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花月演義 ~~花月の乱~~  作者: のわ〜るRion
第2章 焼け崩れる山砦
15/138

14.炎崩の死闘


さて…その頃、城壁の下では…


ユーミが斬りまくっている。

斬って、斬って、斬りまくる。

身の丈の倍はある漆黒の大斧を、ぶんぶん振り回す。

ユーミは暴れるのが好きだ。

そして、暴れているユーミは、実に楽しそうに、斬る。

破壊的欲求を満たしているような、そんな感じだ。

壁の裏に隠れた山賊を、ぶった斬った。壁ごと、真っ二つだ。


レイリアは、見境なく炎を浴びせている。

炎を火色金(ヒイロカネ)の剣に乗せて斬りつけ、手で膨らませた炎を投げつける。

爆発が巻き起こり、そのあたりの山賊は、吹っ飛び、火が付いたまま()()る者もいる。

燃え上がる炎もあれば、()ぜ広がる炎もある。

異なる炎だけど、同じなのは、炎を受けた敵は遅かれ早かれ動かなくなるという事だ。


その炎が、時々勢い余って飛んでいく。

そして、たまたま飛んでいった先に可燃物があったりする。

そう、木の柱などだ。


「あ…!」

引火した。

木材で組まれた足場に、燃え移った。

この足場は、高く上の城壁まで支えている足場だ。

そのはるか上で、フローレンが戦っている。


(まずいかな…)

と思ったけれど、燃えてしまったものは仕方ない。

気にしても仕方がなかった。

それに、こっちも暇ではないのだ。

山賊どもを殲滅する。

ここで逃しても、またどこかで悪事を働くだろう。だから逃さない。

容赦なく焼き尽くす。それだけだ。





(ルクレチアの剣術…?)

フローレンは剣を交えつつ、相手の太刀筋を読んでいた。

この細身の男は、なかなかの手練だ。

激しく動いていたが、呼吸を乱している様子もない。


その男が、初めて口を開いた。

「その姿…シュリュート神の巫女兵か…」

低く、鋭い声だ。それに戦闘の中にあっても、その口調も落ち着いていた。


(違うんですけど)

とフローレンは思いつつも、自分の出自とこの剣技のスタイルから、そう見られるだろうとは思っている。


ルクレチア地方は、北の旧ブロスナム国に属する地域で、そこには軍神であるシュリュートを(まつ)った神殿がある。

軍神を崇拝する女戦士や女兵士は、胸と股間部を僅かに覆うだけの面積の少ない鎧を身にまとう。

それは主に鉄製だけど軽微な魔法装備で、いわゆる「論理魔法装備」と呼ばれる技術で作られたものらしい。

露出している肌の部分にもそこそこの防御力が与えられ、細かい傷を負う事がなくなる上に、加えてある程度の温度耐性を着用者に与える効果がある。

だからルクレチアの女戦士女兵士たちは夏でも冬でも、肌の大半を晒した格好をしている。ルクレチアの女子たちは、一人前の戦士として認められ、また兵士として仕える事で、その鎧を身につけることが誇りなのだ。


軍神に仕える中でも、精鋭の女戦士、女兵士は“戦巫女”あるいは“巫女兵”と呼ばれる。

その精鋭の女子たちは、赤い鎧を身にまとう、もちろん下位の戦女子同様の露出面積の多い鎧姿だが、鉄製のそれよりも遥かに高い防御効果を示す物で、概ね鋼鉄の鎧を着込んだ男の戦士と同格の防御を示す。


フローレンの花びら鎧も、赤色の肌露出の多い形状である。

この月明かりの元、やや暗がりの中では、巫女兵の鎧と見間違えられても仕方がない。


そして…

フローレンの父は、そのシュリュート神殿のあるルクレチアの戦士長だった。

その父に、幼い頃から剣術を叩き込まれている。だからフローレンの剣術も、ルクレチアの流派を汲んでいる事になる。

だからフローレンは、剣の戦い方とこの鎧姿から「ルクレチアの巫女兵」と思われても違ない根拠がある。



相手が軍神シュリュートの巫女兵だと勝手に認識したのか、男が緊張気味に剣を構え直した。

赤い半裸鎧の巫女兵は、並の男の戦士よりも遥かに戦の技に優れる事を、あの地の者なら誰でも知っている。それだけの実力があるから、軍神の巫女として認められるのだ。


そしてこの男も、軍神を信仰するルクレチアの剣士である事は間違いない。

彼の地の剣士とはもう何年も剣を合わせる機会はなかったけれど、今日久々に対峙したこの剣技が、ルクレチアの、軍神に仕える者の剣技である事を、フローレンは身体で思い出していた。


