43.山賊の隠れ家
<<呪詛・行動制約>> アクティヴ・リミテーション
箇所を設定:首
対象を指定:術者ならびにその友縁LV2以上の者
条件を設定:禁止行動 → 徐々に圧力が発動
敵対意思 → 徐々に絞めが発動
攻撃的行動 → 即座に切断が発動
降伏した山賊が四人。彼らの首には、輪のようなものがついていた…。
「ああ、それ? 魔法っていうより…そうね、呪い、っていうのかな♪」
の、のろい!? と、アルテミシアの言葉に、四人の男どもがかなりビビっている。
「そう、魔法というよりは…呪いに分類される古代の術法…ってやつね♪
ちょっと試してみたかったから丁度よかった訳♪」
その美しい魔女が、明るい口調で軽く告げる、超エゲツナイ発言に、男どもの血の気が引いてしまっている。
「まず言っておくわ。 逃げようとしたら、ぐいっ! て絞まるから♪」
ぐ、ぐいっ!? ぐいって何だ? という感じに、男どもの血の気がまたさらに引いた。
「あと、私達に敵意を持つだけで、きゅっ! ってなるからね♪
私の言うことに逆らうのも、ウソをつくのも“敵意”ってみなすから♪」
き、きゅっ!? 首絞められるのか? シめられるんだな!? と恐れ慄く…。
「もし…私たちに危害を加えようと動いたら…、即、ぷちっ!ってなるから、気をつけてね♪」
ぷ…ぷちっ!!?? そ、即? 即ですか!? と、もはや表情が死んでいる…。
「疑うんだったら、誰か試してみてもいいわよ♪」
「いえ…」「結…」「構…」「…です!」
男どもには諦めしかなかった。
「まあ、全部無事に終わったら解除してあげるから。ちゃんと協力なさい♪」
「はい!」「わかり」「ました」「。」
えらく素直で積極的になった。
もはや言うことを聞いて役に立つしか、生き延びる方法がないからだ…。
さて。
四人の男どもに尋問する…
「あなた達の隠れ家の場所、教えて頂戴♪」
四人はもう諦めている。
というより、山賊の中には元々最初から戦意が無いのが何人かいた。
多分こいつらだ。
この四人はなんとなくだけど、山賊になりきっていない。
か弱い女子たちに武器を向けなかったのだろう。
まだ善良なところが感じられる。
…本当にか弱いかどうかは、ともかく…
で、男どもは隠れ家の場所も、何の躊躇いもなく話した。
一応一人ずつ個別に聞いたけれど、全員同じ答えだ。ごまかす気もないのだろう。
そもそもウソもつけないので、誤魔化しても痛い思いをするだけなのだけど…
今からそこへ向かう事になる。
だけどその前に…
この “惨状” を放っておくのもよろしくない…
借りにもここは、街道なのだ…。
で、さっきからユーミが “あとしまつ” をしている。
面倒そうだったけれど、クレージュに言われるとユーミもイヤとは言えない。
でも時間がかかるので、ユーミに助手をつけることにした。
「その四人、こき使ってもいいから♪」
呪いの首枷をつけられた男どもには、逆らう意欲も権利もなかった…
で、ユーミと “下僕” たちが “おかたづけ” をしている間に、
初めての戦闘の反省会…
というより、初めての戦闘を越えた女の子たちへのアフターケアだ。
「様子を見ながら、ぎりぎりで戦わせてた、って事ね?」
戦いの様子を聞いて、フローレンは安心したような、ちょっと呆れたような気分だった。
「ギリギリ、って程でもなかったわよ♪ 全然余力あったんじゃない?
論理魔法装備がなくても、私の魔法援護だけでも、いい勝負したんじゃないかな?
