73.大樹の村に集う
メンテ延長を受け、予定変更がありました…
さらにそれから半月後…
フルマーシュに残っていた占い師レメンティも、踊り子ラシュナスも、
そして初期からのメンバー、海歌族のチアノ、ラピリス、アジュール、セレステ、の四人も、ついにこの村へ来た。
町に勉強に訪れていた、このエルフ村の森妖精のマラーカとジェデイーの二人も戻ってきた。
多数の女子が引っ越してきた、ラクロア大樹のエルフ村…
村の中央広場から東側が、居住スペースだった。
住む場所はたくさんある。
三十個ほどの大小の家が、外に広がる枝の上に、家が実のようにたくさん成っているような感じだ。
昔、北に旅立っていった、森妖精たちの家だ。
彼らがいなくなって日が経つけれど、中は綺麗なままで、すぐにでも住める。
そこに至る枝は、これもその上が頑丈な木材で補強されていて、木の板の道のようになっている。
枝なので先に進むに従って高くなるので、当然、階段状になる部分もある。
家の大きさはまちまちだけど、概ね三、四人ずつが一つの家に住む事になる。
海歌族の四人は、敷地に水場のある家に住んでいた。
アヴェリ村の四人は広場から一番近い二軒家の片方に住んでいる。
その向かいにあるもう一軒に住んでいるのが、ミミア、メメリたち四人だ。
四部屋あるけれど、キューチェとハンナは一つの部屋で寝泊まりしている。
ユナたちは、村で一番大きな三階建ての家に、女兵士八人と子供二人で住んでいる。
フルマーシュ孤児組六人は、中央広場やや北よりにあるキノコみたいな家だ。
料理人母娘は、南寄りにある、部屋を三つ積み上げたような、縦長な三階建て。
ブロスナム難民一家の四人は、何かの施設に使っていたような、やや大きな建物に住んでいる。この一家の母親で、おっとりしてるのにやり手のニュクスは、ここでかなり大きな部屋に住んでいて、他の家に住む子供が、ここに泊まりに来れるようにしている。同居者が行商に行って不在になる事など、先のことを考えて、だ。
ちびっ子のプララとレンディは、クレージュと同じ家に住んでいた。
広場から東の真正面にある大きな家で、事務所の部屋もある建物だ。
クレージュが行商に行く事が多いので、先のニュクスの家に泊まりに行ったりする事になるだろうけれど…。
レイリアを含む火竜族の五人も同じ建物。
ただ…レイリアはお酒を飲んで広間で寝てたり、工房で寝てたりで、家に帰る事が少ない。
ユーミは北側にある、馬小屋のあたりで寝ている事が多い。
一応、家は用意されているのだけど、その家に帰って寝ることはない…。
尤も…
この村は温暖なので、広場で毛布に包まって寝るのもよいものなのだ。
それに、守りのアクセサリを持っている彼女たちは、多少寒くても大丈夫だ。
以前は、仕事して食事した後、家に帰るのが面倒で、よくその辺に寝ている子もいた…のだけれど、「だらしがない」とクレージュに叱られるので、彼女が来てからはなるべく家で寝るようになった…。
レメンティは、広場から一番遠い、小さな個室だけの家だ。
彼女は情勢を探りに頻繁に旅に出るので、ここにいない事が多くなる。
ラシュナスは、わりと大きな家に、一人で住んでいる…。
…けっこう退屈そうだ。この村には女子しかいないからだ…。
最初からここにいる森妖精たちは、小さな家に二人で住んでいたり、もっと小さな家に一人で住んでいる子もいる。
村の長のロロリアは、二つ上の層階の大樹の幹に面した一番大きな家に住んでいる。
銀妖精のアルジェーンと一緒に。
その家は、大広場から見上げれば、結構高い位置にある。
その家が、このラクロア大樹の管理室になっている、という話だ。
アルテミシアは、上層階に作られた研究室みたいなところに住んでいる。
ここにある魔法器具や書物に加えて、フルマーシュの町に戻る度に、書物や怪しげな器具などを順次持ってきて、ここに移している感じだった。