そしてこの男は、かなりの腕だ。

フローレンと十合いも打ち合える者は、男でもそう多くはいない。


構え、間の取り、足の運び、そして攻め込む隙。

またこうして向かい合い、互いが互いを測る。


そして、どちらからともなく、一気に距離を詰めた。


剣を打ち合う。

この足場の定かでない環境で、状況を、力量を、読み合いながら、何度も位置を変え、また何度も剣を結ぶ。

大きな月の下、二つの影が舞い、剣の起こす火花と花びらが、咲いては消える。


そしてまた向かい合い、互いを推し量る、沈黙の時間が訪れる。





ユーミの目に、この遥か上でアルテミシアが戦っているのが見えた。

襲ってくる大きな男を相手に、(もてあそ)ぶように下がりながら、光の矢をぶつけている。

目のいいユーミには、この月明かり程度でこの距離でも、はっきり視認できるのだ。


ユーミは、辺り構わず斬りまくっている。

斬った。斬った。

山賊共を、斬った。

石壁ごと、斬った。


斬った。そしたら、降ってきた。


「おろ?」

根本を斬られた石壁が崩れ、壁上通路までの三階分、全部まとめて降り注いでくる。

ユーミの頭の真上だ。


瓦礫が迫る。

だけどユーミは動じることはない。


月明かりを返す漆黒の大斧を振り回す。

激しく回される大斧から生じる黒い旋風が、降り注ぐ瓦礫をすべて吹き飛ばした。


瓦礫を振らせた石壁が、かなり脆くなってしまっている。その影響で、横にある、上まで支える木組みまでぐらついているのが、ユーミの目で確認できた。


しかも、ちょうどアルテミシアが戦っている場所の、その足場に当たる近くだ。


(あ~…くずれるかも……

 …ま、アルねえ()、だったら、だいじょーぶ!)


