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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第2章 焼け崩れる山砦
16/139

15.焼け落ちた砦を後に


手練の剣士に、ザコ山賊多数、そして巨漢のカシラというザコ。

強敵を片付けたフローレンは、ザコを始末したアルテミシアと共に、下で好き勝手に暴れていたレイリアとユーミのところへ戻った。


「派手に壊したわねえ♪」

「ホント、死ぬかと思ったわよ!」

苦言を呈する二人に対し「こいつが」という感じにユーミとレイリアが言い合いをしている。

木の柱や足場が、きれいに真っ二つになっていたり、いまだ派手に燃え盛っているのを見れば、この二人両方の仕業、というのは間違いないところだ。


砦も半壊している。特に大きく崩れた西側は、もはや防壁の役目を果たしていない。入り口すら完全に埋まってしまっていた。

もはやここを拠点に使うような勢力は現れないだろう。


「生きて動いている反応は無い感じね…

 隠れて潜んでるような反応も…ナシ♪」


アルテミシアが例によって、生命反応の検知を行った。

自分たち四人を除けば、村娘四人の反応があるだけだという結果だ。

つまり、山賊は全滅させた。生き残った賊がいたとしても、もうここから逃げ出している、ということだ。

城壁の崩れている箇所や、無傷なはずの東の門から脱出したと思われる。


カシラは地面に落下激突し、息をしていないのをアルテミシアが確認している。

あの手練の剣士も、事切れるのをフローレンが見届けた。


「さあ、あの子たちを迎えに行きましょう」

瓦礫(ガレキ)の散らばる戦場を後にする。

背後で一際(ひときわ)大きな音が立ち、石壁が崩落する音が続く。石柱のように上まで残っていた部分が崩れ落ちたのだろうけれど、誰も振り返ることはない。





村娘たちの待つ西の水場に戻って、アルテミシアが鉄の扉を開けた。

「おまたせ♪」

隠れていた女の子たちも無事で、もちろん怪我一つ無い。

安心した表情と、あとご飯を食べて少し元気になった感じがする。


ここで待っている間に、動きやすい感じに、そしてきれいに身繕いをしていた様子だった。衣服の破損した部分を上手く繕っていた。その分、スカートの丈なんかがちょっと、いやけっこう短くなっているけれど…。

ネージェとディアンはポニーテールの髪をきれいに結び直している。

ウェーベルの髪は後ろでシニオンにまとめられ、おちついた大人っぽい感じが増している。

アーシャの髪は三つ編みになっていて、可愛らしさが増している。待っている間にウェーベルに編んでもらったと思われる。


村から奪われた荷物は、女の子たちが隠れていたこの部屋にあった。

嵩張るが価値のあるものを施錠して保管できそうな場所が、砦内でこの水場しかなかったのだろう。

例の地酒も、漬け肉も、マメの粉も、無事全部回収した。これらの物資は、全くの手つかずで保管されていた。

食い気女子三人は戦いの疲れも忘れたように、もうウキウキだ。

あとは、お宝とまではいかないけれど、売ればそこそこの金額になりそうな物品がいくつかある程度だ。価値の高い宝飾品の類いは、カシラが持っていたのをアルテミシアが回収している。


