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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第4章 女子兵たちの装備
34/143

33.クレージュの酒場の歌姫たち

タイトル間違っていたので修正…33話目でした。


日が完全に沈み、クレージュの酒場は、仕事帰りのお客で満ちてきた。

カウンター席も埋まり、十卓あるテーブルも一通り埋まっている。



その店のお客たちから、歓声が上がった。

二人のウェイトレスが、女子専席の逆側にある小さなステージに上がっていた。

ちょっとお客が多くなってきたので、パフォーマンスを入れるのだ。



「あ、ちょっと行かなきゃ♪ また後でね♪」

話の途中だったけれど、アルテミシアが席を立った。


カウンターの中を通ってステージのほうへ向かっている。

弟子ふたりが歌うステージの、音楽の演奏をするためだ。


「みなさ~ん、こんばんわ~! 今夜もアジュールと、」

「セレステが、前座を務めさせていただきま~す!」


二人は合わせた動きで手を広げて、ちょっと色っぽいお辞儀をした。

まずは軽い喝采と拍手が贈られる。


空色さらさら髪のアジュールと、薄グレーふわふわ髪セレステ。

ウェイトレス姿が板についているが、ふたりとも元ショコールの女兵士である。


この二人は歌の素養がありそうだったので、アルテミシアが時々レッスンしてあげて、いまこうして日に一度は観客に歌を披露するようになった。

この子たちの歌声が良いのは、海歌族(セイレーン)の血を引いている為だという。


その上、パフォーマンスにも磨きをかけるために、ラシュナスから踊りや、魅力的な振り付けの動きも学び、ウェイトレス服の(すそ)をより短くして、胸元も大きく開けるようにして、男性客の人気も上がってきている。

この子たちのスタイルが良いのも、海歌族(セイレーン)の血を引いている為だという。


この可憐な二人の歌姫の、一日一度のステージを見るために、店に来るお客もできはじめた。

二人とも、お店を繁盛させ、売上に貢献していく事に積極的だ。


ショコール王国で生まれた女性は海歌族(セイレーン)の特性が現れるが、男性は普通の人間と変わりはない。そして人魚族の血のほうが強く出る為か、女の子のほうが数が多い。なので海歌族(セイレーン)の女子たちは、男性には好意的に接する子が多いのだ。ショコールの少女たちは、同年代の少年の取り合いだし、乙女たちはかなり年上の男性にでも平気で好意を示す。


もう二人の海歌族(セイレーン)のメンバーをあわせて、ショコール組四人は同じ部屋で寝泊まりしていて、とても仲もいい。

そして、時々、四人一緒に遊びにいったりする。

お店が終わって、夜遅くからだ。


海歌族(セイレーン)四人のリーダーのチアノ“部長”は商売の物品管理を中心に行っている。

酒場の仕事はしていないけれど、アルテミシアが不在の日は、彼女が作った音を封じ込める魔法装置を使って、歌う二人のために後ろで音楽を流すのがチアノの役割だ。


あと一人の海歌族(セイレーン)のラピリスが、二人の歌の途中始まるちょうど前に、仕事から帰ってきた。この子は手伝っているパン屋さんの残り物を沢山もらってくるので、実はみんなの朝ごはんの足しになっている。今日も両手にいっぱいだ。


ラピリスは今日は別の女の子と一緒だった。

ベルノという、同じパン屋で働いている女の子だ。ラピリスよりは年長な感じの女の子で、何度かこの店にもお客として来てくれている。

今日はこのクレージュの店で、別の友人と待ち合わせをしているようだ。


静まり返った店内。


前奏が始まった。


アルテミシアの伝説級魔法楽器「月琴」から発せられる、実際の弦の数以上の音色…。それはいくつもまるで異なる楽器の音があふれ出しているかのような、そんな音色を響かせている。


