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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第4章 女子兵たちの装備
35/138

34.LV1


その“朝”が来た。


フローレンの指示で、今朝の朝練は走り込みと素振りだけにしておいた。


ここに来た当初は、このメニューだけでも、みんな音を上げそうになっていたものだ。


けれど、新入りの三人も、ここに来てまだ半月かそこらだけれど、少し慣れてきているように見える。

毎朝真面目に走り込んで、訓練も頑張るお陰で、ミミアはちょっとムダな肉が落ちてきた。

十分な食事のお陰で健康的になり、メメリはわりと女らしい肉がついてきている。

キューチェは小柄な体格で変わらないけれど、ほかの二人と同様に、体力は確実に向上している感がある。


その先月組の場合、

活発なネージェとディアンは農作業で鍛えられていて、元々体力があったので、わりと早い段階からついてこれた。

けれど家庭的な未亡人お姉さんのウェーベルは、剣技はさることながら体力はそれほどでもなく、最初は苦しそうだった。

ちっちゃなアーシャには、この毎朝の訓練はもっと大変そうだった。しかもバランスが悪くてよくコケていた…。

でもこの子たちも今では体力も作られて、走り込みも素振りも楽々とこなしている。アーシャもあまり転ばなくなった…。


元ショコール兵の四人は、さすがに元兵士ということもあり、このくらいの訓練は軽いようだ。

日頃からもっと激しい武器訓練などを、自主的に行っている姿を見かける。


まだ小さいプララとレンディはこの中ではいちばん年下だけれど、朝練についてこれる体力と剣技は既に出来上がっている。

同じ年の男の子と喧嘩になっても、多分、余裕でボコボコにするだろう…。



朝練の後は、いつものようにクレージュと料理長のセリーヌが、全員分の朝ごはんを作って待っていた。

その後に、仕事に掛かるまでのちょっとした時間、女子たちは揃っておしゃべりを楽しみ、絆を深め合う。

みんな、仲良しだ。

みんなで、助け合って暮らしている。

みんなが、みんなを、必要としている。


この毎朝の時間は、彼女たちにとって、一日の中で、一番楽しい時間かもしれない…。



でも、今日はちょっと違って、従業員用の食堂兼の広間ではなく、お店のほうに集まって全員揃っての朝食だった。


店にいる女子全員が集合する。

月に一度くらい、こうやって全員で集まる日があるのだ。

料理も、クレージュとセリーヌが腕によりをかけて作る。

女子たちの大好きな、食後のデザートまで、ついているのだ。


前回から5人増えた。

初めて参加する子もいるけれど、女子たちにとって、この月一の全員女子会は、いつもよりもっと楽しい時間になるのだ。



朝練を終えた女子たちは、ゆったりな白い半袖シャツとぴっちりな短い青いパンツ姿のまま、朝食の席につく。


全員集合のこの日は、席分けは決まっている。

それぞれの班に別れて三つのテーブルに、ショコール女兵士4人、アヴェリ村の4人、ファーギ村近隣廃坑で加わった3人、レパイスト島の2人。

ちびっこのプララとレンディはそれぞれの母親たちと一緒に4人席だ。


フローレンとユーミは、他の子たちと同じ運動着姿だけど、ぴっちりパンツの色だけ赤色、と違っている。

一番真ん中の、アルテミシアと同じテーブルについた。

クレージュもいれて4人席だ。


こういう全員が集まる日だけは、夜遅くまで飲んでて遅起きなレイリアと踊り子のラシュナス、酒場担当のクロエの夜更かし女子たちも頑張って起きてくる。

ただまあ…この生活にだらしない酒好き女子どもは、早起きしても朝ごはんよりも先に、同じテーブルで3人揃ってお酒を嗜んでいたりするのだが…。


こうしてクレージュの店の女子25人全員が一堂に会した。





「さて、ご注目~♪」

