいよ! あなた達! 相手は人でしょ!? たかが山賊よ!?」

フローレンは、村人たちの対応に、自分の事のように怒りを表わしていた。


「ワルいヤツなんてー、()っころしたら、いいじゃないのー!!」

ユーミも腕をぶんぶん振り回して怒っている。この怒りには多分、肉を食べれなかった欲求不満も上乗せされている。


「そんな事言っても無理だー! オラたちに勝てるわけないだー!」

「んだぁ~…領主様は、北の戦いに行っとるし、ワシらだけでは…」

村人は右に左に、オロオロするばかりだ。


「あー、もう! 情けない連中だなー!」

レイリアは半ギレだ。多分酒が飲めなかった事も、キレさせている原因の一つだと思われる。

「このまま、奪われるだけの人生でいいのかっ!」

気の強いレイリアは、こういう弱気な男連中を生理的に受け付けない。


「何言ってもムリよ…♭」

村人たちの情けない姿を見て、アルテミシアは逆に冷静さを戻したようだった。

みんな自分基準で「戦えばいい」「倒せばいい」と言っているけれど、

ただの村人なんかに賊に抗う力がない事は、アルテミシアはよくわかっている。


「それもそうね…」

それはフローレンにも理解できる。

だから、自分たちがこの村に来たのだ。


「連れて行かれた娘さんたちの、ご家族とか、何も言わないの?」

やや冷静さを取り戻した様子で、フローレンは尋ねる。


「いや…親さいねえ子が二人と、若ぇ未亡人と、継母(ママハハ)が捨てた子だべ、誰も文句言わねえだ…」

「そんな…! 可哀想に…」

結局、誰も守ってくれない、弱い立場の子が犠牲になるのだ。居た(たま)れない。


「さらわれてる子が不憫だわ…早く助けに行きましょう!」

放ってはおけない。

フローレンは、弱い立場の女性や子供を、見捨てることができない性格なのだ。

アルテミシアも、ユーミも、レイリアも、強い目線をして頷いた。

とりあえずお酒もお肉もスィーツも、今はお預けだ。



村のオサを初め、主だった人たちから、詳しい話を聞いた。


村人によって言うことがまちまちで「十五人」という者もいれば「五十人」と言う者もいる。恐れが数字を膨らませている可能性もあれば、全員を見ていない者もいるだろう。

どちらも参考程度の数字、というくらいに思っておいたほうが良い。


武装に関しても「武器」というだけでどういう武器かもわからない。

荒事に慣れていない村人の目からすれば、武器としか言えないのであろう。


賊のカシラは、牛でも叩きコロせそうな無精髭の巨漢であること、

それともう二人、エラそうなガタイの良い男と、目つきの鋭い細身の男がいた、という情報くらいだ。

その漢字だと、用心棒と参謀係、みたいな感じだろうか?