歌が始まる…

アジュールの透き通る声と、セレステのしっとりとした声、

海と空のように、重なり合うけれど、けっして交わらない歌声…

ふたりの和音(ハーモニー)が、店内に響き渡る。


二人が手に持っているキラキラの短杖(ワンド)は、アルテミシアが作った、音を拡大する魔法装置だ。

二人の歌声は、月琴の音楽に乗って、店じゅうに響き渡る…


空色と雲色の二人は、舞うように振り付けをしながら、歌を紡ぎ合わせる…

時に、同じ動きを、時に、違う動きを、歌に合わせて…


歌は、やや激しく、

途中で一度だけ、静かに…

そして再び、嵐が、波が、荒れるように高まり、その高揚のまま…

二人の歌が終わった。


歌の後を引く、余韻の曲に従って、二人の歌姫は、軽く舞い、身を振る。

やがて、曲が止む…

二人の動きも、同時に、止まる…


そして、拍手と喝采が巻き起こった。

「「ありがとうございました~~!!」」

アジュールとセレステ、二人の歌姫は軽くお辞儀をする。


「あ、アルテミシアさんは…? あ、はい、えーと…もう少し後、ですって…」

「なので、みなさ~ん、まだ帰らないで、もうちょっとだけ、待っててくださいね~~!」


二人はまた合わせた動きで、愛らしくも色気に満ちたお辞儀をして、ステージを下りた。

今一度の拍手と喝采が起こった。


カウンターの端の席では、ずっと前から、ユーミについてきた猟師のエスターが、針子のトーニャという友人と一緒に飲んでいた。そこにパン屋のベルノも加わって、三人並んでステージを楽しんでいた。

