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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第8章 花月兵団
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71.娘たちの旅立ち


数日後…

ラクロア大樹のエルフ村に彼女たちは到着した。


二頭の馬が引く馬車が二組と、そしてクレージュ自ら馬に乗ってきている。


例によってこの村の長であるロロリアが一行を歓迎し、ここに先に来ていた子たちが出迎えた。


「お久しぶりです…森妖精(ドライアード)(オサ)様…お世話になります」

クレージュは代表者として村長のロロリアに(うやうや)しく礼をした。


「いえ…こちらこそ…お待ちしておりました…」

ロロリアも、貴人を迎えるような、敬う深い礼をしていた。


どちらも相手を下に置かない、大人の対応というやつだ。

礼儀作法に詳しくない他の女子たちにもわかる、

そして二人の長の貫禄に満ちた姿を、魅せられたように見つめていた…。





クレージュがロロリアに付いて、森の村の見学に回った。

フローレンとアルテミシア、レイリアとユーミも同行し、銀妖精(シルバーミネラリアン)のアルジェーンも連れ立って歩く。

可愛いキューチェと相方のハンナもクレージュが同行させている。



ここに新しく着いたメンバー…


ミミアとメメリが、ここまで乗ってきた馬たちの世話をしていた。

そこに、前回ここに来ていた女兵士たち、獣人族レメッタと、空歌族(ハルピュアイ)イーナの二人、そして山中で助け出され仲間になった、イーオスとヘーメルの一歳違い叔母姪コンビが手伝いに加わった。

馬の世話をする女兵士たちは、ほとんど全部脱いだような格好で、馬と一緒に水場ではしゃいでいる。

身体を洗ってもらって、馬たちも気持ちよさそうだ…。

そして、このラクロアで採れた赤々とした人参をご褒美にもらっている…。



その隣で、火竜族(サラマンド)のルベラが、乗ってきた馬車の点検と整備をしている。

前回組の鍛冶屋の娘シェーヌがやってきて、その作業を手伝っていた。

この二人は短い間だけど、店でも親しくしていて、こういう作業も上手く連携して行っている。



料理人一家の、小柄で可愛らしいママのキャヴィアンは、長女のトリュールと一緒に、ここに到着してさっそく、広場横の調理場を見学し、そのままごく自然に、ご飯作りに入っていた。

この村の料理担当の翡翠(ヒスイ)色髪の森妖精(ドライアード)ジェディーに話を聞きながら、先にここに来ていた女兵士ユナと、その二人の妹・義妹(いもうと)フィリアとランチェと一緒に、大人数の食事づくりを行っている。