取り戻して喜ぶのは良いけれど、今からこれを頑張って持ち帰らなければならない。山賊の男どもが大勢で運んできたものを、ここにいる女子だけで運ばなければいけないのだ。

だけど、アルテミシアには魔法がある。ので、全く心配はしていないのだ。

「さて、荷物の積み込みは手伝ってもらえるかな♪」


「もちろん!」「まかせて!」

アルテミシアの呼びかけに、ネージェとディアンが名乗りを上げた。この二人は、活発で気が強いだけじゃなく、かなり力仕事も得意そうだ。


砦の北東の(うまや)には、馬が二頭繋がれていた。

一頭は普通の駄馬のようだ。戦いの音、崩落の音、それと炎に怯えて落ち着かない様子だった。


《精神安静☆月心》メンタルレスト☆ルナマインド


アルテミシアが心を落ち着かせる魔法をかけると、馬は静かになった。この哀れな馬にしてみても、訳も分からず周囲で巻き起こる戦いの音と雰囲気に怯える、いわば被害者だ。


もう一頭は、この戦火の中でも、落ち着いた感じで、警戒感だけ持って(たたず)んでいる。山賊が持つには勿体ないほど、丈夫で元気そうな良い馬だと思える。


「いい馬ね」

「うん、ちょっと村では見ない感じ」

ネージェとディアンが見たところ、農耕や荷駄用の馬ではないようだ。乗用馬ともちょっと違う。

貴族や富豪から奪ったのだろうか。


ともあれ、この二頭に引かせるように、そこに置いてあった荷車を取り付ける。

ユーミが馬を誘導して、荷物の置いてある水場まで移動させた。


「じゃあ、軽くするから、積み込みよろしく♪」


《軽量化☆月影》ディクリーズ・ウェイト☆ムーンエフェエクト


「あれ? 今、月の魔法かけた?」

「掛けた♪」

アルテミシアが魔法に月の魔力を注ぐ時、魔法陣から魔法の効果発動まで、独特の月色の光を放つのだが、レイリアはそれを見ていたので、不思議に思って聞いたのだ。


「なんかね、私にもよくわからないんだけど、重量操作の魔法にはなぜか、月の魔法が効くのよね♪ しかも満月に近いから、かなり効いてるはずよ♪」

アルテミシアは軽くレイリアの疑問に答えた。


その言葉通り、重いはずの荷箱が、村娘たちでも軽々持ち上がるほどになっている。

「うわ! めちゃ軽いの!」

「そう、箱が片手で持てちゃいそう!」

女の子たちも驚いている。通常だと大人の男の体重より重いはずだから、驚くのもムリはない。


ネージェとディアンは、軽くなった箱を荷車まで運んできている。それをウェーベルとアーシャが二人で考えて箱の仕分けをして、全部が上手く乗るように置き直している。


髪をまとめたウェーベルはまだ若いのに人妻的な雰囲気があって、落ち着いた貫禄と大人の色気があった。ちっちゃなアーシャも、大きなお胸以外はかなり幼く見えるけれど、どこか家庭的な雰囲気がある素朴で可愛い子だ。この二人は家事の段取りなんかは得意そうな感じだ。


積荷の作業は、アルテミシアと四人の女の子たちが行っている。

フローレンは激戦の後なので、ちょっと休憩という感じに眠っている。怪我をした訳ではないので、疲れがとれたらすぐに起きるだろう。


その間レイリアとユーミは、砦内の捜索に行っていた。まだ探索をしていない南側だ。

けれど結局、二階南側にあったカシラの部屋やその周辺の部屋からは大したものは見つからなかった。見つかったのは、価値の低い装飾品がいくつかと、銅銭の詰められた箱だけだった。かさばるから置いていかれたのだろう。


やはりこの砦を捨てるつもりだったのだろう。逃げるかどうかはともかく。

とすると、目ぼしい物を残しているはずはない。

持ち出しやすい宝飾品や金貨はカシラが持っていたのをアルテミシアが回収しているし、フローレンが倒したという幹部らしい男も、その剣以外は大したものを持っていなかったらしい。

だとしたら、これ以上はもう何も見つからないはずだ。通常ならば。


だけどレイリアはしばらく考えた。

その後、三つあった部屋を見て回り、そのうちひとつの部屋にあった机をユーミに破砕させた。すると机の中の隠し場所から、十枚以上の金貨と宝石が入った小袋が出てきたのだ。

「ま、こんなところだろうね」

金貨の一枚を「酒代に」と黒いショートパンツのポケットにしまい込むと、そのまま部屋を後にする。


銅銭の箱は本来なら持っていくのが大変な重さだけれど、ユーミは軽々と担ぎ上げて運んでいた。少なく見積もってざっと一〇〇〇枚あるとすれば、金貨二枚分くらいにはなる。財宝というには程遠いが、今回の冒険の経費の足しにはなりそうだ。


そこからさらに南側にあった倉庫らしい部屋で、ロープや布など必要そうな道具類を調達し、全部ユーミに持たせてみんなのところへ戻った。


レイリアとユーミが戻る頃には、荷の積み込みも終わっていた。

さっき持ってきた布を被せ、ロープで結んで荷物を固定すると、いつでも出発できる状態だ。


フローレンも少し休んだだけでもう起きている。鎧を削られた右の胸が揺れないように布地を巻いている。こういう他のものを身につけると、花びら鎧のような論理魔法装備の効果は弱くなってしまうけれど、今は防御力より、歩く度におっきなお胸が揺れるほうが問題だ、ということである。