このトーニャという女の子がアルテミシアの大ファンで、先程からアルテミシアが月琴を奏でる姿に視線を奪われ、メロメロになっている…。


この三人はみんな孤児で、孤児院時代からの友人なのだ。

知人の知人も実は知り合いだったとか、そういう事があるのが、いかにも狭い田舎町らしい。





そしてお店はまた元の賑わいに戻った。


「それで、仕事のお話なんだけど」


演奏の済んだアルテミシアが戻ってくるのを待って、クレージュが本題に入った。



ちなみに…

かなり無理して戻ってきたようなので、レメンティはもう休ませた。

旅の疲れが溜まっていそうなので、この仕事にも連れて行く予定はない。


レメンティは、泥酔して眠ってしまったラシュナスを(かか)えるようにして、二階にある部屋に戻って行った。

お姫様抱っこで階段を上って、だ。

「もう…! この子…手がかかるわねぇ…! 自分だけ酔っ払って寝ちゃって!」

「うにゃむ……もぉ、のめませぇん……zzz…」

「あーもう! 何か、メチャムカつく!!!」

そりゃあ腹が立つ。

だって、レメンティは今、とっても、疲れているのだ。




さて、お仕事の話に戻ると…


クレージュは重たすぎる胸をテーブルに乗せて楽をするクセがあるけれど、仕事や深刻な話をする時には、必ず胸を持ち上げて姿勢を正す。

まあ重たすぎるので、すぐに手を胸の下で組んで支えてしまう。それも彼女のクセだった。


ただ今回はすぐに組んだ腕を解いた。

二人の小さな女の子がお皿を下げていったテーブルの上に、再び地図を広げ直すためだ。


「ここに」といって、この町のはるか西にある小さな村を指でとんとん、と突いた。

「買い付けに行こうと思うんだけど」

続いて、この町の南側に当たる場所を指でなぞるように示す。


そこには街道が通っている表示がある。

だが、あまり使われない、山間の勾配の多い裏街道だ、という事をみんな知っている。…肉に夢中な一名を除き…。


この裏街道沿いにあった村も、こちらから一つ目の村を除いて、その多くは今は廃村になっている。

そこにいた村人はその西にあるタムトという村に移住し、農業や林業に携わっている。

タムト村は人口も増え、新たな農地も開拓している。

だから生産量もかなりのものとなっていて、穀物が比較的安く手に入る。


今回の目的は、その村に買付けに行く事なのだ。


「ただ…最近、この裏街道ね、ちょっと危険なのよ… よく物資が奪われているって話」

クレージュは町の商人から聞いた情報を話した。


「危険…か…」

フローレンは少し乗り気ではない。

「その危険ってわかってる街道を、わざわざ行く理由があるの?」


訓練もそこそこな女の子たちを危険なところへ連れて行きたくない、というのがフローレンの本音だ。

でも、日頃からクレージュが言っているのは、食料を仕入れなければ、ここの食べるものがなくなる、ということだ。

お店を続けることも、生活を続けることもままならなくなる。

この町で買う事もできるかもしれないけれど、食料が高いので、それではお金が尽きる日が早くなる。


どちらにしても早い段階で、安い食料を買い付けに行かなければいけないのだ。


「ここから西のエヴェリエ領経由のルートもあるんだけど… というより、そっちが本来の主街道に当たる訳だけど…そっちは軍が関を設けていてね… 北の戦地へ送る物資以外は、かなりの通行税を徴収される、という事なのよ…」