大人数の食事を作る彼女たちが来てくれたことで、みんなすごく安心している…。



ちびっこ達…プララとレンディ、それに料理人一家の次女フォアは、

少し前にここに来た、金髪のルッチャ、黒褐色髪のファラガ、北の難民一家の末娘フェスパと、もう仲良くなっている。

おっとりした保母さんのようなニュクスの見守る中、六人で一緒に駆け回っていた。


で、途中からお手伝いを頼まれて、ご飯の食器を用意して並べたり、料理を運んだりしていた。

大人たちのお手伝いに慣れているプララとレンディが、他の子たちに要領を教えて上げている感じだ。



そして今回こちらに来た残りの一人…

新人火竜族(サラマンド)のもう一人の陰キャラのほう、赤珊瑚色ツインテールの小柄で可憐なコーラーは…

人の多さにおどおどして、物陰から様子を窺うようにしていたのだけど…


「あら~…? コーラーちゃぁ~ん?」

「何ビビってんの! こっち、来なよ!」

と、火竜族(サラマンド)の先輩ネリアンとガーネッタに見つかって拉致されていった…





本当は六日でこのラクロア大樹の村に着く予定だったのが、七日かかった。

エルロンド大聖堂の南の、例の行商人宿で合流する予定だったのが、一日遅れたのだ。


クレージュ班と、フローレン班、二班に別れて、途中、エルロンド南の行商人宿で合流。そういう計画で、同じ日にフルマーシュを出発した。


クレージュの班は、レイリア、ユーミがついて、それと一緒に火竜族(サラマンド)の新人、ルベラ、コーラーの二人をつれて、商業都市アングローシャへ商品を卸しに行った。

こちらの班の人数を少なくしているのは、物価の高いアングローシャの宿泊費を、少しでも減らすためだ。


商品はとても良い値で取引された。

前回好評だった果実酒は、一本しかない事を残念がられたが、

前回を上回る、金貨十九枚、と良い値がつく。

値が上がったと言う事は、気に入った貴族が、また欲しいと言ったのだろう。

手に入りにくい事は伝えたが、手に入れば何卒是非、と丁重に所望された。


そして例の砂糖酒だ。

一本辺り、金貨十枚。

これは、商業都市ガルト経由の、南国の砂糖酒と同じ価格だ。

当然、その値で五本とも売却する。


ただ砂糖酒に関しては、更に上質な物が手に入る可能性を示唆しておいた。

その言葉に商会員は、とても興味を示した。


何しろ、この今の砂糖酒ですら、ほぼ貴族の口にしか入らない、上物と同格なのだ。

その上、と言われると、もはや未知の贅沢品である。

その極上の品を、貴族に提供する…それはこの老舗商会の職員にとっても、最高の仕事のやり甲斐になりえるのだ…。もちろん、儲けにも。


そして、砂糖だ。

前回と同じく、両手で抱えるほどの大きさの麻袋で金貨五枚。

十袋持ってきてあるので、金貨五十枚…。

砂糖はいくらでも売れるので、どんどん持ってきて欲しい、との事だった。

この調子だと、今後の商売も順調にいきそうだ。



その後は、町での買い物だ。

今回は大金が手に入ったので、エルフへのお土産だけでなく、女兵士たちにも、いい物を買って帰れそうだ。

レイリアがお酒の肴なのか、海産物の乾物とか、チーズとか干し肉とか、そんな食品をいっぱい買っていた。話を聞くと、エルフたちと約束したらしい…。


ついてきたレイリアの妹分二人は、対照的だった…。

陽キャラのルベラは、見聞を広めるために大陸に来たというだけあって、やたら町を歩き回りたがっていた。一人で出歩こうとして、クレージュに叱られていた。

陰キャラのコーラーは、不特定多数の人の多い場所が苦手という事で、引きこもって宿の部屋からも出ようとしない…。これはこれでレイリアに叱られていた…。



用事を終わらせたクレージュ班は、そのままアングローシャを西に抜け、二日後には待ち合わせ場所のエルロンド大聖堂南にある行商人宿に到着した。

のだけど…フローレン班が遅れたのを待って、丸一日、この宿で過ごすことになった。

陽キャラのルベラが大聖堂見学をしたがってうるさかったので、レイリアがメチャ怒っていた…。

ユーミはただ肉を食べまくっていた…。




フローレン班は、アルテミシアが一緒だ。

そしてあの救出劇があったおかげで、商業都市アングローシャに行くことを控えている、ミミア、メメリ、キューチェ、ハンナの四人と、

キャヴィアン、トリュール、フォアの料理人母娘三人、