その賊が籠もるという山砦についても、見取り図などあるはずもない。

事前に得られる情報としては、その程度だった。


「どうか、ヤツらを倒してくだせぇ…」

「泣く泣く差し出したけんど、ウェーベルちゃんも、アーシャちゃんも、いい子なんですぅぅ…」

「です…あとの二人は不良なのでいいんですが…」

「いや、よくねぇべ! ディアンちゃんもネージェちゃんも、ちっちゃい子には優しい、根はいい子だべな!」

「助けてやってくだせぇ…!」

「おねげえしますぅぅ!」


村人たちも、我慢していたのだ。

彼女たちの実力をその目で見た村人たちは、救いを求めてくるようになっていた。


村オサも、

「お願いします…持って行かれたの、全部あげますんで…ええ、肉も、酒も、キナコも…、女も全部、さしあげますんで…」

「ちょっと! 最後のはダメでしょ! 何言ってんのよ!」

何を考えているのかしら…とフローレンは思ったけれど、半分興奮気味になっているこの村人たちにはもう何を言う気もなかった。

行って、助けて、戻る、それだけだ。





その砦がある山並みを眺めながら、村人が持ってきた食事を軽くいただききながらの作戦会議だ。昼食がまだだったので、さすがにお腹が空いてきていた。

大きな豆を発酵させた調味料の野菜スープはなかなかいい味で、炊いたコメともよく合う。

ついでに心ある村人たちが、コメを丸めた簡単な弁当も持たせてくれた。大きな葉に包んである。

ユーミが「おいしい! おいしい!」と何杯もおかわりする姿を見ていたので、

この携帯弁当も通常の人だと軽く三食分以上になる分を用意してくれていた。

豊富な雪解け水に育てられたこの村のコメは、実においしいのだ。


お弁当は全員分をアルテミシアが預かった。

ユーミが預かろうとしていたが、彼女に持たせるといつの間にか全部なくなっている可能性が極めて高い。


アルテミシアが魔法を使う時と同じく、意識を集中するような仕草を見せる、

するとお弁当を包んだ葉っぱの包みは淡い光に包まれ、そして消えてなくなった。

実際は消えたのではなく、ここではない空間に収納されたのだ。

亜空間バッグという。

魔法の道具の中には、見かけよりもたくさん物の入るカバンなども存在する。

けれど、アルテミシアの亜空間バッグは、そのバッグの物質的な姿すらない、どこか別の場所に収納されるのだ。


通常、冒険をするにあたり、様々な道具が必要になる。

ロープ、たいまつ、油、食器類や水筒、 

まとまったお金、

その他、魔法の回復薬(ポーション)類や、多種の魔法石、書物、

日持ちのする保存食と飲料水、小腹がすいたときのミニスィーツまで。

そういう雑多な物はだいたいアルテミシアが預かっているのだ。



山賊が籠もるのは、山中にある、かなり昔に放棄されたと思われる砦、らしい。

村から見て、南側の山の斜面に、建物らしいものが見える。それだろう。


「古い時代の国境線と関係してるね、多分」

レイリアが切り株に銅の釘で貼り付けた地図を見ながら、そう分析していた。


「ルルメラルアとブロスナムが争っていた時の境目、って事かな? それにしては南すぎるような…」

フローレンはあまり歴史にも地理にも詳しくはないので、ちょっと控えめな聞き方だ。

(もっと)もそのブロスナム王国も昨年滅ぼされ、内乱はあるもののルルメラルアという一つの国の統治下にある。


「いや、そうじゃない」

レイリアは目にかかりそうな片側の髪を指でかき上げながら、地図に目を走らせている。

「それよりもっと前の時代、エヴェリエ公国とオーシェ王国の国境、だと思う。

 もっとも、この二ヶ国は戦うこともなく、婚姻によって一つになったけど」


「オーシェ王国って、今のルルメラルア王国の前身に当たる国よね?

 エヴェリエ公爵家は今でも、準王家的な地位にある筆頭貴族だしね♪」

アルテミシアはフローレンと違って、歴史や政治に関して、多少の知識は持ち合わせている。


エヴェリエ家は王室との繫がりが強く、公子は国王の親衛隊である金護兵団の将軍を務めている。

そして公女は現在、エヴェリエ公爵領の軍を率い、王国内でも評判の美女のため“麗将軍”と呼ばれているとか。


「だったらまあ、砦くらいある事も納得がいくけど…

 使われなかった砦が、山賊に使われてるとか…なんだかねえ…」

フローレンは、まだ高くにある太陽を(さえぎ)るように軽く手をかざし、その砦のある山の斜面に目を遣った。後世にこんな面倒な使われ方をするなんて、作った人たちも考えなかったことだろう。


アルテミシアも、山高帽の(つば)を傾けて陽光を隠しながら、同じようにその砦を遠く見つめている。

歌姫な彼女は、歴史のロマンというか、哀愁というか、因果というか、それらの入り混じったようなものを感じていた。


食事もいただき、気力もみなぎってきた。

出発の時間だ。


「行きましょう!」

「行くよ!」

「いこー!」

「行くわよ♪」


山賊を倒し、村の女の子たちを救い出すために。

そして、お酒と、お肉と、おスイーツのために。


凄腕の冒険者とは言え、若い女性がたった四人で、何十いるか知れない山賊にかなうのか…?


この四人の女子は、おそらく何の問題もないと考えている。





古い山道を蛇行しながら登り、その先に目的の砦の姿が見えてきた。

まだ日が高い時間に村を出たのだが、既に西の空が朱色に染まり始めている。


その砦は、連なった尾根の一番高い山の斜面にあった。

(ふもと)の通行を、特に軍動きを見張る為のものだと言われると(うなず)ける。


「異変を見つけたら、ここで狼煙(ノロシ)を上げるでしょ、そしたら多分この西か東側にある同じような砦か中継所からも同じように狼煙を上げるんだ。そうやって順々に伝達して敵の襲来を知らせ、早急に対応する。多分、それがこの砦の役割だと思う」