その通行税を取られたら、安く買いに行く意味がない、とクレージュは話す。


フローレンは「何それ…」と呆れている感じだった。

国家の急務かもしれないけれど、庶民の生活を困らせていい理由にはならない。


「まあそれは建前で、実のところは有力な貴族が理由をつけて搾取してる…って感じ、じゃないか、って噂されているんだけどね…」


クレージュの解説に、フローレンは「何それ!?」と、今度は怒りを露わにする。

ただ、どんなに怒ったところで、その現状が変わる訳でもない…。


「じゃあ、通行税の取られない、南の街道を行くしかない、って訳…ね…

 その山賊がどこに潜んでいるかわかれば…」

私が、先に倒しに行く! とフローレンは言わんばかりだ。


だけれど、タムト村までの南街道の距離はかなり長い。徒歩で数日、といったところだ。

その広い地域の街道の、どこに山賊の拠点があるか、わかるはずもない。


そして、軍を出して討伐するのも難しいし、そもそも兵の多くが北に行っている現状、山賊討伐は望めるはずもない…


「軍の物資とか、護衛の多い商団なんかは襲われないんだけど…

 どうも武装の弱い商人の馬車だけを狙っている感じなのよね…

 数日前に着く予定の荷馬車もまだ着いてないみたいだしね…」

クレージュも熟慮の末での選択だろう。

ここで一杯、お酒をあおった。こころなしか、ちょっと疲れているように感じられた。


「まあ、うちのも当然“弱い商隊”って感じに見えるでしょうね…」

若い女子ばかりの商隊なのだから、フローレンが言うまでもなく、そうだろう。


「まあ危険って言っても、輸送の護衛くらいなら、私達四人いれば問題ないんじゃない?♪」

アルテミシアは、そうやって山賊を釣りだして、始末してしまおう、と考えている(ふし)がある。


ちょっと楽観的な考え方が、いつものアルテミシアじゃない、とフローレンは違和感を覚える…。アルテミシアは多分、自分以上に女の子たちの身を案じるはずだ…。

なんかちょっと、アルテミシアには不思議な「余裕」が感じられる…


「あー…アタシ今回パス」

その「四人」という言葉に、レイリアがグラスを手の中で転がしながら反応した。


「えーーーなんでーーーー」

ユーミが手をばたばたさせながら騒いだ。肉を持ったまま。

フローレンも、ちょっと、驚きの目をレイリアのほうに向けている。


「工房が大変なの。武具の注文が多くて、まわってない感じ?」

北で内乱が続いていて、どこも物資は不足している。特に、武具は作れる場所も人も限られている。


「あの連中ときたら…アタシがいないとマトモに鉄も打てないのかって」

そう鍛冶屋連中の愚痴を言って、半分残っていたグラスを一気に飲み干した。

そこに可愛いキューチェがお酌しにくるけれど、ちょっと怒り気味なレイリアを見て、ちょっと躊躇(ちゅうちょ)する感じだった。その困り気味な表情も可愛い。

でもレイリアが微笑みかけると、嬉しそうに顔を赤らめてお酌をして去っていった。


炎を自在に操るグィニメグ神の巫女が一人いれば、鍛冶工房の効率は安定するとか言われている。

その巫女の中でも最高級に優秀な炎の使い手であるレイリアがいたら、作業効率が上がるのは当然な訳だ。頼りにされて当然だろう。


「ガーネッタとネリアンは? 二人ともいい子だと思うけど…?」

そう質問するけれど、フローレンもあの二人の火竜族(サラマンド)の事はあまり知らない。性格はこの先輩と違っておとなしいけど…仕事ができる子かどうかは知らない。


「あの二人ねえ…、また仕事遅いの何のって…。

 未だに二人合わせてもアタシより仕事遅いし…。

 つきっきりで指導して、こっちは仕事増えるっての!」


と、今度は後輩を愚痴って、注がれたばかりのグラスをまた一気に飲み干した。


その二人はレイリアの後輩巫女で、今はこの店に住んでいるけれど、

この町に来た頃は鍛冶屋の宿舎で男たちと一緒に寝泊まりしていた。

そこで二人共、男と遊びまくって仕事そっちのけだったとか、

その後二人とも男共と問題を起こして、気まずくなってこの店に逃げてきて、今は仕事にまで支障をきたしているだとか…

レイリアが愚痴を言うにも、理由があるといえばあるのだ…。


その後輩巫女たちはレイリアと違って「男遊びもしたくて大陸に渡ってきた」と本人たちが、この店の女の子たちに話していた。


鍛冶の宿舎に住んでいた頃、この二人はよくこのお店に飲みに来ていた。

お尻の大きなガーネッタは、いつも違う男と一緒にここに飲みに来ていたし、

お胸の大きなネリアンは、いつも同じ男と一緒に飲みに来ていた。

確かに…、この子たちがお店に移り住んでからは、鍛冶屋の男たちはこの店に来なくなってしまった…。ので、(男)問題を起こしたのは間違いないようだ…。


でも来月にはさらに二人、後輩の巫女がレパイスト島から来るとの事だ。

レパイスト島のグィニメグ神殿では、大陸のことを色々学ばせるために、巫女を盛んに大陸に送ってきている。

レイリアのような先輩巫女には、後輩の住む場所や仕事などの面倒を見る義務があるそうだ。


レイリアは部下や同僚に、自分と同等の能力を求めるところがある。

彼女にとってのライバルはフローレンであり、ユーミである。

常に強者を目指し並び立とうとする向上心は、評価される彼女の資質だけど、

同時に、自分より才能の劣る者に対する理解を示せない、という欠点になっている。


「まあそう言わずに、育ててあげなさい。それがいつか、あなたを助けることにもなるわよ」

クレージュは新しいボトルを開け、グラスに注いでレイリアに差し出した。 


「まあ…それはわかるけどね…。アイツら育てなきゃ、いつまでも冒険に行きにくいからねぇ…アタシも本音言えば暴れに行きたいんだけどね…」

と新しいグラスに口をつける。新たな味わいに「お?」と予想外の満足を得たのか、ちょっと表情をゆるませた。

暴れに、ではなく、輸送の護衛、なのだけど…。


「え~~? レイリ行かないの~? やだやだ~~!」

大きな肉を食べ終えたユーミが、そのついていた骨を振り回し、子供のようにだだをこねる。


「しょうがないでしょ? みんなアンタみたく暇じゃないの! 