そして親元を離れたプララ、レンディが一緒。


積荷が少なく、全員が馬車に乗れる。

だから行軍も速かったのだけど…


フローレン班が遅れた理由は、エヴェリエで謎の調査を受けたからだ。


彼女たちの泊まっていたのは、前回と同じ宿屋だ。

エヴェリエの青三色衣装の兵士たちが、その宿にやってきた。


例の助爵の証書を提示した。

でも兵士たちはフローレンとアルテミシアの名前を確認しただけだ…。

それで、あとは…けっこう待たされた…。

別に荷を(あらた)められたわけでもない。

食事などは一番高い物を無償で提供してくれたし、扱いは悪くない。

兵士たちも(うやうや)しく、最後には敬礼をして立ち去っていった。


「別に、エヴェリエで何か事件が起きた感じでもなかったしね♪」

「何だったのかしら…一体…?」


だけど…その事件のせいで、行軍が遅れ、結果的に予定日より遅くなった…。

到着が遅れた事で、クレージュたちからは、とても心配されていた…。


温泉の村でゆっくりして、エヴェリエでも良い物を食べて、お陰で英気を養う事はできた…のは、良かった事なのだろうけど…





ちなみに、温泉の村といえば…

あのクレフ村の不良娘三人は…

前回の帰りに拾って帰って、その三人がフルマーシュの店に合流している。


三人娘は、変な濃い化粧もやめて、服も普通の女の子っぽいのを着ていた。

そしてあの温泉村で、まともに土産菓子の売り子の仕事をしていた。

それを見て、フローレンもアルテミシアも、仲間に加える事を決めたのだ。

けっして、売り物の温泉まんじゅうを土産に沢山もらったから…ではない…多分。


喧嘩っ早そうなグラニータは、頭上に髪をまとめた奇抜な編み込みを切って、割とショートヘアに、 

妖艶そうなチョコラは、二本ツノのようなヘンな編み上げを解いて、高い位置からのツインテールに、 

ちょっとあざとい感じのパルフェは、ギザギザツンツンの逆毛を下ろして、大きく広がる感じのストレートに、

と、髪型もまともになって、三人ともわりと可愛い感じになっていたのだ。


村の不良として粋がっていたけれど…

武術のほうはからっきしだ。体力もない。


現状、ちっちゃなアーシャにも剣で楽勝で負けるので、

「猛特訓が必要!」

と、エルフ村から戻ってきて、しばらくこっちに残る予定のネージェとディアンが教官になって、容赦なく(しご)いている…。

ネージェもディアンも、もともとアヴェリ村の不良娘だから、そういう意味でも先輩に当たるのだ…。

まあ、扱くだけじゃなく、彼女たちの気持ちもわかったりするだろう…。




エルフ村の歓迎会では、例によって食事会の後で、互いの紹介がなされ、そして例によって、贈り物が送られた。


森妖精(ドライアード)たちは、食器以外にも良いものがある、とだんだんわかってきたようだ…

一度、何人かを行商に参加させても良いかも、とクレージュは考えている。


そして、今日の夜にはレイリアの持ってきたおツマミで、お酒がさらに盛り上がる事だろう…



食事会の後は、ここでみんなが行うべきことを話し合う。



その横では、六人のちびっ子たちが、そろって後片付けを手伝っている。

プララとレンディが中心になって率先して動くことで、他の子たちをお手伝いに巻き込んでいる。


フローレンの読みどおり、早くもこの二人は小さな子たちの中心になっている感じだ。


今回の移住メンバーの選別について話し合ったあの日、夕食後…


クレージュは、この店を始めた時からの馴染みである、商売担当のクロエ、料理長セリーヌの母娘と面談した。

フローレンとアルテミシアが同席している。


プララとレンディをエルフ村に移住させる提案を聞かされて、さすがに四人とも驚いた様子ではあった。


ふたりのちびっこは、エルフ村自体には興味を示していたけれど、母親と離れることは考えていなかったみたいだった。


フローレンが、この二人を子供じゃなくて、大事な役目を担える仲間だ、と考えているから、この子たちに移住の話が出るのだ。

母親にくっついているだけのちびっ子、とは見られていない。

カリラとセリーヌだけでなく、小さなプララとレンディにも、その事がはっきりとわかった様子だった。


ちょっとの間、訪れた沈黙…

それぞれが考えをまとめ、気持ちを整理する為の時間が流れた…。



最初に口を開いたのは、ちびっ子の片割れ、プララだった。