「目的は達成ね」

フローレンの言葉に三人は頷いた。

目的の対象は三人それぞれ違うのだが、後は女の子たちとこの荷物を村に届け、思う存分飲み食いを楽しむだけだ。





さて。村への岐路につく。

砦の西の入り口が崩れてしまったので、村からは遠くなるけれど東の門から出るしかない。


まだ各所で炎の上がる砦を背に、山道を行く。

炎が上がっているのは、村からも見えているかもしれない。

夜が明ければ、黒煙が上がっているのも見えるだろう。


一応、ユーミの馬鹿力でロープを固結びして固定してあるけれど、下り勾配のある山道なので、荷が崩れないように、速度ゆっくりと山を下った。軽量化魔法のお陰で、超軽くなった荷車は、二頭の馬にもあまり負担ではないようだ。





東の空が若干色を変える頃、山を下りきって村に続く道に出た。

来る時は馬車で駆け抜けたはずの道だ。少し歩けば、アヴェリ村へたどりつく。


「ここを左に行くと村に戻れるわね♪」

「さ、夜が明けきる前に戻りましょ……って、あれ?」


なぜか、女の子たちの表情が暗くなっていく…。

四人とも下を向く感じになった。

重たい沈黙の時が流れた。


(うつむ)きながら、ネージェが、最初に口をひらいた。


「やっぱり…帰れない…」


「「?」」

フローレンはアルテミシアと顔を見合わせる。レイリアもユーミと顔を見合わせている。


その横にいたディアンが、並んで俯きながら続けた。

「だって…あたしたち、捨てられたから…」


残りの二人、お姉さんなウェーベルも目を伏せ、ちっちゃなアーシャは瞳を濡らしていた。


「え…? どういう事?」


馬を休ませ、みんなで輪になるように集まった。

そして彼女たちは順番に身の上を語った。


話を聞くと、四人の村での立場は、恵まれたものではなかった。


活発なネージェは数年前、同居していた母を亡くし独りなった。

気の強いディアンは、もっと幼い頃に両親を亡くして孤児になっていた。

この二人はそういう経緯もあってか、村ではかなりの不良娘だった感じである。


年上のウェーベルは、剣士だった夫が傭兵稼ぎに行った北の戦乱で亡くなり、結婚まもなく未亡人になってしまった。

ちっちゃなアーシャは、日頃から継母とその連れ子たちに疎まれていた。


そして近年、村では商業都市アングローシャを治める大貴族ガランド公爵から、北の戦地への食料や物資の提供を強制されており、しかもその上納量はかなり多く、そのため食糧が不足気味になっていて、村では食い扶持を減らす必要もでてきてた。

だから、この娘たちを山賊に差し出して見捨てたのだ。


「薄情な話ね…!」

「村にも事情がある、とは言ってもね…♭」

「そりゃ、村に帰れってのがムリだよ」

「だよー!」


そういう事情なら村に戻れても、無事を喜んでもらえるどころか、今後は居場所もないだろう。

四人ともいい子なのに。


フローレンたちも、そんな話を聞いてしまった以上、村に帰れとは言えない。

かと言って、自分でなんとかしなさい、と言うのも難しいだろう。

と、なると…


「じゃあ、とりあえず…私達と一緒に来る?」

自然と、自分たちのところに誘うことになる。

フローレンのその言葉を受け、沈んでいた女の子たちの見上げる視線が一斉に集まった。


「フルマーシュの町のお店でね、商売とか酒場とかのお仕事、してもらわなきゃだけど…」


「「「「連れて行って!」」ください!」」


フローレンの問いかけも途中なのに、即答で四人の声が重なった。


村に捨てられ、賊どもに酷いことをされた、この哀れな女の子たちにとって、

それは、それは、希望に満ちたお誘いであったのだ。


「…わ、わかったわ…」

珍しいことに、フローレンがちょっと押された感じになっている。

この子たちは当然必死なのだ。明日からの人生がかかっているのだから。


そうと決まれば、このまま村には戻らないで、この道を東に抜け、縦貫街道を目指すことになる。賊に奪われた荷物も「全部持って行っていい」と村の(オサ)が言っていたので、そこは問題ない。