隙を突くように上から飛びかかってきた賊を、見向きもせずに大斧で叩き斬った。その剣ごと。


ユーミは深く考える事もなく、斬って斬って斬りまくる作業に戻った。




月光の矢を撃ち込む。

巨漢のカシラは、矢が直撃すると、(ひる)む。

だがすぐに立ち直り、掴みかかろうと迫って来る。

頑丈な相手だ。面倒な相手と言ってもいい。

カシラは散々この魔女にからかわれ、怒り絶頂顔面で真っ赤であったが、アタマが単純なだけにその行動も単調である。走って追ってくる以外の手がない。


「まったく…シブトいわねぇ…♭」

何発叩き込んでも、まったく倒れる気配がない。

アルテミシアは下がりながら月の矢を撃ち続ける。

いつの間にか、木板の床の位置まで下がっていた。


「えっ…?♭」

と、いきなり、その木の足元が揺らいだ。

足元だけじゃない。その下の、木の足場そのものがぐらついている。

そして木組みの足場だけでもなかった。

隣接する石の足場も一緒にぐらついていた。


「ちょっとぉ!# ぶった切ったわね! ユーミったら!##」

恐らく何も考えていないであろう小柄な破壊娘の、楽しそうに斬って斬って斬りまくっている姿が目に浮かぶ。


「きゃ!#」

床が崩れた。

足元の床がなくなり体勢を崩したアルテミシアが、おしりから落ちる格好になった。


けれど…アルテミシアの姿は、すでに浮かんだ月船の上にある。


「こらぁ!# 今のはアブなかったわよ!##」

木と石の床が破片となって階下に消えてゆくのを見ながら、その辺りにいるであろうユーミに対して、アルテミシアは叫んでいた。


そして、このわずかに残っている石床の、反対側の木の橋も、連鎖するように轟音を立てながら続けて崩れ落ちていった。

両側の木の橋が崩落してしまった。

という事で…


賊のカシラは、縦にわずかに残った石壁の上、いわば石の柱の上に取り残されたような格好になった。


「どうするの? 大っきなおザコさん?♪」

月船に腰掛け、身体を三日月に委ねるように、ちょっと色っぽい歌姫ポーズで、アルテミシアはからかうように話しかける。


大きなザコ、もとい山賊のカシラはその挑発を受けて、ついに怒りが限界突破な感じであった。


「ざ…ざこっで、言ぶなぁぁーー!」

と月船を捕まえようと、怒りのカシラは見境なく石柱から跳んだ。

しかし…


カシラのゴツい手は、月船を掴む事はなかった。

月船を突き抜けるようにして、そのまま地に落ちていく…。


「ゔぎゃぁぁぁぁー……」


ちょっと身を起こして下を見つめるアルテミシア。

「部外者はオコトワリなの。 ゴメンナサイね~♪」

月船には、アルテミシアが認めた者しか乗れないのだ。


グジャ、という鈍い音が下から聞こえてきた。


「いやねぇ… やっぱり最期までザコだったじゃない♪」

その大きなザコが返事を返すことは、もう永久になくなった。





レイリアは城壁を見上げた。

さっき火が飛んでしまった木組みが、かなり上まで炎上してしまっている。

通常の燃え方よりかなり速い。レイリアの炎は燃えやすいが、それよりも遥かに速い。

雨除けに油でも塗っていたのかもしれない、とレイリアは思った。


火が着けば、崩れるのは時間の問題だ。

燃え広がらなくても、その足元を支える支柱に火が着けば、結んでいる縄が焼け落ち、木組みの連結が解ける。

そうなると当然、支えが崩れるので、その上の木組みも崩れるしかなくなるのだ。


その炎上する木組みの上方で、二人の剣士が戦っている。

鋭い剣撃が月の光を映し、赤い花が舞い、そして剣を打ち合う。

その激しい様子が、炎を透してはるか階下まで伝わってくる。


その足場が崩れ去る時が近い。

けれど、下から気にしても仕方ない。

レイリアは起こしてしまったことを、いちいち悔やむ性格ではなかった。


(ま、フローレンなら上手くやるだろ)


後ろから隙を突くように襲いかかってきた山賊が二人、振り向きざまに炎のアーチを描いて迎撃する。たちまち二つの火柱が立った。

レイリアはあまり気にする素振りも見せず、残敵に炎をぶち込む作業に戻った。





剣の交わる激しい音。

それに混じって、下から響く爆音。

先程からずっとだ。

レイリアの発する爆炎に違いない。


時折、炎が音を立てる。

それは階下から伝わる木の焼ける音であり、それはやがて焼けて崩れる音に変わってゆく。


周囲の熱が上がっている事に気づいた。

気がつくと、自分の立っている木の足場にまで、炎がまわってきていた。

フローレンの花びら鎧は覆う部分は少ないけれど、他の論理魔法装備の類にもれず、耐熱の機能も十分に備わっている。

だから逆に、炎が上ってくる事にも気づくのが遅れた。


(ちょ、レイリア! 何燃やしてくれてるのよ!)