「…ママ、プララ…、行っても良い…?」

少女は、その(つぶら)な瞳で、母カリラをじっと見上げていた。


「ええ、あなたが選ぶんだったら、母さんが止めることは無いわ…」

カリラは娘の決断に、全く迷いもなくそう諭した…。



それと比べると、ちっちゃなレンディは、母と別れる事は、やっぱり少し躊躇(ためら)いがあるようだ。

無理もない…

父のいない母と娘だけの家庭で、ずっと一緒に今まで生きてきたのだから。


でも、口を開いた彼女の言葉は…


「だって…ママが一人になっちゃうでしょ…」


と、自分のことよりも、母を(おもんばか)っての躊躇(ちゅうちょ)だったのだ…。


その言葉を受けて、セリーヌは…堪えるように瞳を閉じた…。

そして、いつになく、厳しい口調で、


「レンディ、あなたのお仕事だと思って、行きなさい!」

と、娘を叱りつけた。


全員が驚く。

セリーヌは穏やかな性格で、人を叱るなどという事とは無縁の女性だからだ。

付き合いの長いクレージュでさえ、彼女のこんな表情を見るのは始めてだろう。

それは、十年来一緒にいた、娘のレンディにとっても、そうだったのかもしれない…。


でも、ちっちゃなレンディは、母の目をまっすぐに見上げていた。


「おしごと…?」

「そうよ。お母さんはここでお料理を作ってお客さんにお出しするのが、お仕事。

あなたはその村に行って、他の子たちと一緒にお姉ちゃんたちを助けるのが、お仕事」


「わかったぁ…!」

母からの言葉に、レンディも吹っ切れたように、強い返事を返した。



カリラもセリーヌも、意外とあっさり、二人が大樹の村に行くことを(がえ)んじた。



「いつかこういう日が来ることはわかっていたわよ、それが今日ってだけ」


カリラは行商の途中で盗賊に襲われて、夫を失っている。

別れは突然だという事を、身をもって知っているのだ…。

だから、プララが親元を離れることも、常に覚悟はしてきている。

自分の意志で行くことを選ぶのなら、止める事はない。



「この子が親離れっていうのか、私が子離れしなきゃいけないのよね…」


セリーヌはずっと、娘のレンディのお陰で、自分はひとりじゃない、と思って生きてきこれた。

だけど、ここで年上の女の子たちと関わっている姿を見て、娘はわりと自立している事を自覚していた。

だから、自分がこの子を縛る枷になってはいけないのだ、とも…。

これをいい機会にして、娘に成長することを望むように、自分に言い聞かせている。


「あなたたちと一緒だったら、むしろ安心できる、って感じよ」

「そう、そこよね! …私達といるより、ずっとね!」


カリラもセリーヌも、気心の知れたクレージュにフローレンやアルテミシア、他の女子たちがいるから安心して娘を送り出せるのだ。


この二人はこのお店がある限り、最後までここを離れないだろう。

ここから東、首都オーシェ方面への行商もあるので中継地は必要だし、お店を開けている以上、良い料理を提供する事は必要だ。


何より、女兵士たちが行商でこちらへ帰ってきた時、それを受け入れる者たちが必要だ。

彼女たちにとっても、この店は“故郷”なのだから…。


「まあ、永久の別れ、って訳じゃあないわよ。

 行商の時に時々、こっちに帰ってくる事にするから」


クレージュはその辺りの配慮は欠かさないだろう。



(………)

フローレンは、さっきからずっと、心のざわめきを感じていた…。


フローレンは、彼女たちの遣り取りに、自分と母の姿を重ねていた…。


フローレンは、あの日の事を思い出していた…

自分を残して、父と共に何処かへ旅立った、母…


そして、帰ってこなかった…その事を…


旅立ちの形は違う。

でも、母娘の別れ…

その姿に、どうしても自分を重ね合わせてしまう…。


(ううん…ダメ…今、こんな事思い出しちゃ…)


フローレンは、思いを断ち切るように、大きく空気を吸った。

そして、息を整えて、言った。


「大丈夫…プララとレンディは、わたしが…わたしたちが、必ず守るから!」

(別れが、私達のように、永遠になることがないように…)


カリラとセリーヌは「娘をお願いします」と、フローレンたちに頭を下げた。


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