29.~~リルフィと学園のお友達~~
第3章最後のルーメリア編
書きたいことあまり書けませんでしたが、こっちが長くなるのも今はちょっと…て感じで
帝都ルミナリス、帝国学園、立ち並ぶ教室棟、ある教室のひとつ。
そこは、総合学科、二年生の教室。
今は午前の授業の合間の、ちょっと長い休憩時間。
仲のいい四人の女子が集まっている。
リルフィーユと、その友人たちだ。
ミリエールは豊かな赤茶髪のウェービーヘアをなびかせたエレガントガール。
体型はちょっとふくよか。その分お胸はダントツに大きくて、男の視線を惹きつける。
お金持ちの家の娘だという事は、その服装やアクセサリを見ただけでわかる。
天然で明るく別け隔てなく優しく面倒見がいい、お嬢様。
それでいて、絵画や空間的アートのセンスがある芸術系女子でもある。
メアリアンはわりと背が高く、体型はスレンダーだけれど、起伏の激しい体つきをしている。細い腰から広がるお尻の丸みは、パンツスタイルでも充分に男性の目を引いて止まない。
後ろでツインにまとめた、少しクロワッサンカールのかかった金褐色の髪。
衣服も質素で飾りっ気も控えめな、それほど裕福でない家庭環境を思わせるけれど、着合わせを工夫した着こなしの良さには、センスが感じられる。
学費を稼ぐために、学校の後や休みの日には仕事もしている、努力家なしっかり女子なのだ。
キュリエは、黒髪姫カットの小柄な女の子。可愛らしい。
背が低く肉体的にもまだ女性らしい凹凸が少ない感じで、並んでいてもふたつかみっつ年下に見えそうなくらい。
その可愛らしい顔立ちや恥ずかしそうに顔を赤らめる仕草は、多くの男子の癒やしである。
割りと内に籠もるタイプで口数が少なく、感情をあまり現さない子なのだ。
だが非常に頭がいい。パズル的な感覚が比類ないくらい優れている。
あまり自分の事を話さないので不明だが、上品で清純な感じは、やはり裕福な育ちを思わせるところがある。
そんな魅力あふれる女子たちの中心にいるのが、リルフィーユだ。
昼間は桜の色な髪をストレートに流し、今日は右側だけ月型のヘアピンで留める。そして白薔薇のイアリング。ゆったりとしたレース入の白基調のちょっと空色が入ったチュニックに、下はおそろいのフレアなミニ。
その三人の魅力にも引けを取らない、というより、彼女が中心にいることで、全体の魅力を引き上げているようにすら感じられる。
この教室内でもここだけは、明らかに華やかさが異常数値を示している空間だ。
帝国学園自体、女子生徒のほうが少ない。
総合学科は女子が少なくて、彼女たちの姿はよく目立つ。
教室にいる三十人程の生徒の中で、女子生徒の姿はこの四人だけだった。
このグループにはもう一人、ファーナという明るく活発な子がいるけれど、運動系クラブ活動の試合に行っているので今日はいない。
「はい、これ~」
リルフィがカバンから取り出したのは、両手に余るくらいの大きさの、色鮮やかな三枚重ねの紙包みだ。
どこかで買った感じではなく、リルフィ手作りの品である。
「え? な~に? な~に?」
「何でしょう…? お宝、っぽいですね!」
「…かわいい…包み…」
リルフィは自分の手で、彩り豊かな包装紙の自作“宝箱”を開ける。
中からあふれたのは…
色取り取りの、焼き菓子だった。
小麦と卵とお砂糖と、シナモン、ショコラ、フルーツパウダー、その他諸々を練って焼いた、黄金色の焼き菓子。
色取り取りの水晶砂糖や、何種もの乾燥果物や木の実の欠片で飾られ、色とりどりな宝石箱のようだった。
「うわ~…! 金キラ~! おいしそ~」
「宝石ですか!? これ! 本当にクッキーですか!?」
「…きれい…! たからものみたい…」
「でしょー? さ、みんなで食べましょう!」
と、机の真ん中でその“宝箱”を大きく開く。
宝石を散らした黄金の焼き菓子が、広げた包み紙の上に広がった。
休憩時間は女子たち至福の時間…。
「リルフィーの焼いたお菓子って、おいしいのよね~。あ~、いくつでもいけちゃう感じ~…あむあむ…」
ちょっとふくよかなミリエールは見てのとおり、よく食べる。食べるのが好きなのだ。
「どうやったらこんなに上手く焼けるんでしょう…? 私がやったら、いつも真っ黒焦げですよ…むぐむぐ…」
スレンダーなメアリアンも、よく食べる。家が貧しいので、食べれるときには充分食べるタイプ。