耐熱機能のお陰で、ある程度は炎に巻かれても大丈夫なのだ、

そう、炎自体は、それ程問題じゃあないのだ。

が…


炎熱は防げても、足場が崩れる事は防げない。


この高さに上がってきた炎によって、木の橋を頑丈に結んでいる縄も燃えているのだろう。

縄が焼け切れ、連結を解かれた木の橋が、あちらの端から順に崩れ落ちている。

橋の崩落が迫ってくる…やがて足元にも…


足場が焼け落ちる瞬間、フローレンは崩れ落ちる足場から飛び退いた。


宙を返り、まだ無事な石床に飛び移った。

だが、ここも足場が悪かった。石床が半分以上崩れている。

相手はまだ丈夫な石床の上にいる。このままでは不利だ。


足場の悪さを付くように、そこに剣撃が来た。

反射的に、跳んだ。左に。なんとか足場は確保している。

跳んだ先にも、剣撃、躱す、間一髪入れず、その次が来る。

不安定な体勢で躱し続ける。

なかなか体勢を戻せない。

その隙を与えてくれるほど、甘い相手ではない。


攻撃が続く。

体勢を立て直し、剣を構えるいとまを与えてくれない。

そして、躱す判断を間違えると、立つ場所を失う。


フローレンは、敵と月の位置を読みながら、さらに跳んだ。

追ってくる。鋭い目、鋭い剣が、自分を追い込もうと追い続けている。


敵の目が、自分の姿をまっすぐに(とら)えている。

その目を、利用するのだ。


そして来た。

自分の身体が、相手の目から月を消す位置に。

そこから一気に横に跳んだ。


男が、月光を直視する形となった。

僅かに目がくらんだであろう。そこに生まれた一瞬の隙を付き、転がるようにして距離を取った。


片膝をついた姿勢から、花園の剣を斜めに構えつつ、ゆっくり立ち上がる。

やっと体勢を戻せた。

男も油断なく剣を構え直しながら、こちらに向き直った。


位置的には、ちょうど西側入口の門のある真上あたりだろうか。

ここまで上ってきた炎が燃やした木の足場、燃え残った木組の残骸が激しく炎を上げ、月と一緒に二人の姿を照らし出している。


構え。

気の高まりを感じる。それは、互いにだ。

次の一撃を狙っている。それも、お互いに。


沈黙。

崩れ残った石柱の上、真円の月を背景に、二人の剣士が向かい合う。

今日、このような強敵に出逢うことなど、思いもしなかったであろう。二人とも。


時だけが流れる。

いや、時すらも、止まっているのか。

流れた時間の、長さを感じる。

いや、それともそれは、ほんの一瞬だったのかもしれない。


時の感覚すら狂わせるほどの、緊張。

その時…


燃え残りの木が、激しく爆ぜ、崩れた。


その音が合図となった。


跳ぶ、互いに、剣を繰り出す。


そして、剣は交わらなかった。


花びらの鎧が、裂かれた。

斬られた部分の赤い花びらが舞い、散り、赤い光となって夜の宙に消えた。

フローレンの豊かな胸が、鎧を砕かれた右の方だけ、(あらわ)になってゆく…。


だが、

花園の剣(シャンゼリーゼ)、その赤い花の軌跡には、違う真紅の花が咲いていた。

フローレンの剣は、男の肩先を深く捉えていた。


大きく、深く、斬っていた。

男の肩から、激しく吹き出す鮮血。その左の腕は力なくぶら下がっている。

もはや両手で剣は使えないだろう。


花びらの鎧は、ただの論理魔法装備ではない。伝説(レジェンド)級の唯一品(ユニーク)だ。

見かけの柔らかな感じからは信じられないほど様々な防御効果を、その着用者に与える。もちろん、物理的な守りに関しても、並の防御力ではない。

その多大なる守りの力は、フローレンの身体に流れる花妖精(フェアリエ)の血とシンクロしているからだと、母から聞かされた。

そして、ある程度の攻撃は無効化するが、本当に強力な打撃を受けると、身体にダメージを受ける代わりに、全部鎧が吸収し、光となって消えるのだ。

だから外傷は無い。

…物理的な支えが消えたので、不安定に胸が揺れてしまう…それだけは仕方がない…。


右の胸を抑えたいところだけど、今はそんな余裕はない。

相手の男も、斬られた肩を、血が絶え間なく吹き出す傷を押さえたいはずだ。

薄暗い中でもわかるほど、血が溢れているのが見て取れる。

だが、その右手は傷を押さえる事よりも、剣を持つことに専念しなければならない状況だ。