てか、毎回毎回、レイリって言うな!」


ユーミはまだ駄々っ子のように食い下がっているが、その間にいつのまにか口に入れた料理をもごもごさせて暴れていた。

ユーミはレイリアが好きだ。一緒に暴れるのが楽しい、といった感じだ。

悪友、とでも言うのが正しい。


「あーし、ひまじゃないよー! まいにちおにく、とってくるじゃないーー!」


ユーミにはこれといった仕事がない。

彼女の言う通り、毎日のように獣を獲って店に収めているので、今の職業は猟師だとも言える。

まあ、その肉のうち何割かは確実に、彼女の小さそうで実はそうでもない胃袋に収まる事になるのだが。


ユーミは、考えるより体が動くタイプだ。

というより、はっきり言って、何も考えていない。

何かで説明を求めると、わからなくなって固まってしまうか、良くて自分言語の意味不明な答えが帰ってくる。

だが関わる人に対しては、意外と優しさがあって、面倒見のよいところがある。

そして、仲間意識が強い。他の女の子たちの事を守ろうという気持ちが強いし、相方のレイリアに関しては、居ないことが欲求不満な感じすらある。


相方が今回行かないと言っている事に、まだ納得いかないようだけれど、

実のところ、ユーミなりに女の子たちの危険を気遣っている…

訳ではない、か…


「ユーミ、事情はそれぞれよ」

とクレージュに諭されると、ユーミも途端におとなしくなり「そっかー…」と寂しそうに引き下がった。

クレージュがそういうなら仕方ない、というところが、この酒場にいる女子全員に共通してある。

胸だけでなく、その存在も発言力も大きい女なのだ。


そしてフローレンは、クレージュの態度にも、アルテミシアのような不思議な余裕がある事を感じていた。


「まあ、しょうがないわよ。みんな仕事があるんだし…」

と、言ったフローレン自身、花屋が閉店になり、今日で本職はなくなったのだ。

もっとも、以前からの冒険者としての稼ぎがかなり多くあるので、ここで過ごしても問題は無いであろうが。


「でも、やっぱり… もうちょっと、先にはできないかな?」

フローレンがたまらず口を挟んだ。


「まあ正直…まだ訓練もままならない子たちを連れて行って大丈夫か、って…。

 ちゃんと守ってあげられるか、心配だからね…」

正直に自分の想いを正直に伝える。


レイリアも来れない分、守ってあげられる範囲が狭くなる。彼女が来れないと言った時、実はユーミ以上に不安な気持ちになったのは、フローレンのほうだったのだ。


「あ、フローレン、その事なんだけど、何とかなると思うわ♪

 多分、レイリア抜きでも大丈夫よ♪」


「?」

フローレンには、何とかなる、の意味がわからない。


「うん、さっきクレージュとも話してたんだけど…♪」


食事の前にこの地図がここに広げてあったのを思い出した。

フローレンたちが帰ってくる前に、二人である程度相談していたのだろう。


「明日の朝、みんなに集まってもらうわ♪

 そう、このお店にいる、全員ね♪」


「全員?」

「全員♪」


また明日の朝、だ。

アルテミシアが何かを言うのか、するのか。

レメンティはその“自分占い”の結果、一日早く急いでここに帰ってきている…。


「その時に全部わかるわ♪」

「あの件、“明日の、朝”、にする、で決定、なのね?」

クレージュも念を押した。一言一言、はっきりと。


「ええ♪ 二人が帰ってきたから今日の夜でも良かったけど…二人とも寝ちゃったし、レメンティが占いで“明日の朝”って言ったから、明日の朝にしましょう♪」


アルテミシアとクレージュとが話し合って、その何かを決めていた。


フローレンが感じていた、二人の余裕には、何か理由があった、という事だ。

なら、もう自分も、腹をくくるしかない。


「わかった。信じる!」


思えば、自分が女の子たちの心配をしているけれど、アルテミシアも考えていない訳がない。

そして、クレージュも女の子達の身を案じているはずだ。

二人とも、おそらくは、自分以上に。


フローレンも、この二人に託す気持ちになった。

その内容までは語らないけれど、明日になればわかるのだ。


気持ちが、一気に楽になった。


「明日の朝を、空けておけばいいわけだね? 