部屋はいつ来ても散らかっているので、弟子たち…キューチェとハンナ、マリエとナーリヤ、ウェーベルとアーシャ、プララとレンディ、達がいつもお片付けをしている…
神秘的で博識な魔女で、しかも絶世の歌姫なのだけど…
私生活や家事女子力は壊滅的なのだ…
その隣りには図書室兼、学校の教室みたいな場所があって、よく子どもたちが出入りしている。
主に子供たちの面倒を見るのは、最年長のニュクスだ。
おっとりしたニュクスは二人の娘と歳の離れた妹を育てた事もあって、面倒を見るのは得意そうだけど、教えるのはあまり経験がないようだ…
かといって、子どもたちの先生に向きそうな人材も他にはいないし、ニュクスは先生役もこなそうと頑張って、読み書きや計算を教えたり、物語を聞かせたりしている…。
そして彼女自身、アルテミシアから魔法を学んだりもしているのだ。
そのアルテミシアが先生になる事もある。
アルテミシアは子供好きだ。
だけど彼女は、この村でクレージュと並んで最も多忙な人である。
弟子たちに魔法や歌を教えてあげるだけでも、けっこう時間が取られる…
その上、研究や、装置作りや、スィーツを食べるのに忙しくて、もういっぱいいっぱいだ。
この村の環境を整えるのに、魔法装置が多く必要そうなので、その制作にかかりきりになる…。
その手伝いとして、魔法の弟子の中から魔法文字の記述ができる子を育てよう、としてるのだけど…今のところできそうな子が、可愛いキューチェしかいない…
しかも頭の良すぎるキューチェは、ここの全員の予定管理とか施設の使用順番の管理とか、そういう大事な役目があるので、なかなか手が空かないのだ。
そんな訳で、アルテミシアは多忙なのだ。
ご飯を食べる時間もない…
…スィーツは必ず毎日食べているけれど…
このままではこの大樹の村に籠もりっきりで、行商のほうまで参加できなくなりそうだ…
でも月一回くらいはフルマーシュのお店に帰らないと、あちらの冷暖房空調やお風呂、冷蔵倉庫の魔法装置のメンテナンスの必要もあるのだ…。
そういう理由もあるので、アルテミシアはできるだけ多くの子に学術魔法を教えている。一人二人でも自分の仕事を手伝う能力のある子が育てば、それだけ村全体の発展にも繋がる。
意外なことに年上のニュクスの魔法素質が高く、キューチェに次ぐ二番弟子になりそうだった。
そして、魔法を教えた女子たちも、付きっきりにならなくても、自己で魔法の鍛錬を行えている。
村全体の魔法習熟レベルが上がっている、好ましい傾向にある。
フローレンは南側の花畑にある、小さな家に住んでいる。
お花で飾られたメルヘンちっくな、一部屋だけの小屋のような家だ。
花畑はもともと、それほど広くはなかったのだけど、フローレンがここに来てからは、よく手入れするので、かなり広がりを見せていた。
フローレンは現状は訓練を担当したり、今後は女兵士たちを山に連れて行って探索したり、時々は行商にも出るので、忙しい身だけれど、暇があればここでお花を育てるのを楽しみにしている…。
だからここのお花を管理しているのは実質的には、お花屋さんで一緒だった親友のリマヴェラだ。
二人で、ここを一面の花園にしようと計画していた。
その隣り、この村のいちばん南側は、畑が広がってた。
南側のこちらには土の地面が広がっている。
きつく組まれた木材の地面の上に、かなり多くの土が運び込まれているような感じだ。
その半分の半分くらいが、畑や水田として使われている。
例の甘い黍の畑も、大きく広がっていた。
この村は大樹の影響で、植物の成長が異常に速い。
その上、異常に大きくなるし、異常に味も良くなる…。
みんなで頑張って耕作を行い、米、麦、芋、豆、…いっぱい植えた。
根菜も葉野菜も、買ってきた種や苗をいっぱい植えた。
農家出身の子たちが中心になって、持てる知識を駆使して、みんなで植えた。
収穫が楽しみだ。