みんなが朝ごはんを食べ終え、スィーツも楽しんだ後、ちょっとゆっくりした頃合いに、アルテミシアがこの場を仕切って呼びかけた。


「これを今から全員に配ります♪」

その手の上には箱、に見える物体が乗っていた。


「何? それ?」


アルテミシアの手のひらに乗るサイズの、立方体(キューブ)だ。

金属とも石ともつかないような素材はよくわからないが、縦横高さが同じ長さの箱だった。

その全面に、彫り込まれたような太い線が、幾つも直角に曲がりながら絡み合うような模様を描いている。     

いかにも魔法的な物体という感じだ。



アルテミシアを中心に、周りに女子全員が集まってきた。

近くの女子は椅子(イス)をそちら向きに、遠くの席の女子は近づいてきて立ち見で。



「あ、それが知り合いにもらってきたやつ?」

フローレンはアルテミシアの手のひらの上のそれを、軽くつつくように指さした。


「そう♪ 古くからの友人にね、頂いたの。ここの事を話したら、必要になるでしょう、ってね♪」

「へえ…?」


「さ、行くわよー♪」


アルテミシアは目を閉じて、小声で何かを(つぶや)きはじめた。

魔法を使う時の言葉に似ている。

つまりは、呪文だ。


歌姫であるアルテミシアの詠唱姿は、それだけで絵になる。

目を閉じた横顔と相まって、とても神秘的な様相だ。


 <<圧縮型アーティファクト 解凍を開始>>


ここにいるメンバーのうちでは、おそらくアルテミシアにしかわからない、古代言葉のアナウンスが発せられた。


アルテミシアの手の上の、その箱に変化が起こり始めた。


箱に刻まれた線、というより溝と言える部分に、ゆるやかに光が灯り、やがて激しく、刻まれた線上を走り始めた。

青、赤、緑、と色を変えながら、魔法的な光が、幾つもの刻まれた線上を、外から内へ、内から外へ、何度も現れては消えている…

光の数が増え、混じり合う青と赤は紫に、赤と緑は黄色に、さらにその中間色を産みながら、輝きを増し、白に近づいててゆく…


 その色々の光が、アルテミシアの銀色の髪に代わる代わる反射し、目を閉じ呪文を唱え続ける、その綺麗な横顔とあいまって、幻想的な雰囲気に包まれていた…


女の子たちは感動的な表情で、その幻想的な光景に見とれている…。



混じり合った光は、やがて白一色になって、ひときわ強く輝く…


その後、ゆっくりと光が消えていった…


「あれ? 消えた…?」


消えたのは光だけではなかった。

箱自体がその空間から、消えて無くなっていたのだ…。


沈黙が訪れる…

これで、終わり…といった感じだろうか…。



「えーと…贈り物、って…いまの光の演出だったって事…?」

ちょっと呆気に取られた感じの雰囲気を代表して、フローレンが訪ねた。


「とってもキレイだったよ!」

「うん、カンドーした!」

一番前で見ていたレンディとプララの言葉に、うんうん、と他の子たちも頷いている。

ただの見せ物だった…としても、女の子たちはあまりに美しい演出に感激している様子ではあった。

確かに、こんな綺麗(キレイ)な光の演出は、他では見ることはできないだろう…。



「う~ん… そんなはずは…ないんだけどなぁ…♭」

アルテミシアも、拍子(ひょうし)が抜けたような感じだ…

これで終わりだったら、聞いていた話とはかなり違う…。


「おしまい、でいいのかな…」「えっと…解散?」

女の子たちがその場を離れようとした。

その時、


「あ、待って!

 …来た♪」



<<圧縮型アーティファクト 解凍を完了 “女子兵用 武装倉庫 Lv1”を獲得>>



「え? 武装倉庫…♭? レベル…1…?」



音声とは別に、空間に光の文字列が描かれた。

古代文字と思われる、文字列だ。

虹色に輝いている…。

その美しさに、女の子たちがまた、感激の声をあげている。


「えっと…これは……エルサ…?、姫からの贈り物…?

 兵となる…愛しき乙女たちに…武器と、守りの力を…

 あんみつは… いえ、防具のことかしら…? は、お預け…?

