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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第5章 南街道の行軍
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49.クレージュの店、女子多数


七日後。

フルマーシュの町、クレージュの店。



「つまり、十人で出かけて、十八人で帰ってきた、ってわけね」


留守番をしていたレメンティが、ちょっと呆れたように言った。

レメンティは占い師の衣装、肌にぴっちりした砂漠の国の装束のままヴェールだけ外した姿で、カウンター席で飲んでいる。

クレージュはその隣に座って、自分が不在にしていた期間の話を聞いていたところだ。

フローレンとアルテミシアはカウンターの中に席を作って、その二人と向き合うように座り飲みしている。


女子専用席をその()人の女の子たちに譲っているので、彼女たちはカウンター席に座っているのだ。

その席には、ミミア、メメリ、キューチェの三人娘も、何とか詰めて座って、その十一人で満員だった。


帰ってきたばかりの残りのメンバー、ユーミとネージェ、ディアン、チアノは、お客用のテーブルの一つに座って食べている。

その料理の量はかなりのものだけど、半分はユーミの分なので問題ない。




女の子が八人も増えると、一気に身狭になった実感がある…


でも実は、増えたのはその八人だけではなかった。



クレージュたちが南街道の行商に行っている間に、この街の孤児だった四人の女の子が、この店に移ってきていた。


フローレンの花売りの友人だったリマヴェラは、花屋の向かいに部屋を間借りしていたけれど、花屋が閉店して仕事がなくなったので、来月からの家賃が払えない。

フローレンがそういう事情を聞いて、こっちに連れてくる事になっていたのだ。


アルテミシアのファンのお針子、トーニャの務める仕立て屋も閉店だ。

というよりは、商業都市アングローシャの本店に業務をまとめる事にしたようだ。

つまりフルマーシュ店は撤退。

トーニャは他の町に行くよりも、もともとクレージュがこちらに誘っていたので、店のみんなの服飾管理をする事を希望した。


海歌族(セイレーン)のラピリスと、その友人のベルノが務めるパン屋は、職を失った店主の身内を雇う事になり、この二人の仕事が減らされた。

そこに住み込みで働いているベルノは非常に居辛い状況になっていた。ので、ラピリスを頼ってここに住みたい、と先日から要望があったのだ。


ユーミの猟師仲間のエスターは、その三人と連れ立って来た。

今住んでる猟師小屋は町から離れていて何かと不便なので、狩りの時に時々使う程度にして「町に住みたい!」と前から思っていたらしい。


もともと孤児院で仲の良かったこの四人は、久しぶりに一緒に住む事を楽しみにしている感じだ。




「まあ、あの子たちに、こっちに来ていい、って言ったのは私だけど…?

 でも、もうお部屋、空いてないわよね…?」


クレージュは今回の行商から帰ってきてから、正式に部屋割りを決めるつもりだったのだ。だけど、先に来てしまっていた…、という事は…


「そうよ! だから私の部屋、あの子達に譲ったわけよ!」


レメンティは、先日からクレージュの部屋に寝泊まりしている。


「それは悪かったわね…

 でも、いいわよ。そのまま私の部屋、使って頂戴」


「あ、いや、別に…、部屋を譲ってとか、そういうんじゃあ、ないんだから!