 じゃあ、鍛冶屋には後でアタシが言いに行くよ」

とレイリアはグラスを飲み干した。

意味は分からずとも、クレージュとアルテミシアの決定に対して疑問はない。

ちなみに彼女の妹分二人はまだ働いていて、ここに帰ってきていない。


パン屋のラピリスについては、同じ職場のベルノって子がそこにいるので伝えてもらえればいい。

その二件以外に、この店以外に働きに行っている女子はいない。


「じゃあ、商売のほうの出発は?」

そう問いかけるフローレンの口調に、先程までの重たさは、もうなくなっていた。


「明後日ね。あっちもこっちも、準備があるからね」

クレージュの言う“あっち”とはその商売の準備、

“こっち”とはこの酒場のことだろう。


「じゃあ明日は訓練はちょっと控えめにして、休ませなきゃね。

 商売のお手伝いに行くの、始めての子もいるしね」


出発前からあまり疲れさせないほうがいい。

今回は買付けが目的だから、行きは荷がないから馬車に乗れるだろうけど、

帰りは大量の穀物などを積むので、みんな歩きになるだろう。



ウェイトレス姿で忙しそうに駆け回っている新人三人の姿がある。

この三人はまだ適正見定め中だから、明後日は輸送の方につれていく予定になっている。

ミミアもメメリも、割りと気が利く子で、お客受けも悪くない。

ディアンドル風のウェイトレス衣装もよく似合っている。

ミミアは胸元を大きく空けて、メメリは思いっきりスカートの丈を短くしている。


キューチェはメイド風のウェイトレス姿がすっごく可愛らしい、

けど無口で内気な感じなので、接客はちょっと苦手な様子だ。

この子は頭の回転が早く、特に計算や空間の把握が得意な子で、商品や物資の管理に能力を発揮している。


三人とも性格も良く仕事も優秀で「意外な良い拾い物」とクレージュも褒めていた。



「じゃあ、お仕事のお話は、これで決定ね♪」

と言ってグラスの残ったお酒を一気にあおると、


「一曲歌ってくるわ♪」

と、ドレス姿のアルテミシアが立ち上がった。


「私もちょっとはお店に貢献しなきゃね♪」


アルテミシアがカウンターの内通路を歩いていると、カウンター席から声をかけられた。


「あ~~アルテミシアさ~~ん!」


カウンター端のステージに一番近い席で座っているトーニャという仕立て屋の女の子は、アルテミシアのかなりのファンだ。アルテミシアが帰ってきた事を友人から聞いていて、今日は開店と同時にこの席を取ったくらいだ。

その友人のパン屋のベルノは席が空いてないので、もう一人の友人である猟師のエスターと一緒に、その横で立ち飲みしていた。

アルテミシアは軽く手を振ってあげている。


フローレンは、リマヴェラの事を思い出した。

自分は大丈夫だけれど、職を失う事になる彼女の事が気になった。

実は、花売りのリマヴェラも、この三人とは孤児院でお友達だったはずだ。


仕事が決まらなかったら、彼女もここに誘ってあげたいけれど、ウェイトレスのような動きの多い仕事は、大人しくて向きそうにない。

でもどうしようもなくなったら、ここを頼るように言ってあるし、自分がいない時に来ても良くしてくれるように、クレージュやカリラやセリーヌにも頼んである。


それに、以前この店に来た時、あの三人とも仲が良い事は知っている。

(あ~…何かいろいろ心配しすぎかな…)

フローレンもけっこう世話焼きなのだ。特に、親しい人に対しては。


そんなフローレンの気苦労を見透かしたかのように、クレージュがお酒をすすめてくる。

いいお酒だ。

こういう時のために、クレージュはいいお酒を残してあるのだ。

色々なことに配慮できる、彼女なりの多数の気配りのうちの、ほんのひとつだ。

次はまたレイリアにも注いでいた。


アルテミシアがステージに上がった。

艶やかな歌姫の姿に「待ってましたぁ!」と、酒場じゅうから歓声や口笛が聞こえた。

十日ぶりという事もあって、すごい盛り上がり様だ。


カウンター端のトーニャとその友人二人からも、黄色い声援が飛ぶ。


その歓声が一気に止み、そして静かな、月の歌声が流れる…


絶世の歌声…。


「癒やされるわねぇ…」

先程の不安も、今はちょっと忘れていられる…。

こういう穏やかな日常も、悪くない。

その月の調に聞き入りながら、フローレンも静かにグラスを傾けた。



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