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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第3章 星空の洞窟
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21.ザコは何人群れてもザコだからザコと言うの


《九属龍撃矢》 イミテイト・ナインドラゴンブレス


アルテミシアの前面頭上に現れた、(ダイヤ)型とその中心に並んだ九色九種の魔法陣…


そこから各々(ほとばし)るのは、炎であり、氷であり、雷であり、それはつまり属性学上最強に座する存在とされる、九種の(ドラゴン)猛息(ブレス)を模した魔法の矢だ。


「あらら…」「あーあ…」「ありゃぁ…」

かけつけた三人が呆れたようにサツリクの現場を眺める。


八体八様のクタバリ方… 燃えて黒焦げな者、凍ってる者、焦げ痺れて蒸気を上げでる者、干からびてる者、刻まれてる者、破裂してる者、溶かされてる者…外傷がなさそうな一人は精神が破壊されていたり、

一体少ないのは実は完全に消滅しているからだ。


「なにこれ…ひどいな…一瞬ユーミがやったのかと見間違うよ…」

レイリアまで呆れている。酷いというのはミナゴロシにした事ではなく、高威力すぎるという意味だ。


「ちやうよー! あーしも! あばれたかったのにー!」

と手をぶんぶんしてるユーミ。

確かに、ユーミの仕業じゃない。

ユーミがやったら、全員斬られてバラバラなのが転がっているだけだろう。


「こんな派手な魔法まで使っちゃって…こんな相手に使うかなあ…?」

アルテミシアの暴走っぷりには、フローレンも驚きを隠せない。

一度に複数の属性を操るのは、魔法でも技でも難易度が高いとされる。それが九種ともなると相当高度な魔法だ。もっと簡単な魔法でいいのに…、

つまりスィーツを奪われた乙女の怒りの程がわかるというものだ。


当のスィーツ魔女は、高威力の魔法を放ったことで、つまり魔奈(マナ)を放出したことで、怒りの感情が晴れた様子だった。すっきりした、という感じだろうか…。

てへっ、と舌を出して指を目元にかざしたポーズで「やりすぎました♪」みたいな顔をした。

ミナゴロした後にそういうふうに可愛げを出されても、逆に恐いものがあるのだけど…。

弱者を襲うどうしようもないクズ悪人どもだから同情の余地はないが。


「あなたねぇ、ちょっとは手加減を…」

言っている途中で、フローレンがその手に花園の剣(シャンゼリーゼ)を出現させた。

「いらないか」


「賊だからねえ」

と、レイリアも手に火色金(ヒイロカネ)を剣の形に具現化させる。


「なんか、いっぱい、きたー!」

と、漆黒の大斧を出しながら飛び跳ねるように喜びをあらわすユーミ。


騒ぎを聞きつけ、洞窟内から出てきたようだ。

軽く二~三十人はいる。

さすがに目の前の惨劇を直視して、驚いている様子はある。


「全員雑魚だな」

「ザコだねー」

「数だけいても、ねえ?」


賊のカシラと思しきエラソーな三人が連中の後ろにいる。


太いの(でっぷり)長いの(げっそり)低いの(ちっこい)、えらく外見に差がある三人組だ。


先日のあの砦で思わぬ手練と当たったところなので、フローレンは少し警戒はしていた。

だけども今回は、そのカシラ達を含めて、強そうなのは一人もいない。


相手は女の子が四人で、囲み込めばどうにでもなる、そんな風に簡単に考えていそうな連中だ。頭の中身が簡単(カンタン)な連中は、対処もまた簡単だ。


大勢の賊が周囲を回り込むように動き、四人の女子を包囲する形になった。


「おいおい…囲まれちゃってるぜぇ…? がへへへ…」とカシラ(太)。

「コーサンしたほうが、いいんじゃね? ぐへへへ…」とカシラ(長)。

「まとめてカワイがってやるからなぁ? げへへへ…」とカシラ(低)。


四人で四方向、背を守り合いながら戦う、

否、そんな必要はない。


迎え撃つようにそれぞれが前に歩を進めた。

こんな程度の連中に囲まれている事なんて、不利な状況でもなんでもないのだ。


「こいつら、ざこでしょ? だれがコーサンするん?」

ユーミは、意味がわからん! って感じだ。


「雑魚ね…。ったく、これだから…」

レイリアは、鬱陶(うっとう)しいな、としか思っていない。


フローレンも、こういう下衆(ゲス)い男には嫌悪感しかない。

「ザコは何人群れても!」


ザコだから。


「ザコだと言うのよ♪」

アルテミシアも(あなど)ってなどいない。

こいつらは本当にザコだから、侮る必要すらない。


すぐに片が付くであろザコ共との戦いが始まった。





女子四人で洞窟を進んでいる。

洞窟と言っても天然のそれではなく、しっかり組まれた木材で、各所天井の補強がなされている。

その作りからは、ここが鉱山だったという事がわかる。


洞窟は、横に数人は並べそうなくらいに広さがある。

いかにも賊がねぐらとして好みそうな雰囲気だった。


その洞窟のすぐ外では、大量の賊が多様なやられ方で倒れていた。

中央に九種八様にやられたのが転がっているかと思えば、

右方向の者たちはそろって、身体が二つかそれ以上に分かれて散乱し、

後方向の者たちはそろって、身体が燃え上がり、ある者は真っ黒な炭に、

左方向の者たちはそろって、外傷少ないが、確実に急所を斬られ突かれしており、

前方向の者たちはそれぞれが、あきらかに物理的に見ればおかしな、つまり魔法による死に方をしている。


女が四人と侮って数を頼みに攻めかかった、力量を測れない雑魚どもの無惨な末路がこれである。残念な事に、もう誰も息をしていない。所詮、群れることでしか悪事すら働けない、弱者にしか手を出せない、何の取り柄もない連中だ。