「…あまくて…おいしい……ぱくっ…」
小柄なキュリエは、食べる方も控えめで、小さなおくちで少しずつ…。
ゆっくりお上品に食べている。食べる姿も可愛い。
「そお? 美味しくって、よかった!」
リルフィも一つ手にとって、小さくかじった。キュリエと目が合って、同時に微笑んだ。
その横で、ミリエールとメアリアンは競うように、そしてペースが速い。
教室の中で、そのミニ女子会の場だけが、華やかな雰囲気に溢れ、周囲の時間を止めている…。
それを、男子学生の一団が、興味深そうにこちらを見ていた。じーっと見ていた。
「食べる?」
リルフィの言葉に、男子生徒、全員揃って頷く。
抜き取った包装紙の一枚に、お菓子をひと掴み。
「はい! どうぞ」
まるで、女神から施しを受けたかのように歓喜する男子生徒たちを背に、女子会は続く。
「リルフィーってば、優しいよね~」
ミリエールがお菓子を取って、指先ごとお口の中へ。
男子たちに分けてあげたので、もうお菓子の残りは少なくなっている。残り3つ。
「そうですよ! 別に、男子なんかに分けてあげなくてもいいですのに…」
メアリアンがお口に放り込んだ。
お菓子、残り2つ。
「でも、みんな喜んでるわよ?」
と、リルフィが1つ、手に取った。
「まあ、わたしだって~、いっぱい作ったら、分けてあげるかもだけど~…」
「私も、焼き菓子に成功する日が来たら、記念におすそ分けくらいするです…」
そう言いながら、二人の目は、真下にじっーと注がれている。
残り1個になった焼き菓子に。
紅玉砂糖の乗った黄金蜂蜜たっぷりの、一番キレイなやつだ…。
「あ~…この状況~…どうするの~?」
「うーん、どうしたものでしょう…」
残り一つのお菓子を挟んで、二人がにらみ合っている。
どちらも譲る気もなければ、かと行って積極的に取りに行くでもない…。
そしたら…
「「あ…」」
最後の一つは、キュリエが取っていた。
呆気にとられた二人を残し、可愛らしく小さくかじりついている。
「ま、いいか」みたいな二人。
冷戦状態は可愛らしさによって終結されたのだった…。
女子たちの間で平和的解決がなされた直後、男子たちの側で乱闘が起こった。
先ほどの男子学生が中心だ。どうやら分けてあげたお菓子の分配を巡る争いらしい。
俺のだ! とか、いや僕のです! とか、ひっこめカス! とか…
お菓子の取り合い、というか…なんかちょっと、殺気を帯びている…
「ちょっと! 取り合いなんてしないでよ!」
リルフィは止めに入る。
自分のしたことで人が争おうとしているのは嫌だった。
ぴたりと動きを止めた男子生徒たちを前に、
「また作ってくるから、喧嘩なんてしちゃダメよ。ねっ!」
少し前にかがむような姿勢。人差し指を立てて、軽く諭すように言う。
先ほどまで殺気立っていた男の子たちが、従順な小動物のように一斉に頷く。
目線は、リルフィの麗しすぎる星空色の瞳に集まり、
その眩しさを避ける…わけでもないのだが、そのまま真下に…
発育の良すぎる乙女のふくらみが、前かがみになって…ちょっと重力に負けるように微妙に楕円形を描いている…
それが前ボタンを開けすぎた、ひらひらのお洋服の間から、隠れようもなくよく見える…
…事に、御本人は自覚がない様子だ。
奴らの表情が緩んでいるのは、春の陽気のせいではなさそうだ。
どうしてこんな小さなお菓子ひとつを、乱闘騒ぎするほどに取り合うのか、リルフィには理解できなかった。
結局、ケンカの原因になった焼き菓子は、リルフィの手に戻ってきた。
そこに残してきたら、第二次クッキー争奪戦が開催される事になっただろう…。
「へぇー…取り合いするなんて、男の子たちも、こういうお菓子大好きなのね!」
女の子たちは顔を見合わせた。
明らかに、偉大な勘違いをしているのだが、リルフィは気付いていない。
「なんて言うか~…リルフィーって~、鈍いよね~」
ミリエールの直球すぎる発言に、リルフィ本人ではなく、向かいにいたキュリエが「直で言う!?」って感じにびっくりしたようになった。
「というより…、リルフィは、自分が他人からどんな風に見えてるのか、わかってないのですよ…、特に男の子から、ですね…」
メアリアンもわりと忌憚ない言い方だ。
この二人は、男子が自分たちをどういう目で見ているのか、よくわかっている。