だけど、アルテミシアはちょっと浮かない表情をしていた。


「何か気になるの? アルテミシア?」

「うん…まあ仕方ないかな…あきらめなきゃかな…♭…♭…♭…♭」

気にかけたフローレンに対し、アルテミシアは未練タラタラな感じで何か小声で言っていた。


「あきらめる、って何を? …あ、例のスィーツ?」

「うん、そう…♭ 材料はあっても製法がわからないでしょ…?…♭…♭」

アルテミシアは、ちょっと心ここにあらず、な感じだ。


「お料理の事、だったら、クレージュとセリーヌで、何とかしてくれるんじゃない?」

というフローレンの気楽な返しに、アルテミシアはちょっと強く反論した。


「フローレン、貴女簡単に言うけどねぇ#、秘伝の味って、そう簡単に真似できるものじゃあないのよ?#」

そこには「この人…わかってないなあ♭」と残念そうな乙女の気持ちが籠められている。


簡単に言ってくれるように、フローレンは料理に関しては全くダメである。

料理とは、注文すると誰かが作って持ってきてくれる、としか思ってない。

冒険の時などは、そこにある食料を焼くなり何なりしてとりあえず食べるだけ、という程度の認識の料理レベルなのである。

だから、未知の料理にはレシピが必要とか、あるいは簡単に真似できないから秘伝の味なのだとか、そういう事に理解がない。


「じゃあ、あなたの得意な魔法でぱーっとやれば?」

とフローレンは気楽に返す。

その言葉がアルテミシアには、がっかりの上乗せとなったようで、

「魔法は万能じゃないのよ!# 作り方もわからないものを、どうする事もできないわよっ#」

と、さらに強い口調で言い返す事となった。


スィーツを食べられない事に加えて、スィーツに対する理解が得られない事に対する、乙女(オトメ)のフキゲンさが増幅されている。


「あの…」

二人の会話を聞いていた、お姉さんなウェーベルが口を挟んだ。


「あ、ごめん、気にしないで♪ スィーツは今日じゃなくても、いつかまた食べに来ればいいだけ、だから…♭」

自分の不機嫌がこの子たちに「貴方達が村に戻らないせいで村スィーツを食べそこねた」みたいに受け取られ嫌な思いをさせたんじゃないか、とちょっと暴走気味な自分を反省するアルテミシアだった。


「あ、いえ、そうじゃないんです…その…」

ウェーベルはそのスィーツ好き乙女の目をじっと見つめて、やさしく告げた。


「わたし、作れますけど、その、キナコもち…あ、お料理は得意なんです!」


それを聞いた、沈んで(うつむ)いていたアルテミシアが、山高帽がふっとぶくらいの勢いで頭を上げた。

「本当~!!?♪♪」

キラキラ乙女の瞳で顔を寄せるアルテミシア。彼女にとってそれは、まさに救いの言葉であった。


「お豆の粉はここに沢山あるので、あとはおコメさえあれば、いっぱい食べれると思います…

 キナコの調合も、おコメの蒸し加減も、全部知ってますので…」

「本当に~?♪♪♪」

アルテミシアの顔がさらに近くなり、乙女の表情はもっとキラキラ輝き出す。


「うん! あたしも、作れるよ! みんなで一緒に作ろう!」

ちっちゃなアーシャが嬉しそうに続いた。


「やった~~♪♪♪♪」

アルテミシアは両手を上げて、飛び上がりそうな勢いだった。その表情はまさに、夢が叶う時の乙女それだった。ちっちゃなアーシャと、ついでになぜか背丈の近いユーミがつられたように、一緒に手を繋いだりバンザイして盛り上がっている。


料理には無縁そうなネージェとディアンも、喜び乙女の雰囲気に巻き込まれた感じに嬉しそうだ。お世話になる上で、自分たちの存在価値をアピールする事になるのだから、当然嬉しいだろう。