 正式な女兵士の武装を獲得するまで有効…?♭」


「えと…? 何言ってるの?」


「あ、いえ、ね… 最後に上位ヴェルサリア文字で一瞬説明が現れたんだけど

 …所々かすれて消えてるから、はっきりとは読めなかったの…♭

 なんか、古代のお姫様が、自分の兵士になった女の子たちにプレゼントした物…って感じね♪ それも、正規の兵士じゃなくって、まだ訓練を始めるばかりの、新しい兵士の乙女たちに…」


フローレンは小声で「あんみつ、って言ってたよね?」と隣のユーミに問う。

「いってた」とユーミも小声で返す。


アルテミシアは目を閉じたまま、空間に手をやって何かを探るようにその手を動かしている。


「大丈夫? 何か探してる?」

フローレンが問いかける。


いっしょに冒険しているフローレンたちにはわかる。

亜空間バッグから物を取りす時の動きだ。

普段の冒険を知らない他の子たちは、なにもない所を探っているアルテミシアの姿を、ただ不思議そうに見つめている…。


「ええ…待ってね…亜空間に入ってるみたいなのよ♪」


アルテミシアは亜空間バッグを持っている。冒険の間、かさばる荷物は全員分、そこに入れているのだ。

でも、いつもその中から物を取り出す時とは、手の動き、探り方が違う。


「あ、バッグじゃないわ…ケース…のような感じ…

 まるで、そう…これは…宝石箱みたいな…♪」


「その亜空間のケースが “武装倉庫LV1” って事なのかな…?

 私にも、まだよくわからないんだけど…

 ちょっと待ってね…

 初めて触れる亜空間だから、空間認識から始めなきゃなの…♭

 あ、あったわ♪」


「なにこれ?」

「えっ…これがあんみつ…いえ、武器…?」


アルテミシアが「取り出した」のは、どう見ても指輪だった。


それは、(ツタ)の絡むような形状の、銀色に輝く指輪だった。

花が咲くようにハート型のピンクの宝石がついている。


「わー…」

「きれい…」

「いいな! いいな!」

女の子たちが、その指輪の美しさに声を上げている。


「これと同じ物が、たくさん入ってるの♪ 

 …五十個…いや、もっとあるわね…百個以上はありそう…」


100個もある、と聞いて、女の子たちは、喜びの声を上げた。

ここの人数よりずっと沢山あるのだからから、全員に行き渡る、ということだ。


女の子たちが、はしゃぎ始めた。

女の子たちはもう、このキレイな指輪をもらえるだけでも充分満足、って感じだ。


「みんな、まってね…♪ ちゃんと調べてからじゃないと…」


アルテミシアはその指輪を、そっと左の中指にはめてみた。

ちょっと大きい、と思ったその指輪は、銀色の蔦が絡むようにやさしく縮んで指との隙間を埋めた。

指に馴染んで、完了、という感じに、ちょっとピンク色が光った。


「フリーサイズね。その人に合わせてくれるみたい♪」

(うらや)ましそうな女の子たちの視点は、アルテミシアの掲げた手の指輪に釘付けだ。


「配るのはもうちょっと…今、解析してるから…♪」


女の子たちは興奮気味に、はやく、はやく、と欲しがっている。

けれど、まずはよく調べてからだ。事によっては危険があるかもしれない。


「えと…、(きずな)装備? になるのね…♪」


「絆…?」「装備…?」

聞き慣れない言葉を復唱したのは、ちっちゃなアーシャと、お姉さんなウェーベルだ。当然、他の子たちも、聞いたことのない言葉であろう…。


「そう♪ “運命の絆(ディスティニ・リンク)装備”って言うんだけどね。

 そのアイテムと持ち主との間に運命の絆が結ばれるの♪ 

 絆が結ばれれば、落とした奪われたりして手や身体から離れても、思い描けば一瞬で戻ってくるのよ♪ もし自分から捨てたり売ろうとしたら、拒否されて装備が消えちゃったりするんだけど…」