で、ザコどもを軽く始末した四人の女子たちは、賊のカシラ三人が奥へ逃げ込んだのを追っている訳だ。


明かりは必要なかった。壁に松明が添えられている訳でもない。


岩壁が光っている。

壁や天井全体ではなく、光を放つ石が、岩の中にいくつも含まれている。

それも照らすようなきつい光ではない。(ほの)かな光を発しているのだ。

だから洞窟全体が薄明るいのだ。



入り口のすぐそこには横道があった。

どうやらここが倉庫のようで、物資や食料と思しき箱や樽や袋が大量に積まれている。目的の楓蜜(メープルシロップ)は賊共が全部食べたと言っていたので、とりあえずここに用はない。

逃げたカシラや他の賊がここに潜んでいる様子はなかったので、無視して先に進んだ。



そのまま奥まで一本道、そのまま進んでいくと、すぐに開けた場所に出た。

かなり広い。部屋、というにはちょっと広すぎる空間だ。

天井も高い。だからよけいに広く感じる。

藁やボロ布の寝床があったり、若干の生活感が感じられる。山賊の手下どもがここで寝泊まりしている感じの場所だった。



その一角、木で組まれた簡易な作りの建物がある。全部で三つ。

枠組みを木で作って、大きな布をかけただけの、小屋とさえ言えない、簡単な建物だ。

その両側にだけ、この洞窟には珍しく(かがり)が置かれ、火が焚かれていた。

逃げ込んだカシラたちが、そこから出てきた。


「お、おまえらぁ、これ見ろぉ! がへへぇ!」

「う…動かないほが、イイぜェ! ぐへへぇ!」

「ひ、ヒトジチってヤツだなぁ! げへへぇ!」


三人の賊のカシラ。それぞれが一人ずつ、女の子を羽交い締めにしている。

襲われた馬車に乗っていた娘たちか、それともどこからか拐われてきた村娘たちだろうか。

裸のような格好、というか完全に裸で、その柔肌に押し当てられているうのは抜き身の刃だった。


憐れにも、真ん中の赤茶髪の微ぽちゃり系の子は悲鳴をあげ、左の金褐色髪の細っそりな子は怯えきり、そして右の黒髪の小柄な子は恐怖のあまりか無表情に見えた。


「あーあ、人質取るなんて…」

「サイテーってカンジよね!」

レイリアもユーミも歩みを止めながらも、動じた感じはまったくない。


「まずはあの子たちをどうにかして助けなきゃね」

言いつつフローレンも落ち着いている。


「がへへへ! そうだ、そのままぁ、まず剣を捨てなぁ!」

「ぐへへへ! んでぇ、それから…よぉ、どーすっかなぁ」

「げへへへ! とりあえず、アンタらも全員、ぬg」

賊のカシラ(短)の物言いは、ヘンなところで止まった。


いや、言葉だけが止まった訳じゃない。

三人とも、動き自体が固まっていた。

賊だけじゃなくって、女の子たちまで含めて、動きが固まっている。


「問題ないでしょ♪」


《対人束縛》ホールド・パーソン


「もう固めちゃったから♪」


アルテミシアの魔法は素早かった。

フローレンも、レイリアも、ユーミも、まったく落ち着いているのは、こういう時はアルテミシアが魔法で対処する、と、この四人の中ではほぼ決まっているからだ。


身体が固まっているので、賊が誤って斬ることも、女の子たちが逃げようと動いて刃が肌に当たることもない。


カシラどもが持つ刃を、女の子の身体から離して、取り上げた。

そうしてから、アルテミシアが三人の女の子の固定だけを、ひとりずつ順番に解除した。


やや肉付きのいい豊かな赤茶髪の子と、少し痩せ気味で金褐色髪の子が、涙を流しながら抱き合ってうずくまっている。小柄なぱっつん黒髪の子は手で前を抑えるように座り込んで(うつむ)いたまま何も話さない。恐怖で硬直しているわけではなく、怯えた様子も控えめで、表情も口数も少なそうな子だ。


「もう大丈夫よ、安心して」

ほとんど、というか何も着てない三人の女の子をなだめるフローレン。その優しい声掛けに、女の子たちは安心した様子を見せた。

だが、何しろ何も着ていない状態だ。

女の子たちはそのまましゃがみ込んだまま抱き合っているか俯いている他ない…。


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