 あ、相部屋でも、構わないわよ!」


小声で「一人の時にこっそりやるから、気にしなくていいのに…」とか言っているのは、とりあえず聞き逃してあげるところだろう…


「いえ、そうじゃなくって…」

クレージュが気にしているのは、そういう事じゃあない。


クレージュは夜遅くまで、商売やお店の仕事をする。

寝るのは概ね、全員の中で一番最後だ。


そしてまず、朝も誰よりも早く起きる。

誰よりも早く、大抵最初に起きて活動する。


そんな遅寝早起き生活が染み付いているので、相部屋だと眠っている相手を起こしてしまう…。

それは申し訳ないので、クレージュは部屋を譲る、と言ったのだ。


「私は事務所ででも寝れるから、気にしないで」


クレージュも、もともと冒険者だから、割とどこでも寝れるのだ。


「それより、あの子達ね」


奥の女子専テーブルで八人揃ってご飯を食べてる女の子たちだ。

料理長のセリーヌや、ここの先輩である家庭的なウェーベルお姉さんが作った料理を、みんな喜んで食べている…。

八人とも、これだけお腹いっぱい食べるのは久しぶり、という幸せそうな姿だ。

全員が安心に満ちた表情をしていた。

その姿を見ていると、こちらも満たされる思いがある…。



…あの時。


行き先のタムト村で何人かは家族を探すのに留まったりする、だろう。と思った。

だけど、結局あの焼かれたグリア村の人は、誰も見つからなかった。

方々で聞いて回っても、情報はない。

グリア村の存在を知る人すら、稀だったのだ。


なので、いざ帰り道となった時、七人の女の子全員が、付いてきたいと言い出した。

それを見捨てる訳にもいかず、結局全員フルマーシュまで連れて帰ってきた、という訳なのだ。


で、一人増えている。あのタムト村で同じように家族を探していた、行き先のない子だった。

イーナという女の子だ。

懇願するように見つめてこられたので、連れてくるしかなかった。

見かけも性格も、どこかふわっとしていて、人当たりが良くて、帰り道の間に他の子たちとも仲良くなり、すっかり溶け込んでしまっている。


「仕方ないわよ…まともな人ばかりじゃないし、人買いみたいな悪質なのも多いしね。女の子だけの自立した集団なんて見たら、自分も入りたい、って思うんじゃない?」


そう言ってクレージュは一気にお酒を(あお)った。

大仕事の後の一杯は格別なのだ……実はもう早くも二杯目だけれども…。


「ま、そりゃそうよね…」

レメンティも合わせるようにグラスを傾けた。


「でもね…そういう女だけ、って油断させておいて、入ったら抜けられない、みたいな、悪質なのもいるのよ、一応…」


クレージュは、北の方でそういう女悪徳商人と出会った事を思い出し話した。

知らずに加わった女の子たちは、強制的に男の相手をさせられたり、酷い扱いを受けていた。

そういう性を扱う商売は儲かるのだ。

そして廃れることがない。

今頃はおそらく、北のブロスナムに駐留するルルメラルア軍の相手を、連日させられている事だろう。


「まあ、うちはマトモだとは思うけど。ちょっと、訓練は厳しいけどね」

空いた席がないので、フローレンはカウンター内に入って、テーブルに肘を付くように上半身を委ねている、そちら側から話しかけていた。


「やだぁ~! あの訓練、相当効きますよ~」

日々の厳しい訓練と、今回のけっこうきつい行軍のお陰でいい感じにダイエットして、ぽっちゃりを脱しつつあるミミアが言った。

無駄な肉は減ってきているけれど、胸だけは大きいままで、いや逆にこの部分だけは豊満に成長し続けている感じだ。

ちょっとこちら側の話に入ってきたけれど、八人の女の子とお話しながら、いっぱい食べている…。


「ご飯もちゃんと食べられますので、感謝ですよ!」

相方のメメリも、二人揃って今回の行軍時にもけっこういっぱい食べていた。

栄養状態が改善された身体は、急激に成長してきた感じで、意外とグラマー系になりつつある。

腰は細くくびれたままなのに、お尻には増々女らしい肉がついてきている。

今も、新しい子たちと一緒になって、沢山食べている。


派手に開けて大きな谷間があらわになるミミアの胸元と、後ろに大きく盛り上がったメメリのミニスカート姿、普段の二人のウェイトレス姿は、ますます魅力度が上がりそうだ。


ちなみに、もう一人の黒髪ぱっつん小柄なキューチェは、よく動いてもよく食べても体型があまり変わった感じはない。

ただし、ものすごく可愛い。

よく食べる二人とは対象的に、地位いさなお口でお上品に食べている…。


この三人もここに来て一月、新しい子たちと並ぶと、もう先輩って雰囲気だ。


これまで4人か3人ずつのペースで増えていたけれど、今回一気に8人と4人で12人増え、このお店に住む女子の数は一気に37人になった…。



人数の分だけ生活費がかかる、という事だ。



お店のほうの稼ぎには上限がある。

ただ、余った料理や食材をそのままみんなの食事に回せる分、無駄が少ない。


もうひとつの問題は、このフルマーシュの町の不景気だ。

もうすでに多くの店が看板を下ろしていた。


今回の行商に出て、戻って来た時には、また閉店していた店があった。

その僅か十日の間にだ。

来月にはまた多くの店が姿を消すだろう。


お客の数が少なくなっている。

ユーミたち四人がお客用のテーブルで食事をしているけれど、先月までなら席が空くことはなかったのだ…。


彼らの仕事が減り、給金が減っている。

その上、物価が上がっているのだ。

毎日食べて飲みに来てたお客も、二日に一回になって、三日に一回になる。


原因は、北の戦乱だ。

この不景気が続けば続くほど、お客の数はさらに少なくなる事が予想される…。



そうなると、お店での稼ぎが落ちる分を、行商を盛んにして儲けなければいけない…という事になる。


だが、その行商も、上手くいくとは限らない。

十分な儲けが出るとは限らないし、襲われ奪われる危険もある。