フローレンは両手で花園の剣(シャンゼリーゼ)を構え治した。

可憐な顔立ちに似合わない、ふくよかな胸のふくらみが片方だけ(あらわ)になる。だけどそれは、夜の暗がりが隠してくれる。


「あなた、強敵だったわ…ここまでの相手に出会ったのは久しぶり…」


この男はやはり、かなりの手練(てだれ)だ。

傷を負わせ優位になったが、気を抜くつもりはない。

手負いの相手の危険さは、フローレンも良く知っている。

血を失う前に、最期の攻撃を仕掛けてくるだろう。


だがその前に、フローレンのほうから仕掛けた。


赤い幻花の刀身に、月の色と同じ白い光の花が咲く。


花園の剣から連続して繰り出される、幾重もの斬撃。

だが、それは一振りとして敵に届いていない。

男の周囲を回るようにしながら、フローレンは何度も宙を斬っていた。


「だけど!」

当たらない攻撃に、相手の腕を甘く見たのか、男が残った右手で攻勢に移ろうとする。

「これで!」

だが、それは、この大技を仕掛けるための斬撃だった。それを男が気づいた時には、既に遅かった。

「終わりよ!」

技が完成した。


《宵妃之剣・月下美人》


剣の軌跡よって描かれた、月の下に花開く、巨大な夜女王の花の幻影。

それは、無数の剣閃となりて、身体の下から、其の者を貫く。

容赦なき一撃。いや、連撃が。


手練の男は、幻の月下美人のに包まれた中で無数の剣閃を受ける事になった。

白い花から、赤い噴血が、何筋も吹き出し舞い上がる。


花の幻が消えるのと同時に、手練だった男は倒れる。そのまま二度と動く事はなくなった。


フローレンの鎧が斬られたのは、油断した訳ではないのだ。

少し斬られても、かわりに相手を大きく斬れば早く済む。

花びら鎧は その守りはかなり強力で、フローレンは傷一つ負ってはいない。

自らの防御性能を計算に入れての仕掛けだった。

そして、削られた鎧は、一日も待てば再生する。

最後の強敵相手になら、こういう戦い方もありなのだ。


まあ、ちょっと露出度が割増になった程度の問題はある。ぎりぎりで隠れているから、良しとしよう。

…激しく動くと、鎧を削られた右の胸がはずんで、こぼれそうになる。そこだけがちょっと問題だけど。



(桜花…?)

この男の剣にも、柄に桜花の紋章が、刻まれていた。

ウェーベルが持っていた、あの刀と同じものだ。あれは彼女の部屋に来た男が持っていた刀だという。


軽く調べたところ、他に気になる物はない。

少量の銀貨や、多少の価値の有りそうなものはあったけれど、そこは奪わずそっとしておいた。

男の背から鞘を外し、剣をしまう。

何かが気にかかる。

この剣だけは証拠品として持っていったほうが良さそうだ。


さて。

木の足場が全部焼け崩れ、高い石柱の上に立っているような形になっている。

「しょうがないわねぇ…」


《巨人之豆蔓・天空之蘿》

月明かりに照らされた石床の隙間から、(つる)が伸びてきた。

やがて生成された(ツタ)は成長し、ロープのように下に向かって伸びてゆく。

フローレンは嶌に腕を絡めて、ぶら下がった。

蔦の成長と共にゆっくり下に向かって下りてゆく。

二階の床より身体一つ下くらいで、蔦の成長が止まった。

そこから背丈二つ分くらいの高さを飛び降りる。

やがて枯れるように幻の蔦は消え始めた。


「お疲れ様♪」

「ええ、これでおしまい、よね? さすがに」


アルテミシアはまだまだ余裕な感じだ。満月だから調子が良い事もあるかもしれない。

フローレンの胸が片方だけ(はだ)けている事に、ちょっと驚いたようだった。


「これでしょ? けっこう大変だったのよ! 以外な強敵が、こんなところにもいるものだなーって」

「ま、いいじゃない♪ 勝てたんだから♪」


「あー、そうだ! レイリア! あんな派手に燃やしてくれちゃって…おかげで随分苦戦させられたわよ!」

「ユーミもよ!# 所構わず壊しまくって…! 私じゃなきゃ、落ちてケガしてたわよ!#」


まずは、あの二人に文句を言わなきゃ。

それはフローレン、アルテミシアともに共通した意見であった。


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