…ま、その場合、私やクレージュの立ち回りは増えていたでしょうけどね♪」
チアノが若干の傷を負っているけれど、いずれも軽傷だ。
自分の水術で治している。その程度の微小な傷だ。
他の子は怪我一つしていない。
「まあ、守りのアクセサリに加えて、私の守りの魔法だから、ザコ山賊の攻撃だったら、相当大きいの貰わない限り、まあ大丈夫よね♪
緊急用の魔法も用意しておいたけど、結局使わなかったからね♪」
即座に超強力な守りを貼ったり、致命傷を受けても生命を維持したりする、保険的な魔法の事だ。
効果時間内に使わないと消えてしまい、持ち越しはできない。
つまりは無駄遣いになったけれど、使うような状況にならないほうが良いのは言うまでもない。
総括すれば、一部の強いのを除いては、この子たちでも対処できる程度の敵でしかなかった、という事になる。
まあそれはそうだ。
アルテミシアが本気で援護すれば、もっと爆発とかが巻き起こっているはずだ。
それは、もはや援護ではなく、攻撃魔法の独断場になっていただろう。
もっと強力な援護魔法もあるけど使っていない。
例えば、まだ戦闘に慣れていない状態で肉体強化系魔法なんて使ったら、身体の感覚がズレてしまって、いい戦闘経験にはならなかっただろうし。
つまり、うまく戦う機会を与えて、経験を積ませたような感じだ。
だからアルテミシアはそれほど積極的に援護もせず、クレージュ以外の女の子の所に敵が複数行かないように“微調整”をしていた感じだ。
あと、まだ訓練もままならない未熟な三人娘のほうには、適当に敵に弱体化を撒いて優位な展開に持って行っている。
「え~!そうだったんですか~…」
「知りませんでした! ありがとうございます!」
ミミアとメメリは、うまく立ち回れたのは、わりと自分たちの力だとか思っていたようだ。キューチェだけは「…知ってました…」という感じだけど…。
だけど…その可愛いキューチェが…
今にも泣き出しそうに瞳を潤ませていた…
「よしよし…いい子ね♪」
アルテミシアと、先輩のチアノが黒髪の可愛い妹分を抱きしめる。
キューチェはわっと泣き出した。
戦いの後の緊張が解けたのだ。
初めての戦いなのだから、ムリもない。
そう見えてアルテミシアはチアノもまとめて抱きしめているのだ。
この子も責任感の強い“部長”だけど、あまり歳の変わらない、まだ乙女なのだ。
その横ではクレージュも、ミミアとメメリを、ぎゅっと抱いていた。
この二人も、緊張の糸が解けたように泣き出していた。
戦っている時は必死だったのだろう…
けれどやっぱり初めての戦いは恐かったのだ…。
「お疲れさま。頑張ったね」
フローレンも二人の妹分、ネージェとディアンと抱き合った。
気丈だと思ったこの二人も、同じだった。
実戦らしい実戦は、これが初めてだったのだから…。
大したケガもなく、敵は壊滅。
女の子たちの初戦の戦果としては上々だろう。
「おわったよー!」
そうしていると、ユーミが四人の“下僕”を引き連れて戻ってきた。
首に枷をつけられた男どもは、へとへとになっている…
ユーミが自分のペースで、人をこき使ったら、こうなる。
街道はすっきり片付いていた。
血の跡は残っているけれど、雨でも降れば流れて消えるだろう。
どこをどう処理したのかは、誰も聞かなかった…。
「さ、出発するわよ!」
クレージュが号令をかけた。
いざ、拐われた女の子たちを助けに、山賊の隠れ家へと…
太陽が中天に差し掛かろうとしていた。
街道の山道を、西へ向けてゆっくりと走る。
あいかわらず蛇行し、勾配のある山道では、それ程の速度は出せないのだ。
前を走る馬車には、ユーミが御者をして、荷台にはアルテミシアと、降参した山賊の四人を乗せている。
後ろの馬車はフローレンとクレージュが御者台に乗り、荷台に女の子六人が乗っていた。
男たちが「そろそろです…」という場所で一気に速度をゆるめ、
「ここです!」と言う場所で一旦止まった。
一見、普通に森のように見える。
だが、男どもが指し示す場所…
確かに地面の起伏がなく平坦だ…。
そして馬車一台くらいなら通れそうなくらい、左右の木々の間隔が広い。
それは確かに、道、だった。
教えられなければ、ちょっと見落としそうな道だった。
落ち葉や雑草で隠れているけれど、道自体は均された平坦な感じで、馬車でも問題なく通ることができる。荒れ果ててはいるが、以前は村に続くちゃんとした道だったのだろう。
獣道、とまではいかないが、森の深い道だ。
木々に囲まれて薄暗い。時々こぼれてくる木漏れ日を明かりに、道なき道を進んでいく。