お胸やお尻に集まる視線を、嫌というほど感じている…
でもそれは、自分の魅力の為せる事だと、気がついている。
メアリアンは、いつも上着の胸元をちょっと開けているし、
ミリエールは、形がくっきり映える、ぴっちりなパンツルックが多い。
二人共、気がついていて、そうしているのだ。
キューチェだって、キレイに揃えた前髪を下ろしているのは、より可愛く見えることを知っているからだろう。
自分の魅力的な部分を最大限にアピールするのは、女性のしたたかな嗜み、とでもいうだろうか。
で、
その友人たちの発言に、リルフィはただ、きょとんとしていた。
その表情から察するに、おそらく全くわかっていないであろう…
「男の子はみんな、リルフィの事、好きなんだよ~? わかってる~?」
呆れたように、ミリエールからの質問が飛んだ。
だが、それにはリルフィも微笑みで大きく頷く。
「私もみんな好きよ! みんな大事なお友達だもの!」
…みな一様に溜め息をついた。
やっぱり質問の意味は正しく解釈されていなかった。
その友人たちの反応を受け、リルフィはやっぱり、きょとんとしていた。
さて…
このクラス「総合学科」の男子たちの学園内における位置づけと言えば…
はっきり言って、落ちこぼれ的な見られ方をしている。
男子生徒は、一年生のうちに将来の進路を定め、二年では専門学科に進むのが基本である。
その専門学科は道具を揃えたり、研究費用を持参する必要があったり、お金がかかるのだ。だが、お金がなくても才能のある学生には、企業が奨学金を貸して専門学科で学ばせる事がある。
ここにいる男子はつまり、そういう才能もなく、やりたい事も決まらず…学園卒業という箔だけつけたい金持ちの息子ども、基本的にダメな男子ども、という事になる…
そういう訳で、このクラスの男子生徒の中で、この美少女軍団に対してアタックできるような気概のあるヤツは
…残念ながらいないのである。
憧れを抱きながらも華やかな女子たちを遠くから眺めているだけなのだ…。
逆に、この女子たちの場合、ダメな学生ではない。
総合学科に留まっている理由はそれぞれだ。
ミリエールの場合。
卒業後は親の営む会社で、デザインの仕事をする事が決まっている。
既に造形に関するアイデアを出したり、彼女のアートが商品に取り入れられたりしている。
だから別に学科を変える必要はない、と考えている。
メアリアンの場合。
企業からお声が掛かるほどの特別な才能はない。卒業まで総合学科にいるだろう。
でも、やっと学費を出せる程度の、それほど裕福な家ではないこの子は、質素に耐える強さがあり、かなりの努力家である。
休日や学校の後に服飾の店で働いていて、そこで頼まれてファッションモデルのような仕事も紹介されていた。
キュリエの場合。
小柄で内気で可愛い彼女は、他の女子に疎まれやすい。幼年学校でいじめに合っていた過去もある。
でもこの環境では、一番仲良しのファーナがいて、大好きなリルフィがいて、強気なミリエールもメアリアンも優しく、いつもか弱いキュリエを守ってくれる。
頭が良くて研究系の学科が向きそうなのだけど、繊細なこの子は環境を変えると以上の理由で精神的にまいってしまって学校に来なくなる可能性がありえる。
よって総合学科、というよりこの仲間内からの変更はありえない。
今日はここにいないファーナも、学生でありながら企業のチームとの試合に出るほどスポーツの実力があり、早くもプロのチームから注目されている。
運動系の学科に行かないのは、親友のキュリエと一緒にいたいからだ。
さて、リルフィの場合はもっと事情が異なる。
何でも卒なくこなす彼女は、一つの専門に絞る事はむしろ可能性を狭める事になる…という事を自分でも理解している感じである…
まあ実のところ、好奇心が旺盛すぎて何でも興味を持って行動するので、一つの事に縛られるのはイヤなのだ。
座学の成績は、各専門学科の生徒よりも高い、それも全科目において。
しかも、運動学科の生徒を上回る身体能力 士官学科の生徒よりも高い戦闘能力、魔法学科の生徒よりも魔法を使いこなす…
その類稀なる美貌を含めて、いわゆる万能天才系である。
つまり、彼女たちは、華やかさにおいても、才能においても、クラス内で浮いている存在…なのである…。
次回から第4章です。
しばらくはまったり展開かもですが…。