「さあ、みんな! 町に帰るわよ♪」

アルテミシアの反応は「待ちきれない♪」という感じだ。


「じゃあ、この荷物は? 村の物だけど? 返さなくて…」

「別にいいんじゃない? アイツら、全部くれるって言ってたし、この子たちのお駄賃にしといたら?」

フローレンは気にしているが、レイリアは最初からそのつもりだった様だ。

既に先程から、そこに入っていたはずの酒瓶を取り出して、勝手に飲んだりしている。荷を積む時に出しておいたのだろう。ユーミも同じようにして干し肉をかじっている。


もともとフローレンも、さらわれた娘たちを見捨てるような村人たちの態度か気に入らなかった。この子達のものにすればいいと言われて、そのとおりだと思い始めている。

「それもそうね!」


山賊共は大した財貨も持っていなかった。

売ればいくらかになる程度の雑貨や、嵩張る銅の貨幣、

そこで酒飲み女に開封されているような、酒などの嗜好品、

肉食い娘にいつの間にか食い荒らされてる、干し肉などの保存食料、

カシラが持っていた金貨や宝飾品を全部あわせても、この子たちの一、二月分かそこらの生活費用になる程度しかない。その上、衣服なんかも買ってあげなければいけないのだ。


だからその先は、仕事をして自分で稼いでもらわなければならない。

働く事に関しては、店主のクレージュがなんとかしてくれるだろう。


四人の女の子達も、フルマーシュの町に、一緒に帰ることが決まった。


「じゃあ、あの村には連絡を入れておくわ♪」


《従魔将来☆月烏》サモンサーヴァント・ムーンクロウ


暁にかき消されるように薄くなっている満月の光を受けて、アルテミシアの描いた月色の魔法陣から現れたのは、銀色のカラスだ。


レイリアが手紙となる木片に文字を書き入れている。

火色金(ヒイロカネ)を細い棒状にして、そのさらに細めた先を筆のように文字を書いている。

木片に文字を焼き付けている、という感じだ。


(砦にいた山賊は全部倒しました。

 四人の女の子は無事で、私達と一緒に行きます。

 取り返した物資は彼女たちの生活費として頂いていきます)


後一言追記で、

(彼女たちの持ち物は後日取りに行くので、村の方たちで「責任を持って」保管しておくように)


脚に木片の手紙を持たせたカラスを放つ。

払暁の光を浴びながら、小さな銀色の光が、村の方向へ飛んでいった。

まだ月が残っている間に、村までたどり着くだろう。


「街道沿いの村に着いたら馬車を借りましょう。私の魔法もいつまでもは続かないわよ♭」

きなこっ、きなこっ、と謎の創作歌を口ずさみながら、アルテミシアは上機嫌だ。


月が照らして軽量化の魔法が効いている間に、少しでも山道を抜けておきたい。

ゆっくり休む間もなく、村でもらった残りの糧食を、食べながら歩く。

コメを炊いたものを丸めたもので、食べやすいように薄い形にしてある。

中にカブなど根菜を漬けたものや、マメの調味料で味付けした山菜などが入っている。中身が見えないので、食べるまで何が入っているか、お楽しみなところがある。


「おいしいね、これ」

食にうるさいユーミもご満悦なお味だ。

「中の具も、色々いけそうだね」

焼いた魚肉が相性良さそうだ、とレイリアは言う。

レイリアは海は嫌いだが、海の幸は好きだ。酒のあてによく合うらしい。

運びやすく食べやすい形なので、戦での糧食にもちょうど良さそうだ、とフローレンは食べながら考えていた。



まだ日が高くなる前に、街道沿いの大きな村についた。

さすがに夜通しで戦い、山道を歩いているので、冒険慣れした女子たちにもちょっと疲れはある。

慣れてない村娘たちにはもっと堪えるだろう。

途中から月が薄くなってきたので、軽量化の魔法も弱くなってきたのだ。

畑仕事で足腰も鍛えられ体力もあるネージェとディアンの活発女子二人組はまだ少し元気が残っていそうだったけど、家仕事向きなウェーベルとアーシャは息も荒く、もう歩くのも辛そうだ。


荷物が多いので、荷馬車を雇った。

街道沿いの大きな村では、こういった輸送のための馬車を出してくれる店が常に動いている。

この村は先程のアヴェリ村よりはるかに大きな村ではあるが、人口的にも町と呼べる規模ではない。

が、街道が通っている事もあって、流通に関してだけは、小さな町くらいの機能は持っている。馬車屋もひとつふたつではないし、倉庫のような建物も何棟も見られる。農業ではなく、流通業を生業とする村人も多い様子だ。


古い荷台車を外して処分して、二頭の馬も一緒に連れ帰るよう手配する。

砦で見つけた銅銭で箱ごと支払った。少し多めに払った感じになるけれど、嵩張るので重量を減らす目的もあったのでちょうどよい。


馬車に荷物を積み込み、空いた場所に女子八人が一緒に乗り込む。


女子たちは毛布に包まって、馬車に揺られながらすぐに寝息を立てていた。


次回でやっと第2章〆となります…。(形式的にはもう1話入りますが)

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