ほんの時々、頭上から僅かに太陽がまぶしく輝いた。
その日の位置からして、北に向かっている事は、大まかに予想がついた。
しばらく走ると、森を抜け、開けた場所に出た。
「えっ…」「うわぁ…!」「これは…!」
「たかいな~…」「すごいですねー…」「……こわい…」
北の、岩の絶壁の、すぐ下に当たる場所だった。
見上げると、気が遠くなりそうな、天然の岩の壁が切り立っている。
それも、東西にかけて、見渡す限り、ずっと…。
その岩壁はあまりに高い…
女の子たちが揃って声を上げるほどに、高い…
上の方が、雲に隠れてしまって見えないのだ。
深い森と、岩の絶壁に挟まれた、狭い平地。
そこにあったのは、村だった。
いや、村だった、もの…
村の残骸だ。
滅ぼされた、村…
家は焼かれ、畑は荒れ果てている。
人の姿はない。
どこかへ逃れたのか…
命を奪われ、葬られたのか…
それとも…
燃え残って炭化した、家の残骸が立ち並ぶ横を、馬車は駆け抜けてゆく…。
「酷い景色ね…」
「…まさか…貴男達がやったの…?#」
アルテミシアが、帽子のつばの下からぎりぎり覗く鋭い視線で、そう尋ねた。
「いや…、俺たちが着た時にゃあ、もう…」
「最初から誰も居やせんかったで…」
ここで「はい、俺たちがやりました!」なんて答えたら、その場で何かが飛んでいただろう…。
まあウソをついても首が絞まるので、彼らに罪は無いのは確かなようだ。
アルテミシアが念のため、探知の魔法をかける。
やはり生命反応はない。あるとすれば小さな動物のそれだけだ。
二台の馬車を村の広場だった場所に止めた。
山賊の隠れ家は、この奥にあるらしい。
そして、馬車では通れない場所だという事だ。
「ここで待ってて。私達だけで行ってくるから」
女の子たちはクレージュと一緒にお留守番だ。
彼女たちは初めての実戦を行って、ちょっと興奮していたり、後からまた震えが来たりしていた。
戦闘の激しい動きで身体の疲れもあるだろうし、ここで休んでいてもらって構わないだろう。
「ユーミは…いいか…」
「うん♪ 残ってもらったほうが安心かもね♪」
何かあった時、クレージュと女の子たちでは対処しきれないかもしれない。
ユーミも、さっきの戦闘で暴れまくったので、もう暴れるのは充分なようだ。
そしていつの間にか狩った獣を捌く作業に没頭している…。
つまり…お昼前だからお腹がすいているのだろう
…基本的にユーミはわかりやすい。
言う事、やる事に裏表がないのだ。
フローレンとアルテミシアは、降伏した山賊たちの案内で隠れ家へ向かう。
彼らの話では、残っているのは山賊のカシラとあと二人だけだ。
そして彼らの話では、カシラは腕が立つけれど、残り二人は少し強い程度…
フローレンとアルテミシア、ふたりだけで問題ないだろう。
村のはずれは、また森になっていた。
隠れ家はこの先、らしい。
森の中を歩いていく。
だけど、それほど歩く事もなく、また開けた場所が見えた。
さっきの村と同じような、岩壁と森に挟まれた空間だ。
森の中から垣間見えるその空間は…
そこは、ただ広いだけで…
「ここ? 何もないけど…?」
「いや、こっちでさあ…」
森から出て開けた場所に足を踏み入れると…。
「あ…!」
岩壁の下に、木々に隠された洞窟のような入り口が見えた。
微妙な木の重なりで、森の中からは、その入口が気づかれにくいようになっている…。
「隠れ家って、あの洞窟?」
「いえ、洞窟じゃあないんでさ…」
近づくと、それは、姿を現す…
岩壁と、森。
岩の白と灰色、木々の緑と茶色。
その四色だけの世界に溶け込むように、岩壁と同じ色の、古く巨大な建築物が…
「えっ? 遺跡…?」
それは、人工的に作られた古代の建造物…
つまり遺跡だった。
「こんなところに…?♭ 何の遺跡かしら…? かなり古い時代のものね…」
そして、その年代の割には、全く劣化が見られない。
岩壁と遺跡の石材が同色で、その風景に紛れて、ある程度まで近づくまで遺跡だとわからないようになっているのだ。
その遺跡の上にも、木々が覆い茂っている場所がある。遺跡自体が森に侵食されているのかのように…。
遺跡の入り口に着いた。
「ここ?」
「です」
見上げれば、天に至るような高い岩壁…
その麓に佇む、壮大な古代の遺跡…
まるで岩壁と一体化し、壮大な自然の一部であるような…
そこには、神々しさすら感じさせるものがある…
(山賊の隠れ家には、ちょっと勿体ないわね…)
とフローレンは感じずにはいられない…