レイリアが、夜の(とばり)が下り始めた宵闇色を背景に浮かぶ砦の姿を示しながら、この砦の役割を話していた。


「ほんとだー! あっちにもトリデがあるよー」

西の方角、黄昏(たそがれ)の空に浮かぶ黒い山並みを指して、ユーミが言った。他の誰にも、それは視認できなかったが。

ユーミはとても目がいい。常識離れて目がいい。

獣人族の特性のひとつである。


そしてユーミは肉をよく食べる。それも獣人族の特徴である。


「山の北側斜面から麓を見張る、という事は、砦北側の高い位置、少なくとも二階より上にバルコニーか見張り台があるはず」

つまり、正面から行かなくても、そこから侵入できる可能性がある、という事だ。


確かに、近づくにつれ、北側の構造はせり出したようになっており、そこから広く北の道を見渡せそうな作りがうかがえる。

この麓の道を通って来たはずなのだが、馬車で走っていた時は外の景色を気にもしていなかった。


レイリアは意外と建築に詳しい。

レイリアが仕えるグィニメグ神は太陽神であり、光や炎の他に、創造の神でもある。

その関係か、建築についても司る神であり、グィニメグの巫女たちも建築学と呼べるものを一通り、教義の一環として学ぶのだ。

だから建物の構造や役割についても、ある程度の予測がつくのだ。


そしてレイリアは酒をこよなく愛す。別にこれはグィニメグ神の巫女であることも、炎竜族サラマンドの血が強い事とも関係ない。多分。


ユーミは何を考えているのか、いや考えていないのか、砦の正面に歩いて行こうとしていた。

「こら、堂々と正面から行くな!」

「なんで?」

軽率に行動するユーミを、レイリアが止める。


「捕まっている女の子たちが巻き込まれたら怪我しちゃうでしょ? まずは静かに入って助けるの♪ わかるでしょ?」

ユーミでも理解できるように、アルテミシアが、気づかれず潜入する必要を説明する。


「わかったーーあ!」

「こら! 声、デカい!」

ユーミの返事に負けず、叱りつけるレイリアの声も、相当な大きさである…。


だけどその声で気づかれた様子もなかった。誰かが外に出て見張りなどをしている感じではない。

村人だけと舐めてかかって、全く警戒などしていないのだろうか。




日が完全に落ちるのを待った。

それまでに、可能な範囲で砦の分析を行っておいた。


森の中を獣道が通っており、その先に砦がある。

辺りは森とまではいかないが、いくばくかの木立があり、砦の前面だけが開けた空間になっている。

その林の中から隠れるようにして、砦の様子を伺っていた。


その間、ユーミは夜食用に獣を獲ろうとして「騒ぎを起こすなと何度言ったら」と皆に止められている。

レイリアはその辺りに転がっている石を拾って眺めたり、その辺の木の根元を調べたりしている。

フローレンは手持ち無沙汰だ。花でも咲いていたら愛でるところだけど。

アルテミシアは魔法での探索を行った。


《反応感知》センス・リアクション


「魔法反応…なし…、生命反応…遠いわね…人がいるのは砦の中だけ…かしら?♭

 中にはけっこう居そうだけど…ここからじゃあ遠すぎるから、反応が小さくて詳細はわからないわ♭」

つまり、山賊全員が中にいるのか、外に出て見張りなどを行っている様子はない。

アルテミシアの魔法による検知の結果からすると、そういう事になる。


砦の外観は、大まかに言うと、四角形を上に伸ばしたような構造だ。

ただこれは、今いる砦の西側正面から見た感じである。

逆側になる東側の形状はわからないが、多分同じような形状だろうと予想される。

南側は山の斜面の石壁に沿ってる。つまり砦の南側の壁は山の岩壁をそのまま利用している創りだ。

アヴェリ村への山道を望む北側は切り立った斜面であり、おそらく二階にあたる北側上層階の部分が丸ごとバルコニー状になっている。

つまり南の岩壁と、北の崖に挟まれた細い山道を遮るように、真四角の砦が建てられている訳だ。


砦の外壁は、町の城壁のような形状が予想される。つまりその壁の上が通路になっているようだ。

だが、その外壁の所々が崩れているのが見える。

破損が激しく、石造りの壁がまるで石柱のようにしか残っていない場所まである。

空中に木材を組んで足場を作り、最上部の通路だけが空中通路のように作られている感じになっている場所もある。


かなり古い、年代物の砦というわけだ。

それも、作りが弱いのか、崩れやすい感じなので、気をつける必要がありそうだ。

特に、見境なく暴れる仲間がいる場合は…。



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