「持ち主が決まったら、もうその人にしか使えない、って事よ」

アルテミシアの説明では理解できなかった女子たちに、フローレンが解説した。


フローレンの花園の剣(シャンゼリーゼ)も、花びら鎧も、絆装備だ。

ただ彼女の剣と鎧は、母親の生前から受け継がれている。

血縁や絆の強い者への継承は行われる事があるのも、絆装備の特徴だ。


「まあ、それはいいとして… あと、このアクセサリは、形状可変型ね…」


「形状…」「可変…」「型…?」

三人並んできょとんとしているのは、ここで一番新しいミミア、メメリ、キューチェだ。

この三人だけでなく、ここにいるほぼ全員にとって当然、馴染みのない言葉だ。


「そう、つまり、この指輪はたくさんある姿のうちの一つで、

 持ち主の好きな形のアクセサリに変えて身につける事ができのよ♪

 デフォルト設定がその銀蔦ピンクハート宝石の指輪なんだけど、

 持ち主の希望する色も形も違うアクセサリに…

 たとえば…」


アルテミシアの手からその指輪が消えた。

入れ替わるように、ダイヤモンドのような月型のネックレスが首元に輝いている。

それが消えたかと思えば、今度は深い青紫色のしずく型のイアリングが左の耳に輝いていた。


「うわ~!!!」と女の子たちの歓喜の声が、それを見てさらに大きくなった。

乙女たちの欲しいオーラが強くなり、はやくっ!! はやくっ!! と、

待ちきれない興奮度が店内の温度を高くしている。


「指輪だけでもデザイン違いがたくさんあるみたいね♪ 

 どの指にでも合うようにできて… 

 宝石の色は自由に選べる…っぽいわね…銀色部分も色変え可能…

 そして指輪だけじゃなくって、イアリング、ネックレス、チョーカー、

 ブローチ、ブレスレット、アンクレット、髪飾りも各種…

 アクセサリの種類は何百…いえ何千…万かも…♪ 」


アルテミシアが、次々にアクセサリの色と形と装備箇所を変えているのを見て、

女の子たちは興奮というか、もはや狂喜乱舞してる雰囲気で、

「もう待ちきれないっ!」という感じになっていた。



「じゃ、実際にやってみようか♪」





ここにいる待ちきれない女子たち全員に、ひとつづつ順番に、指輪を配る。


「どの指につけたら…」って迷っている子もいるけれど、

「どの指でもいいわよ♪ あとで付け替える事ができるから、問題無し♪」


と、説明を受け、25人の女子全員が、指にお揃いの指輪を身につけた。


「頭にアクセサリのイメージが浮かぶかしら… そう、いっぱいあるでしょ♪

 その中から自分の身につけたいものを選んで…宝石と銀色部分の色も好きに

 …いいえ、色による差はないみたいだから、そのへんは自由に…♪」


女の子たちのアクセサリがどんどん入れ替わっている。

アクセサリを変える時に少し光るので、あちこちで光っては消えまた光っている…

異様な光景だ…。

店の外を通った人は、窓から見える何度もの光に、きっと驚いていることだろう。


「えと…他にも説明があるんだけど…♭

 えーと、大事なことだから聞いてほしいんだけど…♭♭♭」


女の子たちは新しいアクセサリに夢中になっていて、アルテミシアの声が届いていない感じだ。


それを見たクレージュが「はい、みんな、聞きなさい!」って感じで手を二度打ち鳴らす。


すると、一瞬で女子全員が手を止めた。


さすがね、とクレージュに感謝しながら、アルテミシアは説明を続ける。


「とりあえず…、アクセサリ以外の物が見えても、今は触らないこと#

 特に武器、ね。とりあえずそれだけ約束して♪」


何故アルテミシアがそんな事を言うかというと…

武器もここ(・・)に含まれているようなのだ。

人が密集しているので、いきなり剣とか出てきたら、当然危ないからだ。


はーい、という感じに女の子たちは理解を示した。

必要事項だけ告げると、アルテミシアはさらに装備の解析をすすめる。


女子たちは再び、アクセサリ選びに熱中している。

習得の早い子は、もうアクセサリの形状を変えて身につけていた。

まだ最初の指輪のままの子もいる。形状変更の習得には個人差が見られる。

魔法に関する理解なのか、オシャレに対する意欲なのか、あるいはもっと別の女子力なのか、とりあえずそういった何かの差が影響するのだろう。


フローレンは銀の部分を緑銀色にした紅玉(ルビー)の薔薇の指輪に、

クレージュは虹色宝石の虹色銀のかんざしを髪に挿していた。

ユーミは何にしたのか見えない、指輪は消えているので、別の場所に変えているのは確かだ。


「えっとね、キレイなだけじゃあないのよ♪

 このアクセサリ、かなり高性能ね…♪

 それも、防御力だけじゃあなくって、他にも色々ある感じ…♪」


アルテミシアは付与された魔法の論理構造を読み解き、発生する効果を調べている。

女の子たちはアクセサリに夢中だけど、冒険者組はこの指輪の解析の結果が気になっている様子だった。


女子兵たちの装備話が、もうちょっと続きそうです…。

なかなか町から出発できないので、章のタイトル変更しました…


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