かと言って、行き場のない女の子たちに、某悪質な商人がさせるような男相手の商売などはさせたくない…。


今回、あの遺跡の山賊から押収した物資とお宝を、お店が預かっている。

でも、この子達全員を養うなら、一月分くらいにしかならない。

山賊から押収した武器が割と高く売れたので、もう一月分くらいにはなるか…。


「まあ…お仕事のお話は、また明日しましょう…

 今は、とりあえず…」


とりあえず今晩から、女の子たちの部屋をどうするかを決める必要がある…。




店の部屋割りについては、帰りの野営の時にある程度、話し合っていた。

ただレメンティの部屋がもう埋まっているので、少し調整が必要だ…。


フローレンは物に執着がないので、まず最初に部屋を譲ってくれていて、

ミミア、メメリ、キューチェの三人がその部屋を使っている。


当のフローレンはアルテミシアやユーミの部屋で寝てたり、(うまや)で寝てたり、裏庭側の屋根で寝てたり、要するに冒険者らしく、好きな所で寝転がる訳だ。

以前クレージュが厳しく叱ってから、店のテーブルや表側の屋根で寝ることはなくなったけれど…。


クレージュは、レイリアとラシュナスに、一階にあるクロエの部屋に移ってもらおうと考えている。

クロエは酒場の女将(ママ)だから夜しか仕事がないし、ラシュナスも踊りを見せるのは夜だけだ。レイリアもいつも遅くまで飲むので寝るのも遅い…。

で、この三人は閉店後の店舗で、遅くまで一緒に飲んでる事が多い。

そして三人とも揃って、朝が遅い…。


レイリアもラシュナスも、二階の自分の部屋に戻るのが面倒で、よくクロエの部屋で一緒に寝てる事があるくらいだ。

部屋を移って相部屋になる事にも、同意してくれるだろう。

まあ、毎晩クロエの部屋で飲み明かしそうなの気もするのだけど…


とりあえず、レイリアとラシュナスがあけてくれた部屋に、四人ずつに分かれて入ってもらう。



と、話していると、当のレイリアが二人の火竜族(サラマンド)の妹分を連れて帰ってきた。

レイリアは余力があるけれど、ガーネッタとレリアンはかなりお疲れな様子だ…。

炎使いとしての実力の差なのか、レイリアが要領よく手を抜いて、二人の妹分にしわ寄せが来ているのかはわからない…。


レイリアにも新しい八人を紹介した。

そして、その子たちの為に部屋を開けて欲しい事を伝えた。

そこにいたクロエも呼んで、相部屋になる事を頼んだ。


レイリアは予想通り、「いいよ、その子達に使わせてあげて」と、あっけなく承諾。

クロエも、「レイリアちゃんと、ラシュナスちゃんと相部屋ね」と納得。

ラシュナスには、もうさっき伝えてある。喜んでた。


レイリアは二人の妹分に「アタシの荷物、クロエの部屋に移しといて」

とだけ言って、そのままカウンター席に座って飲み始めた。気楽なものだ。


まあ妹分の二人も「了解」「は~い」と、嫌そうな素振りもなく、先輩に言われた事をすぐ実行しようとする。

レイリアは後輩に慕われているようである。

というよち、年下の女の子に慕われるようなところがある。

カウンター席ではさっそく、ちっちゃなアーシャが嬉しそうにお酌をしていた。

アーシャもレイリアが大好きだ。



「ちょっとお二人、その前に、いいかしら?」

店の裏に入っていこうとするガーネッタとネリアンを、クレージュが呼び止めた。


「はい!」「なんでしょう~?」


今回の部屋移動のついでに、今倉庫で寝泊まりしているこの二人は、ユーミの部屋に移ってもらおうと考えていた。

もともと遅起きな姉御レイリアを起こさないように、気を使って一緒に寝ず、倉庫なんかで寝てたのだ…。

でも、いつまでも倉庫なんかに寝かせる訳にはいかない。いい機会だ。


「ユーミにはもう、話してるから」


ユーミは「いいよー!」と言っていた。

「レイリのコブンなら、あーしのコブンだ!」とも、言っていた…


…という事を伝えると、ガーネッタとレリアンは、ちょっと表情を固まらせ、冷たい汗をかいたようだった…

まあでも、倉庫で寝るより何倍もマシだろう…。

足し(プラス)引き(マイナス)で、二人の表情は結果的に明るくなっている…。





「さて♪」

カウンター内の席で、アルテミシアが立ち上がった。


アルテミシアは装備換装して歌姫ドレス姿に変身した。

髪型も自動的に、綺麗な流しのツインテールに変化してる。


その麗しの姿のまま、端のステージへ歩をすすめてゆく。



行軍帰りで疲れもあるのに、アルテミシアは、今日歌う。


なぜ今日なのか、というと…

今夜は三日月なのだ。


アルテミシアは新月に向かう明日以降はグダる事が予想される…。

今日歌わなければ、また数日はご無沙汰になってしまう訳だ。

そんな訳で、今日なのだ。




ドレス姿のアルテミシアがステージに上がった。


絶世の歌姫の、約十日ぶりのステージだ。

その姿を見ただけで、やっぱりすごい声援が上がる。


お客が減ったお店とは思えない…というか、増えている!

歌を聞くためだけに来たお客もいる…いっぱいいる!

なぜか、アルテミシアが歌うタイミングが、わかるのだろうか…?

なにかに引き寄せられるように、店内は人でいっぱいだ…。


ともあれ、大盛りあがりだ。

海歌族(セイレーン)のウェイトレスの二人、アジュールとセレステも、今日は歌の師匠であるアルテミシアのバックダンサー&コーラスに回るのが楽しみなようだ。


先にお風呂に行っていた孤児組の四人が、ちょうどお店に出てきた。

アルテミシアの大ファンの針子のトーニャを先頭に、カウンター内の一番近くで声援を飛ばしている。


月の歌姫が奏でる、月琴の旋律…

その古代の伝説級魔法楽器が、幾つもの音色を奏で、それが重なり合う…


そして、至高の一時が始まる…


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