多くの葉で遮られているけれど、この南側だけは日当たりが良い。
陽光がここまで入ってきている。
直接の陽光は届かないのだ、大樹の魔法的機能の一つで、光を運んでくるらしい。
葉を鏡のようにする原理、ということだ。
唯一問題があるとすれば、雨が降らない事だ。
水やりはみんなで頑張らないといけない…。
一番奥は果樹園だ。
田畑だけじゃなく、その土の地面には普通に木が生えていたりもする…。
…大きな樹の上だから、何か不思議な感じ、ではあるのだけど…
林檎の木や蜜柑の木、
見たこともないような不思議な果物もたくさんだ。
はるか南国の果実までもが、この果樹園では実るのだ…。
ここは木の上だけれど、水の心配はない。
この大樹が、雨を蓄えるようになっているらしい。
ただそれだけではなく、その雨水以上のきれいな水が供給されている。
だから水は豊富だ。
大樹の幹に隣接するように、水を湛えた池のような場所が各所にある。
飲み水や料理用はもちろん、畑で作物を育てるにも充分な量の水だ。
作物を育てるには大量の水が必要だけれど、全く問題ない。
この大樹の村には、上の階層がある。
大広場のある下層から、その上層に上るには、大樹の幹に沿った螺旋階段を使う。
螺旋階段…とは言っても、幹が太すぎるので、ちょっと湾曲した普通の階段のようにしか見えないけれど…
あと、東側の枝上の居住区、その端のほうは、枝の先に向かうにつれて高くなっているけれど、そこから二階層への吊り橋も掛けられている。
訓練所は、その二階層の北側にある。
かなり広い場所だ。
ここの女兵士が全員揃って、訓練を行うこともできそうだ。
この二階層には、大樹の外周を一周するテラスが巡らされている。
横に数人並んで歩けるほど、幅も広い。
けれど、覆い茂る枝と葉に遮られて、大樹の外の景色は見えない。
その円環型テラスの西の端から、西側に伸びる枝の道が一本伸びている。
その枝の道の先っぽは、大樹のほぼ外側まで続いていて、そこの葉の間から、西のスィーニ山を見る事ができるのだ。
この二階層の訓練場の端側には、木や縄を組み合わせた多数の運動設備が設えられている。
ここ何年も使われていない感じだったけれど、特に破損したり危険なところはなく、このまま訓練に使えそうである。
女兵士たちはこの運動設備を使って…
上の枝から吊るされた網や綱を上る。
木材や綱の、細い足場を、歩いて走って渡る。
細かい足場から足場へ、跳ぶ。
石壁に似せた高い積木の壁を、ハシゴを使ったり使わなかったりでよじ上る…
城攻めの城壁上りみたいな訓練だ。
女兵士どうしで、剣を交えたり、素手で組み合う訓練も、欠かさない。
訓練を担当するフローレンは、自分の得意武器をひとつと、防衛戦用に剣と盾のセット、破砕用の鈍器、遠隔用の弓、などは多少なり使えるように、と女兵士たちを指導していた。
あとは…フルマーシュの店の裏庭ではできなかった訓練…
合図で同時に動いたり、集団で模擬戦をしたり…
日を追うごとに、本格的な兵士のような訓練になってきた…
女兵士たちも、厳しい訓練であろうと、音を上げる子はひとりもいない…
ここにいる多くの女兵士が、賊に拐かされた過去を持っている…
もうあんな目にあいたくない。
女子たちは、自分で自分を守り、仲間を守る力を持ちたいのだ。
基礎的な体力作りも欠かさない。
短い距離を走るなら、ここには直線を駆けるに充分な広さがあるし、
長い距離なら、外周テラスを何週も走れば、相当いい運動だ。
この村の外周はどの場所も、かなり頑丈に柵が張り巡らされているので、ここから落ちる事はまず無いけれど…
もし、落ちてしまったとしても…落下防止の安全装置が働いく。
誰かが落下すると…
自動的に葉っぱが支え、それが反動で上へ飛ばし、さらに飛ばして、飛ばして…
やがて広場へ帰ってくる。
面白いからと言って、わざとやるのは禁止、とロロリアから言われている…。




